拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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《百人斬り》のバルザック

 

 《百人斬り》のバルザック。

 

 それは、数あるバルザックの異名の一つであり追手である帝国兵100人を全て倒し切った事に由来する。

 

 確かに輝征装(エアラリス)を持っているのであれば、ただの兵士を100人倒す事は難しい事ではないだろう。一騎当千とも称されるほどの力を得られる輝征装(エアラリス)は、同じ輝征装(エアラリス)持ちでないと対処できないとも語られていた。

 

 だが、この頃のバルザックはまだ一兵士であり、そんな状態で同じ武器を持つ兵士達を100人も倒したのだ。

 

 鬼かよ。

 

 更にこの後、反乱軍に身を投じたバルザックは、帝国の誇る《天刑護騎士(アストロノーツ)》の選りすぐりの精鋭である《サイデリアル》の一人も倒して、輝征装(エアラリス)である《火焔魂/イフリート》を強奪。すぐさま適合し、その使い手となる。そう、一騎当千の力を得る輝征装(エアラリス)の使い手を、素の状態(・・・・)で倒したのだ。

 

 化け物だこいつ。

 

 その後、革命軍の暗殺組織《エニアグラム》の一員となったバルザックはその力を遺憾無く発揮し、数々の活躍をした。『リベリオン/戦禍の夜明け』の主人公であるシドウも、バルザックの元でメキメキと力をつけて行った。 

 

 そして挙げ句の果てに『リベリオン/戦禍の夜明け』における大きな節目、《天陽祭》編において主人公らが罠に嵌められ、帝国軍、そして複数人の《サイデリアル》に囲まれた際にも、自らの命と引き換えに包囲網を敷いた軍勢の壊滅。おまけとばかりに、《サイデリアル》を更に一人討ち取った。

 

 怪物過ぎんだろ……。

 

 そんな相手に今からオレを含めた追っ手が捕まえるのだと言う。

 

「いや普通に考えて無理だろ」

 

 この部隊を任された隊長は、これだけの人数がいれば負けるはずがないと豪語している。そして、追撃に加わる者達も自らが負けるとは微塵も思っていないようだ。

 

 確かに数は圧倒的にだが、竜に蛇がいくら絡んだ所で意味がないんだよ。それくらい、地力がちがう。

 

 お前ら一端の軍人だろ、それくらいの実力差があると何故気付けない!

 

 ……あぁ、いやそうか。

 

 こいつらは弱者を痛ぶることにだけ慣れて、それで自らが強者だと勘違いしてやがるんだ。危機管理がなっちゃいないぜ。

 

 今すぐにでも逃げ出したい所であるが、そうなれば上官からの命令を拒否したとして容易くオレは刑に処されるだろう。

 

 幾らでも換えのきくアスデブリだからこそ、命の扱いも軽い。

 

 死にたくないオレは、粛々と上からの命令に従うしかないのだ。

 

 その先が地獄であろうとな。

 

「くそっ、こんなはずじゃなかったんだがな!」

 

「どうしたの。帰って来るなり、バタバタして」

 

 追撃の命令を出されたオレは、ひとまずは準備の為に家に戻って来た。直ぐにでも出発するといっていたが、強引に一度帰らせてもらった。

 

 そこにひょっこりと顔を出すメリス。

 まだ筋肉痛がひどいのか、若干動きがおかしいが元気そうだ。

 

「わりぃが、暫くオレは帰ってこねぇ。メリス! お前にゃ、金を渡しとくぞ! それで外食して食いつなげ! お前、料理が壊滅的だから餓死されちゃたまらん」

 

「下手じゃないし! って、急だね。ねぇ、いつ帰って来る?」

 

「正直言って、直ぐには帰ってこねぇ」

 

「そっか……、ねぇ、暫くってどのくらいかかるの?」

 

 オレは言葉に詰まった。

 

 正直、今までの人生の中で二番目にやばい命の危機と言っても良い。帰って来れないことも考えられる。

 

 しかし、それを直接告げるのは憚られた。帰る場所になってやると豪語したんだ、死ぬわけにゃいかねぇ。強がるように、オレはにやりと悪どく笑う。

 

「まぁ、それなり結構かかるかもなぁ。心配すんなや、土産でも買ってきてやるよ」

 

 今生の別れになるかもしれねぇ。しかし、それをおくびにも出さない。

 

「ねぇ、ゲドウ」

 

「悪りぃ、時間がねぇ。いってくる」

 

 オレは死にたくない。少なくとも原作開始までは生きていたい。折角転生したのに、主人公を一目見ることなく死ぬとか意味ねぇだろ!

