旅の仲間ナーシャ、ダイスと共に、一族が守り続けた巨大なカイバー・クリスタルの巨石の行方を追い、銀河調和防衛軍の戦艦〈ピースメーカー〉へ潜入した。
偽名を名乗り志願兵となった私たちは艦内で巨石を発見する。しかし、巨石を破壊すべきか、一族の象徴として守るべきか、決断できずにいた。
やがて〈ピースメーカー〉は巨石を利用した主砲の発射実験を実施する。その圧倒的な威力を目の当たりにしたナーシャは戦艦の破壊を決意するが、私はまだ葛藤の中にいた……。
アスタラとナーシャの隊長としての〈ピースメーカー〉での生活が始まった。
「それでは、部隊長からの挨拶に移る」
ソーラに促されて、初日から早速、新兵の前に立つ二人。
「212突撃隊隊長を任されたアナ・バレイよ! すぐに死にたくなかったら、私の言うことをちゃんと聞くことね!」
元王族ということもあり堂々とした声に、新兵たちの背筋が自然と伸びる。また若い女性隊長という意外さもあってか、隊列の空気はどこか明るくなった。
続けてアスタラが前に出る。女性隊員から息を呑む声が聞こえる。
「……ジダイだ。501整備隊……隊長に任命された。よろしく頼む」
それだけ言って、頭を下げる。無駄を削ぎ落したどころか、簡潔過ぎる挨拶。どこまでも真面目だった。
「挨拶は終わりだ。戦場では名前より腕を覚えられる。早速、訓練開始だ!」
ソーラの声が響いた。
〈ピースメーカー〉の射撃訓練場で、ナーシャは数百人のブラスター・ライフルを持った新兵の前に立つ。
「私の仕事はあんたたちを少しは役に立つ兵にすることよ」
そう言うと、目の前にいたナーシャより一回り大きい男が馬鹿にしたように鼻で笑った。ナーシャはその男を見据えると、その手からブラスターを奪い取る──振り返り、訓練施設を起動させた。いくつもの
ナーシャは障害物を飛び越え、身を滑らせながら次々と引き金を引いた。
一分が経った頃、施設が停止する。結果、外したのは一発だけだった。
「……まあまあね」
唖然とする新兵たち。鼻で笑っていた男にブラスターを投げ渡す。
「まだ、誰か言いたいことはある?」
実力を見せつけられ、誰からも異論が出ることは無かった。
「私は五十メートル離れた位置から、スコープ無しで虫を撃ち抜いたことがある。ここからなら、あんたたちを全員、男として生きられなくさせられるわ。意味わかる?」
新兵たちが一斉に背筋を伸ばす。
「じゃあ質問。戦闘の上で重要なことは?」
小さく声が上がる。
「……射撃の腕?」
「違う」
「……仲間を呼ぶ?」
「違う」
ナーシャは全員を見回すように視線を流す。
「生き残ることよ。百人突っ込んで、九十九人死ぬ。それで優秀な部隊と言える? 生きて帰るために撃つのよ。
「……怖ぇ隊長だ……」
「……本物だな……」
「……あの人、本気だ……」
新兵の中の誰かが小さくつぶやく。
「泣き言は聞かないわよ。実戦なら自分の命が掛かってるの。いいわね?」
「イエッサー!」
「よろしい! さあ、
次の瞬間、訓練場に一斉に銃声が響き渡った。
整備室でアスタラは新米整備士たちの前に立つ。
「私はアス……ア=ステラ・ジダイだ。よろしく頼む」
目の前を取り囲んでいる女性整備士から黄色い声が上がる。整備隊を選んだ理由の大半がアスタラ目当てだった。
「男前!」
「ねっ!」
アスタラは気まずそうな顔をしながら、咳ばらいする。
「……まず整備において大切な話をしたいと思う。それは機械と友人になることだ。私たちがちゃんと支えれば、向こうも応えてくれる」
「随分、哲学的だな……」
「しっ!」
他の新米の囁きを女性陣が遮る。アスタラはそこから基礎的な話を続けた。
「──以上だ。他に質問は?」
「はい!」
一人が手を挙げた。
「どうぞ」
「隊長の好きなタイプは誰ですか!」
「えっ……?」
