それはカエレスティス帝国の天都に向かう途中。
〝走行騎ケブラー〟は一台が破損、もう一台も天都との往復に使ったことで点検が必要となり、帝国の移動方法としてポピュラーな晶獣を使った移動をしていた時のこと。
「なんか人多くない? 前に通った時はこんなんじゃなかったよ」
やたらとすれ違うカエルム人の商人が多いことで、メリスが疑問に思ったことを口にする。すると、トイープが思い出したと言わんばかりに手を叩いた。
「そういえば、もうすぐ《天陽祭》だねぇ。いやはや、すっかり忘れていたねぇ。はぁーはっはぁ!」
「は? 《天陽祭》って、マジかよ!?」
そしてオレはその言葉に、驚きを隠せなかった。
《天陽祭》。
それは言葉こそ違うがいわゆる建国祭と考えてもらって問題ない。
何処の国でも必ずあるこの祭事だが、世界の3分の1を支配するカエレスティス帝国となるとその規模も段違いだ。
酒池肉林、栄耀栄華、色々と言葉はあるが、つまりはこの世界において最も栄えていると言っても過言じゃねぇ都だ。最も、その繁栄は
因みに『リベリオン/帝国の夜明け』において、《天陽祭》を抜きでは語れないほどだ。
流れはこうだ。
この時点になると、カエレスティス帝国側は《サイデリアル》の半分近くを《エニアグラム》に狩られたことによって、肥大化した
残った《サイデリアル》はやすやすと動かせない。《
それらを払拭する為に今一度帝国の力強さを見せるために、天帝自らが姿を見せ、帝国の威光を民に示すこととなる。
実際、《天帝》オブビリオンが確実に表舞台に姿を現すのは、この時を除いて他はなく敵の戦力が手薄となっている今を好機とみた革命軍は、天帝暗殺計画を企てる。
《サイデリアル》は半数。
《
天都を護る障害は、《
正に一世一代の好機だ。
陽動も成功し、帝国の天都郊外に大規模な軍団を接近することに成功した革命軍はそのまま囮となる。
狙い通り、《エニアグラム》や革命軍の精鋭も天都へ潜入することに成功した。そこまでは良かった。
問題はこれらの流れを予期していた人物がいたことだ。
『リベリオン/帝国の夜明け』においては、暗殺された第五皇子シャヨウ以来の、初めて登場した帝国の皇族。第二皇女セレスティアラ。
別名《帝国宰相》の異名を持つ彼女は都度、《エニアグラム》のボス、ディグルから厄介な相手だと言われていたその実力を遺憾無く発揮した。
セレスティアラは第三皇女ルドミラーシャ率いし近衛騎士団により、天都に潜り込んだ革命軍の精鋭を殲滅。
だが、それを読んでいたセレスティアラが手を回し、当時まだ最新鋭の技術である直接映像型通信回路を使用し、指揮を取ることで《
余剰となった《
元々《
だが、此処にきて大きく状況が変化した。
理由はウィルディの時にも語ったが、
セレスティアラは、電光石火の如く敵を壊滅させた《
包囲するはずが、逆に包囲網を敷かれる形となり《エニアグラム》も応援に駆けつけようにも集結した《
そう。
《天陽祭》は革命軍と帝国が大きく争った一大イベントであり。
そして、バルザックが死んだ節目でもある。
バルザックは自身の命を糧に炎で燃やし続け《サイデリアル》の一人と《
しかし革命軍は壊滅的打撃を受け、以後は単純な革命だけでなく他国との協調もしつつ帝国に争うことになる。
とまぁ、こういう流れで最初のカエレスティス帝国との大規模な戦いは幕を閉じた。
当時《エニアグラム》はマチルダに続きバルザックまで失ってしまった。更にはディグル自身も、ウィルディと直接対峙したことにより精神面に疲弊してしまった。主人公であるシドウらにはおくびも出さなかったが、ウィルディとの再度対決の際に回想でかなり気に病んでいたことが明らかになる。
正直、殆ど敗走と言っても良いが
暗い展開ばかり語っちまったが、これが『リベリオン/戦禍の夜明け』における《天陽祭》編での出来事だ。
つまりは煌びやかな祭事とは裏腹に、血に塗れた思考と思惑の交差する場所。それが天都だ。
「へぇ、お祭り……。ねぇ、ゲドウ。わたしと一緒に……すごくいやそうな顔してる!? な、なにかわたし嫌われるようなことした!? ねぇ!?」
「まじかよぉ……」
何やらメリスが傷ついているが、オレはそのことに気付けないくらいに頭を抱えるのだった。
ガタゴトガタゴト、晶獣に引かれる晶獣車が揺れる。《天陽祭》のことを知らされてからしばらく、傷ついたメリスをなんとか宥めた後、オレはいまだにテンションが落ちていた。
「行きたくねぇぇぇ……」
この国の天都だぞ? あの
アスデブリのオレは肩身が狭いとかいう所の話じゃねぇんだが? 何故そんな、陰謀渦巻く、魑魅魍魎の巣へ自ら飛び込まなくちゃならねぇんだ。
しかし、これは帝国の第二皇女セレスティアラからの招集指令だ。
しかも内容が今回のカヤノスィノの件についての説明も兼ねてやがる。拒否する事が出来ねぇ。
それならウィルディに任せれば良いだろと思うが、あっちもあっちで《
結果、応援に来たメリスと事態の推移についてオレが説明するハメになった。いくら《
あー、行きたくねぇよー。
嫌味と罵倒には慣れてるが、テンションが落ちるからいやなんだよ。
天都に隕石でも落ちねーかな。落ちても迎撃されるだろうけど。
そもそもなんで《天陽祭》と被ってんだよ。もっと行くの嫌だわ。
「ちーがーう! こうするのよ! 全く何度言えばわかるのかしら? メリスったら、戦闘はともかく礼儀作法の方じゃからっきしなんだから!」