 

 くそ! やったらー!

 

 絶対生き残ってやるぞコラー!

 

「……今の顔、何かあったの?」

 

 そんな風に意気込んでいたからか、オレはメリスの呟きを聞き逃した。

 

 

 

 

 バルザックの追撃の任務を課せられてから半日。

 

 大所帯での移動はどの時代も大変なものだ。この世界にゃ、車はねぇ。

 

 正確には、今現在は、だ。

 

 原作開始時期には、"走行騎ケプラー"と称されるバイクを初めとした様々な車輌が登場するが今はまだない。

 なので貴重な移動手段である晶獣車を使ってまで、バルザックを追跡を敢行したことから本気加減が窺えるな。その手際の良さ、もっと別のことで発揮してもらいたいものだ。

 

「はぁ〜……」

 

 気が重い。

 

 何でわざわざこんな遠出までして、死にに行かなきゃならんのだ。

 

 だが、幸いにもオレはバルザックとは親交がある。

 

 いざという時は情に縋りつこう。

 

 ……なんか、アニメオリジナル回ではバルザックの昔の仲間が出た際に情も情けもなく叩き斬ったシーンがあったような気がするが、大丈夫なハズだ。きっと。

 

 今更だが、バルザックの罪状は統治領(コルニア)を管理する司政官と自らの上官を斬り、逃亡したというものだ。

 

 当然これには裏があり、司政官と上官が癒着して人身売買を行っていたからだ。隷属人(イクリプス)やアスデブリに対して奴隷そのものみたいに扱うが帝国では一応奴隷自体は違法だ。あってないようなモノだが。

 

 なので奴らの行いは犯罪だし、人情溢れるバルザックが許すはずもない。そこでバルザックの買収に失敗した司政官と上官は、バルザックを始末しようとして逆に返り討ちにあったって訳だな。

 

 ほんとうにろくでもねぇなカエルム人。

 

 その痕跡を辿り訪れたのはラッツァーニ炭鉱だ。

 

 ここではかつて、《霊耀晶(マテリアルーツ)》と呼ばれるモノが採掘されていた。

 

 この結晶は、加工することで強大なエネルギーとして使用できる正に夢のエネルギーだ。万能過ぎて逆に作中の明らかに過ぎた技術に使われているエネルギー源全てがこれで賄われているというね。当然、輝征装(エアラリス)にだって使われている。

 

 これ一つで、石油、天然ガス、石炭の代わりになるって訳だ。夢のエネルギーにも程があるだろ。

 

 とはいえそれが取れたのは過去の話。かつては帝国領土でも有数の鉱山だったが、今となっては《霊耀晶(マテリアルーツ)》も掘れなくなったことから廃坑となった為人が隠れるにはうってつけの場所だ。

 

 そうして、捜索すること暫くして遂にバルザックが見つかった。

 

「見つけたぞォッ! バルザックだぁ!!! 囲め! 囲めェッー!!!」

 

「ちッ……、流石にこれだけの数の目を誤魔化すのは無理か」

 

 整えられていた髪は乱雑になり、服装だって汚れていない箇所を探す方が難しい。

 

 だが、あの熱い魂を宿した瞳だけは微塵もくすんでいなかった。

 

「バルザックよ! 貴様は我々に包囲された! 司政官であるフセイ・オルショーク氏と上官イバリ・チラカスを殺人罪及び違法な金銭横領の嫌疑がかかっている! 大人しく縄につけ!」

 

