STAR WARS The ONE   作:竜・M・美日

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遠い昔、はるか彼方の銀河系で……


銀河がまだ幼く、星々の間を結ぶ航路がいまだ多く発見されていない時代。

ジェダイもシスも、共和国も帝国も存在せず、銀河のあらゆる生命を結びつける目に見えないエネルギー、フォースは一部の者のみが知る力だった。

深い森に覆われた辺境の惑星エイゾには、フォースを理力(りりょく)と呼び、それと共振するカイバー・クリスタルの巨石を信仰する一族がひっそりと暮らしていた……



理力の刻印

 エイゾは、太古の自然が今なお息づく森の惑星だ。

 その樹齢千年は越えようかという大木が根元から倒れる──その上を、巨大な鉄の脚がいくつも踏み荒らしていく。

 

 

 エイゾの開かれた場所に作られた円形の広場の中央で、五メートルはあるカイバー・クリスタルの巨石が淡い光を放ち静かに(たたず)んでいる。

 その前に作られた丸い石の台座の上で、一人の青い(ころも)に身を包む青年が瞑想をしていた。

 名はアスタラ。カイバー・クリスタルを理力の(みなもと)として信仰する一族の末裔(まつえい)だ。

 エイゾでも随一の理力を持つ彼の右こぶしには、その(あかし)として聖痕──星に見える──が刻まれていた。その力を示すかのように、巨石を囲む岩々が二メートルほどの高さで規則正しく浮かんでいる。

 彼の日課は一族が守り抜いた巨石の前での瞑想だ。巨石を通じて自然の中に流れる理力を感じ取るのが好きだった──だが、今日は違った。

「アスタラヒコ(王子)よ」

 全身を覆うほどの茶色のローブをまとい、フードを頭に掛けたエイゾ族の長老フィーマがどこか強張った声で話しかけてきた。

「今日の理力の流れ……そなたはどう見る?」

 岩がゆっくりと地面に降りた。理力を解いたアスタラは目を開ける。

「……乱れています」

 静かに答える。その言葉通り、彼には理力がかき乱されているのを感じた。彼らの聖域である森が悲鳴を上げるのをアスタラは聞き届けていた。それはフィーマも同様だった。

 二人の頭上を森に住む鳥たちが一斉に飛び立っていく。

「村の者を集めよ。よからぬことが起きているのだ」

 フィーマの指示で立ち上がると、傍に置いていた(さや)に納まった剣を手に取った。彼らが「セーバー」と呼ぶ一族伝来の宝刀であり、族長が所持するのが常だった。つまりアスタラは若くしてエイゾを(おさ)める族長の立場を期待されていたのだ。

「アスタラ。何があっても悪意を持って理力を使うな。掟を破ってはならぬ。決して」

 忠告を受けたアスタラは一礼し、鞘を左腰の帯に差し込むと広場を足早に出た。

「ククル!」

 その名を呼ぶと草原で草を()んでいた、木の枝ような立派な二本角で四足歩行の動物、アシシ種の中の一頭、ククルが駆けてくる。

 傍まで来たククルの太い角を支えにアスタラが軽々と(くら)がかかった背中に跨る。合図を出し愛馬を走らせる。凄まじい脚力で、さっきまでいた広場はすでに遠くなっていた。

 

 石垣で囲まれた村外れまで着いた時、若い村の女が子供数人を引き連れているところに出くわした。その若い女はアスタラの許嫁(いいなずけ)ラナだった。

「アスタラ様!」

「ラナ、ちょうど良かった。フィーマ様がみな村へ戻れ、と」

「やっぱり……森の生き物たちがまったく見つかりませんでした」

 異変を察知していたラナに続き、子供たちも森の様子がおかしいと口々に言ってくる。

「おかしな気がします……」

「そうか……みな、すぐに村へ戻りなさい」

 アスタラが指示を出すと、森を見渡せる崖の上へ急ぐ。

 崖の上に辿り着いたアスタラたち。妙な気配に(おび)えるククルの頭を()でながら森の様子を確認する──村の防衛に作られた石垣から一番近い木が倒れるのが見えた。

「……嫌な予感がする」

 アスタラがそうつぶやいた──爆発音とともに石垣の一部が吹き飛んだ。

「っ⁉」

 凄まじい衝撃を感じながら、すぐに石垣に視線を戻す。粉々に破壊された石垣から顔を出したのは、クモのような巨大な六本足に掘削用のドリルなどが装備された機械──ウォーカーだった。顔に見えるコックピット部分から伸びる煙突が黒煙を吐くと動物のうなり声のように一帯に響く。

