リーガル・レジスタンス 〜ファンタジー世界で立憲国家を求める〜 作:ムササビ・モマ
6 いざ、箱庭へ
そして迎えた、王立学園の入学式当日。
王都の中心にそびえ立つ壮麗な学園の正門前には、各所から集められた新入生たちの熱気と、彼らを送り出す貴族たちの馬車がひしめき合っていた。
その喧騒から少し離れた木陰で、学園の制服に身を包んだリュートとライオネルは、見送りに来た妹のリーゼ、そして侍女ルリカと向かい合っていた。
学園は厳格な全寮制であり、従者の同伴は許されない。今日からしばらくの間、王都の盤面は完全に分断されることになる。
「……行くよ。私がこの思想統制の箱庭に籠もっている間、離宮と孤児院のことは完全に頼む」
リュートの静かな言葉に、リーゼは完璧な王女の微笑みを崩さず、優雅にカーテシーをして見せた。
「ええ、ご安心を、お兄様。お兄様が表の盤面で存分に『法』の刃を振るえるよう、王都の裏側(泥)は私とルリカで完璧に管理いたしますわ」
「……殿下の帰る場所は、この命に代えても死守いたします」
ルリカもまた、音もなく深く頭を下げた。
母ルナリアが遺した「家族」を守り抜くという絶対の使命。ルリカの瞳の奥には、王都の闇に蠢く敵対勢力を刈り取る死神としての、冷たく鋭い光が宿っていた。
リュートは二人の確かな覚悟に短く頷くと、ライオネルと共に踵を返し、見送る家族に背を向けて学園の門を潜った。
足を踏み入れた学園の大講堂は、すでに身分ごとに整然と分けられた新入生と在校生たちで埋め尽くされていた。
リュートは己に用意された席へと向かいながら、講堂の正面、一段高く設えられた豪奢な壇上へと視線を向ける。
そこには「光の象徴」として、次期国王たる圧倒的な威光を放つ第一王子グラクトの姿があった。
彼の背後には、第一王子派の知将エドワルドが影のように控え、周囲に隙のない盤石な体制を見せつけている。
そしてグラクトの隣には、西の次期当主にして彼の正式な婚約者、ヴィオラの姿があった。
彼女は、夫の性処理のための愛人選びという、おぞましく吐き気のする役目を自らの手で全うし、一切の瑕疵がない完璧な愛想笑いをその顔面に貼り付けていた。西の自治権と自身の自由を勝ち取るという、血を吐くような悲壮な覚悟を胸に秘めて。
人混みの中から、誰にも気づかれない冷徹な目で彼らを見上げながら、リュートは静かに開戦の笑みを浮かべた。
『喜べ、誇り高き貴族たちよ。お前たちが絶対だと信じている血統と品位の鎖は、今日から私が持ち込む「成文法」によって、変わることを余儀なくされるのだ』
母ルナリアの無念の死から始まった、絶望と私怨。
だがそれは今、北の最前線で流された血の重さを経て、冷徹な法学と政治的ロジックを用いた国家規模の闘争へと完全に昇華されていた。
王家の絶対権力を解体し、真の法治国家を創り上げる。
すべての役者の立ち位置が完璧に定まり、巨大な思想統制の箱庭を舞台にした、血を洗う権力闘争がいよいよ幕を開けようとしていた。