STAR WARS The ONE   作:竜・M・美日

12 / 13
私はアスタラ。理力を操る銀河の旅人だ。
故郷であるエイゾを追放され、これまでいくつもの星を渡ってきた。
元凶であるタドラと、ナーシャの故郷のフーで対峙した。あと一歩のところまで追い詰めたが、相手が一枚上手だったようだ。
今は奴の部下ヘイトーとの戦いで破損した〈シナトベ〉を直すべく、ある星に向かっていた。
その一方で、私は理力によって感じていた。タドラとの決着の時は近い、と。


第十二話 因縁の果て

 ミッド・リムに浮かぶ衛星の一つにタドラの旗艦〈トルクメギア〉が収まった。

「社長。ドッキング完了しました」

 秘書ドロイドの報告に社長椅子に座るタドラは静かに指示を出す。

「指定した座標へ向かえ」

〈トルクメギア〉の主機関が唸りを上げ、工場群を抱えた衛星が本来の軌道を離れ静かに動き始める。

「……古き因習を終わらせる」

 目つきを鋭くしてタドラがつぶやいた。

 

 

 家である洞窟でスープを煮込んでいたジーボの元に、ミンズクたちが駆け寄ってきた。

「どうした、ん? ……船が来た?」

 ジーボが外に出ると鏡のように磨かれた魚にも鳥にも見える船が頭上を越え、明らかに不揃いな着陸脚だけで地面に接着するように着陸した。

「まさか……」

 船のハッチが開き、中から、あの時、渡したマントを羽織った青年が出てきた。

「アスタラ!」

 ジーボが四本の手で手を振ると、アスタラは笑って頭を下げる。

「お久しぶりです。ジーボ様」

「随分と、立派な船になったな!」

「修理をお願いしたく、戻ってきました」

 続けてナーシャも顔を見せ、辺りを見渡す。放置された船のパーツが山のように積み上がっていた。

「まあ、パーギルの中よりは断然劣るけど、あるだけマシか……」

 船から降りたアスタラたち。ナーシャは動きやすいよう、高級仕立てのドレスを引き裂き、残った布を適当に巻き付けていた。ダイスと共にジーボへ自己紹介を済ませる。

 ジーボはこれまでの旅路を手短に聞き、満面の笑みを浮かべた。

「ヘイトーを倒すのに着陸脚を飛ばすとはな! 奴も面食らっただろう!」

「えぇ。だから修理しに来たの。アスタラから腕利きのメカニックがいるって聞いたから」

 ゴミの惑星に連れてこられて半信半疑のナーシャにジーボは大きく頷いた。

「おお。ここにはたくさんいるぞ」

 すると百匹近いミンズクが現れて船に群がっていく。

『おわぁっ⁉』

 数匹が外板を叩き、数匹は燃料パイプを覗き込み、残りは着陸脚が無いことに首を傾げる。

「ちょ、ちょっと! 本当に大丈夫なの⁉」

「腕は確かだ。アンゼラ人の整備士にも負けん。少々毛深くて二回りほど大きいがな」

 ミンズクたちが集まって何やら騒ぎ始めた。

「……ダイス。何言ってるか分かる?」

『あー、ウーキー語からアプローチすれば、なんとなく……』

「……連中と大きさは天と地の差よ」

「そう心配するな。様子を見なさい」

 ミンズクが一斉に散った。次の瞬間には、ゴミ山のあちこちから必要なパーツを引っ張り出してきた。

 それからトゥドゥローでの修理の日々が始まった。二、三日するとナーシャも慣れ、指示を出し一緒に作業する側になっていた。

「そっちの翼の角度、五度上げて! ……OK!」

 その間、ダイスは部品を抱えた数匹のミンズクに追いかけ回される。

『うわああぁ⁉ 助けてくれぇ!』

「どうしたの!」

『こいつら隙あらば、オイラを改造しようとしてくるんだ!』

 それを聞いたナーシャが大口を開いて笑う。

「いいじゃない! せっかくだから綺麗にしてもらえば?」