「なんだあれは……⁉︎」

 アスタラは見たこともない巨大な相手に戦慄する。

 すると別の場所からも石垣を崩して次々とウォーカーが現れ、エイゾの地を踏み(けが)していく。

 目の前の一機がこっちに向かってくる。鈍重(どんじゅう)な見た目に反して、かなり早かった。

「ククル、逃げるぞ!」

 呼びかけるが足がすくんで動けそうになかった。それに気づき咄嗟に手を振る。爆破された石垣の破片がククルの足元に刺さった。それでようやく走り出す。

 逃げながらウォーカーを見る──アスタラには目に見えた──コックピット側面の砲台がこちらを向き、赤く光った。直感で危険だと悟った。予想通り、さっきまでいた崖が爆発音と共に崩れ落ちた。

 障害物が無くなったことでウォーカー軍団が、エイゾの村へ一直線に突き進む。

「村が襲われてしまう!」

 危機を予知したアスタラは手綱(たずな)を握り直し、ククルを駆けて村へと急いだ。

 

 崖岩を軽々と越えるククルの健脚(けんきゃく)とアスタラの腕前であれば、ウォーカーに追いつくのは簡単だった。コックピットに向かって叫ぶ。

「止まれ! なぜ我が村を襲う⁉」

 必死に尋ねるがウォーカーは足を止めない──装甲板の側面に付いた対人ブラスターで容赦なく攻撃してくる。その銃撃を腹を潜ることで回避し、アスタラたちは距離を取った。

「ククル、先回りしよう……!」

 村への道を熟知しているアスタラはウォーカーを引き離して村の入口まで辿り着けた。だが、村人は突然のことに全員パニックになっていた。

「みな、逃げろ!」

 あらん限りの声で避難するように叫ぶが、背後五十メートルのところに自分を踏み潰さんとする巨大な機械の足が迫っていた。

 手段は無かった。覚悟を決めた表情でククルから降りると尻を叩き、この場から遠ざける。

「アスタラ様!」

「アスタラ!」

 村人が心配して叫ぶ中、静かに目を閉じ、右腕を伸ばして手を開く──勢いよく走っていたウォーカーが突如として足が止まった。アスタラの目の前、一メートルの所で前二脚が足を上げた体勢のまま、後ろの四脚がその場で足踏みしている。まるで見えない壁によって(はば)まれているようだ。

 これこそ彼が持つ理力の実力だった。手を素早く横に振る。ウォーカーが引きずられるように動き、別の方向から迫っていたウォーカーに激突し、二機が爆発する。

 続けて、別のウォーカーに手を向けると前腕をひねる──コックピットが上下百八十度回転し、ブチリという音を立てて千切(ちぎ)れた。すかさず、その胴体部にジャンプして乗ると腰の(つか)に手を掛けた。

 (さや)から白く輝くセーバーを抜刀する。カイバー・クリスタルのエネルギーを集光させた、あらゆる物を切断する光の剣。

 セーバーを構えると胴体部を軽やかな動きで切り裂く。斬られた部分が赤熱し切り落された。胴体部の前から後ろまで振うと、最後に残った部分を足場にして跳び、地面に着地する。

 抜き身のセーバーを左手の理力を使って鞘に納める。背後で細切れになったウォーカーが崩れ落ちた。

 一息つく──悲鳴が聞こえた。一機取り逃していたウォーカーのブラスターが村人を襲い、すでに数人が餌食(えじき)になっていた。

 冷酷無比な砲口が次の目標を定める──ラナと数人の子供たち。この騒動で逃げ遅れていたのだ。恐怖で顔が歪んだラナが子供たちを庇うように身を(かが)める。

「っ! やめろっ……!」

 無害な子供たちや許嫁が殺されると思ったアスタラの瞳が、赤く(ふち)取られた黄色に変わる。守りたいという想いが、破壊せよという激しい衝動へと変わる──それが彼の運命を決めた。

 手を上げ機体が浮かすと、握り締める。強固な装甲が圧縮されていく。見る間に全長二十メートルはあろうかという巨体が、一メートルにも()たない鉄の(かたまり)になった。

 この一機を最後に村の脅威は去った。

「アスタラ様……!」

 助けられたラナを筆頭に、村人が笑顔で英雄に駆け寄ってくる。

「ぐっ……!」

 だが、アスタラは額に汗をかきながら苦悶(くもん)の表情を浮かべ、左手で右腕を押さえた。右こぶしに刻まれた聖痕から骨が溶けるような激痛を感じ、立っていられず膝を折る。

