拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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暗殺者ムメイ

 

 少し時間を遡る。

 

 それはゲドウが自宅を出てすぐのこと。

 

 こそこそとゲドウを追いかける影があった。下手人はメリス。彼女はゲドウの後ろ姿を見て言いようのない悪い予感がした。それは彼女が、母親を最期に見た時と同じ予感だった。

 

 だから居ても立っても居られずに、こうしてゲドウを尾行していた。

 

「あれがゲドウが乗った晶獣車。追いかけないと」

 

 イヤな予感がする。そう思ったメリスはこっそりとゲドウを追いかけるも、そのあと晶獣を利用した移動となると流石に距離が開いていく。

 

「このままじゃ見失う……!」

 

 焦りが積もっていく。

 

『くくく、焦っておるようじゃな』

 

 胸が熱くなると同時に響き渡る声。

 

 訓練の際にイヤというほど聞いた《悪魔の心臓/デモゴルゴン》、その素体となった《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の声だ。

 

「うるさい」

 

『まぁ、聞け小娘。良い話がある』

 

「黙れ。死に損ない。その臭い口開くな」

 

『……ソコマデ言ワナクテモ言イイデハナイカ。ではなくてだな、己、状況がわかっているのか? このまま遠からず見失うぞ』

 

 その言葉に、メリスの言葉が詰まる。

 

『我に身体を預けよ。そうすれば、更なるワレの力を引き出せる』

 

「力って、たいしたことないじゃない。ゲドウに、ぼこぼこに負けてたくせに」

 

『はぁ〜? 負けてないが? 全然負けてないが??? 勘違いするでない』

 

「後半もう出たがってなかったじゃん!」

 

『うるさいうるさいうるさい! 己がきちんと我の力を振るえていれば、あんな男すぐさまわからせることができたのだ!』

 

 お互いに罵り合う両者。

 

 側から見れば勝手に喚き散らかす女という危うい光景だが、当人らは必死である。メリスの決意が固いと見るや、《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》は渋々として引き下がる。

 

『ちっ、仕方あるまい。妥協してやる。我の力の一部を特別に貸してやる。使いこなせるかは貴様次第だがな』

 

「……何が目的?」

 

『なに、貴様がワレの力に馴染めばこちらとしてもより乗っ取った際に力を振るいやすくなるだけよ。それで? どうするのだ?』

 

「……わかった、良いよ」

 

 悩んだ末に、メリスは頷いた。

 

 どの道このままじゃ、ゲドウを見失う。その気が急《せ》ぐせいで、メリスは《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の言葉を受け入れた。

 

 すると直ぐに効果が現れた。身体中に、力が漲り始める。そして、それだけではなかった。

 

「な、なんかお尻のあたりがむずむずする……! んっ、え? なにこれ尻尾!?」

 

『くくく、そうだとも。我の力の一端だ。どうだ? 良い形をしているであろう?』

 

「よくない! お尻丸見えじゃん!」

 

 生えた拍子に、尻部分が破け、ぷりんとしたお尻が丸見えであった。必死になって、衣服を引っ張る。《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》は、その様子を笑う。

 

『よりワレの方へ偏った証拠だ。どうだ? 力が溢れておるだろう?』

 

「……確かに、みなぎってる」

 

『ふはははっ、精々力に振り回されてしまうことだな。貴様が力を使えば使うほど、貴様の肉体は我に馴染む。そうなった時が、ワレの復活の時である』

 

「あっそ。じゃあ用は済んだから、さっさと引っ込んで」

 

『あ、ちょ、待っ』

 

 まだ主導権はメリスの方が強い。強引に話を打ち切る。

 メリスは再び走り出し、目を見開いた。確かに、身体能力が向上していた。

 

「すごい、これまでの力の比じゃない。これなら、確実に後を追える!」

 

 晶獣を使った移動に、普通ならば追いつけない。

 しかし、《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の力を引き出したメリスの身体能力は常人を凌駕する。それにより、追跡が可能となった。

 

 つかず離れず、なんなら背後から得体の知れない強大な気配に怯えた晶獣が通常よりも急いで走っていた。

 

 やがて着いたのは、ラッツァーニ鉱山。

 

 そこまでは良いが、既にゲドウは中に入ってしまった。

 

