リーガル・レジスタンス 〜ファンタジー世界で立憲国家を求める〜   作:ムササビ・モマ

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第2話『影の光1』

1 「光の降臨」

 

 鋭く、力強い産声が王宮の産室に響き渡った。

 

「オギャア! オギャアアッ!」

 新生児の泣き声は、まるで天の鐘を打ち鳴らすように澄んでいた。

 生まれたばかりの皇子は、産婆の手の中で小さな体を震わせ、純金の髪を朝陽に輝かせ、金色の瞳を大きく見開いていた。

 

 その瞳には、まだ何も映っていない。ただ、生まれたばかりの純粋な生命が、泣き声となって溢れ出していた。

 王都の空は、この朝、黄金のヴェールに包まれたかのように輝いていた。

 王宮の鐘が鳴り響き始めると同時に、王都全域に歓喜の声が沸き起こった。

 

「王子誕生だ!」

「金髪金眼の神の子が降臨したぞ!」

「ローゼンタリアに永遠の光が訪れた!」

 広場では市民たちが手を挙げ、帽子を投げ上げ、互いに抱き合って喜びを分かち合っていた。

 

 市場の商人たちは品物を無料で配り、酒場では酒樽が次々と開けられ、子供たちは花輪を頭に載せて踊り回った。

 教会の鐘楼からは聖歌隊の歌声が響き、街路樹には黄金色の布と白い花が飾られ、王都全体が祝祭の海と化した。

 

「天の光を宿す徴」が王家に現れた――それは、民にとって神話が現実となった瞬間だった。

 王宮の大広間「天光の間」では、暁の光がステンドグラスを貫き、黄金の柱を照らしていた。

 

 国王ゼノン・アウバ・ローゼンタリアは玉座に座し、傍らに王妃マルガレーテ・エルザ・ローゼンタリアを置いていた。

 彼女の隣に控えるのは第一側妃ヒルデガード・クリエ・ローゼンタリア。

 そして、その腕に抱かれたのは、生まれたばかりの王子――グラクト・アルバ・ローゼンタリア。

 

 宮廷貴族、四公爵家をはじめとする上級貴族、騎士団長、宮廷神官らが一斉に膝を折り、頭を垂れた。

 王都の歓声が遠くから波のように押し寄せてくる中、国王ゼノンはゆっくりと立ち上がり、声高らかに宣言した。

 

「ローゼンタリアの民よ、聞け。

 本日、我が王家に新たな神の子が降臨した。

 その名を、グラクト・アルバ・ローゼンタリアと命名する!」

 広間に響く声は、雷鳴のように重く、しかし慈愛に満ちていた。

 王都の外でも、その声が天から降るかのように届いたかのように、民の歓声が一層高まった。

 

「グラクトとは、古の聖典に記されし『輝く守護者』の意。

 アルバとは、『白き曙光』『純白の光』――天の理を体現する清浄と無垢の象徴。

 この子は、王家の血統至上主義の結晶として生まれ、ローゼンタリアの未来を照らす光となるだろう。

 金髪金眼を有するこの皇子こそ、天に選ばれし正統なる後継者なり!」

 国王の言葉が終わると同時に、神官長が前に進み出て、聖水を振りかけ、祝福の祈りを捧げた。

 

「天の御子グラクト・アルバ・ローゼンタリアよ。

 汝の存在は国家の品位そのものなり。

 清浄を保ち、威厳を保ち、公正と慈悲を以て、民を導け。

 上位者の品位を貶めぬよう、下位の者は汝の影となり、汝の光を支えよ。

 これぞ、ローゼンタリアの永遠なる秩序なり」

 広間は歓喜の拍手と感嘆の溜息に包まれた。

 

 王都の外では、花火が昼間にもかかわらず打ち上げられ、市民たちの「グラクト様万歳!」という叫びが空を震わせた。

 国王ゼノンは王妃マルガレーテと第一側妃ヒルデガードに視線を向け、鷹揚に頷いた。

 

 二人は静かに微笑み、腕の中の幼子を見つめた。

 グラクト・アルバ・ローゼンタリア――

 生まれた瞬間から、王国の「光」として位置づけられた皇子。

 その瞳に映るのは、まだ何も知らぬ純白の曙光だけだった。

 

 だが、宮廷の奥深くでは、すでに「影」たちの囁きが始まっていた。

 王都の歓喜がどれほど大きくても、光が強ければ強いほど、影は濃くなる。

 それが、ローゼンタリアの伝統なのだから。

 

 

 

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