 この時、彼は自身の理力のバランスが歪むのを感じていた。闇が増幅し、光が薄くなるような感覚だった。

「アスタラ様⁉」

「アスタラが傷を負ったようだ!」

 村人が傷を確認しようと集まってくる──そこに冷たい一言が響いた。

「みな、それ以上、その者に近づくな」

 フィーマが村人たちの間を()ってやって来る。アスタラの右腕を理力で持ち上げ容態を確認した、その顔が強張るのをアスタラは見逃さなかった。

 

 夕方。騒動の後、エイゾの村人全員が巨石の前に集められた。

 落ち着きのない村人に囲まれたアスタラは台座に座ったまま何を言うことも無く、ただ目の前で巨石に手を当てる長老を見ていた。しばらくしてフィーマが口を開いた。

「困ったことになったな。みなもわかっているだろうが、かの鉄の(けだもの)は遥か離れた地からやって来たのだ。その災禍から守るためにアスタラは……」

 そこで言葉を切った。村人たちが複雑な表情で見ている。というのも、アスタラの右腕が布で覆われているが、理力を操る彼らには不気味な気配を感じ取っていた。

「……アスタラヒコ。右腕を見せなさい」

 巻かれていた布を解く。彼の右こぶしに刻まれた聖痕──右腕を覆いつくさんばかりの不気味な赤黒い痣に変貌していた。それを見た村人たちが息を呑む。

「フィーマ様、これは……!」

 フィーマは近くにあった小石を理力で手のひらの上に浮かせる。

「アスタラよ。この石を、右手で、引き寄せてみよ」

 理力による物の引き寄せ。この村では年頃の子供でさえ簡単にやってのけることだ。アスタラが右手を伸ばす。小刻みに揺れながらゆっくりと手に収まる。やっとのことという様子で、本来の実力では無いことはすぐに分かった。

「では……この石を砕いてみよ」

 右手を握る──周囲にあった一切の物が一気に砕けた。

 そのあまりの威力の違いに村人たちが唖然とし、心配から恐怖の眼差しでアスタラを見る。

「悪意で理力を使ったからだ。その痣はゆっくりとそなたを闇に堕とし、それによる理力の歪みが巨石に影響し、いずれ一族を危険に(さら)すだろう」

「長老! どうにかならないのですか⁉︎」

「アスタラは脅威から村と我々を守ったのですぞっ!」

 それでも、と村人からの猛抗議にゆっくりと首を振った。

「掟は掟……破った以上、異端者として村から追放するしかない。アスタラ、そなたから『ヒコ』の地位を剝奪(はくだつ)する」

 フィーマの宣告は冷たく悲しげで、本心で無いことは伝わってきた。村を治める族長を望まれていた青年が、たった数時間で異端者として追放される。それを受け入れられる者は、誰一人としていなかった。

「ただし、(むしば)まれるのを待つか、自ら(おもむ)くかで運命は変えられる。これを見なさい」

 アスタラが破壊した機械の部品──二つのギアが噛み合ったロゴ──を渡す。

「あの獣の腹に刻まれていた。この紋章を持つ者を追えば……呪いを解く方法が見つかるかもしれぬ。伝承が正しければ西の聖域の奥深く、我らの先祖がこの地に降り立った時に使ったという(あま)()ける船があるはずだ。運命を変えたいならば、旅をせよ。そなたの(まなこ)が真実を見つけるか。その体と心が痣に食い殺されるまで」

 フィーマはそれで話を終えた。アスタラは言い返しもせず黙って頷く。横に置いていた小さな布袋に破片を入れ、首に赤いスカーフを巻く。セーバーを手に取ろうとして、躊躇(ちゅうちょ)した。

「構わぬ。餞別(せんべつ)として持っていくがよい」

 許しを得たことで鞘を帯に差すと、気まずそうな村人の視線を受けながら広場を出る。

 そのまま村の入口で待たせていたククルに騎乗しようとした。

「……アスタラ様!」

 許嫁だったラナが村人たちを押しのけて前に出る。

「ラナ……」

「どうかこれをお持ちください……!」

 彼女は涙ながらに紐に通されたカイバー・クリスタルの小さな欠片(かけら)──これを村の女が意中の男に渡すのがエイゾの(なら)わし──微かに青く光るそれをアスタラの首にかける。

「アスタラ様に……巨石の加護と共にあらんことを……!」

「そなたにも。さらばだ、ラナ」

 アスタラは薄く微笑むとククルに(またが)った。目の前には燃えるように真っ赤な夕日があった。意を決したようにククルを走らせてアスタラは村を出た。

 沈む夕日の方へ進むその後ろ姿を、ラナは見えなくなるまで入口で立っていた。

 

