潜入なんて
でも、そこで終わる私たちじゃない。合言葉一つで大暴れ。ダイスが武器を逆に渡すから、私は慣れないセーバーを振り回す羽目になったけど、最後は〈シナトベ〉で脱出に成功。
……と思ったら、今度は戦艦と宇宙海賊のトラクタービームに挟まれて大ピンチ。結局、海賊船に引っ張り込まれて、そのままハイパースペースへ。
もう、本当に休む暇もないわ!
多種多様な海賊の中でも茶色で毛むくじゃらのウーキー族に手首を縛られ、その自慢の怪力で〈シナトベ〉の外へ三人ごと引っ張り出されると、床に落とされた。
「痛っ! ……連続で捕まるなんて初めてよ」
「ガンダークの
「違う。あの時は落とされたのはあんた。それを私が助けたの」
『こんなところで喧嘩するなよ……!』
〈静かにしろ。ママ、連れてきたよ!〉
唸るようなウーキー語が響くと部下たちが道を開けた。そこから眼帯を付けた
「さて、軍のスパイども。話を聞かせてもらおうか。ん?」
「スパイではない」
「じゃあ、その服はなんなんだい?」
指摘されて、二人は軍服を着たままだったことに気づいた。
〈ママ。さっさとこいつら放り出しちまおうよ。厄介のタネだって……〉
「お黙りビッキー。そいつはあたしが決める」
「ママ? まさか……ママ・ドゥルダ?」
ナーシャの反応にドゥルダが眉を上げた。
「そうだよ。あたしがアン・ドゥルダ船長だ」
「本当⁉︎ あの海賊王に一番近いって言われたママ・ドゥルダ⁉︎ じゃあ、この船が伝説の〈ヒトリガ〉⁉︎」
手首を縛られたまま、小走りでドゥルダの前まで詰め寄った。
アスタラとダイスはキョトンとして目で追いかける。
「あんたやけに詳しいね。嬢ちゃん」
「私、ナーシャ! ナーシャ・ナジカ! ファンなの! 私も一時期、海賊やってたことがあるから!」
「……そうだったのか?」
聞かされていなかったアスタラが尋ねる。
「言ってなかったっけ? アブラヤで働いてた時にいろいろあってから──ってそこじゃなくて! あ、握手して握手!」
後ろ手にピョンピョンと跳ねながら握手を求めるナーシャ。
「元気な娘だね……」
「噂は聞いてるわ! この船一隻で宇宙ギャングの艦隊を壊滅させたとか! 銀河中のお宝をかっさらったとか!」
ナーシャの熱気に押されたドゥルダが苦笑を浮かべる。
「ママが押されてる……」
「すげえ娘だ……」
部下から驚嘆の声が漏れる。
「……そういう話は尾ひれがつくもんさ。嬢ちゃんどこにいたんだい?」
「マイ=アーレって知ってる?」
その名前を聞いたドゥルダが目を細めた。
「……嬢ちゃん、あの豚野郎のところにいたのかい?」
「私に飛び方を教えてくれた人」
「奴さんたちは全滅したって聞いてたがね」
ナーシャは目を伏せる。
「……ええ。私を残して全滅した。〈レディ・ジーナ〉の規則正しいエンジン音が、しばらく私の子守唄だったわ……」
そこまで聞いて、嘘はついていないと思ったドゥルダがナーシャの肩を叩く。
「いい豚だった。あいつ以上のガモーリアンは二度と現れないだろうね。……船は?」
「生きるためにコリコーで売ったわ。だから今、私はここにいる」
「あの船を一人で動かしたとはね」
「信じられない?」
「いや、そんなしょうもない嘘はつかないだろ」
ナーシャにニヤリと笑みを向けると続けてアスタラを見た。
「で、お前さんは?」
「私はアスタラ……ジダイ。修理工だ」
「アスタラ……? タドラを潰した英雄、ってのはお前さんのことかい?」
「英雄ではない。海賊にも有名なのか……」
アスタラが複雑そうな表情を浮かべる。
「そりゃ、銀河の一角を
「私も望んだわけではない。……そちらもか」
「ありがた半分、迷惑半分さ。有名になるってのも、考えもんだね」
少ししんみりしたところでドゥルダが手を叩いた。
「まあ、雑談はここまでだ。お前たちは拘束させてもらうよ! あの
「聞いて! なんでも話すから!」
「……こんな乗り気な捕虜は初めて見たよ」
目を輝かせるナーシャにドゥルダは苦笑しっぱなしだった。
「ところで、嬢ちゃんの船は大丈夫かい?」
「え?」
「だいぶ底を
「ええっ⁉」
ナーシャが周りにいた部下たちを押しのけて〈シナトベ〉を見る。
着陸脚を出さずに〈ヒトリガ〉に跳び込んだため、完全に胴体着陸していた。