「ひどい臭い……見失わないようにしないと」

 

 嗅覚も強化されたメリスは鉱山から漂う鼻につく匂いに顔を顰《しか》める。

 

 ゲドウの後を辿るも、鉱山内部は暗くて臭いもひどく思ったように追えない。

 

 やがて、剣戟(けんげき)の音が聞こえてきた。

 

「この音は」

 

 音の方向へ向かう。そこで見たのは、ゲドウと別の男性が戦う姿。そして、周囲にはカエルム人兵士の死体が散乱している。

 

「これ、一人でやったの? あの人、化け物じゃない」

 

 冷や汗をかく。

 

 周辺には追手であったカエルム人兵士達の死体。ゲドウが斬るわけがないので、やったのはあの男がやったのだと確信する。

 

 殺し合いをしているとしか思えないほどの危機迫るほどの戦いであったが、会話からしてどうやら相手はゲドウと知り合いのようだった。

 

「あの二人、仲が悪いのか良いのかわからないな」

 

 話を聞いていて親しい間柄なのはメリスからも見て取れた。にも関わらず互いに本気でやり合っている。実際、《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の力で身体能力があがっているメリスでも、二人の剣戟が見えなくなることがある。

 

 あの中に割って入ったら多分……いや、十中八九死ぬ。

 

 いつ介入するかとタイミングを窺っていると、何かが微かに動く音が聞こえた。

 

「バルザック・ダレイオスを発見。……む、あの男邪魔。排除する」

 

 言葉少なめ呟く、何者かがそこにいた。

 

 暗闇に溶け込むような衣装に、あまりにも希薄な存在。五感に優れたはずのメリスですら気付けないほどに。

 

(いつからいたの!? いや、それよりも邪魔って)

 

 正体不明の人物の視線の先。狙いは、どう見てもゲドウだった。

 

 今のゲドウは、バルザックとの死闘で気付いていない。もしその状態で不意打ちなんて受けてしまったら。

 それを見た瞬間、メリスは潜伏も忘れてその不審者に体当たりをかました。

 

「うきゅっ!? な、何っ!?」

 

「させる、かぁぁぁ!?」

 

 突然の不意打ちに不審者はまともに受け体勢を崩す。それは体当たりした側のメリスも同じ。結果、そのままごろごろと転がり落ちた二人は、戦いの真っ最中のど真ん中に落下したのであった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 短く切り揃えた闇に溶け込む濡羽色の髪に、細っそりと華奢な身体。闇に溶け込む黒一色の忍び服に身を包む割には何故だか腋の部分を大きく開けて、薄い横胸どころか肋骨まで見えてしまっている装いに、首に巻かれたマフラー。

 

 言うなれば忍者と言っても差し支えのない特異な格好だが、オレにはその人物に心当たりがあった。

 

「ムメイだと?」

 

 思わず呟いたその名に、ムメイはすっと酷薄な瞳をした。

 

 やべっ。

 

「その名前、何処で知った? ううん、どの道任務の障害になる以上排除す、ひゃん!?」

 

「わたしをっ、無視するなぁっ」

 

 もつれあったメリスが背後からムメイに絡みつく。

 意識してじゃないだろうが、思いっきしムメイの服の謎の穴に手を突っ込んでいた。

 

「腋を触るなぁ! くひゅっ、離れろ!」

 

「はな、れないぃぃッ! 貴方の好きにはさせないっ」

 

「だ、からぁ! あひゅっ、そこ、さわるなぁ……!」

 

 離れようとするムメイに、追い縋るメリス。ゴロゴロと、二人揃って地面を転げ回る。

 

「もう、怒った……! げきおこ丸……! 先にアナタから始末する……!」

 

「やれるものならっ!」

 

 ムメイは、透き通るほどに薄い小さな小刀を。

 

 対してメリスはその辺に転がっていたカエルム軍人の剣を拾って構えた。やがて二人は激突する。

 

「なんか俺らそっちのけで向こうで戦い始めてねぇか?」

 

「同感だ。なんで争ってんだアイツら」

 

 一方で、オレ達は何が何やらと二人の戦い眺めることになっている。

 

 バルザックも困惑してやがる。無理もねぇ。オレだってわからねぇし。

 

「なんでメリスの野郎がこの場に居んだよ。わけわからねェ」

 

