リーガル・レジスタンス 〜ファンタジー世界で立憲国家を求める〜   作:ムササビ・モマ

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第6話『反転攻勢6』

6 結末:実験室の閉鎖

 

 

【西のクロムハルト公爵邸・第一魔導実験室】

 

 それから数日後。

 

 商人の怒号も、貴族夫人の香水も消え失せた西の公爵邸には、彼らが何より愛する「轟音」が戻ってきていた。

 

 

 ヒュオオオオオオオオ……ッ!!

 

 実験室の中心で、真紅の光を放つ魔石『クリムゾン・コア』を心臓部に据えた、新型魔導エンジンが唸りを上げている。

 

 

「素晴らしい! 見ろヴィオラ! 回転数レブが一万二千を超えたぞ! 振動もゼロだ!」

 

「ええ! 圧縮比の計算は完璧でしたわ! リバーシの売り上げで買った『耐熱ミスリル合金』のおかげで、排熱問題もクリアできました!」

 

 魔力液にまみれたヴィオラと公爵は、エンジンの駆動音に負けない大声で笑い合っていた。その顔には、一点の曇りもない。

 

 

 商人を追い払い、借金を返し、さらに欲しかった最高級の機材まで手に入れた。彼らにとって、あの「権利譲渡」は、ゴミを黄金に変えた錬金術にも等しい大成功だったのだ。

 

 

「はっはっは! 天才だ、我々は天才だ!」

 

 クラヴィアも、新品の測定器を抱えて踊っている。

 

「王家も喜んでいるでしょう! 面倒な管理は全部あちらに任せて、僕たちはただ好きな研究に没頭できる! これぞ『Win-Win』の関係というやつです!」

 

「うむ! これで我が家の未来は安泰だ! さあ、次は出力を上げて耐久テストだ! 今日は朝まで回すぞ!」

 

「「「オオオオッ!!」」」

 

 三人はハイタッチを交わし、再び実験へと没頭していく。

 

 幸せだった。彼らは本気で信じていた。この平穏な「研究の日々」が、これからも永遠に続くと。自分たちの「合理的な判断」が、全てを解決したのだと。

 

 ――だが。

 

 実験室の分厚い扉の外。誰もいない廊下を、一人の影が静かに歩いてきていた。

 

 それは借金取りでも、商人でもない。王宮の紋章が入った、最も重く、最も逃れられない「権力」の使者――王宮からの早馬が届けた一通の書状を手にした執事だった。

 

 

 

 コン、コン。

 

「……旦那様。お嬢様。王都より、緊急の『召喚状(勅命)』が届いております」

 

 そのノックの音は、エンジンの轟音にかき消されそうなほど小さかった。

 

 

 

 だがそれは、彼らの愛する「自由な実験」の終わりを告げる、運命の弔鐘だった。

 

 扉の向こうの三人は、まだ知らない。

 

 自分たちが手放したのが、単なる「遊戯の権利」ではなく、自分たちの運命を決定づける「自由そのもの」であったことを。

 

 そして、王都の魔女ヒルデガードが用意した「鳥籠」の扉が、今まさに開かれようとしていることを。

 

 

 ヴィオラの愛する内燃機関の音は、やがて王都の喧騒にかき消され、二度とこの実験室に響くことはなくなるかもしれない。

 

 西の空に、逃れようのない政治の暗雲が、重く、低く垂れ込め始めていた。

 

 

 

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