「うそ……〈シナトベ〉に傷が……」
傷つけないことを信条にしていたナーシャが脱力する。
『あの状況じゃ、仕方ないって』
「ナーシャ。直せば済む」
「そういうことじゃないの! 傷ついたことが問題!」
二人の慰めもナーシャには、なんの足しにもならなかった。
「ごめんね。〈シナトベ〉……」
〈シナトベ〉の船体を撫でるナーシャ。
「……お前さんの彼女、随分と船にお熱だね」
「彼女じゃない」
「ほう? ……まあ、安心しな嬢ちゃん! この船には少しは役に立つメカニックがいる。パ・ドゥー・ワ!」
「……はーい!」
ドゥルダの呼びかけに遠くから声が響く。部下たちを掻き分けて若い少年が姿を見せた。帽子とゴーグルを付け、幼さが残る顔には油の跡が付いている。
「ママ、どうかしました?」
「お前さんはまだ船長とお呼び。こいつらの船見てやんな」
「船? ……うわぁー!」
〈シナトベ〉を見た途端に感嘆の声を上げる。
「すごい! ナブー製の思想を受け継いだ設計だ!」
船体に泣きついていたナーシャが顔を上げた。
「……分かる?」
「分かります! こんな綺麗な船、なかなかお目に掛かれませんよ!」
ナーシャはバッと少年の横に立つと胸を張る。
「でしょ? 分かってるねー少年!」
「パ・ドゥー・ワです! 長かったらパドゥと呼んでください!」
「私はナーシャ! よろしく少年!」
あっという間に意気投合した二人にドゥルダがアスタラに声を掛ける。
「……お前さんの彼女、変わりもんだね」
「だから、彼女じゃない」
〈ヒトリガ〉は外見はガラクタの寄せ集めに見えたが、内部はスッキリとした印象だった。武装や装備などが取り出しやすいように保管され、ある程度、清潔に保たれている。
海賊のイメージにしては整理整頓がしっかりとなされていた。
「うわぁ……これが〈ヒトリガ〉の中……!」
「……もっと乱雑だと思っていた」
「何が起きるか分からない世界だよ。いざって時に取り出せなきゃ世話ないさ」
二人はビッキーと呼ばれたウーキーを筆頭に数人の部下に囲まれ、スパイ容疑者として〈ヒトリガ〉の奥へ連行された。
「船はパドゥに任せな。ああ見えて腕は立つ」
「ダイスも置いてきたから大丈夫でしょ。あの二人も相性いいみたいだし」
そのまま船長室に入れられると、その目の前でドゥルダがドカッと船長席に座る。
「さて、話を聞かせてもらおうか? スパイ予備軍ども」
そこからはナーシャが
「だいたい分かった。状況はあたしらが思ってたより、ずっと悪いね」
「だから私は最初から、壊せって言ったのよ」
ナーシャが半目になってアスタラを見る。
「
「……あなた方も略奪を行っているんじゃないのか?」
「当然さ。あたしらは海賊だ。奪って何が悪い。みんながみんな、お行儀よく生きてるわけじゃないんだ」
「……そうだな」
アスタラはバツが悪そうに黙り込む。ドゥルダは酒瓶を
「それにしても、おかしなのはあいつらだ。戦艦一隻ありゃ十分だってのに、さらに馬鹿でかい主砲まで積んだりするんだい?」
威力を
「お前さんたち、〈ピースメーカー〉があれで終わると思ってないだろうね?」
ゆっくりと首を横に振るとドゥルダは低く息を吐いた。
「ありゃあ艦隊戦用じゃない。いずれは惑星一つ吹き飛ばすための
二人の表情が一気に険しくなる。
「連中がそれを何のために使うかは、言わなくても分かるだろ」
船長室を沈黙を包んだ。
話が終わり、二人は船内の隔離部屋に押し込められた。
〈悪いが、しばらくここにいてもらうぞ。メシは後で運ばせる〉
ビッキーにそう言われドアが閉められた。大人しく簡素なベッドに座るが、二人とも何も話さない。
巨石を取り戻すはずが、想像以上の兵器に運用されるという、状況が大きくなり過ぎたことに少なからず困惑していた。
しばらくしてノックされた。
「誰?」
ナーシャが返事をする。
「パドゥです。ご飯持ってきました!」
「入ってきていいわよ。何もしないわ」
「失礼しまーす」
両手いっぱいに食事のトレイを抱えたパドゥが、器用にドアの隙間をすり抜けて入ってきた。
「どうぞ!」
「ありがとう少年!」
「ありがとう」
受け取った食事を口に運ぶ二人を見ながらパドゥが話しかけた。
