銀河調和防衛軍の戦艦〈ピースメーカー〉から逃げてきたアスタラさんとナーシャさんは、最初こそスパイと疑われましたが、船長であるママ・ドゥルダに真実を話し、僕たちの仲間になりました。
打ち解けるうちに、僕は〈ピースメーカー〉で奴隷修理士として働かされていた過去と、惑星を破壊する主砲の秘密を打ち明けました。一方、アスタラさんは整備中に重要な制御チップを抜き取り、敵の計画を遅らせることに成功します。
〈ピースメーカー〉を止めるため、ママ・ドゥルダは銀河中の海賊を集めることを決意。その第一歩として、僕たちは僕の故郷──奴隷惑星ラグザへと向かうのでした。
「ひどい有様ね……」
〈ヒトリガ〉のハッチを降り、任された荷物を下ろしながらナーシャが思わず息をのんだ。
「……地面をひっくり返したのか?」
アスタラの言葉通り、周囲は深い緑の霧に覆われ、地表は巨大な爪でえぐられたように掘り返され、大地そのものが裂けていた。
かつて
「ようこそ。ここが僕の故郷──ラグザです」
パドゥはどこか寂しそうに、目の前の故郷を見つめた。
〈ヒトリガ〉から海賊が次々と物資を運び出し、住民たちに配っていく。
そこでアスタラとナーシャは気づいた。列に並ぶ人々の中には、明らかにラグザの出身には見えない異星人の姿も多く混じっていた。
「みんな、いろんな理由で行き場を失った連中さ」
その光景を眺めながら、ドゥルダが口を開く。
「放っておけなくてね。人がいなくなったこの星へ、あちこちから連れてきたら……気づけばデカい難民キャンプみたいになっちまった」
荒れ道を歩けば住民がドゥルダに向かって頭を下げた。
「伝説通りね。ママ・ドゥルダは弱者を見捨てない」
「……時々、この性格が嫌になるよ。あたしらは腐っても海賊だ。自由な海賊がやりたい。支援じゃないんだよ」
「でも、ママのお陰で僕たちは生きてます」
「船長と呼びな。本当は、自分の力で立たなきゃいけないんだよ。誰かに頼るようじゃ駄目さ」
ドゥルダは遠くを見つめ、小さく息をついた。
「一体ここで何があった?」
アスタラは周りを見ながら尋ねた。
「大昔には立派な国があったらしいけどね。今じゃ、ラグザ人は奴隷として使っていいことになってる」
「何それ……? 誰がそんなこと決めたのよ!」
ナーシャが噛みつくように叫ぶ。
「この星を救った、って言われてる英雄様さ」
「……どういうこと?」
「柄じゃないが、昔話をしてやろうかね」
歩き疲れたドゥルダは、道端の瓦礫に腰を下ろし、ラグザの歴史を語り始めた。
「……昔、昔、ラグザという星は圧倒的な力を持って、他の惑星を支配していましたとさ」
三人も自然とドゥルダを囲むように座る。
「そこに、どこからともなく英雄が現れ、支配から解放しました」
誰も口を挟まず、話に耳を傾ける。
「王族や上流階級の人間は軒並み、最下層の人間として追いやられました。こうして、ラグザは脅威ではなくなったのです。めでたしめでたし……」
そして、ドゥルダは小さく息を吐く。
「……そして英雄がいなくなった後、残ったのは、自由でも平和でもない。ただの奴隷惑星さ」
パドゥは膝を抱え、寂しげに目を伏せた。
「……それを、今生きている人々に押しつけてるの?」
「いつしか歴史は捻じれ、王族だけに向けられていた憎しみは、ラグザ人すべてへ向けられるようになった」
「最低……」
ナーシャが心底うんざりしたように吐き捨てる。
「ライロスのトワイレックと同じような扱いさ」
「っ! 許せない……!」
「……まあ、お陰で人がいなくなって、ウチらが拠点として使わせてもらってるがね」
アスタラは興奮するナーシャの肩にそっと手を置き、ドゥルダへ目を向けた。
「……詳しいな、ドゥルダ。ここが生まれなのか?」
「いんや、コレリアだよ。宝を狙うなら、その星の歴史くらい頭に入れとくもんさ」
「その宝はどうなった?」
「……〈ピースメーカー〉に組み込まれてる」
それを聞いて二人が眉を上げ、パドゥが思わず身を強張らせる。
「どういう意味だ?」
「〈ピースメーカー〉はただの戦艦じゃないんだよ」
ドゥルダは静かに続けた。
「船体に無理矢理くっつけたような神殿を見たろ。あれは元々、ラグザ王朝の聖域──そして国の中枢施設だったのさ」