『冗談じゃないぞ! ハイパードライブ用のナビシステムを組み込んであるんだ! これ以上、改造されてたまるか! 追ってくるなって!』

 逃げ回るダイスを微笑みながら見ていたアスタラ。その隣にジーボが立った。

「それでどうだ。右手の方は?」

 アスタラは右手を擦りながら首を振る。

「まだ、手掛かりすら見つかりません。ですが、痣が薄くなったことがあります」

「ほう」

「マーレという星で治療を受けた時です」

「ふむ。癒し、安らぎ、もしくはその他の何かが手掛かりかもしれないな」

「はい」

「今はどんな気分だ?」

 その問いにアスタラが顔を伏せる。

「前にここに来た時より晴れやかですが……明確な悪意を感じています」

「……タドラか」

「彼とは……決着をつけねばなりません」

「そう思うのなら。そうなのだろう」

 ジーボの言葉にアスタラは答えなかった。ただ静かな目で〈シナトベ〉の修理風景を見つめていた。

 そんな日々が続いた、ある晩のこと。四人で焚き火を囲みながら食事をしていると、アスタラが気配を感じ星空を見上げた。

「どうかした?」

「……月が動いている」

「冗談キツイわよ。そんなこと──」

 他の三人も空を見て表情が固まる。目で分かるほどの大きな球体が確かに動いていた。

「嘘でしょ……」

「……あれは、月じゃないぞ。宇宙ステーションだ」

「まさか……ヴァタラー⁉」

 ジーボの言葉に焦ったようにナーシャが立ち上がる。

「タドラの本社よ!」

 

 

 同じ頃、アスタラの故郷である緑豊かなエイゾの空が突如として暗転した。一人の子供が指を差して叫ぶ。

「月が落ちてくるっ!」

 雲を割り、巨大な鋼鉄の塊──タドラ・インダストリアルの本社であり、本拠地である機械衛星ヴァタラーが衛星軌道上に姿を現した。それはエイゾの表面を覆い尽くすほどの圧迫感を放ち、そしてハッチから無数のドロイド機が溢れ出した。

「見ろ。あの連中の顔を」

 タドラは高性能カメラに映るエイゾの民を眺めた。中には理力で対抗する者もいたが、アスタラが手こずった液体金属ドロイドに瞬く間に拘束されていく。

「どれほどの力を持っていようと、所詮はこの星だけだ。外を知らず、そこで世界が止まっている。だから未知の脅威が現れた時……怯え、狼狽(うろた)える。私は同じ(てつ)を踏まない」

 右腕を机に押し付け、エイゾに降り立ったドロイドに通信を繋ぐ。そこからタドラの声が響き渡る。

「エイゾの民よ。私はタドラ・シャナック。この星を資源として採掘しに来た」

 フィーマをはじめとするエイゾの民が、静かにその言葉に耳を傾けた。

「私は寛大だ。無知なお前たちに選択肢をやろう。私に永遠に従属すれば命を救い、この自然だけの星から、さらなる世界を見せることを約束しよう」

「外の世界……」

「そんなものが……」

 その提案にエイゾの民の何人かが賛同しかけていた。

「フィーマ様!」

 アスタラの許嫁だったラナがフィーマにどうするべきかと尋ねるが、目を伏せたまま答えない。

「拒むなら、このヴァタラーの採掘機械でお前たちは機械の燃料になるだろう──だが、わずかな可能性に賭けるのならば、もう一つ選択肢を与える」

「どういうこと……?」

「お前たちが追放した男を呼べ。理力とやらで呼びかけ、助けを乞え。私のもとに来るように伝えろ」

「っ! アスタラ様……!」

 ラナが口に手を当てて、何が起きたのかを理解した。

「期限は今から、二十四時間後だ」

 そこで通信が切れる。だが、エイゾの民の混乱は解けることはない。やはり災いを呼び寄せたとアスタラを(さげす)む者、追い出したことを後悔する者、ただ嘆く者、様々いた──ラナだけは涙を浮かべつつカイバー・クリスタルの巨石に指を組み、アスタラの無事を祈った。

