故郷ラグザに着いた僕たち。かつて栄えたこの星は、今では難民キャンプのようになり、多くの人々が苦しんでいました。
その歴史を知ったアスタラさん、ナーシャさん、そしてママ・ドゥルダが率いる海賊艦隊と共に、巨大戦艦〈ピースメーカー〉を破壊するため立ち上がります。
しかし、その前に新たな問題が起きました。アスタラさんの故郷エイゾの生き残り、カイとヤナ。二人の体にかつて銀河で猛威を振るった恐ろしい病の兆候が現れていました。
ナーシャさんの提案で、僕たちは治療のためにソフィアさんという人に会うべく、急いで惑星マーレへ向かうことになったのです。
海洋惑星で、銀河一の医療惑星とも呼ばれるマーレ。
エメラルドグリーンの海面を〈シナトベ〉が反射しながら進む。
海面に設置された着陸ドックに降り立つと、そこには防護服を着たマーレ医療団が待ち構えていた。
「ソフィア!」
ハッチから手を振るナーシャに、
「ナーシャ! まだ出ないでください!」
「了解!」
事前に事情を聞いていた医療団が船内へ入る。
五人は隔離された状態で、数十分に渡る検査を受けた。カイとヤナが防護カプセルで密閉され運ばれる。
「現時点で他の三人に感染の兆候はありません。ただ……」
普段は落ち着いた様子のソフィアが、渡されたタブレットに目を通すと深刻な顔をする。
「そうですか……。もう出ても結構です!」
アスタラたち四人が外に出る。ソフィアはタブレットを胸に抱くと目を伏せた。
その顔を見てナーシャはパドゥを前に出す。
「……再会の挨拶は後回しね。この子だけ紹介。パドゥよ」
「よろしくお願いします」
パドゥが差し出した手をソフィアは握り返す。
「ソフィアです。よろしくお願いしますね。話はルグゥーの医療エリアで」
ソフィアに案内されてエレベーターから海中に潜る。
美しい海中都市ルグゥーだが、その光景に目を奪われている暇は無かった。
「二人の容態は?」
「おそらく
空気が張り詰めた。
「かつて銀河各地で流行し、数多くの命を奪った感染症。数百年前に
「なら、なぜ?」
「おそらくエイゾが隔絶された惑星だったため、外の世界で消えた病原体が眠り続けていたのでしょう」
医療に
「石花病の初期症状は、皮膚に花びらのような鉱物が腕や頬に現れます」
「じゃあ、あの子たちはまだ初期段階なのね」
「幸いなことに。ですが、最終的には血管や神経を侵食し、体温調節や臓器機能が低下。最終的には全身が石の花になって生命活動が停止します」
「……治せるの?」
「当時は封じ込めによって消滅した病とされ、現在は治療薬の製造設備すら残っていません」
その宣言に全員が息を呑む。
「ですが、治療法は存在します。もちろん材料が必要ですが……」
ソフィアはタブレットを握ったまま、しばらく沈黙した。
「何か問題が?」
「治療する分では足りない可能性があります」
「どういうこと?」
「子供たちを救えても感染は止まりません。早急にワクチンを作らなければ、第二の銀河規模の感染災害が起こるでしょう」
「私たちも感染している可能性はあるわよね……」
「はい。現時点では陰性ですが、潜伏期間が長く絶対に安全とは言えません」
ソフィアの執務室に着いた一行はテーブルを囲む。
パドゥが遠慮がちに手を挙げた。
「あの……材料って、なんですか?」
「遠慮しなくて結構ですよ」
微笑んだソフィアがタブレットを確認する。
「記録が正しければ……一つは、長命の妙薬と言われたベニカという花の蜜。もう一つは、氷晶から採取できる天然水です」
「量は?」
ナーシャが肩越しにタブレットを覗く。
