リーガル・レジスタンス 〜ファンタジー世界で立憲国家を求める〜   作:ムササビ・モマ

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第10話『白百合の葬送2』

2 完璧なる饗応

 

 一方、王都の中枢においては、到着した帝国使節団の応対が本格化していた。

 この極めて重要な外交行事の現場を取り仕切っていたのは、わずか十一歳の第一王女、リーゼロッテであった。

 

 当初、彼女を名誉責任者に据えた大人たちは、激務に潰れるか、失態を演じて傀儡に成り下がる未来を予測していた。しかし、彼らの目論見は無惨に打ち砕かれる。

 

 彼女は使節団の宿泊施設の差配から、分刻みのスケジュール管理、怠慢な王宮役人たちの統率に至るまで、一切の隙がない完璧な実務能力を披露していた。だが、彼女の真の恐ろしさは、単なる事務処理能力の高さではなく、人心と盤面を完全にコントロールする『欺瞞の知性』にあった。

 

 使節団との公式な顔合わせの直前。リーゼロッテは、随行する王国の高官や貴族たちに向かい、扇で口元を隠しながら極めて冷徹な声で囁いた。

 

「皆様。帝国は第二側妃の急死に対し、不満と疑念を抱いているはずです。ここは私が『異国の側妃を慕っていた悲劇の娘』を演じ、彼らの感情を宥めましょう。私が彼女を『母』と呼んでも、どうか外交交渉を円滑にするためのリップサービスだとご理解くださいませ」

 

 その言葉に、高官たちは安堵し、同時に舌を巻いた。第一側妃ヒルデガードの血を引くこの王女は、国益のために死人すらも感情の道具として使い潰す、恐るべき打算と冷酷さを備えているのだと完全に錯覚したのだ。

 

 見事な根回しによって王国側の警戒を完全に解いた上で、リーゼロッテは使節団の待つ広間へと足を踏み入れた。

 

 王国の仰々しい礼法ではなく、帝国の最上級の作法(カーテシー)をもって、流れるように優雅な一礼を見せる。そして、凛とした声で語りかけた。

 

「ルナリア様が急な病で身罷られたことは、王家の不徳といたすところです。ですが……亡き『母』は、生前よく私に、帝国の誇り高さと美しさを語って聞かせてくださいました」

 その言葉には、一切の虚飾のない、純度百パーセントの敬愛と哀悼の念が込められていた。

 

 背後に控える王国の貴族たちは「何という真に迫った見事な演技だ」と冷笑交じりに感心していた。しかし、対峙する帝国使節団の胸には、目前の少女が放つ「真実の愛」が真っ直ぐに突き刺さっていた。

 

 彼らは一瞬息を呑み、血の繫がりを超えて「帝国の虎」の遺志と気高さを継承した白金の王女に対し、深い敬意の眼差しを向けた。

 

「帝国の方々に参列していただければ、母もきっと喜びます。どうか葬儀へご列席くださいませ」

 王国を完璧に欺きながら、帝国には真実を伝え、自らの「ルナリアを母として見送りたい」という意志を誰にも邪魔されることなく押し通す。

 

 それは単なる案内役の域を遥かに超えた、極めて高度で冷酷な盤面操作の完了を意味していた。

 

『見ていてください、お母様。私はもう、あなたの背中に隠れて震えるだけの子供ではありません』

 彼女は、悲しみという感情に呑まれて大局を壊すような真似は絶対にしない。リュートの思い描く新しい盤面のために、本宮の深奥で完璧な仮面を被り続け、いずれ内部から敵を喰い破る役割を完遂してみせる。

 

 柔らかな微笑みの裏側に、絶対零度の殺意と理性を隠し持った『影の女王』。白金の淡い髪を揺らすその恐ろしくも美しい誕生の瞬間を、王国の愚かな大人たちは誰一人として気づいてはいなかった。

 

 

 

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