生まれた時の事はあまり覚えていない…
親の転勤であちこち連れ回されたし、友達なんて碌にできなかった。まぁ、なんて言うの?価値観…とか色々あって本当の意味での友達は出来なかったわけだ。
親のおかげで顔は他の奴より良かったし、"なんでも器用に出来る"もんだから女には良くモテた。
でも――
「それだけ」だった。
勉強も運動も、ちょっと本気になれば経験者を追い抜かしていった。
初めて触ることでも、少しやればすぐ形になる。
初めは期待していた奴らも、"自分以上の才能"を見せつけられた瞬間、離れていく。
何をやってもその繰り返し…比較的なんでもやらしてくれる両親だったからあらかた制覇したかな。
野球、サッカー、バレー、空手、柔道、ピアノ、書道…色んなことを経験させてもらったけどどれも3ヶ月すら保たなかった
『えぇ!凄いね涼太くん!才能あるよ!』
初めはそう言っていた連中も時間が経つにつれーー
『涼太くんはもっと強いところに行きなよ。僕たちとは"違う"んだからさ』
平凡な才能しか持たない奴は精神的にも平凡
皆心のどこかで自分が1番だと願うから"本物"を見た途端に焦り、遠ざけようとする
その繰り返しからか気づけば、人に期待すること自体が面倒になっていた。
それからかな…適当にやって適当に勝って、平凡な奴に一瞥の感情も抱かなくなったのは
それで困ることは何一つなかったし――
正直、それでいいと思ってた。
この時の俺は自分の人生を大きく変える出来事と出会うなんて想像もしていなかった
◆
「また転勤だ」
父親がそう言ったのは、いつもと同じような夕飯の席だった。
「あっそ…次はどこ?」
特に驚きの無かった俺はそう答えた
「神奈川だ」
「神奈川…ね…」
そこに俺の退屈を終わらせてくれるような奴なんているのだろうか…
結局その一言だけで、会話は終わる。
荷物をまとめて、知らない街に行って、また同じ日常を繰り返すだけ。
今までの日常が終わり新しい日常との出会いかも知れないと言うのに
…俺の心は微塵も高揚しなかった
◆
ココは神奈川県湾岸沿いに位置する公立の中学校、富ヶ丘中学校。時刻は朝の8時30分
夏も終わりに近づき緑から枯葉へと移行するこの時期に転校生が来ると言う情報が学校全体に駆け巡った
「ねぇ聞いた!今日転校生が来るらしいよ!」
「聞いた聞いた!東京からでしょ!」
「シティボーイじゃん!」
「しかもね!…めっちゃイケメンらしいの」
「「「まじ!?」」」
花の女子中学生は転校生の話題で持ちきりである。
皆が転校生の話題で持ちきりの中、教室に担任が入り教壇の上にたつ。
「えぇ〜知っている者もいるようだが今日から新しい仲間がこの教室に加わることとなる」
「「「…」」」
「皆も暖かく迎えてあげてくれ。じゃあ転校生、入ってくれ」
担任の言葉の後、ゆっくりと前方の扉が開かれ1人の少年が入室する
「「「っ!?」」」
その少年は淡く光を弾く金色の髪は、無造作に流しているだけなのに妙に様になっていて、動くたびにさらりと揺れている。その隙間から覗く瞳は、透き通るような蜂蜜色であり、顔立ちは高い鼻筋に、すっきりとした輪郭。どこか中性的な美しさを醸し出している。
背丈は中2にしてはかなり高い方であり長い手足に、引き締まったしなやかな身体を有している
特徴的なシルバーのリングピアスと制服の着こなしすら自然に様になり、少しラフに着崩しているだけで、それが“そういうスタイル”として成立してしまう。
周囲の女子がざわめくのも無理はない。
少年は担任の指示通り教壇に立ち上り自己紹介を始める
「初めまして黄瀬涼太です。好きなものは特に無いけど嫌いなものはピーマン!特技はカラオケ!よろしくお願いします!」
「「「キャァァァァァァ!!」」」
「カッコいい!」「イケメン来たぁ!」「流川君とどっちがカッコいいかな!」
「馬鹿!比べるもんじゃ無いわよ!イケメンは何人いても損しないんだから!」
黄瀬の自己紹介に女性陣は黄色い歓声を上げ、男性陣はその様子と黄瀬の容姿に対して嫉妬からかあまり歓迎した雰囲気は出していなかった。
「はいはいそこまでにしておけよ。それじゃあ黄瀬、お前の席なんだが…そうだな。流川の隣が空いているからそこに座りなさい」
「流川?」
「ほら1番後ろで寝ている奴がいるだろう?あの子だよ」
担任の指差す方に目を向けるとそこにはーー
「…すぅ…」
そこには机に向かってうつ伏せになるように眠っている生徒の姿が
「あぁ…あれね」
理解した黄瀬はバックを持ち自分の席に座る。
周りのクラスメイト達に軽く挨拶を交わしたのち、ふと隣の席に目を向ける。
