拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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第66話

 

 わいわいがやがや。

 

 世界の超大国、カエレスティス帝国。その天都にて、沢山の彫刻が並ぶ噴水スポット。それを眺めるように、壁に背を当てながら、オレは待ち人を待っていた。

 

 道行く人は皆、カエルム人。誰も彼もが幸せそうな顔をしている。統治領(コルニア)でどれだけの怨嗟が渦巻いているのか知らないで、呑気なことで。

 

 ちなみに今のオレだがアスデブリの腕章を外している。極秘任務であるため、アスデブリだと明け広げれば、いらぬ騒動が起きるとのセレスティアラからの指示だ。

 代わりに胸の中に、アスデブリの証であるカードと説明書がある。いざと言うときは、これを出せとのことだ。

 

 なので、オレは堂々と立つことができる。人目を気にしなくて良いって、すばらしいな。とはいえ、難癖をつけられたら面倒だから目立つことはできない。

 

 だが、結局は往来の顔の悪さのせいでそそくさと逃げられる。こんな時、顔の悪さは便利だな……言ってて悲しくなってきた。

 

「しかし、ここで協力者を待って任務にあたれって。あんまりにも指令が雑すぎねぇか?」

 

 現実逃避するように、セレスティアラからの頼みの内容を思い返す。

 オレはここで待つように言われ、任務の内容は協力者から聞けとのこと。

 

 というか、協力者って誰だ?

 

 セレスティアラは帝国の宰相だが、そんなお偉いさんがアスデブリを贔屓しているとか知られたら、どうなるかわかったもんじゃねぇぞ。

 

 そもそも、好き好んでオレと会いたがるやつとかいるのか?

 

「憂鬱です、最悪です。なぜ自分がこんな目にあわなきゃならないんですか……」

 

 いつの間にか、ぶつぶつと呟いている女性がそこにいた。

 

 ……なんか見覚えがあるな。思わず、じーっと、見てしまう。

 

「ひっ、な、なんですか。まさか女なら誰でもイケる感じですか!? 殿下やあの少女(メリス)だけに飽き足らずに!?」

 

「そもそも誰にも手を出した覚えねぇよ!? てか、殿下とメリスだと? なんであんたそんなことを知って……」

 

 いや待て。

 

 メガネを掛けているし、ベレー帽を被っているからいかにも記者みたいな装いで気付かなかったが、こいつをオレは知っている。

 

 オメェ、サラかよ! よりにもよって!

 

 こいつ、オレに苦手意識あるのわかるから気まずいんだよな。

 

「ひっ、ごめんなさいごめんなさい! そんな目で見ないでください!」

 

「まてまて、誰だかわからなかっただけだ」

 

「ごめんなさいごめんなさい、謝るから殴らないでぇっ!」

 

「おいぃぃっ!!? やめろや! そんな声出すなよ! オレの人相の悪さも相まって誤解が加速するだろぉ!」

 

 慰めようと思ったのに、なんだこの仕打ちは!?

 

 サラは必死になってオレから目を逸らす。まるでオレが暴力を振るっているかのように振る舞いながら。

 

 まじで洒落にならねぇって! 周りも遠くの人はまだしも、近くの人たちが、若干訝しむように見ているしよ!

 

 とりあえず、サラを落ちつかせようと肩に手を置いた瞬間。周囲の視線が集まるが、早いところ誤解を解かねぇと。

 

 そんな時。

 

 かしゃり、と音が聞こえた。

 

「あ?」

 

「くふっ、計画通りっす(・・・・・・)

 

 そして、オレの腕の下から聞こえた忍び笑い。

 

 サラが《写絵真像/シャッターチャンス》を、オレの背中側から手を出して握っていた。

 

 ぴらりと、見せられたのは一枚の写真。

 

 それはまるでオレが押し倒し、今にも強姦するかのような光景の写真だった。

 

 さぁ、と血の気が引く。

 

「これがばら撒かれたら、貴方の人生終了っす。おわおわりっす」

 

「オメェ、あの怯えた様子もわざとか!?」

 

「女の涙ってのは、演技のためにあるんだよ。まだまだそっちの経験不足っすね。だから、騙されるんすよ。あたしも、やられっぱなしは性に合わないっすから。顔に似合わず甘いっすねぇ〜。そんなんじゃ、メディアの食い物にされますよぉ〜? ぷぷぷ〜!」

 

 先程の怯えた様子は何処へやら。こちらを明らかにおちょくるようにうざ笑いしてくる。

 

 こ、こいつ、本当に良い性格してやがる……!

 

  てか、なんだ。っす、って。オメェ、そんな語尾つけるやつだったか?

