石花病の治療薬となる氷晶を求め、ソフィア、パドゥと共に惑星ルプスへ向かった。
だが、ソフィアは初めての操縦に挑戦し、危うく船を壊しかける始末。さらに旧知のペテン師、ペティル・ペイトンと遭遇し、やむを得ず調査隊と雪山へ入ることになった。
そこで凶暴なユルガンの群れに襲われた上、私は理力が弱まっていることにも気づく。
どうにか辿り着いた洞窟の奥で巨大な氷晶の塊を発見するが、壁には、欲深い者には天罰が下る、と刻まれていた。
それでも、私たちが氷晶を手に入れた直後、氷床が崩れ落ち、私たちは暗闇へと落下していった。
アスタラは柔らかい雪の上で目を覚ました。
かなり高所から落ちたが、大きな怪我はせずに済んだ。
周りを見渡すと、ソフィアとパドゥも近くに倒れている。
「二人とも大丈夫か」
「……ええ」
「なんとか……」
起き上がる二人に手を貸し、上を見上げる。落ちてきた床が凍りつき、天井を塞いでしまった。
「……閉じ込められてしまったようですね」
「必要ならセーバーで道を開く。氷晶は?」
「僕が持ってます」
パドゥが袋を掲げた。
「ペイトン氏はどこに?」
ソフィアが周囲を見回す。ペイトンたちとは、はぐれてしまったようだ。
「気にするな。しぶとい男だ。ともかく出口を探さないと」
周囲の探索を始める。パドゥが落としたランタンを拾い上げ、明かりを点ける。前方を照らすと、一体の氷像が立っていた。
「うわっ!」
声で二人が振り返る。
「これって……」
氷像の胸元には銀河調和防衛軍の軍章が刻まれていた。
「彼ら以外にも軍は調査隊を送っていたのですね」
「……早く出口を探そう」
「ついてねぇな」
ペイトンは体に付いた雪を払いながら、転落によって息絶えた隊員たちを見渡す。
周囲では生き残った隊員たちが散開して辺りを探る。そのうちの一人が話しかけてくる。
「ペイトン。ほとんどやられた」
「分かってるよ。どっちにしろ出口を探さねえと、連中が持ってちまうぞ」
あくまでも氷晶が重要なペイトンが吐き捨てた。
その時、至る所から小さな物音が聞こえたかと思うと、地面の下が動いたような気がした。
「なんだぁ、今の……?」
「うぎゃああああぁぁぁ!」
突如、洞窟に隊員たちの悲鳴が響く。見ると全身に白い大群が纏わりついていた。
何か聞いた気がしたパドゥが振り返る。
「……今の聞こえました?」
出口を探すアスタラと、壁に耳を当てるソフィアと視線が合う。
「……続けよう」
嫌な予感を覚えながらも作業を続ける。
「あっ、待ってください」
壁に沿って耳を当てていたソフィアが立ち止まった。
「ここだけ、音が違います」
壁を軽く叩く。
「おそらく、向こう側に空間があるはずです」
アスタラがセーバーを構える。
「私が開ける」
青い光刃が氷壁を溶かすと、崩れた氷の向こうに細い通路が現れた。
「出口だ!」
パドゥが顔を輝かせる──その瞬間、背後の雪が山のように膨らむ。さらに雪面の至る所に穴が開く。
「まさか……」
次の瞬間、雪が一斉に噴き上がり、白い雪煙の中から無数の白い虫が姿を現す。
「アイスアントです!」
ソフィアが叫んだ。
「逃げろ!」
アスタラが二人を隣の空間へ押し込み、自らも飛び込んだ。
ソフィアを先頭に三人は逃げる。壁や氷柱からもアイスアントが湧き出す。
「うわああぁぁぁぁっ!」
「パドゥ、振り向かないで!」
「走れ!」
数万匹のアイスアントが迫ってきた。
「……そうだ! アスタラさん、これっ!」
走りながらパドゥがバッグの中を漁る。取り出した物を、そのままアスタラに手渡す。
「これはなんだ!」
「僕が作った爆弾です! 熱を圧縮して、一気に解放する──」
「説明はいい! 投げるぞ!」
「はい!」
アスタラが振り返りざまに投げる。
群れの中へ落ちると、熱に引き寄せられていく。
「こっちに!」
ソフィアに誘導され、二人が壁の陰に隠れた──激しい爆発が起き、アイスアントの群れが吹き飛ぶ。
「……何に使う気だったんだ?」
あまりの威力にアスタラが尋ねる。
「何かの役に立つと思って……」
「……そうか」
アスタラはそれ以上、何も言わなかった。
壁や天井も崩れた──その隙間から、またアイスアントが溢れ出す。
「まだ来る!」
「走って!」
三人は再び走った。やがて、いくつもの細い隙間が並ぶ場所に出た。
「どれだろう⁉」
「……こっちから風を感じます!」