「ママが言ってました。あなたたちは軍の敵だって」
「そういうことになるわね」
ナーシャが返すと、アスタラも頷く。
「……君も軍が嫌いなのか?」
アスタラの質問に、明るかったパドゥの表情が曇っていく。
「大嫌いです」
パドゥがかすかに震える声で言った。
「あの主砲には……僕のアイデアが使われているんです」
「君のアイデア?」
「……僕は子供の頃から〈ピースメーカー〉の奴隷修理士として働かされていました」
「奴隷……?」
聞き捨てならない言葉にナーシャが眉をひそめる。
「本当は、もっと燃費のいい大型エンジンを作るための機構だったのに、軍は出力だけを見て……主砲に転用しました」
パドゥは後悔から歯を食いしばると俯く。
「最初から全部聞かせてくれる?」
「ある日……故郷のラグザから家族ごと連れて来られてバラバラにされて……僕は〈ピースメーカー〉の整備をさせられていました。でも、機械についての腕を認められて、有頂天になって設計図を書いたら……あの兵器に気づいて。それで一年前に脱走したところをママに助けられたんです。……離れ離れになった家族を残して」
パドゥは赤くなるほど拳を握りしめた。
「あの主砲は特殊なクリスタルを増幅器にして……惑星に風穴を開けられるビームを放つんです」
ドゥルダからも聞いていたが、より詳細な話にアスタラの顔色が変わった。
「……エイゾの巨石は、そのために奪われたのか……」
「でも……一つだけ欠点があります」
パドゥが話を続ける。
「設計段階で増幅器そのものは、まだ不安定だったんです。だから、僕の計算が正しければ……内部から特定の周波数の振動を与えれば、暴走させられるかもしれません」
「壊すしかないわね」
「……僕が設計した物だから分かります。止めるなら、そうするしかありません」
ナーシャが頷いてアスタラを見る。その視線がどこか寂しげに揺れていた。
翌日。ドゥルダが隔離部屋に入ってきた。
「昨日、みんなで話し合った。お前さんたちはスパイじゃないって結論だ。ただし──あの邪魔な鉄くずをぶっ壊すのに手を貸してもらうよ」
「もちろん!」
「……ああ」
対照的な返事だった。
「会議室へ来な。お前さんたちも交えて作戦会議だ」
中央に円形のホログラムテーブルが置かれた会議室に通された二人。パドゥもメンバーの一人として参加していた。
「さて、目下の問題は〈ピースメーカー〉が動いちまうことだ。ハイパースペースにジャンプされたら追いかけられなくなる」
「じゃあ、なんであの時は、すぐそばにいたの?」
「たまたま無線が飛び込んできてね。主砲のお披露目だって言うから、ひと目見物でもしてやろうと思ったら……あの有様さ」
「時間はあまりないわね」
「……いや、すぐには移動できないはずだ」
頭を抱える海賊たちの中でアスタラが言い切った。
「なんだって?」
アスタラがテーブルにいくつかチップを置く。ドゥルダが眉をひそめる。
「なんだいこりゃ?」
「……高級な飛行用制御チップ!」
何か分かったナーシャとパドゥが同時に叫ぶ。
「整備の時に時間稼ぎになるかと思って、いくつか抜いておいた。私の目利きでは、簡単には用意できない物ばかりだ。しかも気づきにくい場所から抜いた。原因を突き止めるだけでも時間は掛かる」
「やるじゃない! 少しは見直したわ!」
「これでいくらか
「どれくらい時間が稼げるんだい?」
「調達に時間が掛かるはずだ。一週間……長くても二週間」
一週間だけ部下だった整備隊員たちには申し訳ないと思いつつ、それでも、やるべきことはやっていた。
「一週間か……野郎どもを集めるには十分だろうねぇ!」
ドゥルダの発言に海賊たちも息巻く。
「みんな〈ピースメーカー〉とやり合う気?」
「もちろんさね。あれが完成したら、海賊なんて商売は終わりだ。銀河中があの眼鏡野郎の庭になっちまう」
「……ギオウのことか?」
「そうだよ。あたしにゃ、モンローよりギオウの方が何考えてるか分からなくて、薄気味悪いね」
「どっちにしろ自由に銀河を飛べなくなるわ」
「一生、あいつにお伺いを立てて銀河で生きることになるだろうさ」
「
パドゥの言葉に騒がしかった会議室が静かになる。
「だから、あたしら海賊艦隊の出番さ!」
