リーガル・レジスタンス 〜ファンタジー世界で立憲国家を求める〜   作:ムササビ・モマ

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第10話『白百合の葬送4』

4 白百合の葬儀(喪主たる少年の威厳)

 

 葬儀の数日前。リュートは国王ゼノンと王妃マルガレーテの前に進み出ると、深い一礼と共に「母の喪主は、私にお任せいただきたい」と強く願い出た。

 

 本来、王族の葬儀において、わずか十三歳の第二王子が喪主を務めるなど前代未聞である。だが、この異例の申し出は、二人の権力者の全く異なる思惑によって承認されることとなる。

 

 国王ゼノンの胸中にあったのは、不甲斐なさからの逃避ではなく、血の滲むような『深い反省と後悔』であった。

 権謀術数が渦巻く王宮において、派閥政治に一切関与しないルナリアの存在は、国王にとって唯一息を抜ける心の安らぎであった。事実、リュートが成長してからも、ゼノンは後宮からルナリアの部屋へと繋がる隠し通路を使い、誰にも――リュート自身にすら――知られることなく、定期的に彼女の元へ通い続けていたのだ。

 

 本心では、ゼノンは自らが喪主として愛した女を見送りたかった。だが、絶対的な権力者でありながら、古い不文律に縛られ、己の唯一の聖域すら守り抜けなかった。その取り返しのつかない無力さへの自省から、彼は自らの悲哀を飲み込み、その正当な役目を息子へと静かに譲り渡したのである。

 

 一方、王妃マルガレーテの承認理由は、夫とは対極にある極めて冷徹な政治的打算に基づくものであった。

 第二側妃の急死に対し、帝国は少なからず暗殺の疑念を抱いている。ここで王家がしゃしゃり出て形式的な葬儀を行えば、かえって隠蔽の不自然さが際立つ。だが、実の息子が深い愛情をもって喪主を務め、平穏に見送るという「美しい母子の情愛」を前面に押し出せば、陰謀の匂いを中和し、公式発表である『病死』の説得力を補強できると踏んだのだ。

 

 国王の個人的な痛恨と、王妃の冷徹なプロパガンダ。体制側の思惑が交錯する中、リュートはそれらすべてを利用し、自ら喪主の座を勝ち取ったのである。

 

 そして迎えた葬儀当日。

 王宮の大礼拝堂は、ステンドグラスから差し込む冷たい光と、ルナリアが生前愛した真っ白な百合の花に覆い尽くされていた。

 

 聖歌隊の静謐な歌声が響き渡る中、祭壇の前に立つ十三歳のリュートは、一切の装飾を排した漆黒の喪服に身を包んでいた。

 

 背後には国王や王妃、そして王国の中枢を担う高位貴族たちがずらりと並び、無言の重圧を放っている。少しでも怯んだり、子供らしい涙を見せれば、たちまち「やはり王族の器ではない」と見下される残酷な舞台だ。だが、リュートの背筋は微塵も揺らがず、ただ一人、完成された為政者としての揺るぎない威厳をもって、参列者への一礼を淡々と繰り返していた。

 

 その隙のない気高い立ち振る舞いは、居並ぶ大人たちに、彼が決して侮れぬ『盤面のプレイヤー』へと成長したことを無言のうちに知らしめていた。

 厳粛な葬儀が終わり、参列者がまばらになり始めた頃。

 帝国の使節団が、リュートの労いに訪れた。彼らは、王国の重鎮たちを前にしても一切気後れすることなく大役を果たしたリュートの姿に、深い感銘を受けていた。

 

「第二王子殿下、本日は実に立派なお振る舞いでございました。ルナリア様も、さぞお慶びのことでしょう」

「もったいないお言葉です。母への思いのあまり、陛下から喪主の座を奪い取るような真似をしてしまい、申し訳なく思っておりますが……」

 リュートは伏し目がちに答え、帝国使節団に対して「母を慕うがゆえに出過ぎた真似をしてしまった、少しばかり子供らしい息子」という無害な仮面を完璧に演じてみせた。その計算された対応は、帝国の警戒心を心地よく解いていく。

 

「いや、殿下の深いご愛情、我々も胸を打たれました。……それにしても、我々の饗応を取り仕切られたリーゼロッテ殿下といい、ルナリア様の遺されたお子様方は、実に聡明で立派でいらっしゃる」

 使節団の代表が、外交の場で完璧な手腕を発揮したリーゼロッテの有能さを絶賛した、その瞬間だった。

 

 リュートはふっと伏せていた顔を上げ、これまで被っていた計算高い為政者の仮面や、悲劇の息子の演技を完全に捨て去った。

 彼の瞳に浮かんだのは、政治的な打算など一切介在しない、純度百パーセントの確かな熱だった。

 

「――はい」

 リュートは一切の謙遜をせず、真っ直ぐに帝国使節団を見据えて、心からの誇りを込めて断言した。

 

「彼女は、僕の自慢の『妹』です」

 それは、血統の呪縛を自らの知性で打ち破り、王国を欺きながらこの新しい盤面に立って見せた白金の王女に対する、兄としての絶対的な信頼と賛辞であった。

 

 

 

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