「できるだけ多く」
「その二つはどこに?」
アスタラの問いに、ソフィアはテーブルに備え付けられたホログラムの星図を出し、一点を指す。
「花の名産地と言えば、ポポ・ロロです。マーレからはかなり遠いですが」
「私が行く。〈シナトベ〉なら、あっという間よ」
「では、ナーシャとダイスのチームで」
ソフィアの提言に二人が頷く。
「アスタラさん。二手に分かれた方が効率が良さそうですね」
「そうだな。私とパドゥは氷晶を探したいが、いいか?」
「はい! お供させてください!」
「氷晶は条件さえ合えば珍しい物ではありません。この辺りで当てはまる星は……ルプス。雪山の惑星です」
「雪山の惑星か……ちょっと楽しみです」
パドゥが冒険に心を躍らせる中、ナーシャがソフィアの手を握る。
「ナーシャ……?」
「ソフィアも二人についていってあげてくれない?」
「えっ。わたくしが、ですか?」
「薬になる部分を間違えたらマズイでしょ?」
「でも……」
予想外の言葉に渋るソフィアに、ナーシャが頭を下げる。
「お願い! ソフィアにしか頼めないの」
「っ! もちろん、この不肖ソフィアーナ・マーレにお任せください!」
「頼りになる!」
勢いよく胸を張るソフィアに、ナーシャは笑顔を向けた。
早速、荷造りが始まった。
ルグゥーの海中ドックに〈シナトベ〉と亀のような形の船が並ぶ。
「可愛い船ね」
「わたくしたちは、こちらの〈テティス〉で向かいます」
「了解。気を付けてね」
「あっ、ナーシャさん、ちょっと待ってください!」
雪山用の服装に着替えたアスタラと準備をしていたパドゥが、持ち込んでいたカバンを開き、透明な密閉ビンをナーシャへ放り投げる。
「おっと……これ何?」
「防熱と防寒性抜群で衝撃にも強い密閉ビンです。花や蜜を入れるなら役に立つと思います」
「ありがとう! 他にもある?」
「うーん……」
カバンの中をまさぐるパドゥ。そこでナーシャは目についた細長い棒状の物体を手に取る。
「これは?」
「僕特製のワイヤーフックです」
パドゥが適当なコンテナへ向かって投げると、先端が食い込むように突き刺さった。
「刺さった衝撃でフックが広がって返しが掛かります」
「凄い道具だな」
「〈ヒトリガ〉の修繕用として作ったんですけど、ママに船に穴が開くからって止められました。でも雪山なら役に立つはずです」
「確かに花畑じゃ役には立たなさそうね」
ナーシャは持っていたワイヤーフックをアスタラへ投げ渡す。
「雪山組で使って」
「他は携帯食料とかですね」
「パドゥのカバンって魔法のカバンみたいね。なんでも入ってるわ」
「メカニックですから!」
そこで防寒着に身を包んだソフィアが保冷ケースを抱えて戻ってきた。蓋を開けると白い冷気が溢れ、内部には数本の注射器が収まっている。
「これは?」
「病原体の活動を一時的に抑える薬です」
ソフィアは自分を含めた四人の腕へ順番に注射した。
「発症を遅らせることはできますが、薬ではありません。効果も長く続かないので、その間に治療薬の材料を集める必要があります」
三人は無言で頷き合う。
「こっちは準備は少ないし先に出るわね」
「ナーシャ!」
ソフィアが呼び止め、ナーシャが振り返る。
「あの……くれぐれも気を付けてください!」
笑ってサムズアップするとダイスと〈シナトベ〉に乗り込む。
〈シナトベ〉は水中ドックを飛び出し、海面を突き抜けて蒼い空へ舞い上がる。大気圏を離脱すると、ハイパースペースへ跳んだ。
十数時間後、ハイパースペースを抜けると、眼下には花々に覆われた惑星が広がっていた。