 

 落ち着け。ここでキレたら相手の思う壺だ。深呼吸だ、深呼吸。

 

 

 

 ふぅーーーーーーー、すぅーーーーーー。

 

 

 

 あかん、やっぱキレそう。

 

「そんなに怒んないで欲しいなぁ。こっちだって、散々とアンタに煮え湯を呑まされたんだから」

 

「そりゃ、オメェからしたら散々だっただろうしな。輝征装(エアラリス)の奥の手は破られるわ、そのせいで記憶がフラッシュバックして毎晩しくしく涙で枕を濡らしていただろうしよ」

 

「後半は捏造してないかなぁ!?」

 

 うっせぇ。このくらい皮肉させやがれ。

 

 よくよく考えたら、オレはサラのことをよく知らねぇんだよな。

 

 『リベリオン/戦禍の夜明け』でも登場するキャラクターではあるが、セレスティアラの側近とかいういかにもな死亡フラグ満載な肩書きを引っ提げて登場した。

 

 そしてそのフラグはすぐに回収された。《エニアグラム》に加入したシドウの面を撮影し、手配書と軍を動かそうとしたところで、《エニアグラム》のメンバー(・・・・)に始末されたのだ。

 

 『リベリオン/戦禍の夜明け』での出番はそれで終わり。『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』でも、《改革》ルートでなければいつの間にか死んでいる。

 

 そんな命の儚い女がサラなのだ。

 

「良いんすか? ここで、私の機嫌を損ねたらこの写真がどうなるかわかるっすか?」

 

「今更悪評が一つ増えたところで、どうでも良い」

 

「アンタの同居人に見せるっすよ?」

 

「ごめん、それはまじでやめて!」

 

 最近のメリス、すっごく怖いんだよ!

 《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の力をより引き出せるようになって、まじで洒落にならねぇんだって! 外伝ゲームとはいえ主人公なのに! すごく怖い!

 

「わぁったよ。んで、オレは何を手伝えば良い?」

 

「物分かりが良いと助かるっす。それじゃ、早速殿下からの指令を伝えるっす」

 

 ピッと人差し指をオレに突きつけてきて。

 

「天都にて、貴族による不審な動きが確認されています。極秘に調査し、それを突き止めろとのことっすよ」

 

 そう今回の任務を告げたのだった。その内容を、詳細に尋ねようとした時。

 

「ここだ。おい貴様! 女性相手に恫喝しているとの通報があった! 逮捕する!」

 

「逃げられると思うなよ!」

 

「やばっ」

 

「ばっか、オメェ。逃げるぞ!」

 

 騒ぎを起こしたせいで天都の警察に追われることになり、逃走劇が始まった。

 

 極秘の任務始まる前から波乱じゃねぇか!

 

 

 

 

 

 なんとか警察からは逃げ切った。

 

「全く、極秘の任務なのに騒ぎを起こさないで欲しいっす」

 

「誰のせいだよ、不可抗力だろ。そもそも、人選ミスにも程がある! なんでオレを、こんな任務に配属したんだよ、おかしいだろ! もっと良い人材がいたろ!」

 

「お〜やぁ〜? 殿下の采配に異議を唱える気っすか?」

 

 クソが、それを言われたら何も言えねぇ! 

 

 サラは、にんまりと勝ち誇った顔をする。こいつ、弱みとなる写真撮ってから調子こいてるな。

 

 わからせてやろうか。しねぇけどよ。

 

「それで、調査って結局なんだよ?」

 

「《天陽祭》は文字通りカエレスティス帝国という国が出来たことを祝う祭事っす。そして、此処はその首都、集まる人数も祭事の規模もこの国最大級っす」

 

「そりゃ、見ればわかるわ」

 

 周囲を見渡しても、どこもかしこも大盛り上がり。ここまでの規模の祭りは、前世でも見たことない。

 

「でもね、それだけの人が集まるってことは色んな思惑の人達も集まるってことなんだ。良くも悪くも、ね。そして今は時期が悪い」

 

「時期?」

 

「確かに今は《サイデリアル》が四人、首都にいるけども、その内情は《紅血(ディグル・)(パトリシア)先槍(・バレットリガー)》に殺されたのを穴埋めした、若手が半分を占めるんだ。《天都直参防衛軍(カーマンライン)》も、同様。なんなら、彼らは天都を()から守るのであって、()からには弱い。そう言ったことに強い《ゼニスフィア親衛隊》も、ルドミラーシャ第四皇女に鍛えられている最中っす。帰って来るのは、建国祭前日。つまり、今はいない」

 

「なるほどなぁ。そりゃ、下手なことを考える輩からすればチャンスか」

 

