年々その領土を拡大していくカエレスティス帝国。
他国へと侵攻し、奪い取った領土は数知れず征服された国や土地は、
その中で最も位が高い者を総督と呼ぶ。
総督は、カエレスティス帝国によってエリアの運営における全権を与えられた存在であり、帝国の貴族にとって
故に誰もがこぞってその立場を手に入れようとする。
そのおこぼれを授かろうとまた別の者過度な接待を行い、結果として裏では賄賂が横行し、能力に見合わない者が過度な地位に就くというのが多発した。腐敗ここに極まれりという訳である。
そして、最も被害を受けるのは征服された
この地を任せられている総督は元より、司政官達もその権力を傘にやりたい放題をしていた。
だからこそ、その横暴を止めるべく弱き者達の味方である革命軍は動いた。
この地でもっとも力を持つ
選ばれた人選は以下の三人。
バルザック・ダレイオス。
クロエ・ドットサイト。
マチルダ。
《エニアグラム》でも選りすぐりの精鋭である。
三人は護衛の兵士を排除し、目的である司政官の元へまで辿り着いた。
「ま、待て! 好きなだけの金をやる! それとも地位か!? ならばお前達の雇い主よりも好条件で雇ってやろう! だから──」
乾いた音が鳴る。永遠に口を開く事が出来なくなる。
「聞くに堪えない戯言ね。所詮は、地位に目が眩んだ俗物に過ぎませんわ」
「うまいこと上に取り入ったらしいな。でなきゃ、あんな俗物があれほどの地位に付けれる訳がねぇ」
司政官の死体に対して、辛辣な言葉を吐くクロエ。
バルザックも否定しない。ここの酷さは、たどり着くまでに通った街や村でわかっていたからだ。
「しかし、革命軍に身を投じてもやる事は地味だな」
「仕方ないことでしてよ。今はまだ大規模にやり合う時じゃないってボスに言われたじゃございませんの」
「わかっているさ。帝国の強大さはお前さんらよりもよーく知っている。まともにぶつかれば勝ち目はない。だから、こうしてチマチマと力を削ぐことが必要だってのもな」
一エリアの総督ではなく、司政官を暗殺した所で起きる混乱はたかが知れている。
例え此処で暗殺したとしても次の司政官が送り込まれるだけだ。それでもその間に死ぬ人はグッと減る。
それでも無辜の民の為、そして反乱の火を大きくする為に《エニアグラム》はこうして悪政を行うカエレスティス帝国の組織人を始末する。
「はぁー、司政官じゃなくて総督を撃ち抜きたいですわ。此処に現れたりしないかしら」
「バカ言いやがれ。それをしたら、向こうも本腰を入れてこっちの殲滅にかかるぞ。今はまだその時じゃねぇ。少なくとも、うちのボスはそう考えている。とにかく任務は成功だ。司政官の暗殺には成功した。これで任務は完了だ。さっさとずらかるぞ」
「わかっておりますわ。暗殺の後は、立つ鳥跡を濁さず、ですわ。……ちょっと、マチルダ。何していますのよ」
「だってわたし……なんの役にも立てなかった……」
しょんぼりとするマチルダ。
ゲドウとの戦いで《不沈楯/アイギス・スクトゥム》を失って以降、マチルダは大きく戦闘能力を落とした。今回も、二人に同行はしているがあくまでも援護という意味が強かった。
だから、役に立ててないと落ち込んでいるのだがバルザックは慰めるように肩を叩く。
「な〜に言ってんだ。ここまで来れたのは紛れもなくマチルダのおかげだぜ。そうじゃなきゃ、遠回りすることになっただろうさ」
実際、道中マチルダが鍵のかかった扉をドアノブごと破壊したおかげでスムーズに侵入することができた。
バルザックでも壊せるが、その際はかなり大きな音が鳴ってしまうのでやはり純粋に怪力で最小限の破壊が出来るマチルダが適任だった。
「でも……」
「人には適材適所がある。今回の仕事がうまくいったのは、マチルダの怪力があってこそだ。役に立ちたいと思える向上心は良いが、いざという時に引けない
「うぐっ、それってわたくしのことでしょうか? はぁ〜、嫌なこと思い出しましたわ」
「そりゃ、ゲドウに負けたっつー話か?」
落ち込むクロエにバルザックが問いかけると、クロエはムキー! と怒りをあらわにした。
「負けておりませんわ! 戦略的撤退をしただけですの! 次会ったときには、絶対に撃ち抜いてみせましてよ!」
「おいおい、先にあいつを
「……ねぇ、なんか違った意味に聞こえるのですけども気のせいかしら?」
「さぁ……?」
バルザックの言葉に、悪寒がしたクロエは寒くないのに体をさする。マチルダは、なんのことかわからず首を傾げていた。
大凡人を殺した後とは思えぬ空気。実際に後は撤退するだけ、兵士たちもすでに全滅している。故に、ほんのわずかに緊張感が緩んでいた。
──ドッゴオォォォォッッッ!!!
