カエレスティス帝国の中枢、天都。
世界に誇る超大国の首都にあたるこの地は、各地の
その中心である皇族が棲まう天城にて。
そこに居るのは、帝国の行く末を決める上層部。そして《帝国宰相》である第二皇女セレスティアラもいた。
「正気ですか、《宰相》殿。
「正気も正気ですよ。我が帝国の繁栄のためには、それが必要不可欠だと判断したので」
だがその会議は紛糾していた。
理由は単純、セレスティアラが出した政策がアスデブリの優遇などという、カエルム人の彼らからすれば正気に思えない内容だったからだ。
「なぜ今そんなことをせねばならないのですか?」
「それはだね、我々カエルム人とアスデブリの確執を埋めるためさ。本来であれば、本当の意味で
「それはどういう意味ですかな?」
「此処10年で我々帝国は飛躍的に進歩した。それもこれもこの場にいる皆の弛まぬ努力によるものでしょう」
その言葉に上層部の面々は気を良くする。
「しかし、我々が繁栄を謳歌する一方で反乱の兆しが例年よりも高まっています」
「失礼ですが、その程度統治をする軍で問題ないのでは?」
「無論、統治機構は良くやってくれています。今、今日の平和があるのは彼ら一人一人の尽力があってこそでしょう」
セレスティアラの言葉に、集まった者達は鼻を高くする。
「しかし、それをよく思わない者がいるのもまた事実です。その最たるが、《双巨頭》を始めとした革命軍だ。彼らの勢力は日に日に増していっています。彼らは積極的に、
「その程度、《
「それが難しいのです」
セレスティアラは哀しそうにかぶりを振る。
「前日、またしても司政官、そして護衛につけた《サイデリアル》であるダムーディオが討たれました。被害者たちの死因を見るに、
「帝国に弓を引くとは! あのバレットリガー家の恥晒しめ!」
全員が憤る。
かつての《帝国の先槍》として名を馳せていたにも関わらず、裏切ったことはそれだけ許されないことなのだ。
セレスティアラは自身で蒔いた上層部の怒りを、宥めるように手をあげる。
「しかし、その力は本物でしょう。事実、彼女が革命軍と合流してからは杜撰な行為は鳴りをひそめ、組織的な行動をするようになりました。実際、総督にこそ被害は及んでませんが代官に犠牲も出ておりますし、我々の盾である《サイデリアル》にも被害が出ている」
「ここらで一度、彼らの土台を崩すのです」
セレスティアラは語る。
かつてゲドウが語ったように、心地の良いテンポで人々の心に響かせる。
「土台……ですか?」
「いくら向こうが扇動しようとも、民が動かなければ意味がない。国とは、民あってのこそ。民からの支持がなければ、立ち行かない」
「しかし、我々が譲歩する必要など……、民は帝国を支持しています」
弱々しくも、否定する。
そのことを予期していたセレスティアラは、微笑みながらそれを受け止める。
「えぇ、カエルム人の殆どそうでしょう。ですが、考えてください。革命軍を支持するのは誰ですか?」
「それは
「そう、
かつん、とセレスティアラはグラスを置いた。
「アスデブリとて、我々帝国の臣民。彼らが優遇されるとわかれば、いまだに恭順を良しとしない
かつては当たり前に持っていたはずの権利を、あたかも慈悲で与えてやるかのように。
そして上層部に譲歩したかのように言葉巧みに、唆す。
それでも渋る上層部へ、セレスティアラはもう一枚のカードを切る。
「それにこれは、
「! それは……まことですか?」
その言葉に、上層部が目の色を変えた。
第二皇女であるセレスティアラの兄上、それは第一皇子であるアルティリオスに他ならない。そう、
喜ぶ、つまり覚えが良くなるという意味に気付いた上層部に話を続ける。
「さぁ、建設的な会話を続けましょうか」
どこまでも人好きする笑顔で、セレスティアラは微笑んだ。
「わかりやすい人たちでしたね」
全員が退出した後、側近であるサラが話しかけてくる。
「まぁね、今の天帝は父上だがいずれ兄上が継ぐのは確実。右大臣や左大臣のポジションになれるかも、と思えばあぁもなるだろう」
「実際のところ、なれるのですか?」
「なれないだろうね。でも多少は地位が良くなるよ」
あっけらかんと言うセレスティアラ。
つまり彼女は焚き付けたに過ぎないのだ。相変わらず、言質をとらせない人だとサラは思った。
「一歩間違えれば、逆恨みされるかもしれないのに。貴女にしては結構なごり押しでしたね」
「最近気付いたことなんだけどね、私は意外と尽くす女らしい」
「は?」
いきなり何を言っているのかわからず、サラは呆気にとられる。
「彼が、私の隣に立つには地位が必要なのさ。既に力量は持っている。ならば、必要なのは功績と立場。そして後ろ盾となる存在。そう考え、大森林に派遣した。そこで何か強大な晶獣を狩り、ウィルディ・バレットリガーに認められればと思っていた」
「随分と評価しているのですね。《紅血の先槍》の妹ですよ」
「しているとも。彼女にはいずれ、《
その言葉にサラは驚いた。
「都合よく《
「心どころか実際に踊ってるっす」
くるくると楽しげに、その場で軽く回って踊るセレスティアラ。
長い付き合いになるが、サラもセレスティアラの奇行にドン引きしている。
「恋は盲目というか、本当に毒なんすね。あの殿下がここまで変化するとは思わなかったです」
ゲドウの事は苦手ではあるが、セレスティアラに目をつけられたことに対してご愁傷様と思ったのだった。
やがてセレスティアラは窓から外を見る。
その視線は南方──ゲドウがいるであろう方向を見る。
「あぁ、待ち遠しいな。彼、喜んでくれるといいが」
星のような煌めきを持つ瞳、しかしどこか翳りのある笑みを浮かべながら、セレスティアラは自らの胸へと手を置いた。
遠い場所にいる恋焦がれる人に想いを馳せながら。トクトクと、高鳴る心臓を楽しんでいた。