そこから次々と女性隊員から手が上がる。
「隊長の好きな食べ物を教えてください!」
「いや……その……」
「隊長! あの突撃隊の隊長とはどういう関係ですか!」
数々の関係ない質問にアスタラはため息を吐き、右手を軽くかざす。ざわついていた空気が一瞬にして静まった。
「……なんだ今の?」
男性隊員たちが顔を見合わせる。
「あの……」
「どうした?」
「……私、よく分からなくて不安です」
不安げな顔をする隊員にアスタラは笑いかける。
「心配しなくていい。私も何も知らなかった。でも、一年で船を直せるまでになった。どんな熟練者も最初は知識が無い。だから、簡単な回路から組み立ててもらう。知識がある者は、私と一緒に艦の整備だ」
初心者は基礎班へ、経験者はアスタラの後ろについて艦内へ散っていった。
そんな生活が一週間が経ち、ソーラに二人が呼び出された。
「貴様らから見て、新兵どもの様子はどうだ?」
「そうね。ウチのは給料につられた
「なるほど。ジダイ、貴様はどうだ?」
「……集中力が無い者が多い印象です。整備では危険な区画に入ることもあるので、気がそぞろなのは見過ごせないかと……」
「再教育か、適性が無ければ配置換え。ひどければ除隊も考える。下がれ」
二人は報告を終えると部屋から出る。
「……まったく私たちは何をしてるんだ……」
廊下を並んで歩きながらアスタラが呆れたように言う。
「それはこっちのセリフよ。あんたがモタモタしなかったら、とっくに終わってたのよ」
そのまま食堂に入る──アスタラが女性陣に囲まれた。
「ジダイ隊長!」
「お昼一緒に!」
「私も!」
ナーシャが頭を抑える。
「また……」
ここ最近ずっとアスタラは女性陣から、あらゆる眼差しを向けられていた。食堂に来るとよりひどくなった。
断ろうとするが言葉が出ないアスタラを見かねたナーシャが手を叩く。
「はいはい! 今日は、隊長同士で話し合いがあるから、とっとと席に戻りなさい!」
アスタラの手を強引に引いて、その場を離れる。
「やっぱり付き合って──」
「違う! さっさと食べなさい!」
二人はプレートを取ると食堂の隅のテーブルに向かい合って腰を下ろした。隊長用のプレートには、下級兵より一品多い温かな料理が並ぶ。
「……私、
料理を食べながらナーシャがつぶやく。
「あの人数なら時間稼ぎくらいにはなるわ」
アスタラは黙ってナーシャを目を向ける。
「何よ、その目」
「いや……」
「人でなしとでも思ってるの?」
「そんなことは言ってない」
「タドラを倒した時のこと忘れたの?」
「……あの時とは状況が違う」
その言葉にナーシャはため息を吐く。
「英雄が随分と
嫌味で刺されながら、アスタラは黙って食事を口に運ぶ。
「次のコアルームのシフトは?」
「……明後日だ」
「なら、それまでに考えをまとめておきなさい」
その言葉にアスタラは答えなかった。温かな料理を口へ運んでも、何を食べているのか分からない。
脳裏には、コアルームで静かに輝いていた巨石だけが焼き付いていた。
答えが出ないまま、翌日を迎えた。
「──そう、そこを」
新米たちに回路の組み方を教えていた──いきなり整備室に兵士が入ってきた。
「なんだ?」
兵士たちは、よく分かっていないアスタラの手首に手錠を掛けると、そのまま連行される。
通路を歩かされる途中で、ナーシャと合流した。同じように手錠を掛けられていた。
「どういうことだ」
「……バレたかも」
そして〈シナトベ〉が置かれているドックに連れてこられてきた二人。
自分で電源を切ったダイスを含め、荷物がすべて外に出されていた。
「全部、引っ張り出してあるわ……」
「私たちの身元確認か」
ドックの中央で、二人は
「最悪の展開ね」
「もっと悪い時もあった」
「今はどうでも良いわよ。これ、さっさと壊して……」