「そっちに行こう!」
ソフィアが示した隙間を選ぶ。
三人が隙間を抜けた時、アスタラに誰かがぶつかり転倒した。見ると、はぐれた隊員の一人だった。
「生きていたのか……⁉」
「来る、来る……!」
足を骨折しているのか、うまく立てない隊員の言葉で後ろを振り返る。すると、向こうからも大群が迫っていた。
「行け!」
二人を先に行かせ、アスタラも素早く立ち上がる。
「ま、待ってくれ──うぎゃああ……!」
ハッとして振り返り、手を伸ばす隊員を助けようとした──瞬く間に全身をアイスアントに覆われ、隊員の身体が氷像と化した。それを見たアスタラは慌てて逃げる。
「光だ!」
遠くに穴から差し込む日差しが見えてきた。
「パドゥ! まだ爆弾はあるか⁉」
「あります!」
「全部、渡してくれ!」
「は、はいっ!」
爆弾を受け取り、壁や地面に次々に貼り付けていく。
「えぇ⁉ やりすぎです! 山が吹き飛んじゃいます!」
「いいから、外に出ろ!」
最後の一つを起動し、出口付近に取り付ける。
「行きますよ!」
ソフィアの掛け声で三人が一斉に外へ飛び出した──その先は、急斜面だった。
「うわああぁぁっ!」
転がり落ちる三人の背後で、轟音を響かせながら、山の中腹が崩落していく。
爆風に煽られ、氷晶が入った袋を宙に放り出し地面へ落ちた。
そして、袋を拾い上げる手があった。
「派手な脱出だったな」
薄ら笑いを浮かべる男──ただ一人生き残ったペイトンだった。その背後に兵士が並ぶ。
「相変わらず、俺に運が回ってくるなあ。アスティ」
「ペイトン……!」
睨むアスタラの前で振り向く。
「大佐。お約束のブツだぜ」
「どけ!」
前を塞ぐ兵士を怒鳴りつけ、退かせる。その奥から銀河調和防衛軍の軍服を着た、黒い肌でスキンヘッドの大男が姿を現した。
ペイトンに袋を開けさせ中身を確認する。
「ふん。エセ学者にしては、仕事をこなしたな」
「……そりゃどうも。ゴルザ大佐」
ゴルザが手を振ると、兵士が保管用のケースを運んでくる。
「軍部の上層部も、これでお喜びになる。〈ピースメーカー〉の生活用水には十分だ」
「生活用水ですって……?」
「そんなことのために……!」
袋ごとケースに収めた──咆哮が辺り一帯に響き渡った。続けてドスンといくつもの着地音が鳴り響く。
ユルガンの襲撃だった。大群が
「おいおい……昨日とは比べ物にならねえぞ!」
流石のペイトンの額に冷や汗が浮かぶ。
「……今のうちだ」
その隙にアスタラが二人へ合図を送り、三人は物陰へ身を隠した。
「怯むな! 貴様ら、それでも軍人かぁ!」
あまりの勢いに兵士たちが
「構えろ!」
兵士は寒さか恐怖からか、震える手を抑えながらブラスターを構えた。
「撃てぇ!」
無数の光弾がユルガンへ降り注ぐ。何頭ものユルガンが倒れるが、それを踏み越えて、なお大群が迫ってくる。
やがて戦場は、ブラスターを撃ち続ける兵士と、剛腕を振るうユルガンが入り乱れる、白兵戦の様相を呈していた。
何人もの兵士が投げ飛ばされ、殴り倒される中、迫る一頭にゴルザは真っ向勝負に出た。
ユルガンの顎に何発もの強烈なパンチを叩き込む。怯んだ巨体をそのまま持ち上げ、頭から地面へ叩き落とした。
「この銀河調和防衛軍第二部隊指揮官、ゴルザと力比べなど片腹痛いわ!」
「……ノックスとは、まったく違う奴だ」
その戦いぶりを見て、アスタラはゴルザをそう評価した。
それでも若干、劣勢のところで、轟音とともに砲撃が響き、ユルガンが吹き飛ばされる。
雪原をキャタピラで踏みしめる戦車。その後方には、ブラスター砲を搭載したスノースピーダーが
戦車とスピーダーによる援護射撃を受け、ユルガンが次々と蹴散らされていく。
「お先に失礼!」
ケースに収められなかった袋を抱えたペイトンが、我先にと戦車へ飛び乗る。
「出発しろっ!」
続いて乗り込んだゴルザが指示を飛ばす。戦車が雪煙を巻き上げながら走り出した。
「マズイ!」
アスタラが飛び出すが、時すでに遅い。
「あばよ! アスティ!」
ペイトンが車内から手を振る。
「アスタラ!」
ソフィアとパドゥが駆け寄った。
「どうしましょう!」
手をこまねく三人の前に、一台のスピーダーが戦闘の余波で弾き飛ばされてきた。
「乗れ!」
アスタラが運転席に、二人が後部座席に乗り込む。三人が乗ったスピーダーが雪煙を巻き上げて、ペイトンたちを追って走り出した。