花の惑星ポポ・ロロ。ソフィアが説明した通り、様々な花が咲き乱れ、それが名産でもあり観光資源でもある。
花畑の上を低空飛行し、花びらを風で巻き上げながら、村外れの着陸場に降り立つ。
『どっから探すんだ?』
ランプウェイを降りながらダイスが尋ねた。
「とりあえず村人に聞き込みね」
『話してくれるといいな』
「観光客も来る惑星よ。ぞんざいには扱われないでしょ──」
「待ちな。そこの不良配達員」
聞き覚えがある声に暴言を吐かれ、ハッとしてそっちを向く。
「……ソノさん?」
紺色のワンピースを着た黒い長髪で白肌の女性が、悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「いらっしゃい。ハナノ村へ」
ナーシャが驚きと笑いが入り混じった表情で抱きついた。
「ソノさん⁉︎ 何してるのよ!」
ソノ・キキ。宇宙ステーション・コリコーで輸送会社「キキ・トランスポーテーション」を営んでいたダソミリアンだ。
「結婚先の住いがここだったんだよ。花でも育ててのんびりと……って思ってたら、村長を任されちゃってね」
「ソノさんらしい」
「一体どうしたんだい? あの坊やは?」
「今、目的があって別行動。丁度良かったわ。助けてくれない?」
「内容によるね。まあ、こんな所で立ち話もなんだからウチに来な」
ナーシャは石畳が敷かれた道を歩きながら辺りを見回す。レンガ造りの家が多い物静かな村──息を殺しているように感じられるほど静かだった。観光客の姿も見えない。
ソノに連れられ、村の奥に建てられた家へ入る。
「ただいま」
「おかえりソノ」
家の奥から男の声が聞こえた。
「ボント。ナーシャとダイスだよ」
「えっ」
部屋から眼鏡を掛けた朗らかな男、ボントが出てくる。
「ナーシャ。ダイス」
「久しぶり、ボント。元気?」
『相変わらずそうだなあ』
「いやー、すっかり魔女の尻に敷かれてるよ」
ボントは後頭部に手を当て困ったように笑う。
「美人のね」
『今、二人とも何してるんだ?』
「飯屋でもやろうかって話してたんだけど、村長の仕事に追われてね。それに」
ソノは微笑みながら自分の腹をそっと撫でた。ナーシャが察して口に手を当てた。
「嘘……ホント⁉︎」
「やっとね」
「おめでとう!」
「ありがとう。ところで何を助けて欲しいって?」
質素ながら暖かい雰囲気のリビングに案内される。そこでナーシャは窓際に置かれた物へ目を留めた。
「これって……」
ホログラム装置を手に取る。そこには〈シナトベ〉を背に、ナーシャとソノが写っていた。
その近くに、オレンジ色のマントを羽織ったナーシャと同年代の少女と、紫肌の小柄なトワイレックの少女。
そしてもう一人──コリコーでアスタラたちを襲った賞金稼ぎ、シモーヌの姿もあった。
ナーシャが目を細める。
「懐かしい……ミアとメガネちゃん」
「コリコー五人娘なんて呼ばれたっけね」
「そうね……。もう揃わないけど」
シモーヌはナーシャが殺した。二度と五人が集まることはない。
「二人とは会ったかい?」
首を横に振る。この二人とは別れてから一度も会っていなかった。
「昔みたいに、坊ちゃんって呼ぼうか?」
「やめて。真面目な話がしたいの」
苦笑して椅子に座る。ソノが魔法を視覚化した緑色の霧で、カフが入ったカップを運んでくる。
「これも久しぶり」
「さて、要件は?」
ナーシャはこれまでの経緯を話した。話を聞いていたソノの顔が徐々に呆れていく。
