あれから一晩。
朝、周辺のカエルム人達が話し込んでいたが付近で謎の爆発事故があったと人払いされているらしい。だが、内容を聞くに人が死んでるとしか話していなかった。つまりオレたちの目撃者はいない。
ふぅー、よかったよかった。
最悪あんなこと言っといてメリスと一緒にこの区から逃げ出すことになるところだった。帰る場所になってやると宣ったのに、次の日に家を失うとか笑い話にもなりやしねぇ。
とりあえず、当面の危機は去った。
あとは元凶である《
勿論、《悪魔の心臓/デモゴルゴン》のことも。
まぁ、恐らくはメリスが帝国側のルートに行った際にも問題がないようにするための脚本家の都合だろう。それがこの際は有利に働く。《
とはいえ、問題はあって……それが《
ゲームでも、見つかったとは言っていたが正確な位置は省略されていた。そりゃそうだ。
どーすっかなぁ……頭を悩ませる。
「お? よぅ、おはようさん。随分と遅くまで寝ていたな」
からかいながら、オレは部屋から出てきたメリスに声をかける。
「……おはよう」
おずおずとしながらも返ってきた返事に、びっくりする。
そのことが伝わったのか、じとりとした目で睨まれる。
「……なに、そっちから言ってきたんでしょ」
「お、おぉ、そうだったな。うん、そうだったそうだった。そうだ、飯を食うか? 温めて待っていたんだ」
「……食べる」
なんだこいつ。昨日と別人じゃねぇか。
連れてきた当初は周囲を威嚇し、噛み付く狂犬みたいだったが、今度は借りてきた猫みたいにおとなしい。
もごもごと、食事を食べるメリスを見てオレも朝食をかきこむ。
「ゲドウ」
「あん?」
「わたしに力の使い方を教えて」
「ブゥーーーッッッ!」
思わず食べたパンを吹き出す。前に居たメリスはサッと皿を盾にした。
「きたない」
「わ、悪りぃ。どうしたんだ、急に。オメェ、そんな頭下げるような奴じゃなかっただろ」
「すごく不満な評価だけど……。わかったんだ。奴らはどこまでも追って来る。こっちが平穏に暮らそうとしても関係なく。なら、それらを退ける力が欲しい。力がなきゃ、奪われるだけだから」
「お、おぉ、それはそうだが。もっと悩んでも良いんだぞ? 自暴自棄になってるわけじゃないよな?」
「ふぅん、アンタあんなことを言っといて臆するんだ。……甲斐性なし」
「うぐぁっ!?」
こ、こいつ! こっちが心配してやったのに痛い所突いてきやがって!
「ふふっ、冗談だよ。でもわたしを拾ったんだから、
「はぁ〜……ったく、とんだもんに手を出しちまったもんだ」
悪戯っぽく小悪魔みたいに笑うメリスに対して、オレは乾いた返事しか出来ないのだった。
……なんか、やたらとねっとりした視線だったような気がするが気のせいだよな?
◇
メリスが強くなりたいと意思表示をした。
それ自体は悪くない。それどころか万々歳だ。《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の能力についてよく知っているからな。
となると早急にメリスのレベルアップ……じゃなかった。いけねいけね、ゲームの時の感覚でやるとこだった。これは現実だ、きちんと慎重にやらなきゃな。
どうにも『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』の主人公だという意識があってか、ゲーム脳になっちまっていた。ここは現実だ。誰だろうと死ぬ時は死ぬ。
そんなのこの世界に生まれ変わってからいやというほど味わったのにな。
とにかく、メリスを鍛えるべくオレとある地域に訪れていた。
辺りには鬱蒼と生い茂る草木に、時折鳥か何かも生き物の鳴き声が不気味に鳴り響いていた。
「ねぇ、連れて来られたけど何処なの此処?」
「此処はオルビス森林。言うなれば自然豊かな森だ。最も、あまり人は訪れないがな」
自然が豊かとはつまり危ないという訳だ。
この世界、晶獣という脅威が存在するので割と人間が住むところ以外は危険地帯なのだ。
流石に帝国の東側に広がる踏破の困難な人外魔境の〝カンネビュラ大樹海〟ほどではないが、それでもこの森は屈強な晶獣や食人植物だって存在している。
好き好んで此処に来る奴はいない。それがこの時には好都合に働く。
「なんでこんな所に?」
「そんなの、メリスの
そう語りながら先導する。
好き好んで訪れる奴はいないが、オレやバルザックみたいに晶獣の間引きを仕事にする軍ならたまに来る。なので、もし来ても大丈夫なようにもう少し奥に行く。
「うわっ、あれ何ッ!?」
「角飾鹿だな。怒らせると手に負えないが、こちらから手を出さなければ問題ない」
「そうなんだ……わ、あっちは?」
「毬栗樹だ。おっと近付くなよ。振動を感知して実を落とすが、その身は炸裂して針を飛ばすからな。いたくて、あぶないぞ」
「いたくて、あぶない。わかった」
いちいち目に映る光景にメリスが反応する。オレの説明に、栗みたいな口をしながら大袈裟な反応する。
「あぶなっ、踏むところだった。ねぇ、ゲドウこれは?」
「あん? そいつは……ぷるりんだな」
ぷるりん。
簡単に言えば、スライムだ。『リベリオン/戦禍の夜明け』でも度々出てきて、女性陣の服だけを溶かしたお色気シーンから、人を丸ごと消化するえげつない強さを誇る奴までいる、読者からは妙に人気のあるやつだ。
「触るなよ。そいつなら害は少ないが地べたを這いずり回る分解者だからな。見た目より汚いぞ」
「そうなんだ。……でも、よく見たら可愛い」
何言ってるのこの娘。
いや、そう言えばゲームでも珍妙な生物を可愛いと言ってぬいぐるみを男女どちらでもあろうと集めていたな。独特な感性の持ち主という訳か。
そんな一面を見つつ、少し開けた空間で足を止める。
「よし、この辺で良いか」
「おっす、おねがいします」
「なんだその掛け声。つーか、そんな肩肘張る必要ねぇよ。やることは単純だしな」
妙な気合いの入っているメリスに苦笑する。
「メリス、オメェにはこれから
「え? でも、この間は受け入れたら戻れなくなるって……」
「そりゃ、オメェが甘言に乗ろうとしたからだ。良いか?
