銀河全体を危機に陥れる石花病。その治療薬の材料を探して、花の惑星ポポ・ロロまでやって来た私たち。
そこで懐かしい人たちと再会したんだけど、村が大変なことになってた。
治療薬の材料になるベニカは姿を消し、おまけにアザーノンっていう、いけすかないギャングまで村を脅してる始末。凶暴な虫まで襲ってくるし。
さらにアザーノンの策略で、とんでもない強敵と戦うことになって、ブラスターのほとんどを壊された。
それでもなんとか倒して、ついにベニカの蜜があるっていう巣の中へ。
この先で待ってるのは希望か……それとも絶望か。
ここからが正念場よ。
巣へ足を踏み入れたナーシャ。その瞬間、背後で重い音を立てて入口が閉ざされた。
「ナーシャ──!」
ソノの叫び声が壁越しに微かに響く。
ナーシャは振り返って入口を叩いたが、びくともしない。
「……ここからは一人ってことね」
静かにブラスターを構え、薄暗い巣の奥へと歩みを進めた。
巣の中では、先に踏み込んでいたアザーノン一派が地面に倒れていた。
外傷は見当たらない。だが、全員が
「……俺を見下すな。俺が、裏社会の
あのアザーノンでさえ地面に這いつくばり、目の前のナーシャではなく、過去の幻でも見ているようだった。
「ご
ナーシャはそれだけを言って脇を通り過ぎる。目当ての物は、この先にある。そんな確信だけが胸にあった。
やがて視界が開け、円形の広場へ出る。天井の裂け目から差し込む陽光が、木漏れ日のように静かに降り注ぎ、中央では黄金色の蜜が泉のように湧き出していた。
「これね……」
ナーシャはパドゥから渡された密閉ビンを取り出し、蜜を
「……触らないで」
その声に、ナーシャは即座にブラスターを向けた。
巣の陰から、白い肌に白髪、黒いバイザーを掛け、ファーコートを纏った
その姿を見たナーシャは緊張で乾いた唇を舐めた。
「シモーヌ……?」
コリコーで自らの手で射殺したはずの女。
「……ええ」
「殺したはずよね?」
「……そう。……でも、あの時の私とは別」
胸に手を当て、どこか嬉しそうに微笑む。
「……でも、撃たれた時のことは、今でもはっきり覚えてる」
そこで躊躇なくナーシャは引き金を引いた。撃ち抜かれたシモーヌは、その場で崩れ落ちるように姿を消す。
「……その判断の速さ、好きよ」
声が背後から響く──振り向くより早く、別のシモーヌが背後からナーシャを抱きすくめ、頬を触る。
「ちょっと! 放しなさいよ!」
「……久しぶりの感覚」
「分かった! 撃っても無駄なのは分かったから! あんた、虫でしょ!」
「……そうよ」
どうにか振りほどき、距離を取ったナーシャはブラスターを戻す。
「ここ、あんたの家?」
「……そう。万が一のために作っておいたの。……私の体が滅びないように」
「用意周到ね」
「……また、会えて嬉しい?」
「じつのところ複雑ね」
肩をすくめると蜜を指す。
「再会のお祝いに、蜜が欲しいんだけど」
シモーヌは首を横に振る。
「……あげられない」
「こんなにたくさんあるなら、当分先までもつでしょ」
「……違う。……過去から戻れなくなる」
「……どういう意味?」
シモーヌがここまで来た道を指した。アザーノン一派のことを意味しているのが分かった。
「……触ったら大半が、ああなる。……幸せな過去に囚われるか。……永遠に過去と向き合うか」
「過去と……?」
「……私とベニカの特性が合わさって、変異したの」
シモーヌの言葉を聞いても、ナーシャの視線は金色の蜜から離れない。
「……それでも取らないと。みんなが大変なの」
そうつぶやいて屈めば、金色の蜜の表面に自分の顔が映る。
「……危険すぎるわ」
「そうね。だから手に入れる価値がある」
ナーシャの指先が金色の蜜へ沈む──意識が吸い込まれた。
とある港で停まっていた時、〈シナトベ〉の傍で青い衣に茶色のマントを羽織ったアスタラが立っていた。
『アスタラ! 出発するわよ!』
ナーシャの呼びかけに、振り返るその顔が浮かないものだった。