「戦艦に、海賊、果ては銀河規模の病気……また余計なことに首を突っ込んだんだね」
「成り行きでね。ともかくベニカっていう花か蜜を少し貰えればいいの」
「助けたいのは、やまやまなんだけどね……」
「何?」
「その花が無いんだよ」
「えっ、ここには無いの?」
「……窓の外、見てみな」
困惑したナーシャが外を見ると、花畑の一角が荒れ地になっていた。
「あそこは……?」
「ベニカが咲いてた場所さ」
「まさか全部刈っちゃったの⁉︎」
「違うよ。今、困ったことが重なっててね」
「困ったこと?」
そこで外から数台のランドスピーダーのエンジン音が響く──ソノの家の前で止まる。
珍しいルーフ付きの黒塗りのスピーダーから降りてきたのは、黒いフェドラ帽を被り、そのつばで目元を隠す、大柄な男だった。
仕立ての良い黒いスーツとロングコートを身に纏い、裏社会で生き抜いてきた経験を感じさせる
一見すれば大物ギャングの首領にも見える──その目の奥には、今より上を目指そうとする飢えが滲んでいた。
「キキ、話がある」
男のソノを呼ぶ声が村に響いた。
「また来た……」
やれやれとソノが立ち上がり、玄関に向かう。ボントが不安げな顔で立つ。
「……行くのかい?」
「行かないとどうしようもないさ」
「言っても聞かない連中だよ?」
「言わないと、いつまでもいる連中だからね」
ナーシャが何事かと二人を見る。
「何? どうしたの?」
「あんたは話をややこしくするから中で待ってな」
そう言って外に出た。
ソノが、スーツの男とブラスターをこれ見よがしに構える取り巻きの前に立つ。
「なんの用だい?」
「みかじめを貰いに来た」
「そんなもんは無いって言ったろう」
「ベニカがあればいい」
「無いんだよ。知ってるだろ。あいつが全部持ってったの」
話の内容から、危険な連中に絡まれていることをナーシャたちは察した。
「あいつ誰?」
「……オーザム・アザーノンだよ」
ボントからその名前を聞かされたナーシャの顔が強張る。
「アザーノンって、まさかアザーノン・ファミリーの……?」
『ナー・シャダーの数あるギャングの一つだぜ……』
そこから話し合いが始まるが、互いの主張は平行線のままだった。
「蜜が欲しいなら、自分たちで巣まで取りに行きな」
「その虫相手に手下が手こずってる」
「だからって、あたしが行ってどうにかなるとでも?」
「知らない相手じゃないんだろ?」
ソノのはぐらかすような返答に、アザーノンの苛立ちが徐々に表情に滲む。
「大丈夫なの?」
「いつもあんな感じなんだ」
「あんなんじゃ、いつか──」
その時だった。ナーシャの視線が屋根の上で動く影を捉えた。
「マズイ……!」
迷わず別の窓から外に飛び出す。
「あたしの言うことを聞く奴じゃないよ」
「……試せば分かる」
ブラスターが火を噴く──次の瞬間、屋根の上の狙撃手が転がり落ちた。
「何?」
「流石、ギャングね。やり口が汚いわ」
銃口から煙を吐くブラスターを持ったナーシャが家の影から出てくる。
「中で待ってろ、って言っただろ」
ため息を吐くソノの横に立つと小声で囁く。
「お腹に赤ちゃんがいるのに、みすみす撃たせるわけにはいかないでしょ……」
アザーノンが突然の乱入者に顔を向けた。
「嬢ちゃん、誰だ」
「ナーシャ。パイロット」
「悪いが、用があるのはキキだけだ」
「こんな穏やかな村まで来て、弱い者イジメする奴が何言ってんのよ」
アザーノンは帽子のつばをゆっくりと持ち上げた。隠れていた鋭い眼光がナーシャを射抜く。
「……やるなら、私が相手になるわ」
「やめなって……」
