リーガル・レジスタンス 〜ファンタジー世界で立憲国家を求める〜   作:ムササビ・モマ

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第10話『観察者から実践者4』

4 忠誠と信頼の結晶

 

 離宮の静寂を破り、リュートがルナリアの寝室へ駆け込んだのは、それから間もなくのことだった。

 扉を開けた瞬間、生温かい病室の空気が肌に触れる。

 

 ベッドの脇では、リーゼロッテが母の手を握りしめ、今にも泣き出しそうな顔で祈っていた。ルリカは氷嚢を変えながら、唇を噛み締めていた。

 

「……待たせた。薬だ」

 リュートの声に、二人が弾かれたように振り返る。

 彼の手には、王家の紋章が入った小瓶が握られていた。ランプの光を受けて輝くその液体は、まさに命の水だった。

 

「お兄様……!」

 リーゼロッテが椅子から飛び降り、リュートに駆け寄る。

 

「本当に……? 本当に手に入れたの? あの怖い宰相様から?」

「ああ。母上を助けるための特効薬だ。……ルリカ、頼む」

 リュートは薬瓶をルリカに手渡した。

 

 ルリカは震える手でそれを受け取った。彼女は知っている。夜更けに単身で王宮へ乗り込み、あの堅物で知られるヴァルメイユ侯爵から、手続きを無視して薬を奪い取ることがどれほど困難か。

 

 それは、単に賢いだけでは不可能だ。相手をねじ伏せる「胆力」と、盤面を支配する「実力」がなければ成し得ない。

 

『リュート様は……ただの聡明な子供では

ない』

 ルリカの中で、リュートへの認識が劇的に書き換わっていく。

 

 これまでは「お仕えするルナリア様の愛息子」だった。だが今は違う。この理不尽な王宮の品位という規範を操作し、不可能を可能にして、主を守り抜いた「実力者」なのだ。

 

『この方になら……ルナリア様とリーゼ様をお守りする主として、私の命を預けられる』

 ルリカは薬瓶を胸に抱き、深く、騎士のような礼を取った。その瞳には、揺るぎない忠誠の炎が宿っていた。

 

「……承知いたしました。必ずや、ルナリア様を治してみせます。リュート様……本当に、ありがとうございます」

 ルリカが手際よく薬を投与する様子を見守りながら、リーゼロッテはリュートの袖をギュッと握りしめた。

 

「お兄様……すごい。魔法使いみたい。どんなに高い壁があっても、お兄様は必ず道を切り開いてくれる……」

 彼女の金色の瞳に映るリュートは、もはや単なる兄ではない。絶対的なヒーローであり、自分の世界を支える柱そのものだった。

 リュートは妹の肩を抱き寄せ、静かに言った。

 

「大丈夫だ、リーゼ。……僕たちは、もう負けない」

 ベッドの上で、ルナリアの荒い呼吸が少しずつ穏やかになっていく。

 その寝顔を見つめながら、リュートは窓の外、王宮の闇を睨み据えた。

 

(……今回は守れた。だが、次はもっと上手くやる)

 観察者の時間は終わった。これからは実践者として、この腐った盤上の駒を動かす側になる。

 少年の瞳に、静かな青い炎が灯った。

 

 

 

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