『どうかしたの?』
『……ここ最近、同じ夢を見ている』
『どんな夢?』
『私の目の前でお前が死ぬ夢だ』
『やめてよ。縁起でもない』
『ここで別れた方がいい』
苦笑するナーシャにアスタラは真面目な顔で言った。ナーシャの顔色が少しずつ変わる。
『……そんなことで私たちの旅を止めるの⁉』
『私も夢がすべてだとは思わない。だが……これだけ見るとなっては、不吉の
そのまま背中を見せるアスタラに、ナーシャは二の句が継げない。
『で、でも……!』
『私は……お前を死なせたくない』
聖痕が刻まれた拳をギュっと握り締める。アスタラは振り返ってナーシャを抱きしめた。
『ま、待って……!』
『……ありがとう。ナーシャ』
『っ! 二度とツラ見せるな! バカヤロー‼』
予期せぬ別れに唇を震わせて叫ぶ。
これが一年前に、二人が喧嘩別れしたきっかけだった。
現在のナーシャがその場面を眺める。
「……私たちを引き裂いた坊や」
シモーヌが隣に現れ、アスタラのことを憎々しげに評した。
「そうね。アスタラと会って、私の世界は変わった」
「……そして、自分勝手に去っていった」
だが、ナーシャは平然とした顔でシモーヌを見る。
「でも、今も旅をしてる。喧嘩してもね。あいつとはそういう仲なの」
「……羨ましい」
心の底からの言葉に、ナーシャが苦笑すると記憶が切り替わった。
『終わったぁっ‼』
まだ若いナーシャが、完成した〈シナトベ〉のコックピットで歓声を上げた。
ナブーの岸辺に打ち上げられていた〈ボンゴ〉をコリコーまで運び、そこから回路や部品を借金してまで買い集め、一つずつ組み上げていった。
そして、五年の歳月を経て。文字通りナーシャの血と涙の結晶が、ついに一隻の船として完成した。
「キキ・トランスポーテーション」のドックの隅には、ある四人がいた。
『やりきったんだね、坊ちゃん』
ナーシャがコリコーへ来た頃から、何かと世話を焼き、ずっと見守ってきたソノ。
『……終わったのね』
王女だった頃からナーシャを知る、この中では最も付き合いの長いシモーヌ。
『ようやく借金地獄の終わりの始まりってわけね』
悪態をつきながらも、誰よりもナーシャを気にかけていた親友で、ナブーからの移民であるミア。
『お疲れ様です、ナーシャくん!』
縁から始まり、いつしか友人となったトワイレックの少女、
四人の声が完成したばかりのコックピットへ届く。
ナーシャはコックピットから見下ろしながら、満面の笑みを浮かべた。
『ありがとう、みんな!』
この時は、ナーシャにとってかけがえのない時間だった。
まだ何も知らず、ただ前だけを見ていた頃。仲間たちと笑い合い、喧嘩をして、夢を追いかけていた──今となっては、もう戻れない日々だ。
『みんな乗って! 〈シナトベ〉の試験飛行よ!』
四人が〈シナトベ〉に乗り込んでくる。
『爆発しないでしょうね?』
ミアが冗談めかして副操縦席へ座る。
『私の腕を信じなさいよ。金欠女』
『借金女に言われたくないわよ』
言い合う二人を見て、ソノが笑いながら肩を叩く。
『まあまあ。ここは坊ちゃんを信じようじゃないか』
シモーヌは適当な壁に背中を預け、不思議そうに辺りを眺めている。
『このこと記録してもいいですか!』
興奮したメガネちゃんがメモを取るためにペンを構える。
『もちろん! じゃあ、しっかり掴まっててよ!』
ナーシャが操縦桿を握る。エンジンが唸りを上げた。
次の瞬間、〈シナトベ〉がドックから凄まじい速度で飛び出していく。
『ふぉーっ!』
『飛ばし過ぎよ……!』
悲鳴混じりの声と笑い声が、コックピットに響き渡る。
あの頃は、誰も疑わなかった。この五人で、ずっと一緒にいられるのだと思っていた。
適当な惑星に降りると、全員がそのまま外へ出る。完成した〈シナトベ〉を記念して、ホロカメラで記録を残すためだった。
『撮るわよ!』
ホロカメラを少し離れた位置に置くナーシャ。
『ほら、じっとしな』