「うぐぐ……」
現実逃避していると、何やら騒ぐ声が聞こえた。
そこではニェーニがメリスに対して礼儀作法を教えている最中であった。
「随分と苦戦してやがるな」
「訳わかんない礼儀作法が多すぎ……、なんでこんなことしなくちゃならないのよ……」
「当たり前でしょ! これから向かう先はこの偉大なカエレスティス帝国の中枢! 天都なのよ! 当然、位の高い御方がたぁーくさん来るわ。礼儀一つ満足に出来ないだなんて、恥ずかしくてとてもじゃないけどもお見せできないわ!」
『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』の《天陽祭》におけるパーティには、《
元々セレスティアラの麾下の組織であるが故に、毎年参加は余儀なくされていたのだが、トイープは基本一度顔見せしたらその後のパーティはブッチする。
皇族の面目潰すとか、あいつマジで自由だな。
今はそこでグースカ寝てるが、トイープは自らの代理としてメリスをパーティに参加させるらしい。
しかし此処でネックとなったのはメリスの礼儀作法だ。当然だが、こいつに作法のさの字もない。元の環境を考えれば、さもありなん。だがそれで問屋が卸すはずがねぇ。
そこへ名乗りをあげたのがニェーニだった。
元々メリスと共に基地へと来たらしいが、あの惨状を見て元凶を討つと意気込んでいたそうだが、口車に乗せられてお留守番させられていた。
なんでも秘密兵器だと煽てられてな。
ふっ、秘密兵器と揶揄されて実際は遠退けさせられていたパターンだな。因みに本当に秘密兵器だったパターンとかもあるが、ニェーニに限ってはないな。
まぁ、実力自体はあるんだがな。実際バレルの話じゃ、カヤノスィノの指示かはぐれかはわからないが、何匹か晶獣が襲ってきたそうだ。そして、その全てがニェーニによって倒されたそうだ。
やっぱ相手がネームドじゃなきゃ強いなこいつ。肝心な時には役に立たないとも言えるが。
ニェーニは天都に向かう道すがら、メリスに礼儀作法を叩き込んでいた。よくこんな揺れの中できるな、二人揃って体幹良すぎだろ。
「だーかーらー! 足を下げ過ぎ、そして何よその顔は! 相手睨みつけないの! なんで挨拶で宣戦布告するみたいになっているのよ!」
「うぐぐ……そんな風に言うなら、ニェーニはどうなの? いっつも、何かしらでうっかりぽっかりする貴女が、作法が出来るとは思えないのだけど」
「うっかりぽっかりってなに!? ふふん、舐めてもらっちゃ困るわね! これでも作法は完璧よ! ……ご機嫌よう、皆様方」
「おぉ、すげぇな。まじの令嬢みたいだ」
「まじの令嬢なのよ! わかったら敬いなさい!」
むふーと、鼻息荒くドヤ顔をする。本物の令嬢は、まじと言う言葉を使わないと思うがな。
実際、ニェーニの立礼は見事だった。あれと比べたらメリスの礼は錆びついたブリキ人形みたいだな……、いてぇ!? 蹴るな!? つーか、心読むな!?
「ふんっ、わたしだって時間が経てばできるもん。でも、ニェーニが出来てるのがなんだか納得いかない」
「一応フラグラッシャー家は、カエレスティス帝国の貴族だからな。その辺りの作法についちゃ、幼い頃から習ってたんだろうよ」
「その割には落ち着きがないと思う」
「それとこれは話は別ってこったぁな。ほれ、不貞腐れてないで最低限の作法だけでも覚えておけ。無礼だとして打ち首……はないだろうが、それでも反感を買われる可能性があるならそれを無くすに越したことはねぇよ」
「どうせ付け焼き刃の作法を身につけても笑われるだけだよ」
「やべぇ、正論過ぎて否定できねぇ」
そんな風に言うと、メリスがじとーとした目で見てくる。
「それよりも、ゲドウがしないことが不公平」
「しょうがねぇだろ。オレが、城に入れると思うか? アスデブリだぜ?」
そもそも半カエルム人のメリスが、《
てか、仮に許可降りてもオレは入りたくねぇし。関係ない話だ。
……関係ないよな? 流石にセレスティアラもアスデブリを城に入れるなんて、他のカエルム人の反感を買うような真似をしないはずだ。
「前例がない訳じゃないけどね! 確か過去に《サイデリアル》にも何人かカエルム人じゃない人もいたわ。まぁ、もう100年くらい前の話だけど」
「ならなおのこと無理だな。オレは《
「自分で言っていて悲しくならない?」
「おうよ」
でも事実だし仕方ないだろ。
するとメリスがオレの頬に手を当ててきた。じっ、と赤い目でオレを見てくる。
「でも、私はゲドウの顔好きだよ」
「お、おぉ、ありがとよ」
やだ、ちょっとキュンとしちゃった。
何この娘、息を吸うように好意をつたえてくるの? そんなのイケメンにしか許されないぞ。
よく考えなくても
ま、どうであれオレは《天陽祭》にはそんな深く関わることはないだろう。
《天陽祭》は、『リベリオン/戦禍の夜明け』におけるターニングポイントだ。
革命軍との決戦が起きるのは1年後とわかってはいるが、何事もなきゃ良いんだが。
「全員、起きてください。天都が見えてきましたよ」
外で晶獣を操作していたヴェルヌントの声が聞こえた。晶獣車の窓を開け、外を見る。オレの後に続くようにメリスとニェーニがひょっこりと、外に顔を出す。
「あれが天都……カエレスティス帝国の中枢か」
複雑な気分でオレは、天都……そして一際目立つ