リーガル・レジスタンス 〜ファンタジー世界で立憲国家を求める〜   作:ムササビ・モマ

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第3話『共鳴4』

4 士爵ネットからの報告と、分析

 

 ヴィオラとの密会を終え、リュートが自陣営の実務拠点である特別サロンへと帰還すると、そこにはすでにアイリスとライオネルが待機していた。

 

 円卓の上には、リーゼが手配した特待生や投資生たちの情報網――通称『士爵ネット』のメンバーたちが、学園中の無法地帯からかき集めてきた膨大な調査報告書が山積みになっていた。

 

「お帰りなさいませ、殿下。……実働部隊が収集したデータ、すべて目を通し分類を終えましたわ」

 アイリスが扇で書類の山を示しながら、呆れたような溜息を吐く。

 

「食堂の特等席の不法占拠、図書室における上位貴族の私物化、ひいては下位貴族や平民に対する理不尽な成績操作の圧力まで……。想像以上です。この箱庭のルール不在の全容が、完璧に見えましたわ」

「ああ。昨夜、テトラからの第一報で大枠は把握していたが、これほど具体的な『不満』と『無秩序』の事例が揃えば十分すぎる」

 リュートは報告書の束を手に取り、冷徹な法曹の目でその記述を一つ一つ精査していく。

 

 そこにあるのは、特権階級の思い上がりと、それに虐げられる声なき者たちの屈辱の記録だった。

 

「これより、これらのデータをもとに我々が導入すべき『規範(学則)』の草案を練る。優先順位の第一位は、最も摩擦が可視化されやすい共有施設――食堂と図書室における『空間の平等な利用権』の明文化だ」

「待てよ、リュート」

 ライオネルが腕を組み、鋭い疑問を投げかける。

 

「お前の言う『規則』が必要なのは分かる。だが、知将エドワルドを口説き落とすには、どう理屈をつける気だ? 奴らにしてみれば、今の『上位貴族が威張っている状態』こそが正常な秩序(品位)のはずだろ。規則なんて持ち込めば、自分たちの特権を縛るだけじゃねえか」

 ライオネルの指摘は、貴族社会の常識として極めて正しい。

 

 だが、リュートの唇には、相手の論理の致命的な欠陥を突く、悪魔のような冷笑が浮かんでいた。

 

「そこを突くんだよ、ライオネル。……私はエドワルドにこう問いかける。『明文化された規則(基準)がない現状では、個人の恣意的な“品位”ばかりが衝突し、不要なトラブルが永遠に無くならないのではないか』と」

「……基準がないゆえの、終わらないトラブル、ですか」

 アイリスが目を細め、リュートの意図を先読みする。

 

 リュートは深く頷き、エドワルドを逃げ場のない論理の檻へと追い詰めるための『殺し文句』を口にした。

 

「エドワルドは、グラクト兄上の『次期国王としての圧倒的な威信』を強迫観念のように求めている。ならば、こう指摘してやればいい。新入生総代である兄上の足元で、下位の者への理不尽な恫喝や小競り合いが日常的に起きている状況を放置すればどうなるか。それは『第一王子には、学園の秩序一つ維持する統治能力がない』という致命的な無能の証明になり、兄上の品位に回復不能な傷がつくぞ、とね」

 その冷酷なロジックに、サロンの空気がピンと張り詰める。

 

 第一王子派が最も恐れる「グラクトの評価失墜」。リュートはそれを防ぐための『唯一の解決策』として、自らの毒杯を差し出すのだ。

 

「トラブルの火種を消し去るためには、誰もが納得する『明確な基準(ルール)』が必要だ。グラクト兄上をトップとする『生徒会』を創設し、兄上自身の名の下に学則を敷く。そうすれば、学園の混乱は一息に鎮圧され、兄上は『秩序をもたらした若き名君』として、本宮の大人たちにこれ以上ない絶大な実績をアピールできる」

 相手の恐怖心(権威の失墜)を煽り、相手の最大の欲望(圧倒的な実績)を解決策として提示する。

 

 これこそが、有能な実務家であるエドワルドが絶対に拒絶できない、完璧なダブルバインドの罠であった。

 

「……恐ろしい手ですわね。エドワルド様は、ご自身の主君の威信を守り、高めるためという大義名分の前に、殿下が編み上げた『法』という名の首輪を、自ら喜んで被ることになります」

「ああ。エドワルドもグラクト兄上も、もう後戻りはできない」

 リュートは机上の報告書を綺麗に揃え、これからエドワルドに提示する「学則の草案」と「生徒会設立趣意書」の束を手に取った。

 

 彼の深紅の瞳には、国家の根幹をひっくり返す静かなる狂熱が宿っている。

 

「……さあ、すべての準備は整った。これより第一王子派の陣営に乗り込み、極上の毒杯(生徒会)を進言してこよう」

 法治国家の実現に向けた、最初の致命的な一手が盤上に打たれる。

 

 リュートは書類を片手に、静かにサロンの扉を開け放った。

いただいた条件(テトラの事前報告の把握、優先順位の整理、エドワルドを口説くための具体的なロジック構築)をすべて網羅し、リュートの冷徹な知将としての思考を描写いたしました。

 

 

 

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