落ち着きのないナーシャとミアの肩を持つ、ダソミアの魔女ソノ。
『……こういうの、初めて』
少し離れたところで、どこか居心地が悪そうに苦笑する、虫の群生生命体にして賞金稼ぎのシモーヌ。
『綺麗に撮ってよ』
胸を張って笑う、移民のミア。
『ナーシャくん。くすぐったいです!』
ナーシャに抱きつかれて、身をよじる作家志望のメガネちゃん。
『笑って!』
異色の組み合わせだった。
元王女のパイロット。
ダソミアの魔女。
虫の群生生命体で賞金稼ぎ。
ナブーからの移民。
そして、作家を夢見るトワイレック。
そんな五人が、完成した〈シナトベ〉を背に並ぶ。
ホロカメラのシャッターが切られた。光が弾け、五人の姿が立体映像として記録される。
笑顔も、ふざけたポーズも、まだ何も知らなかった頃の、五人の姿も。その記録は、今もナーシャの手元に残っている。
もう二度と戻れない、かけがえのない思い出として。
「懐かしい。五人でいつも騒いだわよね」
「……戻りたいと思わない?」
シモーヌの言葉に、ナーシャは記録の中で笑い合う五人へ手を伸ばす。そこには、もう戻れない過去がある。
笑い、騒ぎ、くだらないことで喧嘩して──それでも、いつも五人でいた。
ナーシャはしばらくその光景を見つめていた──やがて、静かに首を横に振る。
「……戻らないわ」
それぞれが夢を抱いて、コリコーを飛び立った。
ソノも。ミアも。メガネちゃんも。みんな、自分の人生を歩くために旅立った。
それを自分の寂しさや未練だけで壊すことはできない。それは、仲間たちの夢を否定することになる。
あの頃の絆さえも、自分から否定してしまう。
「……これでいいの」
ナーシャは、記憶の中で笑う自分たちを見つめた。
今すぐに戻りたいと思うほど、大切な時間。だからこそ過去のままではいられない。
ナーシャがフッと笑って手を下ろす──目の前の記憶がゆっくりと切り替わっていった。
次に見えたのは、まだ青いジャケットすら着ていなかった十代前半のナーシャ。その目の前には、一人のガモーリアンの背中があった。
『いいかナーシャ。空を飛ぶってのは……自由を買うことだ。だがな、その自由ってのは、何かを失って手に入れるもんだ。覚悟のねぇ奴に空は向いてねぇ』
そう言って、海賊のガモーリアン、マイ=アーレは〈レディ・ジーナ〉へ向かっていく。
海賊見習いだったナーシャは、まだ何も知らなかった。だが、その言葉だけは胸の奥深くに刻み込んだ。
『飛びたいなら上を向け。下向いてても空は見えねぇからな』
ナーシャは〈レディ・ジーナ〉の前に立つ仲間たちを眺める。空を飛ぶことへの覚悟を教えてくれた、気の良い仲間たち。
「あの人たちがいたから、私はここにいる」
全員、この世にはもういない──だからといって、あの時間まで無かったことになるわけではない。
ナーシャは静かに彼らを見つめる。
「……まだ飛びたい?」
シモーヌが尋ねた。
「もちろん。でなきゃ、私じゃないわ」
さも当然のように言うと、ナーシャは静かに彼らを見つめた。受け取った物は、もう十分に胸の中にある。
シモーヌはしばらく黙ってナーシャを見つめる。その表情には、寂しさと、どこか諦めにも似たものが浮かんでいた。
「……次で、最後よ」
シモーヌが静かに言った。
ナーシャは困惑した。まったく覚えのない記憶──だが、見覚えはあった。十年以上暮らしていた場所だ。
「……フーの王宮じゃない。どういうこと?」
そこは滅びる前の故郷フーの王宮、その一室だった。窓から月明かりが差し込んでいる。
部屋には豪華なベッドの横に、小さな揺り籠が置かれていた。
そこには赤毛の赤ん坊が寝かされ、スヤスヤと穏やかな寝顔を見せている──その顔を、黒い塊が覗き込んでいた。
『何をしているの……?』
女性の戸惑う声が響いた。王家のティアラを被り、ターコイズ色のドレスを着た女性が、慌てて赤ん坊を抱き上げると、黒い塊から距離を取る。
『離れなさい! シモーヌ!』
黒い羽虫の塊、シモーヌは赤い目を光らせながら、辛うじて手に見える部位で女性を指した。