「メリスだぁ? 知り合いかよ!」

 

「知り合いというか、同居人というか」

 

「なにぃ!? 俺というものがありながら、勝手に女子連れ込むとかひどいぞ! 俺にも教えろよ!」

 

「なんでオメェの許可がいるんだよ。それに、女子だなんて可愛らしいモンじゃねぇよ。じゃじゃ馬だ」

 

「む、確かに振るう剣からは圧があるな。一発当たればそこらの兵士じゃ即お陀仏だな。だが、ありゃ無理だな。相手が悪い」

 

 バルザックの言う通り、メリスはムメイの動きについていけていない。《悪魔の心臓/デモゴルゴン》のおかげで単純な力ではムメイに優っているがそれ以外の技術、反射速度、経験全てにおいて劣っている。

 

「はぁっ、はぁっ、攻撃が当たらないッ……!」

 

「力も、速さも大したモノ。だけど、何よりも貴女とわたしじゃ潜ってきた修羅場の数が違う」

 

「あぐぅ!!? うっ……」

 

 流石にまだ輝征装(エアラリス)に慣れていないメリスでは、ムメイの相手は荷が重かったようだ。弾き飛ばされたメリスが地面に転がり、頭を打ち気絶する。そこへムメイがトドメを刺そうとする。

 

「やべっ」

 

「ゲドウッ!?」

 

 慌てて割って入る。

 

 見てる場合じゃねぇ! オレは瞬時に駆け出し、間一髪ムメイの凶刃を防いだ。

 

「防がれた?」

 

「悪いがこいつはまだ死なせる訳にはいかないんでな。悪いが見逃しちゃくれないか嬢ちゃん?」

 

「……だめ。輝征装(エアラリス)持ちならばそれを奪取しないと。今は一つでも多くの輝征装(エアラリス)がいる。決起の為にも……!」

 

 舌打ちをする。

 

 確かこの頃のムメイは余裕がない。

 

 救って貰った《エニアグラム》のリーダーの為に、簡単に命を捨てようとする時期か。こりゃ、説得は無理か。

 

「刃から伝わった感触でわかった。貴方、予想以上に強い人。だから、奥の手を使う」

 

「なっ、急に霧が……! まさか、輝征装(エアラリス)か!?」

 

 瞬間、ムメイの持つ刀の刀身が朧げになり、周囲に霧が充満する。

 

 バルザックがそれに驚いた声を上げた。そしてオレも負けず劣らずに驚いている。

 

「おいおい、最初から本気すぎだろ」

 

 ムメイの輝征装(エアラリス)、《幻影夢刀/シンカイム》。

 

 不定形で不安定に変わる刀身と暗殺者として磨かれたムメイの技術が合わさり、まさに霧のように変幻自在に相手の急所を切り裂き、命を奪う妖刀だ。

 

 その奥の手、〝迷霧の陣〟。

 鞘から発生し、辺りに充満した霧に、《幻影夢刀/シンカイム》の移り変わる刀身を捉えるなんて無理を超えて無謀。クソゲーだ。

 

「はぁ。仕方ねぇか」

 

 オレが手加減して無傷でいられる保証はない。良くも悪くも、ムメイは完成された強さだ。心はまだ未熟なれども、その力は本物だ。元は《エニアグラム》のリーダー暗殺(・・)を任された刺客なだけに。

 

 オレだって人間だ。不意打ちからの首を掻っ切られれば死ぬ。

 

 出し惜しんで死ぬなんざ、あほのすることだ。覚悟を決めろ。

 

「バルザック、悪ぃな。さっきのオレは、本気ではあったが全力じゃなかった」

 

「あ? 一体何の話だ。つーか、霧でほとんどみえねぇ!」

 

「言葉の通りさ。餞別だ、オメェにオレの秘密を見せてやる」

 

 バチバチと空気が帯電し始める。

 

 オレは手始めに、メリスにトドメを刺そうとするムメイへと、牽制の雷を放った。勘が鋭いのだろう、咄嗟に躱すムメイ。

 

「冷静だな。動けなくとも、先にメリスの方から始末しようとするたぁな」

 

「……!? 今、どうやって……まさか、輝征装(エアラリス)!?」

 

「かもしれねぇな。さて、どうした? オメェが望んでいる輝征装(エアラリス)らしき力が目の前にある。ならば、どうする?」

 

「決まっている。その力、ボスの為に頂く!」

 

 元々広いとは言えない洞窟の中で、更に霧が充満し始める。霧で視界を防いで暗殺する気か?