「なんだって……」
「それが復活した時に、地中深く眠っていたコアごと神殿が起動して、周囲の建造物やら大地が持ち上げられて……今に至るってわけだ」
「誰がそんなことを?」
「……ギオウです」
「ギオウが? なぜ?」
パドゥは唇を引き結び、しばらく俯いていた。
「……実は、あの男もラグザ出身です。でも、どうにかして創設されたばかりの治安軍で、あっという間に上層部まで出世しました。そして、聖域を無理矢理掘り起こして、〈ピースメーカー〉の動力部にしたんです」
「……信じられないだろ?」
ドゥルダは皮肉げに笑う。
「王家の聖域が、今じゃ大量
「……伝承によると、古代ラグザ王朝は特殊なコアで浮かぶ浮島でした。しかし、英雄──僕らラグザ人からしたら悪魔によって、すべての浮島が地面へ墜とされました。その中でも最も強力なコアを持った神殿をカスムは利用したんです……」
「壊せないの?」
ナーシャの問いにパドゥは首を横に振った。
「今じゃコアは〈ピースメーカー〉に完全に埋め込まれています。もう手が出せません……でも」
顔を上げ、アスタラとナーシャを見た。
「聖域のコアはあくまでも〈ピースメーカー〉を動かすための無尽蔵のエネルギー源です。ただし、主砲は違う。あれは構造上、どうしても内部機関が露出する瞬間があります」
「兵器なら必ず整備が必要だ。そこが弱点になるということだな」
アスタラの推測にパドゥが頷く。
「だから、どうにかして〈ピースメーカー〉に入れたら……」
そこで会話が終わる。
ナーシャが言いづらそうに口を開いた。
「……そういえば前に、家族ごと連れて行かれた、って言ってたわよね?」
「僕だけじゃありません。……実は〈ピースメーカー〉の船員は、ラグザの出身者が多いんです」
「どういうこと?」
「カスムがピースメーカーを動かすための労働力になるって、下働きとして引っ張ったんです。支配されることに慣れた人間だから扱いやすい、って」
「……とんだクズね」
「カスムにとっては、ラグザも統治する星の一つでしかないのさ……」
アスタラは静かに拳を握り締めた。隣ではナーシャが怒りに肩を震わせ、唇を噛み締めている。
その時だった。数十機の海賊船が次々とラグザへ降下を始めた。
ドゥルダは空を見上げ、小さく笑う。
「さあ、昔話は
ドゥルダが立ち上がり、迎えのために歩き出すと、アスタラたち三人もその後に続いた。
「凄いわ……! 全員、銀河に名だたる海賊よ……!」
それぞれの海賊船から船長が降り立つ。
だが、その海賊たちの表情は誰もが暗かった。
「どうしたってんだい? 不景気な顔して」
「……ドゥルダ。俺たちはこの仕事を降りる」
「えっ?」
ドゥルダとナーシャが同時に声を出す。
「なんだって……
「違う。
「お前さんたち、奴らに頭を下げて生きる気なのかい!」
〈でもよママ。無駄死にはごめんだぜ〉
「未完成とはいえ、厚い装甲とシールド、対空ブラスターに覆われた戦艦だ。あっという間にハチの巣だ」
『こちら側の勝利確率──測定不可能』
「第一、誰が中に入るってんだよ……」
「ちょ、ちょっとお前さんたち──!」
「……だったら、私たちが入る!」
圧倒的な戦力差に腰が引けた海賊たちを見て、ナーシャが声を張り上げた。全員の視線が集まる。
「……嬢ちゃん、誰だ?」
「マイ=アーレの秘蔵っ子さ……」
ドゥルダの囁きに、海賊たちの顔色が変わった。
「伝説の海賊の仲間……?」
「見損なったわ。名だたる海賊って聞いてたのに、会ってみれば腰抜けばっかり!」
ナーシャが腰に手を当て、呆れたように海賊たちを睨む。百戦錬磨の海賊たちが、その視線に思わず
「私の船長が言ってたわ。空を飛ぶのには覚悟がいる。その覚悟が無い奴に、空は向いてない、って」
一人ひとりを見渡すようにしながら、海賊たちの中心に立つ。
「私は自由に飛ぶためにパイロットになった。銀河は誰のものでもない。飛びたい奴のものよ。あんたたち、海賊でしょ。奪われっぱなしでいいわけ?」
一回り以上、年下のナーシャに言い返せず、口を
「私はあの人を腰抜けだったなんて言わせない。最期まで自由だったわ。だから戦う」
