リーガル・レジスタンス 〜ファンタジー世界で立憲国家を求める〜 作:ムササビ・モマ
4 愛の在り処
秋の終わり、離宮の庭に初めて雪が降った夜だった。
外は冷え込み、窓辺に白い息が曇る。
母は暖炉の火を強くし、私とルリカを毛布に包み込んだ。
三人は暖炉の前に座り、火の揺らめきを眺めていた。
ルリカが小さな声で言った。
「リュート様……寒くないですか?」
私は小さく首を振った。
五歳の体は冷えていたが、心の中の霧の方がずっと冷たかった。
母は私を膝の上に引き寄せ、毛布を二人で共有するようにした。ルリカも反対側から寄り添い、三人で火を囲む。
母は静かに口を開いた。
「リュート……今日は、物語じゃなくて、私の話を聞いてくれる?」
私は無言で頷いた。
「私はね……帝国からこの国に来たとき、両国の友好のために第二側妃として迎え入れてもらったの。宮廷には機密が多いから、国外から嫁いできた側妃は、こうして離宮で静かに過ごすのが慣習なのよ。だからこそ、陛下はこの離宮の主として私に預けてくださった。それは、私にとって本当にありがたいことだったの」
母の眼差しが、炎を映して優しく揺れた。
「この場所は、私の新しい故郷になったわ。そして、あなたが生まれた日……私の幸せは、もっともっと大きくなった。あなたは、私のすべてになったの。あなたがいてくれるだけで、私は毎日、胸がいっぱいになるわ」
私は母の胸に顔を埋めたまま、黙って聞いていた。
母は私の髪を撫で続け、言葉を続けた。
「私は、あなたを『影』だなんて思ったことは一度もない。あなたは、私の光よ。第一王子殿下がどれだけ輝いていても、私にとっては、あなたが一番大切。宮廷があなたを後回しにしても、私は絶対に、あなたを後回しにしない。どんなに時間がかかっても、どんなに世界が冷たくても……私は、あなたを信じてる。あなたを、愛してる。あなたが人間を信じられなくても、私はあなたを信じてるから」
母の声が、少しだけ途切れた。
彼女は私の顔をそっと上げ、目を見た。
その瞳は、涙で光っていた。
「リュート……あなたは、一人じゃないわ。私がいる。ルリカもいる。あなたがどんなに怖がっていても、どんなに信じられなくても……私たちは、あなたを離さない。絶対に」
ルリカが、口を開いた。声は小さかったが、はっきりしていた。
「リュート様……私も、同じです」
母はルリカの頭を撫で、私をもう一度強く抱きしめた。
「ねえ、リュート。この離宮は、私にとって宝物のような場所よ。あなたとルリカと一緒にいられるこの時間が、私の一番の幸せなの。どんなに宮廷が遠くても、私の心の中では、あなたがいつも一番輝いてるわ」
私は、母の胸の中で、ゆっくりと息を吐いた。
涙が、頰を伝う。
初めての、温かい涙だった。
「……お母様」
母の体が震えた。
彼女は私を強く抱きしめ、泣きながら頰にキスをした。
「リュート……!」
「お母様……」
私は、もう一度、小さく呟いた。
「お母様……ありがとう」
母は私を離さず、髪を撫で続けた。
「リュート……お母様よ。いつでも、お母様よ」
ルリカは私の肩に顔を寄せた。
「リュート様……私も、ずっとそばにいます」
部屋に、確かな温もりが満ちた。
人間不信の塊は、まだ完全に溶けていない。
でも、この瞬間、私は決定的に心を開いた。
母の愛が、言葉だけでなく、行動と涙で証明された瞬間だった。
離宮の雪は、静かに降り続けていた。
三人の絆は、ますます深まっていった。