オレは態と、己の背負う槍を見せつける。
「特にその
「あの、さっきから《変化型》とか《発動型》って何?」
そうか、確かにオレは知ってる風に話していたが普通なら知らないよな。何せ箱入り娘ならぬ
オレは槍で地面に図を書きながら説明する。
「まず
『リベリオン/戦禍の夜明け』において
「一つはさっきも言ったが《発動型》だ。これは
「その言い方なら《変化型》は、使い手の方に作用するってこと?」
「察しが良いな、その通りだ」
「ふふん」
オレが褒めるとメリスは得意げな顔をした。
「《変化型》は使い手本人が
「欠点?」
「もろに
晶獣の素材を使った
例えるならば、肉食の晶獣の素材を使った
「《変化型》の
「力は強くなったけど、なんとも……あ、でももっと力が欲しいって願った時に、確かに話しかけられた」
「へぇ? なんて言われた?」
「自分を受け入れろって。そしたら、力を与えるって」
「そうか。ならやはり、ソイツはまだ生きているって訳だな」
ゲームで見た記述とおんなじか。
《悪魔の心臓/デモゴルゴン》……元となった晶獣の名は、『
オレはじっと《悪魔の心臓/デモゴルゴン》が埋め込まれている胸を見る。その視線を感じたのか、メリスがすっと胸を隠す。
「…………えっち」
「そんだけ口を聞けるなら大丈夫だな。なんせ、お前風呂場から出て来た時に全裸のままオレを殺そうとしやがったし」
「デリカシー、ない! ばか! あほ!」
そんなこと言ってもなぁ。
メリスのお色気シーン見たことあるし。
具体的にはイベントCGで。女主人公だと、水着イベントでそれはそれは見事な太ももをしていた。今はまだそうでもないけども。
男主人公? いい筋肉をしてたよ。
あと革命軍ルートの選択肢によって、バルザックにおそらく性的に食われた。しかも、男主人公の時限定の徹底ぶりだ。
あいつやっぱそっちの気があるな。
やべぇ、思い出してきたら背筋がゾワゾワしてきた。はやく振り払おう。
「そいつは今も生きて虎視眈々とオメェの肉体を糧に甦ろうとしている。そんな力を今から引き出す。ならば意思を強く持て。呑まれるんじゃなくてな。わかったら、やってみろ」
「えと、どうやって」
「そいつのことを深く認識しろ。オメェとその《悪魔の心臓/デモゴルゴン》は一体化している。つまり、扉の鍵自体は開いているんだ。あの時は向こうに明け渡そうとしたから問題だが、今回はオメェから力を扱うんだと意識しろ。すぐに力を引き出せるだろうよ」
「うん、わかった」
オレの言葉に、メリスは目を閉じる。
さて、どうでるか。
緊張感を持ちつつ見守る。
「……ふぅ……ふぅーッ……! う、うぅぅうぅぅ…………!!!」
メリスの姿が変化する。
ビキビキと手足が黒く変色し、頭部からは小さいが巻角らしきものが生えてくる。
ゲームでよく見たその姿。
《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の初期形態だ。
効果は見ての通り、身体能力の強化。悪魔……というよりか、言っちまえばサキュバスみたいな風貌になる。男主人公の場合は角も巻角じゃなくて、天を貫く魔王みてぇなかんじになる。だが、その力は本物だ。
「気分はどうだ?」
「うぅぅぅッッッ……あぁぁあぁぁぁッ!!!」
答えの代わりにメリスは雄叫びを上げて、オレへと殴りかかってきた。やっぱ制御できてねぇじゃねぇか!
オリジナル日間ランキング(加点・透明)に載ってました。ありがとうございます!