最後にナーシャはアスタラを見た。アスタラは微かに笑うと静かに頷いた。
「……壊そう。〈ピースメーカー〉を」
「ええ! 壊しましょう!」
パドゥが賛同したことで、その熱が徐々に海賊たちにも波及していく。ドゥルダが大口を開いて笑う。
「やるよ! 銀河のろくでなしども!」
「オーッ‼︎」
気概が戻った海賊たちが拳を突き上げる。
「……流石、フーの女王だ」
アスタラが横に立ち冗談めかしてつぶやくと、ナーシャが吹き出す。
「帝王学なら、とうの昔に叩き込まれてるから」
ナーシャはそう言って、こめかみを指で軽く叩いて笑った。
海賊たちが意気軒昂として準備を始める中、二人は周囲を見て回る。
「……待ちな。そこの連合い」
そこでフードを被った老婆に呼び止められた。
「私たちのこと?」
「そうさ。未来を見てやるよ」
「結構だ」
アスタラは一瞥しただけで歩き出そうとする。
するとフードの隙間から、黄緑色の肌と黒い紋様の刻まれた皺だらけの顔が現れた。
「おばあさん、ミリアランね? 予言を信じる種族だって聞いたことがあるわ」
「ナーシャ。時間の無駄だ」
「いいから。見てくれる?」
ナーシャはためらうことなくクレジットを放った。老婆はそれを器用に受け止め、ゆっくりと頷く。
「見える。見えるよ……」
ナーシャは面白がるように、アスタラは不服そうに腕を組んで見守る──老婆が白目を向いた。
「……あんたたち、これから戦いに行くね」
「それは、さっき向こうで話していたことだ」
「しっ」
「見える……青き
二人は互いの服装を見る。そして、自分たちの境遇を思い返す。
「どっち?」
二人が問いかけると、老婆はハッと目を見開き、額の汗を拭いながらその場にしゃがみ込んだ。
「わしは疲れたから寝る」
「えっ、ちょっと⁉︎」
そして、毛布に包まり不貞寝を始めた。
「行くぞナーシャ」
アスタラに腕を引かれ、二人はその場を離れていく。
「……途中から、片方の姿だけ見えなくなったのは……言わなくてよかったかねぇ……」
二人がいなくなったところで、老婆はぽつりとつぶやいた。
「あの老婆は占い師でも、預言者でもない。ただの嘘つきだ」
アスタラは嫌な記憶を思い出したような顔で言った。
「まさか、まだあの時のこと引きずってるの?」
「……あれが原因で、お前と喧嘩別れしたんだろう」
「そうだったわね。〈シナトベ〉に戻るけど?」
「……少し、見て回りたい」
そう言うと、アスタラは一人で難民たちの方へ向かっていく。
ナーシャは首を振ると、海賊たちの準備を手伝うパドゥを見つけた。
「……あっ、少年! 〈シナトベ〉出すの手伝って!」
「はーい!」
〈ヒトリガ〉のドックに停めていた〈シナトベ〉に乗り込むナーシャとパドゥ。
「操縦してみて」
パドゥの背中を押してコックピットに座らせる。
「……いいんですか?」
「外に出すだけよ」
そう言って、スイッチの位置や簡単な操作方法を教えた。
「さあ、操縦桿を握って」
パドゥは戦々恐々としながら操縦桿を握り、ゆっくりと前へ倒す。
着陸脚を格納した〈シナトベ〉がゆっくりとドックの外に出た。
「上手いじゃない」
「ありがとうございます……! 自分で船を動かしたの、初めてです」
何もない場所へ着陸すると、二人は息を吐き、しばらく窓の外を眺めていた。
「……ナーシャさん」
「ん?」
「……アスタラさんと……何かあったんですか?」
「ちょっと喧嘩してるだけよ」
気まずそうに聞かれた質問に、ナーシャがあっけらかんと答える。
「捨てられた……とか?」
「捨てられた? 私が? あいつに?」
一瞬の間のあと、ナーシャが大口を開けて笑った。目元に浮かぶ涙を拭う。
「……あいつに、そんな器用なマネできないわよ!」
「そう、なんですか?」
「付き合ってもないし。そういう関係になる前に、こっちから捨てたの。意味わかる?」
パドゥはよく分からないという顔をする。ナーシャは笑いながら、その背中を軽く叩いた。
「いつか分かる時が来るわ、少年!」
心ここにあらずといった様子で、アスタラは荒れた地面を踏みしめながら、身を寄せ合う難民たちを見て回る。
数十近く並ぶテントやあばら屋を通り過ぎた頃だった。
「……アスタラさま?」