「罪人だと……? 確かにオレは司政官と上官を叩き切った。だが、それ以外の罪については全くもって身に覚えがねぇなぁ!」

 

「惚けるな! 既にネタはあがっている! 大人しく処されよ! 総員、かかれぇッ!」

 

「「「うおぉぉぉおぉぉッッッ!!!」」」

 

 バルザックの言葉に耳を貸さず、隊長が指示すると兵士達は一斉にバルザックに襲い掛かった。

 バルザックの瞳に、怒りと闘志が宿る。

 

「てめぇら、俺を殺すって言ったな? その言葉の重み、わかって言ってるんだよな? なら当然、自らも殺される覚悟を持っているんだろぉなッ!!!」

 

「「「ぎゃあぁぁぁぁッ!!?」」」

 

 雄叫びと一緒に、バルザックが剣を振るった。

 

 他の雑兵と違う、明確に意志の篭った剣術だ。

 

 わぁ、すごい。

 

 人ってあんな風に飛ぶんだなぁ。バルザックが剣を振るう度に人間だった物がそこら中に飛び散り、地獄絵図が繰り広げられる。

 

 あれで輝征装(エアラリス)持ってないとかマジ? 最早、あいつが輝征装(エアラリス)だろ。

 

 おれ自身が輝征装(エアラリス)になることだ、とか言ってくれねぇかな。いや、なんか原作でもほんとうに言ってた気がする。

 

 オレは遠い目でその光景を見ていた。

 その間にも包囲していた兵がみるみるすり減っていく。

 

「な、なななこれだけの人数でたった一人に何故押される!? お、おい! 貴様! さっさと行け! アスデブリであろうとも、腕がたつと聞いて連れてきてやったのだ。わかったら、さっさと私の盾にっ、うがっ!?」

 

「あっ」

 

 あまりの光景にようやく慌て始めた隊長がオレに指示を飛ばすも、バルザックが吹き飛ばした兵士に巻き込まれ、そのまま壁までぶっ飛んだ。

 当たりどころが悪かったのだろう。首が曲がっていた。ありゃ、死んだな。

 

 てか、気付けばオレ以外に生きている人間がいなくなっていた。

 

「ハァッ、ハァッ……あ?」

 

「あ」

 

 やべ、目があった。

 

 向こうもオレに気付いたのか、間の抜けた顔をする。だが、直ぐに人を殺しそうな目をしてきた。いや、人殺したんだけどさ。

 

 正直、今のバルザックはめっさ怖ぇ。血に塗れ、殺意剥き出しに睨んでくる様は狂気すら感じられる。だが、怯えを悟られる訳にはいかねぇ。

 

 オレは態と明るく話しかけた。

 

「よぅ、バルザック。見ない間に随分とまぁ人相も悪くなっちまったなぁ。オレのこと散々人相が悪いってからかっていたのに、人のこと言えないぜ」

 

「ゲドウ。お前も、オレが罪を犯したと思うのか」

 

「いや? そんな訳ねぇだろ」

 

 そもそも普通に考えて、バルザックのような好漢がそのような汚職に手を染めるはずがない。今回のだって実態は司政官のフセイ・オルショークとやらが手に染めていた汚職をそのままなすりつけられだけだろう。その後の上官殺しはまぁ軽率だったかもしれないが、もし殺さずとも口封じされた可能性が高い。

 

 まぁ、口封じされたのは件のフセイ・オルショークと上官のイバリ・チラカスの方だが。

 

 オレの言葉が意外だったのか、バルザックはきょとんとした顔をする。

 

 なんだその顔。初めて見たぞ。

 

「何があったかは知らねぇ。だが、オレが知っているバルザックは熱い魂を持った漢だ。それに従っての行動するアンタをオレは知っている。となれば、司政官殺しは何か理由があったんだろう。それにその前の罪である人身売買だなんて行為をアンタがするはずがねぇだろ」

 

「そうか。……お前は、俺を信じてくれるのか」

 

 バルザックの先程までの闘争に満ちた雰囲気がほんの少しだけ弛緩する。

 

 いまだ!