 

「そりゃ、舐めすぎだろ。〝震霹靂(ドンナー)〟」

 

 鳴り響く爆音と衝撃。青白い光が迸り、雷が充満していた霧が全て消えた。

 

「霧がなんでッ……!?」

 

「覚えておきな。この規模の霧じゃあ、オレの雷は止められねぇ。まぁ、全力で放てばオレ以外全員死んじまうから加減はしたが」

 

「だとしても、それだけの力を使ったら直ぐには動けないはず!」

 

 驚愕から直ぐに精神を立て直し、態勢を整えるのは流石はムメイだ。

 

 霧のように揺らぐ《幻影夢刀/シンカイム》の命を刈り取る暗殺の一撃を、オレはあえて腕で受け止める。

 

 いってぇ! だが、これで奴も逃げられねぇ。

 

「っ!? 抜けない……!」

 

「鍛えてるもんでなぁ。くっそいてぇけど、こうして力を込めたらそのくらいの刃物なら抜けづらくすることができるぜ」

 

「舐めないで……! 武器が無いと殺せなくなるのなら、暗殺者は務まらない……!」

 

 くるりと空中で身体を回転させ、オレの肩に乗る。足で挟み、そのまま首の骨を折る戦法だろう。即座に別の殺し方をしてくる辺り、マジで技量が高い。

 

 あとめっちゃ太ももやわらけぇ。

 

 って、そうじゃねぇ!

 

「あぁ、倒せると思っちゃいないさ。だが、オレに触れたな?」

 

「!? しまっ」

 

「〝アン・ブレイカー〟ッ!」

 

「ぅぐっ!?」

 

 オレの身体に迸る雷撃。極限まで弱め、それでいて確実に意識を刈り取る。

 

 幾ら身体を鍛えようとも、内部まで浸透する電流に耐えきれるはずがない。そもそも、よっぽどのことがない限り、人体を電流が迸ることなんてねぇはずだ。

 オレの雷撃にビクンッと痙攣した後、ムメイから力が抜ける。気絶したか。

 

 ちょろ。

 

「あ?」

 

 謎の水音。

 

 ちょろろろろ……。

 

 音の発生源は、ムメイ。そしてオレの首筋に感じる生暖かい水の感覚。

 

 ……そう言えば、ムメイのやつオレの首を足で挟んでいたな。その状態でオレは〝アン・ブレイカー〟を放った。

 それは、並々ならぬ電気ショックをモロに股にくらったというわけで。

 

 

 

 つまり。

 

 

 

 つまりだ。

 

 このぬくい水の正体は……。

 

「うおぉぉぉぉっっっ!!!?」

 

 まじで言ってるの!? まじで言ってるのか!?

 

 思わず仰け反る。ムメイが地面に落下し、なおも漏らし続けていた。

 

 ざっけんな、オレにそう言った趣味はねぇぞ!?

 ムメイだって不本意だろうけど! オレだっていやだわ! 拭く物……ねぇ! まじかよ、オレこのままで帰んなきゃいけないわけ!?

 

 

 

──チャキ。

 

 

 

 剣がオレの首のすぐそばにあった。

 

「おいおい、この光景見てふつうすぐに剣構えるか?」

 

 わーお、油断してた。

 

 オレは、態とらしく降参と両手を上げる。剣の持ち主……バルザックは、真剣な表情でオレを見ている。

 

「ゲドウ。お前はずっと、その力を隠してたのか?」

 

「そりゃな。奥の手ってのは秘密にしておくもんだろ」

 

「そうか。……俺はお前に信用されるほどではなかったんだな」

 

 何かを悔いるような声色で、バルザックは剣を下ろした。

 

 あっぶねぇ。もし無言でバルザックに斬りかかられてたら、ぎゃー!? って叫んで真っ二つにされてたかもしれん。しょんべんまみれで死ぬとか恥にもほどがあるだろ。

 

 変な空気を払拭するように、わざとらしく尋ねる。

 

「それでバルザック、オメェどうするんだ?」

 