その言葉で足を止めた。
「
少年と少女が走ってくる。アスタラはハッとして二人を抱きしめる。
「……っ! カイ! ヤナ! 無事だったのか!」
二人は、かつてタドラのウォーカーに襲われた際、アスタラが救い出した子供たちだった。そして、シセルによる故郷エイゾ虐殺の数少ない生き残りでもある。
「全員殺されたとばかり……!」
「あの黒い戦士がセーバーを振った時に、驚いて川へ落ちたんだ」
「そのまま流されて、気づいたら空飛ぶ船の近くにいたんです」
「その船でなんとか飛んだら、あの海賊に助けられたんだ」
「そうか……ともかく無事で良かった」
笑顔を見せた──咳き込む二人。
「……大丈夫か?」
「じつはここに来てから、体が変で……」
二人へ右手をかざした瞬間、理力を通じて
「待っていなさい」
そう言い残し、〈シナトベ〉へ駆け出した。
「──っていうこともあってね」
「信じられないことばかりです!」
パドゥは、ナーシャが語る冒険譚に目を輝かせながら聞き入っていた──ふと、窓の外を見るとアスタラがこっちに向かって走ってくる。
「……どうしたのかしら」
「ナーシャ!」
「何?」
「一緒に来てくれ!」
ただごとではない様子に、ナーシャとパドゥはすぐに外に出た。
アスタラから事情を聞いたナーシャは、急いで二人のもとへ駆け寄る。
「……おねえさん、鳥みたい……」
「ありがとう。横になれる?」
カイとヤナは横になると、症状を見始めた。
「熱がかなり高いわね……」
「……腕が、いたい……!」
カイが熱に浮かされながら腕を差し出す。そこには、花のような痣が広がっていた。
「……花が咲いてる……」
「綺麗ね」
ナーシャが微笑みながら、その腕に触れた瞬間、違和感に気付いた。硬く、冷たい──生き物の感触ではなかった。
「二人とも、もう少し我慢できる?」
「うん……」
二人の額を撫で、優しく微笑みかけるとアスタラを見た──すぐに表情が暗くなる。
「……来て」
子供たちから少し離れた所に呼び出す。
「ナーシャ、あれはなんだ……?」
「断言はできないけど……あれは、ただの風邪じゃない」
「だとすれば一体なんだ?」
ナーシャは腕を組むと視線を泳がせる。
「……子供の頃、父様から聞いたことがあるわ。はるか昔に流行った、体が少しずつ石のように変わっていく病の話」
「どんな話だ?」
「あまりにも感染が早くて、ワクチンができるまで感染者をまるごと一つの惑星に隔離して、強引に封じ込めたって。
「まさか、その病が今……」
アスタラの不安に、ナーシャは答えなかった。
アスタラがカイを抱き上げ、ナーシャがヤナをおんぶしてドゥルダの元まで走る。
「船長! 話があるわ」
部下に指示を出していたドゥルダが、二人の様子を見て目を丸くする。
「どうしたんだい?」
「この子たちをすぐに連れ出さなきゃいけないの」
それを聞き、さらに目を見開く。
「このクソ忙しい時にかい! お前さんたちが攻略の
「分かっている。断定はできない。だが、このままならラグザ全体に感染病が広がる可能性がある」
「……なんだって?」
「その上、私たちも感染しているかもしれない」
「もし、そうなら〈ピースメーカー〉どころの話じゃないわ」
ドゥルダは腕を組むと考え込む──二人に付いていたパドゥを見た。
「……パドゥを連れていきな」
「ママ!」
「勘違いするんじゃないよ。監視役だ。パドゥ、この二人を絶対に連れ戻すんだよ」
「分かりました!」
ドゥルダの許可を得たアスタラたちは、五人で〈シナトベ〉へ乗り込む。
アスタラが子供たちを簡易ベッドに寝かせ、パドゥは持ち込んだ大型バックの確認をしている。
コックピットに向かったナーシャは、スリープモードだったダイスのドーム型の頭部を引っ
「ダイス! 起きなさい!」
『うわぁ! ど、どうした⁉︎ 〈ピースメーカー〉か⁉』
状況を分かっていないダイスが寝ぼけた様子で両アームを上げた。
「マーレに行くわよ! 早くハイパージャンプの計算して!」
『マ、マーレに? ピースメーカーは?』
「後回しよ。先にあの子たちを、ソフィアに診せる」
そして、〈シナトベ〉は医療技術では、右に出るものは無いと言われる惑星へと出発した。