両者の間に緊張が走る──不快な羽音が辺りを震わせた。
「……なんの音?」
「ヤバイ。来た……」
ソノが顔を歪ませた。つられて見上げると、空を覆い尽くすほどの黒い羽虫が押し寄せていた。
「嘘でしょ⁉」
ナーシャは咄嗟にブラスターを撃つ。
ソノは腕を振るうと、魔法で街灯の火から壁を作った。
アザーノン一派も一斉に銃口を空へ向け、黒い群れへ撃ち始める。だが、撃ち漏らした羽虫が襲いかかり、何人もの手下が血反吐を吐いて倒れる。
「ナーシャ! ウチに入りな!」
「この虫、見覚えが……!」
「いいから、早く──!」
羽虫の壁で分断される二人。一方でアザーノンは我先にとスピーダーに乗り込むと、すべてのドアをロックした。
「ボス! ボス!」
手下が必死にドアを叩く。アザーノンは細長い煙草を咥え、ゆっくりと火を点けた。紫煙を一つ吐き出し、小さくつぶやく。
「……悪いな。俺の道の
倒れていく部下をアザーノンは無表情のまま見ていた。
ソノが炎を操り、ナーシャまで続く一本の道を開く。
「ナーシャ! こっち──後ろ!」
振り返ると虫が目前に来ていた。咄嗟に腕で顔を庇う──羽虫はナーシャを襲わず、避けるように左右へ散って飛び去る。
「何……?」
車内のアザーノンは帽子のつばをわずかに上げた。
そのまま黒い群れは空の彼方へ消え、村に静寂が戻った。
ナーシャはゆっくりと顔を上げ、一つ息を吐く。
アザーノンが窓を開くとソノに声をかけた。
「キキ、ここは出直させてもらう。さっさと出せ」
辛うじて生き残った手下に命じるとスピーダーが発進する。
「お前らじゃ無理だな」
アザーノンは取り付け式の通信機を取る。
「俺だ、あいつを呼べ」
焦ったような声が返ってくるが、意にも返さず通信を切った。
「あの娘は使える」
「無事かい⁉」
ソノはナーシャの肩や腕に触れ、怪我が無いか確かめるが当の本人は
「ねぇ、今のって……」
「あれが悩みの種の一つ。とにかくウチに入りな」
ナーシャは心配するソノを押しのけると首を振った。
「ダメ。すぐ出発しないと。時間を無駄にする暇は無いわ」
頑固な姿にソノが困った様子で額に手を当てる。
「相変わらずだね……」
「詳しいことを教えて」
「……あの虫がベニカを全部取ってったんだよ。今頃、あれの巣の中さ。入ったらエライ目に遭う」
「私なら入れる」
「……だろうね」
「足もあるし」
ナーシャが指差した先には、アザーノンたちが放置したスピーダーがあった。
「……ボント、行ってくるよ!」
「止めても無駄だろうな……気を付けて!」
『オイラも待ってるぞ!』
ナーシャとソノは乗り込むと巣へと向かった。
小高い丘と花畑を越えたところで、遠目にハニカム構造の建物が見えてきた。
「あれ?」
「そうさ」
ナーシャは身重のソノを気遣い、巣から距離を取ってスピーダーを止めた。
「ソノさんはここにいて」
そう言い残し、一人で花畑へ踏み込んでいく。
「待て、ナーシャ!」
背後から声を掛けられた。丘の上に、いつの間にかアザーノンが立っていた。無視して巣に向かう。
「なあ、手を組まねぇか?」
足を止めブラスターを抜くと、鬱陶しそうに顔を向ける。
「組むと思ってんの?」
「その様子だと蜜が欲しいんだろ? 俺たちもだ」
「あんたは金でしょ。こっちは一刻を争ってんの」
「俺を
「前に碌なことにならなかったから、断る」
「強情だな」
帽子を整えると、ナーシャを見下ろしながら片手を上げた。
「殺すな。利用価値がある」
「はい──っ⁉」
言い終わるより早く、手にしていたブラスターの銃身が赤熱して溶けた。