アスタラが理力で手錠を壊そうとした。
「わざわざお呼び出しして申し訳ありませんね」
頭上から一人の男の声が聞こえた。二人が見上げると、高架通路にいた眼鏡を掛けた男が軽く一礼した。
「やっと直接お話しできますね。私はカスム・ギオウ将軍。お見知り置きを。そしてこちらは──」
「余計な紹介はいいわい! いつまで話をしてる!」
カスムの隣にもう一人の男が現れた。その顔は怒りで
「……ヴ・モンロー
「お前たち、あの海賊どもと関係があるだろう!」
「海賊……?」
ナーシャが
「なんの話だ?」
「端的に言えば、あなた方は我が軍のスパイだということです。かつて銀河を救った理力の英雄アスタラ」
「英雄ではない」
「見方によるでしょう。私からすれば、賞金首の愚か者ですが」
ドックの壁面にタドラが懸賞を賭けた時の賞金首リストに載った二人が映る。
「アナスタシア・ナジカ・バレイ=フー十世。フーの女王が密輸屋とは……言葉もありません」
カスムが
「あんたたちには関係ないでしょ」
「それがそうでもないんです。あなたの義理の兄君、シャナック氏が率いるタドラ・インダストリアルとは
「だから何?」
「ですので──」
「いい加減にしろカスム!」
モンローが唾をまき散らして怒鳴る。
「さっさと処分してしまえ!」
「……情報を引き出すことも重要です、閣下。
まだ言い足りなかったようだが、モンローは青筋を立てながら黙った。
「彼ら以外にも責任を追及する人物もいますしね」
カスムが指示を出す。ブラスト・ドアが開き、ソーラが両隣に兵士を付けられながら入ってきた。カスムたちが見える位置に立たされる。
「ソーラ・ノックス大佐」
「……はっ」
「
「そうだぞ! ノックス! 破壊工作を許したも同然だ! 反逆罪だぞ!」
意気込むモンローに、カスムが見えないように少し呆れた目線を送る。
「弁明はありますか?」
「ありません。ラスターの口に放り込まれても異存ありません」
毅然とした態度で返した。
「……早くして……!」
兵士たちの視線がソーラに集中している隙に、ナーシャが小声で急がせる。アスタラは両手に力を込めた──二人の手錠がひしゃげた。
そして、詰問されているソーラに二人は目を合わせる。
「……待って! 大佐は関係ないわ!」
ナーシャが全員に聞こえるように叫ぶ。
「大佐は自らの信念に従って行動していた。それを利用したのは私たちだ」
「そう。騙したのはこっちよ。責任まで押し付けるのは趣味じゃないわ」
「貴様ら……」
庇われたソーラが驚いたように目を少し見開く。
「黙れ! 賊に発言を許した覚えはないぞ!」
「私の故郷では、みなが平等だった。感情だけで裁けば、いずれ身を滅ぼす」
「階級だけで偉いと思ってるならお笑いね。上がそんなんじゃ、下はついてこないわよ」
「なんだとぉ⁉︎」
二人に言い負かされたモンローを見て、カスムが声を殺して笑う。
「笑うなぁ!」
「いえ、一理あると思いまして」
カスムはあからさまに笑いを堪えながら頷く。
「知っての通り、我が軍は人材不足に陥っています。ノックス大佐の処分は一旦、保留としましょう。さて、お二人をどう処分しましょうか」
カスムが考え込むふりをする。
「海賊の共犯者として処刑するか、あるいは──」
「ぐっ……⁉」
そこでアスタラの右手が激しく痛んだ。聖痕が熱を持ち、皮膚の下で疼く。悪意が沸騰しようとするのを必死で抑え込む。
「どうしたのよ……?」
「……右手が、疼く……」
「シセルの試し切りの相手になってもらうか」
カスムがそう告げると、ドックの空気が静まった。
重い足音が一つ、また一つと響く。兵士たちが自然と左右へ道を開ける。
その先から一人の黒い戦闘服に身を包んだ人物が姿を現した。顔は赤いバイザーで覆われており、腰にはアスタラより遥かに長い柄のライトセーバーが下げられていた。