 此処にきて、原作開始前であることの弊害が出てきた。

 

 オレは『リベリオン/戦禍の夜明け』における《天陽祭》の大まかな流れは知っているが、そこへ至るまでの人の流れというのは知らない。そもそも、知ってるのも一年後の方だし。

 

 無論、帝都には警備隊も居るし、秘密警察だっている。

 

 《サイデリアル》だって各地に散って半数がいなくとも、『帝都の旗手』を筆頭に《天都直参防衛軍(カーマンライン)》が常にいる以上、不測の事態への備えはできていると思っていたが、内情を知ると不安な気持ちもわかる。

 

「だが、それでも有象無象のテロを目論む奴がいたところで問題ないだろ?」

 

 確か、輝征装(エアラリス)を持つ者を見通す輝征装(エアラリス)の使い手が、帝国にはいたはずだ。

 もっとも、設定だけで見たことねぇけどよ。

 

「確かにその通りっす。でも、さっきも言った通り《サイデリアル》や《天都直参防衛軍(カーマンライン)》の内情を知っている貴族となれば話は別っす」

 

「……つまり、大規模な反旗をしようと企てている者が貴族にいると」

 

「正解! ま、そんな訳で先んじてそういった輩の企みを潰す為にこの優秀なサラは駆り出されてるって訳っす」

 

「優秀ねぇ……」

 

「お? なんすか、喧嘩売ってるっすか? 買いますよ? 力では叶わないけど、社会的には殺せるっすよ?」

 

 やめろ、さっきの写真見せて脅してくるな!

 

「この価格はいくらなんでもぼったくりだろ!」

 

「わかってないなぁ、お客さん。今南方で騒ぎがあったらしくて不作でな。だからこそ、この値段なんだよ」

 

 そんな時、揉め事の声が聞こえてきた。争っているのは、両方カエルム人。ただ、客らしき装いの方は、見た目が少し見窄らしいので他のところから来たのかもしれねぇ。

 

「あー、揉め事だね。まぁ、この時期何処も宿泊施設は満杯になるし店側もそれに合わせて価格を上げるってことはザラにあるよ」

 

「まぁ、人が集まるんだから金儲けしようとする輩は出てくるよな」

 

 観光価格ってやつだな。

 

 お祭り事は財布の緩みやすいからこそ、高く売りつけるのは道理だが、割りを食う方はたまったもんじゃねぇ。

 

 オレも前世で出張時、近くで大きなイベントがあったせいでホテルの個室が全部埋まり、ネカフェで一夜を過ごして次の日仕事に行く羽目になったことがあるからわかる。

 

「行ってやったらどうっすか? その顔見せればすぐに前言撤回するっしょ」

 

「事実だから何も言えねぇな。……お?」

 

「嘘はいけないわねん。今年の南方での作物は豊作だったわ。あなた、わざと数を絞っているわねぇん」

 

 そこに、一人の貴婦人が現れた。二人のカエルム人を仲裁する。

 

「そんなことで客に対して横暴な態度を振るっては、店の評判が落ちると思わないのかしらん?」

 

「ぐっ、そ、それは」

 

「いっときの金に目が眩むのよりも、店としての信頼を積み重ねていくことが、長く続けるコツだと思うけどね。信頼ってのは、積み重ねるのは大変で崩れるのは一瞬なのよん?」

 

「なにを……ちっ。わかった、その価格で良い!」

 

 周囲が注目していることに気付いたのか、店主はすぐに前言撤回した。

 

「あ、ありがとうございます。危うく帰る費用がなくなるところでした。あの、本当に少ないですが、お礼にこちらを……」

 

「いらないわぁん。その分、浮いたお金で楽しんできてねん?」

 

「は、はい!」

 

 客からのお礼を言葉だけ受け取り、金はお断りする。

 

 そこで初めてオレはその人物の顔を見た。

 

 そして同時に、見覚えがある(・・・・・・)に気付いた。

 

「まさか……」

 

「あぁー! カレン(・・・)じゃん!」

 

 オレがその人物の名を呟くよりも早く、隣にいたサラが叫んだ。

 

 その声に、カレンと呼ばれた美人……いやオネェ(・・・)が振り向く。

 

「あらん? サラじゃない。こんな所で会うだなんて奇遇ねぇ〜。元気してたかしらん?」

 

 親しみを感じる笑顔で話しかけてくる《エニアグラム(・・・・・・)》の一人に、オレは表情を崩さぬよう渇いた笑みを浮かべるのだった。

 




私事ですげど、稚拙が《第1回エンターブレインの単行本ファンタジー長編コンテスト》の中間発表を突破致しました。
皆様の応援のおかげです、ありがとうございます!
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