その間隙を縫うように、突如として轟音が鳴り響いた。
瓦礫と砂埃が舞う中、壁を壊し現れたのは鉄球であった。
それを見たバルザックは背後に二人いたこともあり、迎撃することを選んだ。
選んでしまった。
「グッ……!?」
剣越しに伝わる凄まじい衝撃。バルザックの想定を遥かに上回る威力に、衝撃を流し切る事ができず、バルザックはそのまま壁へと吹き飛ばされた。
「バルザックさん……!?」
「ちょっと!? うそでございましょう!?」
その光景に驚く二人。
やがて鉄球が、戻っていく。
「悪逆邪道! 鬼畜外道! 極悪非道! 帝国に反旗を翻す道に逸れた異端者どもめ! 今此処で天誅を降す!」
壊された壁から、わらわらと騎士達が姿を現す。
中でも一際目立つ、筋骨隆々の偉丈夫。
角刈りにされた、厳ついを通り越して巌と称するに相応しい巨漢の男の両腕には、手錠らしきものが嵌められており、そこから鎖が伸びた先には男以上の大きさの鉄球が繋がっていた。先程の一撃は、これによるものであった。
それを見たクロエは直ぐに《双挺拳銃/ケルベロス》を構える。
「《鉄槌》の
カエレスティス帝国の誇る
「護衛として先ほど到着してみればぁぁぁ! 警備は全滅ゥ! 嫌な予感がして来てみれば、貴様らの仕業かぁぁぁッ!」
やたらと叫びながら話す、《サイデリアル》の一人ダムーディオ。その間に、目を離さずにマチルダはバルザックの心配をする。
「大丈夫ですか、バルザックさん!」
「悪いな、ミスった」
バルザックは、剣で受け流したにも関わらず片方の腕があらぬ方向に曲がっていた。卓越した技術を持つバルザックだからこそ、その程度で済んだ。他の者では、そのまま地面のシミとなったであろう。
「気をつけろ。俺のこの熱い魂で鍛え抜かれたこの身体を一発でオジャンにしやがった。あの鉄球、予想以上にヤベェぞ」
「バルザック・ダレイモス! 貴様の名前は知っている! 帝国に反旗を翻し反逆者であり! 我輩の友であるアンブロシオを殺した上に飽き足らずその
ダムーディオが猛り、再び鉄球が投げ飛ばされる。
先程攻撃を受けたバルザックがあのザマになったことから、全員が躱す。
「こっちでございましてよ! 柱を盾にして!」
あの威力相手に身を晒すのは愚策と、三人は柱へと身を隠そうとする。
「甘いわァッッッ! この程度で、我ァが
引き寄せ、もう一度鉄球をクロエらが隠れた柱へと投げ飛ばす。
それだけで頑丈なはずの柱がへし折られた。
「うそでしょ!? 柱すら一撃で粉砕するだなんて!」
クロエが、あまりの威力に思わず叫ぶ。
「回せば回すほど重みが増し! 更には強度も増すのがこの《破壊の鉄塊球/クラッシュバスター》! 貴様らのような茶々な
更には遠心力を利用して、投げた鉄球をそのまま横に薙ぎ払うことで、一気に纏めて数本の柱を破壊した。
「見境なしか! はッ! 『解体屋』の方が向いているんじゃないかッ!?」
「侮辱するなァッ! 我ァ輩は、誇り高き純カエルム人であぁるぅぅぅッッッ! その血からしてェェェ! 貴様らとはぁぁぁ、次元が違うのだぁ!!!」
「ちっ!」
猛るダムーディオ。バルザックもその厄介さに舌打ちする。
クロエは伸びた鎖を射撃し、鉄球と分離させようとするも弾かれるに終わった。
「ダメねッ、鎖の部分なら鉄球よりはマシかと思ったけどもあっちもあっちでとんでもない強度」
「すぐさま狙撃する辺り抜け目ないな」
「チャンスを見逃さないと言いなさいよ!
クロエは 伸びた隙に、ダムーディオに向けて放つ。しかし、すぐさま周りの騎士達が盾を展開して狙撃を防いだ。
「あぁ、もう邪魔でございましてよ!」
「《サイデリアル》に率いられているだけはあるな。統率がとれてやがる。くそっ、こんなザマじゃなければ、直ぐに焼き払ってくれるのによっ!」
バルザックならば、護衛の騎士達を排除するのは容易い。しかし、負傷している今は難しかった。
「偉大なりし帝国によって造られし
「はっ!
