リーガル・レジスタンス 〜ファンタジー世界で立憲国家を求める〜   作:ムササビ・モマ

7 / 315
第2話『影の光4』

4 愛の在り処

 

 秋の終わり、離宮の庭に初めて雪が降った夜だった。

 外は冷え込み、窓辺に白い息が曇る。

 母は暖炉の火を強くし、私とルリカを毛布に包み込んだ。

 三人は暖炉の前に座り、火の揺らめきを眺めていた。

 ルリカが小さな声で言った。

 

「リュート様……寒くないですか?」

 私は小さく首を振った。

 五歳の体は冷えていたが、心の中の霧の方がずっと冷たかった。

 母は私を膝の上に引き寄せ、毛布を二人で共有するようにした。ルリカも反対側から寄り添い、三人で火を囲む。

 母は静かに口を開いた。

 

「リュート……今日は、物語じゃなくて、私の話を聞いてくれる?」

 私は無言で頷いた。

 

「私はね……帝国からこの国に来たとき、両国の友好のために第二側妃として迎え入れてもらったの。宮廷には機密が多いから、国外から嫁いできた側妃は、こうして離宮で静かに過ごすのが慣習なのよ。だからこそ、陛下はこの離宮の主として私に預けてくださった。それは、私にとって本当にありがたいことだったの」

 母の眼差しが、炎を映して優しく揺れた。

 

「この場所は、私の新しい故郷になったわ。そして、あなたが生まれた日……私の幸せは、もっともっと大きくなった。あなたは、私のすべてになったの。あなたがいてくれるだけで、私は毎日、胸がいっぱいになるわ」

 私は母の胸に顔を埋めたまま、黙って聞いていた。

 母は私の髪を撫で続け、言葉を続けた。

 

「私は、あなたを『影』だなんて思ったことは一度もない。あなたは、私の光よ。第一王子殿下がどれだけ輝いていても、私にとっては、あなたが一番大切。宮廷があなたを後回しにしても、私は絶対に、あなたを後回しにしない。どんなに時間がかかっても、どんなに世界が冷たくても……私は、あなたを信じてる。あなたを、愛してる。あなたが人間を信じられなくても、私はあなたを信じてるから」

 母の声が、少しだけ途切れた。

 彼女は私の顔をそっと上げ、目を見た。

 その瞳は、涙で光っていた。

 

「リュート……あなたは、一人じゃないわ。私がいる。ルリカもいる。あなたがどんなに怖がっていても、どんなに信じられなくても……私たちは、あなたを離さない。絶対に」

 ルリカが、口を開いた。声は小さかったが、はっきりしていた。

 

「リュート様……私も、同じです」

 母はルリカの頭を撫で、私をもう一度強く抱きしめた。

 

「ねえ、リュート。この離宮は、私にとって宝物のような場所よ。あなたとルリカと一緒にいられるこの時間が、私の一番の幸せなの。どんなに宮廷が遠くても、私の心の中では、あなたがいつも一番輝いてるわ」

 私は、母の胸の中で、ゆっくりと息を吐いた。

 涙が、頰を伝う。

 初めての、温かい涙だった。

 

「……お母様」

 母の体が震えた。

 彼女は私を強く抱きしめ、泣きながら頰にキスをした。

 

「リュート……!」

「お母様……」

 私は、もう一度、小さく呟いた。

 

「お母様……ありがとう」

 母は私を離さず、髪を撫で続けた。

「リュート……お母様よ。いつでも、お母様よ」

 ルリカは私の肩に顔を寄せた。

 

「リュート様……私も、ずっとそばにいます」

 部屋に、確かな温もりが満ちた。

 人間不信の塊は、まだ完全に溶けていない。

 でも、この瞬間、私は決定的に心を開いた。

 

 母の愛が、言葉だけでなく、行動と涙で証明された瞬間だった。

 離宮の雪は、静かに降り続けていた。

 三人の絆は、ますます深まっていった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。