 モニターを消したタドラは、静かに口元を歪めた。

「これで奴は必ず来る」

 

 

 アスタラは胸のざわつきを感じながらペンダントを握り締めた。

「どうしたの」

「……エイゾが危ない」

「なんですって⁉」

 ジーボがあごに手を当てて頷く。

「おそらくタドラの奴もケリを付けたいんだろう」

「罠よ!」

「そうだろうな」

 ジーボとナーシャがアスタラを見た。ペンダントを握る力が強くなっている。

「……アスタラ」

 ナーシャがアスタラの前に立つとその手を包むように握った。目を閉じ、そして開く。

「……行くわよ、アスタラ。これが最後の戦い」

「ああ。これ以上、好きにはさせない」

『〈シナトベ〉の修理なら最低限完了だ! いつでも飛べるぞ!』

 ダイスが両手のアームをブンブンと振る。

「準備はいい?」

「ああ。今度こそ奴を倒す」

 迷いはない。三人はランプウェイを駆け登り、〈シナトベ〉に乗り込む──直前に二人はジーボに頭を下げた。

 すぐさまエンジンが点火する。修理した着陸脚を格納し、〈シナトベ〉は空へと飛び立つ。

「気持ちのいい連中だ。奴らなら、あの馬鹿者を止められるかもしれん」

 手を振りながら見送ったジーボはどこか嬉しそうにつぶやいた。

 銀色に輝く〈シナトベ〉がトゥドゥローから飛び立ち、加速する。

『ハイパージャンプまで、三、二、一!』

 エイゾに向かうハイパースペースに跳び込んだ。

 

 二十時間以上のハイパースペース航行を終えた〈シナトベ〉が、三度の閃光と共に現実空間へ飛び出した。

 エイゾの衛星軌道上には、直径十二キロにも及ぶ黒い円盤が浮かんでいた。今にもエイゾに落ちそうな巨大な隕石に見えた。

「見えたわ。ヴァタラーよ」

 かつてフーの衛星だったヴァタラーは、タドラによって完全に機械化され、内部は無数の工場で構成されている。

 そこでタドラからの通信が入った。

「よく来たな。古代の力と自然に縛られた者たちよ。エイゾへの最終採掘を間近に控え、アスタラ、貴様との決着をつける。ヴァタラーに入ってこい」

 ナーシャがアスタラに視線を送ると静かに頷く。

 エイゾの空に鎮座するヴァタラーへ、〈シナトベ〉がたった一機入っていった。

 モニター越しに着陸を確認したタドラに秘書ドロイドが尋ねた。

「社長、私はいかがいたしましょうか?」

「……最高級のカフ・ビーンズでカフを入れておけ」

 そう言って着替えをするために立ち上がる。

 一方で〈シナトベ〉から降りた三人。中は工場が組み込まれているにも関わず、しんと静まり返っていた。

「不気味。誰もいないわ」

『生体反応は……社長室に一つだ』

 端末から内部を確認したダイスの話に二人は頷く。

「ダイス。あんたはここで待機。私たちがやる」

『急げよ。あと一時間しかないぞ!』

 袖を帯にして、差し込んでいたブラスターを抜いた。二人はエレベーターに乗り込み社長室に向かう。

 