 アスタラは言われた通りに西に向かった。野を越え、川を越え、山を越え、谷を越え。一日掛けて着いたそこは村近くの森より、さらに鬱蒼(うっそう)とした森だった。

 そこには小さな白い人型の生き物ダマが住んでいた。森の精霊とも呼ばれる彼らは自然豊かな場所だけに住むという。

「……久しぶりに見た」

 アスタラが目を丸くしていると、一匹のダマが体を震わせ始めた。それが伝播(でんぱ)するようにそこにいる全員が体を震わせ、森が賑やかになった。するとダマたちが一斉にどこかへと歩き始める。もしかすると、とその後を追う。

 しばらくして目の前にひと際巨大な木が現れた。その根に包まれるように一機の宇宙船が残されていた。アスタラがそれを引っ張り出せば、植物の種子に似た、見るからに古い船だった。

 どうすればいいか分からず、手を当てると不思議と、その使い方が理解できた。アスタラに流れる理力が指南(しなん)しているようだった。側面にあったボタンを押してみるとガラス部分が開き、中の明かりが灯って装置が動き出す。人一人入れそうな空洞に船を動かすための(かじ)もある。

「……ククル。すまない。ここでお別れだ。これからは自由に生きてくれ」

 それを確認したアスタラはククルから鞍を外して背中を押す。彼女とは子供のころからの兄妹(きょうだい)のように育ってきたが、これが永遠の別れとなるだろう。

 送り出したククルは名残(なごり)惜しそうに何度か振り向きながらも、森のさらに奥に入って行った。

 コックピットに体を入れる。理力に導かれるままに船を操作すると、ハッチが閉まりエンジンが唸りを上げ、機体がゆっくりと浮上する。側面から()のような翼が伸びた。恐々と操縦桿を引く。

 頼りない帆船のような宇宙船の後部ブースターから炎の尾を伸ばしながら空を飛び、大気圏を越えて宇宙空間へ飛び出す。この時、アスタラはハッチから遠くなっていく故郷の星を覗いた。巨石がはるか彼方で輝くのが見えた気がした。

 一抹の寂しさを覚えつつ、アスタラを乗せたハイパードライブすら搭載されていない旧式の船は亜光速のまま銀河の海へと、静かに漕ぎ出していった。

 

 

 その頃、アウター・リムと未知領域の境界ギリギリにあるエイゾから遠く離れた、ミッド・リムにある星の豪奢(ごうしゃ)なオフィスで、右腕が金色の義手の男がホログラム越しに部下からの現状報告を受けていた──彼が着ているスーツの胸元には、エイゾを襲った二つの歯車が噛み合ったロゴが刺繍(ししゅう)されている。

「コンコーディア、並びにマンダロアでの採掘作業を開始しました」

「結構」

「ノーフェイでの鉱物量産計画は順調です」

「結構」

 男にとっては当然の報告を聞きながら、退屈そうに義手の指でテーブルを叩く。

 別の社員に切り替わる。気まずそうな表情を浮かべていた。

「……社長、エイゾでの採掘作業……失敗いたしました」

 机を叩く指が止まる。

「何? 無人惑星だったはずだ」

「ところが……原住民族と思われる存在により、KMー75が全機……喪失いたしました」

「なんだと? 冗談を言うな」

 信じられないと眉を上げて席を立つ。

「こちらをご覧ください」

 ホログラム上に一人の青年がセーバーと不可思議な力でウォーカーを破壊する記録が再生される。ウォーカーに付いていたカメラからだった。

「……この男はまだここに?」

「それがエイゾから離れる小型船を見たとの報告が……」

 部下の発言と何度も繰り返される映像を見た男は、すぐに右手を机に押し付ける。机から通信機が出てくるとスイッチを押し、社員全員に通達を出した。

「全職員に告ぐ。この男を見逃すな。発見次第、私に必ず連絡を入れろ。例外は無い」

 そう言い放ち、報告を入れてきた部下に目を向ける。

「追跡できるならば……撃墜(げきつい)しろ」

「……はっ」

 緊張で表情が硬くなった社員のホログラムがかき消える。続けて、後ろに控えていた秘書のプロトコル・ドロイドに声を掛けた。

「ヘイトーはどこにいる?」

「副社長はスケジュールが正しければ……取引交渉を終えて、燃料補給でペテにおられるかと」

(くだん)の惑星の宙域だな。奴に不審な小型船が無いか、巡回するように伝えろ」

「はい。社長」

「時代遅れの遺物が……私の邪魔をするか……」 

 男は苦々しくつぶやくと社長席に座る。

 背後の窓ガラスの向こうでは巨大な工場がひっきりなしに稼働していた。





【挿絵表示】

アスタラ CVイメージ 内山昂輝氏
※本作の挿絵は、著者の指示・監修のもとAIを使用して生成した「イメージボード」です。
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