リーガル・レジスタンス 〜ファンタジー世界で立憲国家を求める〜 作:ムササビ・モマ
5 第五の選択
国を挙げた厳粛な葬儀の喧騒が完全に過ぎ去り、王都が深い夕闇に沈み始めようとする頃。
王宮の権力闘争から遠く離れた静かな霊廟の前に、五人の少年少女がひっそりと佇んでいた。
リュート、リーゼロッテ、ルリカ、ヴィオラ。
そして、王家の血縁にも後宮のしがらみにも一切縛られず、ただリュートの掲げる冷徹な論理と魂の在り方を唯一理解し、共に歩むことを決めた東の令嬢、アイリス。
「血統」や「品位」という不文律が支配するこの国において、リュートが自らの知性と意志で選び取った『第五の選択(絶対の共犯者)』である彼女を加えた五人は、ルナリアの眠る真新しい墓標に向かって、静かに目を閉じていた。
吹き抜ける夕暮れの風が、彼らの纏う漆黒の喪服を揺らす。
それぞれが黙禱を捧げる胸の奥底で、これからの長く過酷な闘争へ向けた、決して折れることのない冷徹な決意が固められていた。
――理不尽な暴力から弟妹を守り抜くための、最強の盾と剣になることを誓った長女(ルリカ)。
――王妃の庇護を捨て、自らの技術と経済力で盤面を根底から作り変えることを誓った技術令嬢(ヴィオラ)。
――王国を欺く完璧な仮面を被り、内部から体制を喰い破る影の女王として君臨することを誓った白金の王女(リーゼロッテ)。
――そして、罪と矛盾を孕む修羅の道を否定せず、隣で共に新しい法則を紡ぎ出すことを誓った、銀髪の論理の女神(アイリス)。
――彼女たち四人の「実力」と「知性」を束ね、中央に立つ少年リュートは、静かに目を開いた。
『見ていてください、母上。僕はもう、怒りに任せて敵の首を刎ねるだけの子供ではありません』
彼の見据える先にあるのは、単なる体制への復讐ではない。
白黒が権力者の都合で反転する『血統と品位による人治』を完全に解体し、揺るぎない成文法がすべてを統制する『法治国家の創設』。その途方もない大業を成し遂げるためならば、彼はこれからも容赦なく敵の盤面を崩し、王国の歴史を血と論理で塗り替えていく。
夕日を背に受けた、黒服に身を包む五人の小さな背中。
年齢も、生まれも、血筋すらもバラバラな彼らを繫いでいるのは、ただ一つの絶対的な目的と、亡き母から受け継いだ『自由と責任』への誓いだけであった。
やがて日が完全に落ち、冷たい夜の帳が彼らを静かに包み込んでいく。
五人の見下ろす先には、無数の灯りが瞬く広大な王都の景色が広がっていた。彼らがこれからその手で解体し、真の理で創り直すことになる巨大な盤面が、深い青の闇の中へ沈んでいく。
来るべき新しい時代の激動を孕んだまま、ルナリアの眠る霊廟は、ただ深い静寂の中へと溶け込んでいった。
(第4章 完)