「奴は……!」
アスタラの呼吸が乱れた。怒りと殺意がなだれ込み、理力が警告を発している。この戦士こそ、エイゾを襲った者だと悟った。
シセルはカスムの横へ立つ。一言も発しない。ただ赤いバイザー越しに、アスタラを見ているのが伝わる。
その視線に反応するように、アスタラの右腕の聖痕が焼けるように脈打ち続ける。
シセルは微動だにしない。だが、その沈黙だけで、この場の誰よりも濃い殺気がドックを支配していた。
「我が最高の戦士だ」
モンローが得意げに言った。
「一つの惑星の住民を皆殺しにした実績もある」
その言葉にアスタラの拳が震え、目つきが鋭くなる。
アスタラの怒りを感じたナーシャ。
「……やる?」
「やる」
二人がすっと立ち上がる──両手から手錠が音を立てて床へ転がった。兵士たちが一斉にブラスターを構える。
「何っ⁉」
「なるほど。あれが理力ですか。我々はより優雅に、フォースと呼んでいますが」
「呼び方なんぞどうでもいい! シセル!」
モンローが出撃指示を出す──カスムが手で制した。
「まあ、彼らの実力がどれほどか少し見てみましょう」
ブラスターを向けられる二人。
「さあ、どうするの?」
「……7567」
「本気?」
これは二人だけ分かる暗号だ。
「他に手が無い」
かつてこの暗号から、巨大な工場を吹き飛ばしたこともある。意味は──
「了解……ダイス!」
ナーシャの呼びかけで置物と化していたダイスが起動する。
『こんな状況で呼ぶなよな!』
「ブラスター!」
「セーバーだ!」
ダイスは兵士の銃口を避けながら引き出しへ手を突っ込み、ブラスターとセーバーを掴む。
『受け取れ!』
二つの武器がアスタラとナーシャへ向かって一直線に飛んだ。
手に握ったセーバーが起動した。同時に、ブラスターが火を噴く。
ナーシャの目の前の兵士の頭が貫通し、アスタラの前の兵士は胸を撃ち抜かれて崩れ落ちた。
二人は違和感を感じて、手元に目を移す──ナーシャにはセーバー。アスタラにはブラスターが渡っていた。
「……逆!」
ダイスに向かって同時に叫ぶ。
交換する暇もなく、二人はそのまま武器を構えた。自然と二手に分かれる。
アスタラは受け取ったブラスターで、兵士たちのブラスターだけを正確に撃ち抜いていく。
「近寄ったら切れるわよ!」
一方でナーシャは慣れないセーバーを半ばやけくそに振り回す。その青い軌跡に兵士たちは思わず距離を取った。
「何これ……重いんだか軽いんだか……! それに振り回される……!」
ナーシャはライトセーバー特有の癖に振り回されながら、壁や床を切りつけ、飛んでくるブラスターを必死に弾いた。
「……やるじゃない私!」
そう言いながら下がっていくと、逃げそびれていたソーラのすぐ近くまで近づいていた。
ナーシャを狙った一発のブラスターの流れ弾がソーラに向かう。
「っ!」
「うおりゃあっ!」
ナーシャが思い切りセーバーを振り抜く。青い刃は流れ弾を正確に捉え、そのまま跳ね返った一発が別の兵士を撃ち抜いた。
「ふぉー! 今の見た⁉︎」
「セーバーを返してくれ!」
「何よ、褒めてくれたっていいでしょ……!」
ソーラを助けたことも露知らず、悪態をつきながらアスタラの所に向かう。
意図せず助けられたソーラは二人を静かに見つめていた。
「ほらほら! どきなさい!」
危なっかしくセーバーを振り回すナーシャにアスタラは右手を軽く握る。理力でナーシャの手を固定し、そのまま自分の方へ引き寄せた。
「おっと、とととっ⁉︎」
ナーシャが振りかぶった体勢のまま引っ張られる。
「ちょ、ちょっと! ちょっと! ちょっと⁉︎」
引き寄せられる途中、ナーシャの目前をブラスターが幾筋も横切る。外れた光弾は兵士同士を撃ち抜き、あちこちで悲鳴が上がった。
その勢いのままアスタラの胸にぶつかった。
「交換だ」