「何?」

 

「そいつは迎えに来たといっていただろ? なら、お前を求めている人物がいる。そっちの方が、きっとオメェの道にあっているのだろうさ。このまま帝国にいても、犯罪者として追われるだけだぜ?」

 

「それは……」

 

 実際にわかる。

 

 曲がりなりにも、読者としてではなく実際にバルザックと接してきたオレには今の帝国の状況にバルザックが窮屈さを感じていたことを。隷属人(イクリプス)に対して、横暴に振る舞うカエルム人を苦々しく思っていたことも。

 

 もし、バルザックが嵌められなければ共に帝国内部から変える未来があったかもしれねぇ。

 

 だけどコイツがもっとも輝くのは、虚構と暴虐に塗れた国を守るのではなく、人々を護るときだってのをオレは知っている。

 

「だからいけよ。オメェが、オメェらしくいれる場所に」

 

「……次会う時は敵同士か?」

 

 原作通りなら、バルザックはこの後革命軍の暗殺組織《エニアグラム》に所属する。そうなれば俺は敵対する気はなくとも、上からの命令で戦わざるを得ない時もくるだろう。

 

 そうでなくとも、俺の存在を無視出来ない革命軍から暗殺の依頼をされるかも知れない。

 

 そうならない為には、オレもこのままバルザックに着いて行けば良い。だって彼は今から革命軍に合流するのだからな。

 

 そうなればいずれ念願の主人公シドウにだって会えるし、夢にまで見た主人公の師匠ポジションにおさまれるかもしれねぇ。

 

 だけど。

 

 ちらりと、メリスを見る。

 

 オレはメリスの復讐を手伝ってやると約束した。

 

 自分一人なら良い漢であるバルザックにほいほいと着いて行ったのだがな。

 

 未練を振り払う。

 

「らしくないじゃないか、バルザックさんよぉ。何をしみったれてんだ? 街で会えば友達、戦場で会えば敵同士って言ったのはオメェだろぉ! まぁ、オレは死ぬ気はないけどな!」

 

「……はっ、さすがだな」

 

 バルザックは、笑いながら懐にしまっていた紙束をオレへと投げ渡す。なんだこれ。

 

「ゲドウ、こいつを渡しておく」

 

「これは?」

 

「俺が見つけた人身売買や不明な流通の流れが載ったリストだ。この件について問い詰めた結果、俺が始末されそうになったから逆に司政官どもを始末したんだが……。お前が信頼できるっていう奴が居たら渡してくれ。心配すんな、俺の分の写しもとってある」

 

 つまり不正の証拠というわけね。

 

 ペラペラと紙をチラ見する。

 

 どいつもこいつも中身は、顔を顰めるような汚職の証拠ばかりだ。うげ、オレの所属する駐屯地の基地長も関わっているのかよ。やがて不自然に人と金、そして軍の資材が流れている箇所があった。

 

「こいつは」

 

 その中に名前があった。

 

 《国家機密研究局(ゲマトリア)》が主任、ナクア・メルキオールの名前が。

 

「助かるぜ。こいつは大切にもっておく」

 

「すぐには渡さないのか?」

 

「そりゃオメェ、こんなの馬鹿正直に上に渡したらオレも始末されるだろ」

 

「へっ、どちらかというとお前の顔からそっち側だと思われるだろうしな」

 

「うっせぇ。悪人面なのは認めるが、オレはクズじゃねぇぞ」

 

「あぁ、知ってるさ」

 

 お互いに笑いあったあと、視線を交わす。

 

「あばよ、戦友。達者でな」

 

「あぁ、またな。戦友」

 

 こうしてオレたちは爽やかに別れた。

 

 尚、お互いの肩には気絶した少女が担がれている上に、周囲には追っ手であった帝国兵の死体が散乱しているものとする。

 

 地獄みてぇな場所だな。

 

 

 

 

「……はっ、ここはっ? あれゲドウ……? すんすん、なんか匂う……?」

「ぎくっ」

 

 

 

 

 後日、手配書が記された。

 

 特級指名手配犯、《99人斬り》のバルザック。

 

 うん、なんか語呂が悪くなっちまったな。

 

 




なんだかんだ50位以内ですが、オリジナルの日刊に載ったりもしました。ありがとうございます。
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