ドゥルダがテーブルを盛大に叩いた。
「銀河中の海賊を集めて、艦隊を作る。それで未完成の〈ピースメーカー〉を一気に叩く!」
「私も参加させて!」
ナーシャがしっかりと手を伸ばして志願する。ドゥルダがニヤリと笑う。
「勝てる保証なんてないよ」
「もちろん。逃げ続けるくらいなら戦うわ」
「……その心意気買った! 早速、おっぱじめたいところだが、その前に済ませたいことがある。それまでお前さんたちも〈ヒトリガ〉の船員として、ビシバシ働いてもらうよ!」
「了解よ。船長!」
「よし! じゃあ──アスタラ、お前さんは残りな」
ドゥルダが部屋を出ようとしたアスタラを呼び止める。
「なら船長。少年をちょっと借りてくわよ」
「ああ。好きにしな」
ナーシャがパドゥを連れて出ていく。
ドゥルダは腕を組み、やれやれと言いたげにアスタラを見た。
「……まったく、英雄様ともあろう者が、いつまで辛気臭い面をしてるんだい」
「えっ……」
「何があったかは聞かないけどね。お前さんも流されて生きてきたんじゃないんだろ。……シャキッとしな! あの娘の方がよっぽど度胸があるよ!」
これまで叱られたことはあれど、ほとんど怒鳴られたことはなかったアスタラが面食らう。
「人生には選択する時ってのがあるんだ! メソメソしてても決まらないよ! 腹
ドゥルダから発破をかけられた、アスタラは静かに目を閉じる。
「お前さんたちも嫁にするなら、ああいう娘にしな」
周りの部下に向かって、そう言い放つ。
〈あの子も……ママみたいになるの?〉
「あたしの若い頃にそっくりだよ」
「……すまない。感謝する。ドゥルダ」
「船長と呼びな。半分以下も生きてない小僧に褒められても嬉しかないね。とっとと行きな」
頭を下げて出ていくその顔は〈ヒトリガ〉に入ってきた時より、どこかすっきりとした面持ちをしていた。
その背中を見てドゥルダはほくそ笑む。
「……少しは
こうして二人は、海賊船〈ヒトリガ〉の一員として、新たな日々を迎えることになった。
ナーシャはパドゥを連れ、久しぶりに〈シナトベ〉の中へ足を踏み入れた。
「ほとんど空っぽね……ブランケットもカバーも全部持ってかれちゃった。ただ」
自室の隠し机を開く。中にはサイクラー・ライフルといくつかの私物が残っていた。
「ここまでは気づかなかったみたいね」
「ナーシャさん!」
パドゥが興奮気味に顔を見せる。
「ダイスとも話しましたけど、凄い船ですね。まるで生きてるみたいです!」
「見る目あるわね少年。見た目だけじゃなくて、速さなら銀河でもピカイチ。それに──きっとこれを組み込めばもっと速くなるわ。意味わかる?」
ナーシャはニヤリと笑うとポケットから、会議室でしっかり確保しておいた制御チップを取り出した。
「……回路を見せてもらえますか?」
「もちろん! だから呼んだのよ! そのお礼に、あとで〈シナトベ〉の操縦の仕方教えてあげる」
いたずらっぽくウインクする。
「是非!」
一方でアスタラは〈ヒトリガ〉の機関室に入っていた。気難しそうな老整備士が一人、こちらを見る。
「……パドゥは?」
「別件で呼び出されています」
「その代わりがお前か」
「アスタラです」
「噂の英雄様か……」
ぶつぶつ言いながらエンジンへ潜り込む。アスタラは一通り見回す。
「……ハイパードライブを並列に繋いだのか」
「ああ。ドゥルダが
「配管の取り回しが若い。並列にしたのはパドゥのアイデアですか」
「よく分かったな。他の連中は頭より
「あの少年は賢くたくましい。私などより……」
「センチになるくらいなら、手貸せ、手」
その言葉に苦笑するとアスタラもエンジンの下に潜り込んだ。
しばらくして艦内にドゥルダの声が響いた。
「アスタラ! ナーシャ! 操舵室に集合しな!」
それぞれの持ち場を離れた二人が操舵室へ駆け込む。
ドゥルダは腕を組んだまま、青白く流れるハイパースペースを見つめていた。
「そろそろ出るよ」
〈ママ! スイッチを切るよ!〉
ドゥルダが頷くと〈ヒトリガ〉がハイパースペースから抜け出した。
そして、窓の外に濃い緑色の霧に囲まれた惑星が姿を現す。
「見えてきたよ……ラグザ」
濃い緑色の霧に包まれた惑星を見据え、ドゥルダは続ける。
「別名、奴隷惑星さ」