 

 オレは心の中で揉み手でゴマするために、言葉を畳み掛ける。

 

「気乗りしないし、正直断りたかったんだが所詮はオレも帝国の公僕。流石にまぁ、部隊全滅してんのに一人だけ無傷って訳にはいかねぇんでな。ちょっくら、稽古付き合ってくれよ。アニキ(・・・)よ」

 

「ははははッ! 懐かしい響きだな。だが、そうだな。お前にいらぬ嫌疑をかけさせない為に、人肌脱いでやろう」

 

 此処でオレは昔の呼び方を使うことで、あくまで稽古だよとアピールしておく。

 

 だから手加減して! じゃないと、バルザック相手には流石に勝てる気がしない。

 

 《百人斬り》の異名の犠牲者になるのだけはいやだ!

 

 オレは死にたくねぇんだよ!

 

 そんなオレの心意が伝わったのか、バルザックも朗らかに笑いながら剣を構える。そこには先ほどまでの殺気立った様子はない。

 

 よかったこれなら生き残れそう──

 

「うおォッ!!?」

 

 バルザックの動きが掻き消える。次の瞬間には目の前にいて剣を振るう寸前だった。オレは咄嗟に身を翻し躱す。

 

 今の剣、躱さなかったら完全に首が飛んでいたんだが!!?

 

 そのまま襲い来るバルザックの剣を、オレは槍で受け止める。

 

「まてまてまて! ちょっとだけって言ったよな? 今の殺す気だっただろ!?」

 

「あの程度でお前が躱せない訳ねぇだろ。それによく考えたら、お前と本気では戦ったことはなかったからな。死闘だったと言い訳する為にも、そっちにも本気で対抗してもらわねぇと思ってな」

 

「おまっ、状況考えろよッ!? どわぁっ!!?」

 

 再度振るわれた剣を、槍で防ぐ。

 

 ビリビリと、痺れる感覚。

 今一戦やりやったばかりだろ、なんつー底力だよ!

 

 いや、元から根性、ど根性って言葉を口々にしていたバルザックだ。原作からして追い詰めれば、追い詰めるほど強くなっていくポテンシャルを今ここで発揮するなよ!

 

「待て待て待て! ほんと、マジで待てって! 死ぬ! 死ぬゥゥゥ!!!」

 

「大丈夫だ! お前はそんなことで死ぬような柔な奴じゃねぇ! それに安心しろ! 万が一怪我しても、俺がやさし〜く看病してやる!」

 

「おぉ、それは安心……するかぁ!!! 尚のこと嫌だわ!」

 

 貞操の危機を感じたオレは渾身の力で、バルザックの剣を押し返した。

 

「うおッ!? 良い突きだな。へへっ、やっぱりお前は良い漢だなゲドウ」

 

「やめろや! 何か全部意味深に聞こえてくんだよ!」

 

「もっと俺にその熱い棒(・・・)を突き刺してみろォッ!」

 

「だからその言葉使いやめろってつってんだろぉがァッ!!!」

 

 なんて会話をしながら、攻防を繰り返す。

 

 ちっくしょう、うまくいきそうだったのになんで生命の危機じゃなくて、貞操の危機を感じて戦う羽目になってんだよ!? 

 

 バルザックはうまいこと負傷させて手厚い看護をしてやろうと、オレはそれが嫌で必死になって戦うことで、図らずともかなりの接戦を演じている。

 

 多分、世界で最もくだらぬ理由での死闘を繰り広げていると思う。

 

 いつまで続けりゃ良いんだこれ。だが、負けたらバルザックによる手厚い介護がされちまう。まじで、どうすんだこれ。

 

「良い加減、離れてよッ!」

 

「うるさいッ、そっちこそどっか行ってよ……!」

 

 割って入るような甲高い声。

 ゴロゴロともつれあうように、戦うオレ達の丁度中間地点に転がり落ちて来る何者か。

 

 そこに居たのは、メリス。

 

 そして相対していたのは、『リベリオン/戦禍の夜明け』におけるヒロインの一人ムメイであった。

 

 え、どういう状況?

 

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