リーガル・レジスタンス 〜ファンタジー世界で立憲国家を求める〜   作:ムササビ・モマ

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第6話『反転攻勢2』

2 バグのような大ヒット

 

 王都ローゼンタリア。

 ヴィオラが西の工房で「産業廃棄物の有効活用」として生み出した『リバーシ』は、出荷からわずか数週間で、あたかも感染性の高い熱病のように王都を飲み込んだ。

 

 それは、ヴィオラの想定(小遣い稼ぎ)を遥かに超えた、階級ごとの「誤読」によるパンデミックだった。

 

【貴族階級:知性と美のステータス】

 王宮の夜会や高級サロンでは、リバーシ盤を持つことが「知性ある者の証明」となっていた。

 

「ご覧ください、この白と黒のコントラスト。……まさに『光と闇』、あるいは『昼と夜』の対比ですわ」

 夫人が扇で口元を隠し、ウットリと盤面を見つめる。

 

 彼らが魅了されたのは、ヴィオラが「メッキ失敗のゴミ」として使った、片面のミスリル素材だった。

 

「西の技術の粋を集めた、純白のミスリルと、重厚な鉄。この重みが、指先で石を返すたびに『カチリ』と知的な音を奏でるのです」

 本来はただの金属片の衝突音だが、貴族たちはそれを「思考の音」と呼び、こぞって買い求めた。盤面を持たぬ者はサロンの話題に入れず、白眼視される。「リバーシ盤なき者は、高貴なる者に非ず」。そんな不文律すら生まれ始めていた。

 

 

【騎士階級:血を流さない戦争】

 王宮騎士団の詰所や、兵舎の休憩室では、別の熱狂が渦巻いていた。

 

「角を取られたァ! くそっ、右翼が崩壊したぞ!」

「甘いな副団長! 貴殿の包囲網(ライン)はすでに我が軍(黒)が寸断した!」

 騎士たちはこれを「遊戯」ではなく、「高度な戦術シミュレーション」として受け入れた。チェスよりも展開が速く、たった一手で戦局(盤面)が総入れ替えになるスリル。それが、死と隣り合わせの彼らの闘争本能を刺激したのだ。

 

 さらに、彼らはこれを「賭け事」にも利用した。

「次の給金、全額『白』に賭ける!」

 運任せのダイス賭博は廃れ、実力が全ての「リバーシ賭博」が横行。軍務卿が禁止令を出す騒ぎになるほどだった。

 

 

【官僚・学者:効率化の脳トレ】

 文官たちの間では、膨大な書類仕事の合間の「脳のストレッチ」として定着した。

 

「この局面……最善手はここか。いや、三手後に詰む」

 単純なルールの中に無限の可能性があるアルゴリズムは、論理的思考を好む彼らの琴線に触れた。「リバーシに強い者は、事務処理能力も高い」という謎の評価基準まで生まれ、昇進試験の裏科目にすらなりつつあった。

 

 

【平民階級:安価な模造品と標語】

 そして、その熱狂は下町にも飛び火した。

 ヴィオラの正規版(金属製)は高価だが、ルール自体は単純だ。木片や石を白黒に塗った「模造品」が市場に溢れ、酒場では酔っ払いたちが盤面を囲んで怒鳴り合っている。

 

 誰が言ったか、王都の広場にはこんな標語が掲げられるまでになった。

『リバーシ持たずは、王国民に非ず』

 子供から老人まで、石を裏返す音を聞かない日はない。

 それはもはや流行ではなく、王国の「文化」として根付き始めていた。

 

   ◇

 

 そして――西のクロムハルト公爵領。

 屋敷の玄関ホールは、王都から届いた「入金通知」の山で埋め尽くされていた。

 

「ひ、ひえぇぇぇ……!」

 執事が悲鳴を上げる。

 

「だ、旦那様! お嬢様! 馬車三台分の金貨が! 追加発注書が山のように!」

「よし! ミッション・コンプリート!」

 ヴィオラは金貨の山を見ても、眉一つ動かさなかった。彼女にとって、この社会現象はどうでもいい。貴族の知性も、騎士の戦術も、所詮は「他人の脳内メモリの浪費」だ。彼女が興味あるのは、この金貨が「何に変えられるか」だけ。

 

「お父様! これで『深紅の魔石(クリムゾン・コア)』が買えますわ! ついでに予備のミスリル配線も確保! あと、欲しかった高精度旋盤も追加で!」

「でかしたヴィオラ! さすが我が娘だ!」

 公爵もまた、娘の手を取り狂喜乱舞した。

 

「これで実験が再開できる! クラヴィアの借金も(利子くらいは)返せるぞ!」

 彼らは知らなかった。

 

 この異常な大ヒットが、王都の商人、貴族、そして王家の「欲望の視線」を、一気に西へと引きつけてしまったことを。

 

 金貨の山は、彼らの研究を加速させると同時に、彼らの平穏な日常を終わらせる「狼煙(のろし)」でもあったのだ。

 

 

 

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