 エレベーターが開く。広い社長室には椅子が一脚だけ置かれていた。その背に座る男は振り向かない。金色の義手がひじ置きでリズムを取る。

「来たな」

 立ち上がったタドラを見て二人は息を呑む。全身を金の装甲で覆い、右手には鈍色の長剣を持っていた。タドラの声が機械を通して歪んだ。

「見ろ、この完璧な鎧を。感情も痛みも恐れもない。これが進化の形だ」

 躊躇いなく放ったナーシャのブラスターが胸を直撃する──しかし、火花を散らすだけだ。

「嘘……⁉」

 さらに銃撃しようとしたが、タドラが左手を向けると仕込んでいた電磁パルスによってブラスターが吹き飛ばされ、バラバラになった。

「私のブラスター……!」

「前座は下がっていろ」

「なんですって──!」

 食って掛かろうとしたナーシャの肩にアスタラが手を置く。マントを外しそのまま預ける。

「アスタラ……」

 意図を察したナーシャが下がると、アスタラは鞘からセーバーを抜刀し構えた。

「見ろ」

 タドラが一枚の金属板を見せる。

「これがお前の一撃を防いだ」

 板を義手にぶつけると反響の長い独特な音が鳴り響いた。

「この鎧と剣はすべてこの金属で作った。そのライトサーベルが……私に届くと思うな!」

 アスタラとタドラの決闘が始まった。漆黒の剣とセーバーが激突し、接触面が赤熱する。

 強化された機械の腕力に、アスタラは理力で対抗しようとするが、痣が広がることを恐れて十分に発揮できず、次第に追い詰められていく。

「お前たち古代の力に縛られた者には分かるか……⁉」

 アスタラを押し潰さんばかりに力を込めるタドラの声に激情が滲む。

「あの日、まだ皇太子だった私は、調査のためフーの古代遺跡へ入った。そこで屈強な私の部下が蒸発するのを見た。私だけが金属の鎧を着ていたため右腕は失ったが、命は助かった……。肉は(もろ)く、命は儚い。機械だけが確実だ!」

 そう吠えるように叫び、アスタラの体をその刃先で切り付けていく。タドラが漆黒の剣を振り下ろすと、防いだアスタラのセーバーの光刃が軋み、火花を散らす。

 ここでアスタラは気付いた。このままでは自分より先にセーバーが壊れることを。

 そして、ついにその時が訪れた。タドラの叩きつけるような連続攻撃がセーバーの柄に直撃した。カチンと乾いた音で柄が二つに割れる。白い光は消え、砕けたクリスタルが床に転がった。

「見ろ! これが機械の優位性だ! 死ね、古代人!」

 トドメを刺そうとするタドラの攻撃を紙一重で避けるアスタラ。

 

「アスタラ……!」

 それを見ていたナーシャが援護しようとするが、何も武器が無い──砕け散ったセーバーの内部に目が入った。

「あれって……」

 砕けたセーバーの内部は、ナーシャが想像していた機械構造とは違っていた。クリスタルの周囲に、白い根のようなものが絡みつき、まるで神経か配線のように柄の内部へ伸びている。

「生きてる……?」

 ナーシャの目が見開かれた。理由は分からない。だが、どう繋げればいいのかだけは理解できた。

「信号を流してるなら、代用品は作れる……!」

 近くに転がる自身の壊れたブラスターを分解し、使える部品を拾い上げる。〈シナトベ〉を作り上げたその指先で、ナーシャはセーバー内部を模した即席の回路を組み上げていった。

 

 タドラの攻撃を避け続けるアスタラ──その時、ナーシャが投げた砕けた柄がタドラのヘルメットに当たった。

「アスタラ!」

 ナーシャが叫ぶ。両手にはバラバラのパーツ。

「これを! あんたなら……意味わかるでしょッ!」

 ナーシャが投げたのは、即席で組み上げた回路。アスタラは砕けた柄を見た。迷わず首からラナのペンダントを引き千切る。理力に導かれるように、カイバー・クリスタルが柄の空洞へと滑り込んだ。

 有機回路・ブラスターの部品・カイバー・クリスタル。三つが空中で結びつき、新たなセーバーとして形を成していく。

 しかし、回路が完全に結合するまでには、数秒足りない。タドラがその隙を逃さなかった。

「……消え失せろ、旧時代の遺物ども!」

 漆黒の剣が振り下ろされる。回路の結合はまだ終わらない。

「っ! アスタラ—ッ‼」

 ナーシャは考えるよりも早く、アスタラを庇うようにその前へと滑り込む。タドラの剣がナーシャのドレスをかすめ、頭上に迫った。

 