「…すぅ…すぅ…」
「あぁ…流川君ならこの時間は起きてこないと思うよ!」
「え?そうなんすか!」
隣の女子生徒から教えてもらう。
「流川君は基本的に休み時間か放課後の部活の時以外は寝ているから」
「…へぇ〜」
(こいつ部活やってるんだ)
特に興味もない黄瀬はそうそうにこの話を切り上げ流川から目を逸らす
結局あの後も、流川とは一言も話すことなく放課後を迎えた。
「えぇ!行こうよ黄瀬君!」
「あはは…今日は予定があって勘弁っす」
黄瀬は教室で多数の女生徒に放課後の誘いを受けていた。あまりそそられなかった黄瀬はやんわりと断りを入れ教室を後にする。
「はぁ…めんど…」
靴を履き替えた黄瀬はため息をこぼしながら外に出る。
すると目の前に見知った顔が立っているのを目撃する
「あれ…君は…流川君」
「ん?…お前は…誰だっけ?」
「ひどっ!…隣の席だったじゃないっすか!」
「…そうだっけ?」
「もういいっす!俺は黄瀬涼太っす!今日から富ヶ丘中に転校してきた転校生っす!」
「…ふーん」
興味なさげに黄瀬のことを見つめる流川。流川は教室にいた頃ころとは違い、何かしらの練習技を纏っていた。
「あれ?今から部活っすか?」
「…ん」
「なんの部活に入ってるんすか?」
「…バスケ」
バスケットボールか…そういえば今まで触れてこなかったスポーツだな。この寝ぼけた流川がどう言うプレイすんのか気になるし…
「見に行っていいっすか!バスケ部!」
「…なんで」
「いやほら!俺転校生じゃないっすか!部活とか興味あるんすよ!」
「…」
流川に頼み込んでバスケ部があるという体育館まで移動する。すると中から現れる1人の女生徒の姿
「流川!もうすぐ練習始まっちゃうわよ!」
「…うす」
「あれ?そっちの子は?」
中から現れた女生徒は、パーマをかけたようなセミロングの髪型に少しだけ厚めの唇…顔立ちはどちらかと言うと綺麗系であり、こちらも制服とは違い体操着を着用していた。
その女生徒は黄瀬を見つけ
「もしかして例の転校生?」
「例の?」
「あぁ本人は分かんないか!ほら今日イケメン転校生が東京から来るって学校中で話題だったのよ!」
どうやら目の前の女生徒も黄瀬のことを少しは耳にしていたそうだ
「私の名前は山本彩子、転校生君の名前は?」
「黄瀬涼太っす!」
「黄瀬君はどうしてバスケ部に?」
彩子が黄瀬に尋ねる
「バスケに興味あったんすよ。やった事はないんすけどね」
「…へぇ…じゃあ初心者なんだ」
「まぁそうすっね」
2人が話し込んでいる中、1人の生徒が彩子を呼びに来る。
どうやら練習が始まるようで、俺は見学という扱いの元体育館の隅で見学していた。
「…ふーん」
バスケ部を見た正直な感想は…
"つまらない"
それなりの経験者なだけあって少しは出来るようだけど、素人の黄瀬から見ても特別上手い奴はいなかった。
おそらく黄瀬が少しボールに触れただけ…いやもしかすると今の状態でも黄瀬の方が上手いかも知れない。…所詮はその程度…
期待して損したかもな
かつて自分が抱かれたことと同じ思いを抱く自分に呆れつつも、興味をなくした黄瀬は体育館を出ようとすると
「…ん?」
ゴールに向かってドリブルする流川を目撃する。
ペイントエリアに踏み込んだ瞬間、ゴール下には長身のディフェンダー。腕を広げ、完全に進路を塞ぐ。
それでも流川の足は止まらず、ゴール下から跳躍し身体を半身に捻り、空中でボールを引き寄せる。ディフェンダーも跳躍し腕を伸ばすが流川はその上を行く。
「っ!」
ディフェンスの上からリングへとボールを叩き込む
ーー"ダンク"
ダンクを叩き込んでしまった。リングは未だ鉄輪が悲鳴を上げ、ネットが激しく揺れる。
静かに着地した流川は、何事もなかったかのように背を向ける。
「…っ!?」
そのプレーを見届けた黄瀬に特別な感覚がよぎる。
今のプレー俺にも出来るのか…いや…ダンクはおそらく出来るはずだ…でもディフェンスの上からだと…
「…いたのか…俺が努力しても追いつかないかも知れない奴が」
「…流川楓…我が富ヶ丘中学の2年生エースで、おそらく1on1なら県でも…いや全国でもトップクラスの実力よ!」
いつのまにか黄瀬の隣に立っていた彩子がそう口にする
「…そんなスゲェ奴だったんだ…あいつ」
「どう?バスケ部に興味持てたかしら?」
もう他人に期待する事はやめた筈なのに
自分からこうして踏み込んでいい事なんて今まで無かったはずなのに
俺はまた、同じことをしようとしている
けど
なぜか嫌な気持ちは一切なかった