『アナシア、シモーヌ、いっしょ』
フーでは肉食生物として知られる、この名もなき虫と、フーの若き女王、アナシア・ナジカ・バレイ=フーは奇妙な縁を結んでいた。
アナシアは、人も動物も虫も、生きとし生けるものすべてを平等に愛する人物だった。故に、フーの王妃になった。
だが、出産を経験したアナシアの視線は、どうしても赤ん坊へ向くようになった。抱きかかえる娘、アナスタシアに。
シモーヌの手が赤ん坊に向いた。
『そのにく、くう、アナシア、シモーヌ、みる』
シモーヌにとって、赤ん坊に恨みなどなかった。ただ、いつも自分を見ていたアナシアの目が赤ん坊に向くのが、嫌で仕方がなかった。
『……シモーヌ』
『そのにく、よこせ』
アナシアがアナスタシアをより強く抱きしめ、シモーヌを見る。
『……そう。私に見てほしいのですね』
覚悟を決めた顔をして、アナシアは揺り籠にアナスタシアを戻すと、その無邪気な顔を優しく撫でた。
『大丈夫。どこにいても母がいます……』
アナシアはシモーヌに向き直ると、ゆっくりと手を広げる。
『シモーヌ、それならば私を食べなさい』
『アナシア、くう?』
『えぇ。そうです。それなら、ずっと一緒になれます』
『アナシア、シモーヌ、いっしょ?』
アナシアが微笑む。
『ええ。一緒よ』
その言葉を皮切りに、なんの疑問も持たなかったシモーヌを構成する黒い羽虫の群れが、一斉にアナシアへ殺到した。
無数の虫がアナシアを包み込む――それでもアナシアは逃げなかった。娘を守るため、その命を差し出した。
『強く生きて。アナスタシア……』
虫の波が静まると、床には傷一つないアナシアが倒れていた。
その代わりに立っていたのは、白い女だった。
『……アナシア。ずっと一緒よ』
シモーヌは自分の身体を抱きしめる。
シモーヌの種は、相手を喰らうことで、記憶、感情、癖、愛情、恐怖などを取り込むことができた。そのため顔はアナシアに瓜二つになった。
すると、揺り籠のアナスタシアが泣き出した。まるで母親の死を感じ取ったかのようだった。
『……うるさい』
シモーヌは冷たく言い放ち、再び揺り籠を覗き込む。今度は殺意を持って。
だが、アナスタシアを見た瞬間、涙が流れてきた。
『……どうして?』
目を拭いながら、訳の分からない感情に困惑するシモーヌ。
頭の中にアナシアの記憶が流れ込んできた。抱きしめた感触、守りたいという感情。シモーヌは息が詰まりそうだった。アナシアの記憶が、心の奥で囁く。
『この子は絶対に守る』
シモーヌは白く震える指を伸ばし、泣くアナスタシアの顔に触れる。
すると、アナスタシアは泣き止んだ。まるで母親に触れられたことで安心したように。
その夜からだった。ただの虫の塊だった生命体が、一人の少女を愛し、守るようになった。
ナーシャはその場面を見て、目を見開く。
「あんたの……顔を触る癖……母様の癖だったの……?」
「……そうよ。アナシアの癖」
真実に驚くナーシャ──視界が切り替わる。
暖かな日差しの中で、アナシアが腕の中のアナスタシアをあやしている。
『アナスタシア。ここにいますよ』
「母様……」
ナーシャの目が虚ろになる。流石のナーシャも完全に心を揺さぶられていた。
絵画や記録などでしか見たことのない母親が、生きた姿でそこにいる。今なら手を伸ばせば、届くような気がした。
『きっと、あなたはフーに名を
親子で話が出来る。たくさん話したいことがあった──だが、次の言葉でナーシャが動けなかった。
『人を助けられる、優しい人間になればいいのですが』
「そうよ……私には、まだやることがある」
ナーシャの目に光が戻っていく。
「〈シナトベ〉で飛びたいし、冒険をしたい……。そのためにも〈ピースメーカー〉を壊す!」
両頬を手でパンと叩く。その目から迷いが消えていた。
「母様! 行ってくる、銀河を救いに!」
ナーシャは大声を出す。黙ったままのシモーヌの横を通り過ぎ、部屋を出ていく。
