リーガル・レジスタンス 〜ファンタジー世界で立憲国家を求める〜   作:ムササビ・モマ

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第4話『平和の正体2』

2 「書庫に籠もる王子」

 

 翌日も、王宮書庫の同じ一角は変わらぬ静けさに包まれていた。

 母は今日も私の隣に座り、静かに見守っている。

 私は棚から別の記録集を取り出した。『王立学園創設録』、そして王国の『法典』の解説書だ。ページをめくり始めた私は、やがて読む手を止め、息を呑んだ。

 背筋を、冷たい汗が伝うのを感じた。

 

 (……なんだ、これは。物理的支配と司法権の掌握の次に行ったのが……これほどの規模の『思想統制』だと?)

 記録によれば、王は学園を創設し、平民の優秀者や四公爵家の後継者たちを王都に集め、幼少期から「君臣の義」と「王への絶対忠誠」を徹底的に刷り込んでいた。

 

 前世で歴史や思想史を学んだ者として、これがどれほど異常な事態か、私には痛いほど理解できた。

 国家が人々の「心(思想)」を完全に支配することは至難の業だ。前世の欧州の絶対君主たちも、人々の内面は「教会権力」という別の巨大な壁に阻まれ、王権だけで完全に染め上げることはできなかった。東洋において「絶対的な上下関係の正当化」が国家の統治機構と結びつき、人々の内面を縛るまでには、途方もない時間がかかっている。

 

 (中世・近世レベルの文明において、宗教的な権威を借りることもなく、王権単独でこれほど完成された『心理的支配』のシステムを一代で構築したというのか……?)

 学園という巨大な洗脳装置だけではない。さらに私を戦慄させたのは、この国の「法」の構造だった。

 

 法典を運用する裁判官はすべて王の任命であり、最高の裁定者は王自身。そして法の解釈の絶対的な土台として、「王族の品位」という神聖な規範が置かれている。

 王家は天の理を体現するものであり、その品位を貶める行為は、事実の如何を問わず国家の秩序を乱す大罪とされる。

 

 (『品位』という名の、逆らうことすら罪悪だと人々に錯覚させる絶対的な規範……。これは単なる法律じゃない、もはや国家規模の『宗教』だ)

 幼少期からの教育と「品位」という規範によって、心の中で反発することすら「悪」だと自己規制させる。前世の歴史が何世紀もかけて試行錯誤した「体制の永続化」を、この王は一代で、しかも宗教の力すら借りずに成し遂げている。

 天才などという言葉では生ぬるい。異次元の発想力だ。

 

 (物理的支配、司法権の独占、そして時代を飛び越えた完璧な心理的支配。……強固な思想と法によって完全にコーティングされた、逃げ場のない檻だ)

 この完璧な心理的支配が続く限り、金髪金眼の「光」に対する「影」として、私は永遠に日陰に追いやられる。この強固な体制の内側で、母の笑顔が静かに摩耗していく未来が、はっきりと見えた。

 

 私は震える手で本を棚に戻し、蝋燭の炎を吹き消した。

 母は私の異変に気づいたのか、静かに私の背中を見つめ、優しく微笑んだ。私はすがるように母の手を握り、静かに書庫を後にした。

 

 

 

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