 漆黒の刃は、ナーシャの額のわずか数センチ手前で止まっていた。

「な、何……⁉」

 タドラが目を見開いた先。ナーシャの背後から、アスタラの右腕が力強く伸びている。

「……私は用心棒だ」

 その手にある再構築された柄の先端から、わずか十センチの青色の光刃が伸び、タドラの剣を真正面から受け止めていた。

「……彼女には、指一本触れさせない!」

 右手の痣から星々を閉じ込めたような光を放つ。そして、十センチの光刃に自身の理力と、ナーシャの想いを注ぎ込む。

 柄の中でカイバー・クリスタルが覚醒を遂げる。有機回路が完璧に結合し、青い光刃が瞬時に九十センチまで伸長した。タドラの剣を押し返す。

「あり得ん……! 機械を超える力など……!」

 青いライトセーバーはより細く、鋭く、そして強く輝いていた。アスタラは感じた。このライトセーバーがナーシャの理力も反映していることを。ナーシャも気づいていなかっただけで、理力の才能を持っていた。

「ありがとう、ナーシャ」

 新たなライトセーバーを構え、深く息を吸い込む。纏う空気が神聖なものに変わる。

 再び鍔迫り合いとなる。今度、後退したのはタドラの方だった。

 

【挿絵表示】

 

 アスタラは地面を滑るように移動する。タドラが漆黒の剣を振り下ろす瞬間、その刃の風圧さえも利用し、独楽のように回転して攻撃をかわす。

 タドラは義手の出力を最大にし、社長室の床を砕きながら猛攻を仕掛ける。しかし、アスタラの動きは風に舞うように予測不能だった。しなやかで無駄のない動き。理力で相手の殺気を読み、その剣筋の先へと常に移動する。

 アスタラが壁を蹴る。タドラが上を向いた時には、すでに床へ着地し、その背後へ回り込んでいた。そして漆黒の剣の側面へライトセーバーを叩きつける。剣そのものを斬るのではなく、相手の体勢を崩すための一撃だ。タドラが大きくのけ反る。

「こっのぉ──っ⁉」

 反撃しようとした瞬間、右腕が後方へ引かれた。

「何っ!?」

 見ればナーシャが歯を食いしばりながら両手を突き出している。

「ナーシャ……!」

「っ、アスタラ……肩の関節!」

 ライトセーバーが青い()を描いた。鎧と義手を繋ぐ肩関節の継ぎ目へ、刃が寸分の狂いもなく吸い込まれる。

 次の瞬間、オレンジ色の火花が弾け、黒い機械油が霧のように舞う。タドラの象徴だった機械の義手が肩から切り離され、重々しい音を立てて床へ転がる。

「ぐっ……!」

 タドラは大きく体勢を崩し、その場に膝をついた。切断面からは電流が走り、火花が散っている。それはまるで、彼の野望の終焉を告げる断末魔のようだった。

「勝った……。勝った!」

 ナーシャが歓声を上げる──その瞬間。けたたましい警報音が社長室に響いた。

「ドリル発射。目標到着まで一分」

 背後のモニターが無機質な声を響かせた。

 