「何よ……⁉」
背の高い花に身をかがめる。花畑に一つの影が立っていた。
全身を覆う戦士の装備。二メートルを超える巨体。後頭部から幾本も黒い生体器官が肩口まで垂れ下がる。顔に付けた仮面から覗く爬虫類を思わせる鋭い瞳が、静かに獲物を見据えていた。
その肩部のブラスター砲から白い煙が細く立ち
「賞金稼ぎ……⁉」
「いや、強者を求める
アザーノンの紹介の後、ハンターが腰を落とした瞬間、長い尾が揺れる。次の一歩で、その巨体が花畑へ溶け込むように消えた。
「どこ……!?」
直後、胸や肩に五つのレーザーサイトが浮かんだ──気配を頼りに、ナーシャは左ブーツから小型ブラスターを抜き、その方向へ撃つ。ハンターの肩部ブラスターが爆発し、吹き飛ばされていく。
爆煙の中に駆け寄ると緑色の血が残っていた。
「良かった。血は出るみたいね……」
ナーシャは小型ブラスターを捨て、ズボンの後ろの中型ブラスターを抜いて連射する。
花びらが散る中、花畑に擬態していたハンターが一歩踏み出した。あっという間に間合いを詰め、右手を開く。指先から黒い生体爪が伸びた。
咄嗟にブラスターを盾にすると、爪で銃身が切り裂かれた。
「……すごい爪ね。ネイリスト紹介しましょうか?」
ハンターがナーシャを指差し唸った。
「……マスクで声が聞き取りにくいわよ」
その言葉に苛立ったハンターが爪を振り回す。
そんな二人を見物していたアザーノン。そこで羽虫が巣から出てくるのが見えた。
「見ろ。家の前で騒げば家主は出てくる。行くぞ」
ナーシャたちの決着を待たず、数人の部下を連れて巣へ向かった。
ナーシャはハンターの攻撃を側転で避けると、左袖に仕込んだブラスターを抜き、顔面を撃ち抜く。しかし飛んだのはマスクだけだ。
「うっわ……仲間にマスクは着けたままの方がいいって言われなかった?」
顔を見た上で侮辱されたハンターが吠える。
「訛りも酷いのね」
煽りながらナーシャが両脇のショルダーホルスターからブラスターを抜く──一瞬だけハンターの腕が霞む。気づいた時には細かな刃が並ぶ円形ブーメランが左胸に刺さった。
「ナーシャ!」
心配で様子を見に来たソノが悲鳴に近い声を出す。
地面に倒れたナーシャへハンターが飛び掛かり、左手の爪を振り下ろす──だが、肉や骨を貫く感触はない。爪が裂いたのは右袖だけだ。
その一瞬で右腕を引き抜いていたナーシャは、ハンターの額に右手の小型ブラスターを突きつける。
「笑って……!」
その言葉でナーシャは引き金を引いた。弾がハンターの額を貫き、後頭部へ突き抜ける。
ハンターの巨体が崩れ落ちた。ナーシャは倒れてきた体を押しのけ、ブラスターを放るとジャケットに刺さった爪を抜く。
「ミアから貰ったジャケットなのに……」
「ナーシャ!」
ジャケットを整えたナーシャを、ソノが抱きしめる。
「無事⁉︎」
「なんとかね」
見れば、左胸に入れていたブラスターの銃身にブーメランが刺さっていた。
「最悪。ほとんど使えなくなったわ」
「あんたって……馬鹿な子だよ。ホント……!」
涙目で呆れるソノの背中を叩く。
「大丈夫よ」
ソノを落ち着かせると、唯一、無事だった右脇のブラスターを腰のホルスターに収める。
「そろそろ行かないと」
「……アザーノンたちは先に行ったよ。家主が出ちまったからね」
「その家主も戻ってるでしょ」
そう会話を交わしながら、巣の前まで辿り着く二人。
「……気を付けなよ」
「大丈夫。私は死んでも死なないから」
「そう言うことじゃないよ」
ナーシャは笑うと巣の中へ足を踏み入れた。