「何たる不敬ッ!? 許すまじ!」
その言葉にさらに攻撃の激しさを増す。
躱すことしか出来ないバルザックたちに対して、ダムーディオは防御を己の配下に任せて完全に攻撃に全振りしていた。
「終いだ! 断罪してくれぇぇるぅぅぅ!!!」
頭上から《破壊の鉄塊球/クラッシュバスター》が迫る。
躱しても、地面が崩壊して追撃を受けるのは間違いない。万事休すか、そう思った時二人の前に割り込む影。
「マチルダ!?」
「うぐぐっ……!」
マチルダが、《破壊の鉄塊球/クラッシュバスター》を受け止めていた。足元にヒビが割れ、その威力を物語る。歯を食い縛るマチルダ。
「愚かッ! 自暴自棄になったか!!! 巨大な質量兵器の塊と化した《破壊の鉄塊球/クラッシュバスター》を人間が防げる道理はなし! そのまま共に断罪してくれる!!!」
ダムーディオはそのままマチルダごと潰そうと更に力を込める。
その強大な威力にミシミシと肉体が軋む。
身体中が悲鳴をあげ、筋肉が引きちぎれそうになる。それでもマチルダは耐え抜いた。
「わたしだって……! 《エニアグラム》の一員なんだ……!」
ずっと後悔していた。
『死ぬことは恩返しじゃねぇ。生きて返すのが恩返しだろ! そこを履き違えるんじゃねぇよ!』
あの時対峙した男の言葉が脳裏に過ぎる。
「戦うのは、今でも怖いっ。でも、仲間を守るのは全く怖くない! 私は生きて、みんなと一緒に戦うッ!!!」
マチルダは戦闘に向いていない。
その肉体こそ、正に人類の極致と言っても良いほど優れているが性格があまりにも戦闘に向いていない。
そんな彼女だからこそ《不沈楯/アイギス・スクトゥム》が適合したとも言えるが。
そんな彼女が、本当の意味で覚悟を決めた。
果たしてその力は柱すら粉砕する壊滅的な威力を伴う一撃を食い止めたのだった。
「止まっ……た……?」
「マジかよ」
唖然とするクロエとバルザック。
そしてそれはダムーディオらも同じだった。
「馬鹿な!? たかが人一人に我輩の断罪が止められるなどと!!?」
「これ……返しますッ!」
マチルダはそのまま《破壊の鉄塊球/クラッシュバスター》を、ダムーディオの方へと投げ返す。
《エニアグラム》一の怪力を誇るマチルダの膂力で投げられたそれは、ダムーディオが投げた威力に匹敵するほどの威力を伴っていた。
「避け、否っ、不可能!? う、うぐおぉぉぉ!! 奴に出来たのだ! 我輩が出来ぬ道理などありはしなぁぁッ!!?」
純カエルム人の矜持として、彼は避けず受け止める構えを見せる。
当然耐えきれるはずがなく、ダムーディオは《破壊の鉄塊球/クラッシュバスター》と壁の間に挟まれ染みと化した。
「ダムーディオ様ッ!? そんなまさかっ」
「悪りぃな」
「ぎぃやあぁぁぁ!!!?」
動揺する他の騎士団を、バルザックの《火焔魂/イフリート》で焼き払った。ダムーディオの邪魔さえなければ、バルザックならば片手間で騎士達を倒せる。
あっという間に、包囲を形成していた騎士団が壊滅する。
マチルダはそれを見て、膝から崩れ落ちる。すぐにクロエがそばに来る。
「マチルダ!」
「クロエちゃん……わたしも、役に立てたかな……?」
「何言ってますのよ? 貴方には、昔からたくさん助けられてきたわ」
「そっか……なら、よかった」
そう言ってマチルダは笑ったのだった。
司政官の暗殺。
及び《サイデリアル》の一人であるダムーディオの戦死に、《クラッシュバスター》が奪取されたことにより、カエレスティス帝国に動揺が走った。
先の《サイデリアル》である『灼炎』のアンブロシオが、バルザックに討たれたのは記憶に新しい。それに続いて二人目の戦死である。
歴史上、《サイデリアル》が戦死したことは数多あったがそれでもこの短期間で続けて討たれたことはなかった。
国民は不安に駆られ、軍部にも動揺が走り、その勢いに乗った
無論、そのうちの幾つかは数日後には殲滅されるのだが、着実に反乱の機運は高まっている。
僅かに、少しずつ帝国の支配体制に歯車が軋むような音がしていった。