アスタラは左手のブラスターを離す。ナーシャもほぼ同時にセーバーを手放した。
「ったく、もっとレディのエスコートの仕方も覚えなさいよね!」
宙で交差した二つの武器を何事もなかったように受け取った。元の二人のスタイルに戻る。
アスタラがセーバーで迫るブラスターを弾き、ナーシャがその後ろから兵士を撃ち抜く。だが、ブラスターの引き金が軽い音しか出さなくなった。弾切れだった。
「撃ち過ぎよ……!」
『おーい! こっちだ!』
呼びかけられ、ナーシャが貨物コンテナの陰へ滑り込むと、そこには身を潜めていたダイスがいた。
「あんたね、逆に渡すってどういうつもり……⁉」
『文句言うなよ。オイラも焦ってたんだ!』
「分かった、もういい。ショルダーホルスター出して!」
『ドロイド使い荒いなあ、もう!』
ショルダーホルスターを装着し、左右のブラスターを一息に引き抜く。
コンテナの陰から撃つ──視線を上げると〈シナトベ〉が固定されていた。
「アスタラ! 〈シナトベ〉降ろせる⁉︎」
アスタラはセーバーを振りながら、左手をかざすが上手く理力が働かない。あの黒い戦士の怒りに触れてから様子がおかしかった。
「……切り落とす」
「はいっ⁉︎」
アスタラは脅威的な跳躍でシナトベの上に乗ると、セーバーでロックを切断する。〈シナトベ〉が数メートル下へ落下し、鈍い衝撃音と共に着地した。
「優しく! 傷つける気⁉」
「乗れ!」
ナーシャは二丁のブラスターで兵士たちをけん制しながら、ダイスと急いで〈シナトベ〉を駆け上がる。
対して、敵が放ったブラスターが〈シナトベ〉の鏡のような船体に当たり、乱反射する。
「っ! やめろ、撃つな!」
モンローが怒鳴るが、カスムとモンローへ四方八方から乱反射した光弾が迫る──シセルの赤いセーバーが残像を描き、そのすべてを弾き返した。
その混乱の間に、ナーシャが操縦席に座ると急いでエンジンを点火する。
傍にいた兵士をエンジンの風圧で吹き飛ばしながら、〈シナトベ〉がドックを飛び出す。
その光景にカスムはあごに手を置きながら、どこか感心した様子を見せる。
「二人共、なかなかやりますね……」
一方でモンローは顔をさらに赤くしながら叫んだ。
「馬鹿者! 何をしてる! さっさと撃ち落とさんかっ!」
〈ピースメーカー〉の砲台が光る。猛烈な勢いのレーザーを〈シナトベ〉は機敏な動きで避ける。
「カスム! 奴らを取り逃がすぞ!」
「トラクタービームの用意を」
近くにいた将校に静かに伝えた。
「ハイパースペースにジャンプ用意!」
『どこに跳ぶんだ⁉︎』
「どこでも良いわよ!」
ナーシャがハイパージャンプ・レバーに手を伸ばす。その時、船体が激しく揺れた。計器盤が警告を発する。
「マズイ、トラクタービームに捕まったわ!」
〈ピースメーカー〉からのトラクタービームで船体が引きずられていく。
「これがフルスピードよ!」
ジリジリと引き寄せられる──また衝撃が走った。別のトラクタービームが〈シナトベ〉を捕らえ、左右から引っ張られる。
「冗談でしょ⁉︎ 〈シナトベ〉が裂けちゃう!」
窓の外を見ると別の船が姿を現した。ガラクタ同然の船体に無造作に塗装された模様、海賊船だった。
「どうすればいい⁉︎」
今までにない状況に焦るナーシャ。
アスタラは一瞬、逡巡すると〈ピースメーカー〉に手を向ける。
ソーラに言われたように、地図は頭に叩き込んでいた。そして以前、整備中にトラクタービーム制御室の位置も確認していた。
冷や汗をかきながら、どうにか理力で制御装置の電源を落とす。
左舷を引いていた磁力が突然消える。
「おとなしくお縄につきな!」
入った途端に、通信機から聞こえたのは豪快な女の声だった。
「海賊に言われるとはね……」
ナーシャが苦笑する。
そして〈シナトベ〉を拿捕した海賊船はハイパースペースに跳んだ。