声を掛けられたことに気付いたかのように、アナシアは振り向くと優しく微笑んでいた。
ナーシャが目を開く。元の巣の中にいた。
「……おかえり」
シモーヌが少し驚きながらも、誘惑に打ち勝ったナーシャに声を掛ける。
「……ただいま」
「……これからどうするの?」
「そうね……」
ナーシャは手を泉に向けた。泉の中から六角形の物体が理力によって引き寄せられる。
現実に戻ってきてから、ずっと違和感を覚えていた。
「こうするのはどう?」
ブラスターで、それを撃ち抜く。それがシモーヌの核となる部分。これを破壊することでシモーヌの復活を阻止し、蜜を無害化できると、理力から推測した。
核を壊されたシモーヌがふらつく。
「……坊やと同じ力を持ってたのね」
「昔の私とは違うわよ」
そう笑うナーシャに、シモーヌもどこか誇らしげに微笑む。
「……本当に大きくなったわね」
「母様……の代わりとして、私を見守ってたのね? 王女の頃から」
「……そうよ」
ナーシャはどこか恥ずかしそうに頭を掻く。
「あんたに、こういうこと言うの、らしくないけど――ありがとう」
「……愛してるわ。……ナーシャ」
「懐かしい。いつもの台詞――えっ」
微笑むシモーヌに、ナーシャは突然、体を突き飛ばされた。
直後、ブラスター弾がシモーヌの胸を貫通する。
「シモーヌ!」
「……ふざけるな」
急いで振り向くと、正気に戻ったアザーノンがブラスターを構えていた。
「アザーノン、あんた……⁉」
「俺を誰だと思っている……裏社会の頂点に立つ男だぞ……!」
ナーシャは、ブラスターをちらつかせながら、そんな戯言を吐く小悪党を睨む。ゆっくりと手を下ろした。
「なんだ、その目は。俺を……見下すな……!」
そして、ブラスターの発砲音が響いた──ナーシャが右ブーツに仕込んでいた小型ブラスターで、アザーノンを撃ち抜いた。
アザーノンは蜜の中に落ちると、そのまま奥底へ沈んでいった。
「あんたみたいな悪党には、もったいない最期よ」
ブラスターを放り捨て、ナーシャはすかさずシモーヌを抱き上げる。
「シモーヌ、大丈夫⁉」
シモーヌはゆっくりと首を横に振った。
「なんで、どうして……」
「……愛してる、って言ったでしょ」
真実を知るまでは冗談だと思っていたナーシャが苦い顔をする。
「……それより、急いで。……巣が崩れる」
その言葉とともに巣が揺れ始めた。
「でも!」
「……やることがあるんでしょ」
シモーヌに言われ、ナーシャは悔しそうな顔をしながら、当初の目的だった蜜の採取に掛かる。
パドゥから貰ったビンに蜜を満タンに汲み、蓋を閉めた。
「これで足りるわよね……」
振り返ると、シモーヌの体がほとんど崩れていた。
「シモーヌ!」
「……また、会えてよかった」
シモーヌは残っていた手でナーシャの顔に触れる。ナーシャはその手を、上からそっと握った。
「これで……本当にさよなら、ね」
「……ええ。……また、五人で……集まり、たかった……」
その言葉を最後に、シモーヌの体が完全に崩れた。
同時に巣が音を立てて崩れ始める。寂しさに浸る暇もなく、ナーシャは出口へ走った。
「大丈夫なのかい……⁉」
ソノの目の前で、誰も出てこないまま閉ざされていた巣の入口が崩れていくのを見ていた──開いていた細い隙間を縫うようにして、ナーシャが飛び出してきた。
「ナーシャ!」
「早く離れて!」
二人が足早に離れると、巣は跡形もなく崩れ去っていく。
ある程度、距離を取ったところで振り返り、足を止めたナーシャは、その跡を静かに眺めた。
何かあったと察したソノが、隣に来ると静かに話し掛ける。
「……中で、何があったんだい?」
「そうね……
そう微笑むと、晴れやかな顔でスピーダーの元へ向かう。
「ありがとう、ソノさん。私はこれをマーレに届けないと」
「……ナーシャ、気をつけるんだよ!」
ソノの声掛けに背中を向けて手を振って応える。
もう懐かしい過去には戻れない。
今、やるべきことが残っていた。