 窓の外からドリル付きロケットが射出され、エイゾに向かっていくのが見えた。

「嘘っ⁉」

 ナーシャがコンソールを触るが拒否される。

「入力を受け付けられません。ロックを解除してください」

 混乱する二人にタドラはヘルメットを投げ捨て、小さく(わら)う。

「こうなれば、エイゾごと道連れだ……!」

「三十秒前」

 ドリルが一直線にエイゾの巨石に向かっていく。

 アスタラはライトセーバーをタドラに突きつける。

「どうすれば止まる」

「答えると思うか?」

「答えろっ!」

「殺せ。機械は不滅だ……」

 その言葉に違和感を持ったアスタラ。ハッとして床に転がったタドラの義手に目を向ける。

「十秒前」

「まさか……」

 迷っている暇はなかった。

「ナーシャ!」

 義手を投げ渡す。タドラの顔色が変わった。

「っ! やめろ!」

 義手を受け取ったナーシャはコンソールに叩きつける。

「五秒前──ロック解除。四、三、二──」

「全採掘作業停止ぃっ‼」

 ナーシャの声が銀河中に響いた──ドリルが巨石に当たる直前で止まった。

「全社員へ告ぐ! タドラ・インダストリアルは本日をもって解体する!」

 その命令を受信して、エイゾからドロイドや採掘機械が撤退してくる。

「止まったわ!」

 モニターにもエイゾの民が歓声を上げるのが映る。タドラが敗北を悟り、力なく(うつむ)く。

「……自分たちが何をしたのか分かってるのか……数千万人が路頭に迷うんだぞ」

 アスタラはライトセーバーを消す。

「それ以上の人々を守れるなら、それも一つの道だ」

 社長室のドアが開く。タドラの前に彼の命令を忠実に実行してきたドロイドたちが、無機質な足音を立てて歩み寄る。

「タドラ・シャナックを企業反逆者と認定」

 ドロイドたちは項垂れるタドラの両肩を掴み、そのまま連行しようとした。

「対象を確保。連行します」

「少し待ってくれ」

 アスタラが連行直前のタドラの前に立つ。

「お前が恐れた古代の力は、破壊だけがすべてではない。機械も理力も、使い方次第だ」

 その言葉にタドラの視線が少し泳ぐ。

「頭を冷やせタドラ。そうすれば、新しい世界が見えるはずだ」

 そして、タドラは二人に見送られる形で、ドロイドによって暗い通路の向こうへと消えた。

 ブラスト・ドアが開く。お盆を持った秘書ドロイドが入ってきた。

「社長。カフをお持ち、しました……」

 状況に困惑する秘書ドロイド。ナーシャは笑顔でカフを受け取り、代わりにタドラの義手を秘書ドロイドへ押し付けた。

「これからはあんたが指示を出して。くれぐれも人に迷惑かけない形でね」

 そう言って、カップから漂う匂いを楽しむ。

「いい匂い。飲む?」

 ナーシャが差し出すが、アスタラは首を振る。

「砂糖とクリームが欲しい」

「相変わらずね」

 二人は軽口を叩きながらその場を後にした。

 

 歓声を上げるエイゾの民。その中でラナは巨石を通してアスタラの存在を感じていた。胸元を見る。そこにあったペンダントはもう無い。だが不思議と寂しくはなかった。

「アスタラ様、巨石の加護と共にあらんことを……」

「……そなたにも」

 眼下にエイゾが見えるハッチの縁でアスタラが応えた。

「やっと見つけたわ! 私の服!」

 振り返ると、いつもの青いジャケットとズボン姿のナーシャが戻ってきた。

「どこにあった?」

「タンスの中に綺麗に畳まれてたわ」

 ナーシャが隣に来ると、一緒にエイゾを見下ろす。

「どうする? 一旦、故郷に戻る?」

「いや。私は追放された身だ。それに……」

 アスタラはすっかり薄くなった右腕の痣を見つめた。

「この呪いは、きっと完全に解ける日が来る」

 アスタラが初めて、心から笑った。

「これからも一緒に旅を続けよう」

「……そうこなくっちゃ!」

〈シナトベ〉のコックピットで、二人はいつものように並んで座る。

「次はどこへ行く?」

 ナーシャが操縦桿に手をかけた。

「銀河は広い。答えを探す場所は無数にある」

「なら、まずは一番遠い星系に行くわよ! ダイス! ハイパージャンプ用意!」

『了解!』

〈シナトベ〉は滑るようにヴァタラーを離れ、ハイパースペースへと跳ぶ。二人の瞳に青い航跡が暗黒の虚空に希望の道を描いた。

 アスタラの新しいライトセーバーは彼の腰に落ち着き場所を見つけ、ナーシャのペンダントが星明かりにきらめく。

 はるか彼方の銀河系での三人の旅は、まだ始まったばかりだった。

 

エピソードⅠ 理力の旅人 完

 

 

 

Story by

LONG M. MEIRI

 

Inspired by the works of

GEORGE LUCAS and STUDIO GHIBLI





【挿絵表示】

タドラ・シャナック ベスカーアーマー
※本作の挿絵は、著者の指示・監修のもとAIを使用して生成した「イメージボード」です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。