なだらかに見えて、高低差の激しい雪原を戦車が踏み越え、スピーダーの連隊が飛び越えていく。
その背後を、アスタラたちのスピーダーが猛スピードで追う。
「前の車列が邪魔だ……!」
「天井の砲台は使えませんか⁉」
パドゥの言葉に、アスタラは助手席へ目を向けた。そこに砲台を操作するレバーがあった。
「乱射して
「わたくしがやります」
ソフィアが身を乗り出してレバーを握り、スイッチを押す。激しい砲撃音が雪原に鳴り響いた。
突然、背後から撃たれたスピーダーの車列が乱れる。何台もの車体がバランスを崩し、雪面を滑っていく。その隙に、進路が開いた。
アスタラは
「っ⁉」
アスタラはハンドルを切り、戦車の隣へ並ぶ。だが、今度は横からキャタピラが迫ってくる。
急いで速度を上げたことで潰されずに済んだが、スピーダーが戦車の前に飛び出した。
「追い抜いちゃいました!」
一転して追われる形になった直後、戦車の砲台が火を噴く。目の前に細長く伸びていた岩が砲撃を受け、倒れてきた。
「伏せろ!」
三人が一斉に座席へ身を伏せる。
横倒しになった岩がスピーダーの天井を削り取り、そのまま後方へ抜けた。車体は天井を失い、オープンカーのような状態になった。
顔を上げて後ろを見ると、戦車が倒れた岩を砕くのに手間取っていた。
アスタラはスピーダーをUターンさせ、戦車へ向かう。
「どうしますか⁉」
「……乗り移って、奴らから氷晶を取り戻す」
速度を落とし、アスタラが運転席から立ち上がるとタイミングを計る。
「アスタラさん! 何かお手伝いできることはありませんか!」
パドゥに尋ねられ、アスタラは少し沈黙した。
「ソフィアにハンドルを握らせるな」
「……分かりました!」
いざ飛び移ろうとした瞬間、アスタラは何かに気づいた。
「……待て。今、操縦してるのは誰だ?」
二人が振り向く。そこには運転席でハンドルを握るソフィアの姿があった――直後、スピーダーが雪面を跳ねた。
「うわぁぁぁっ!」
車体が大きく傾き、二人が車外へ投げ出される。
次の瞬間、二人は追跡していた戦車の上へ叩き落とされた。
アスタラはすぐに立ち上がると、セーバーを抜いて砲塔の回転部に突き刺す。
「……パドゥ!」
刺したまま周囲を見回すが姿が見えない。
「パドゥ、どこだ──うっ!」
直後、旋回してきた砲塔が腹部に直撃する。
「ぐっ……!」
そのまま体を持ち上げられ、セーバーも手から弾き飛ばされる。ふと下を見ると反対側にセーバーとパドゥが倒れていた。
「パドゥ……!」
アスタラはどうにか砲塔から車体へ降りる。その瞬間、横から拳が飛んできた。
「ぐっ!」
鉄骨で殴りつけられたような衝撃に、意識が遠のきかける。
「この古代人が!」
ゴルザが拳を握りしめながら立っていた。
「我々の邪魔をするなぁっ!」
拳が振り上げられる。アスタラが身をかわすと、拳はそのまま背後へ振り下ろされた。轟音とともに、アスタラの頭があったキャタピラのカバーが大きくひしゃげる。
「……アスタラさん! うわぁ⁉」
気が付いたパドゥは目の前にあったセーバーを拾い、アスタラに渡そうとする。だが、そこへ別の兵士が車内から飛び出してきた。
ブラスターが火を噴く。パドゥは車体の上を走り回り、どうにか射撃をかわす。
一方、アスタラも理力を使おうとするが、やはりまったく発揮できない。
「くっ……!」
ゴルザにスカーフを掴まれ、そのまま引き上げられる。首が締まり、息が詰まった。
抵抗する間もなく、アスタラは車体の上に引き倒され、馬乗りにされる。
「アスタラさん……!」
万事休すの状況。見るとエンジン機構の辺りに何かが丸まっていた──イサラミリだ。
「またこいつ──待てよ」
そこでパドゥは気づいた。イサラミリを見つけた時、アスタラは調子が悪いと言っていた。
パドゥはブラスターを避けながら、イサラミリを放り捨てる。
「うおりゃあ!」
瞬間、アスタラの体に理力が戻る感覚が走った。
「くたばれ、古代人!」
拳が振り下ろされる寸前、アスタラは理力で砲塔を引っ張る。
砲塔がゴルザに直撃し振り回す。その勢いは凄まじく、パドゥを襲っていた兵士を巻き込み、兵士は前進するキャタピラの下へ消えていく。
さらに回転に耐えきれなくなった砲塔の回転機構が悲鳴を上げ、ついに破損した。急停止による慣性で、ゴルザが雪原へ転げ落ちる。
「うがあっ……あいつ……!」
雪まみれになりながら立ち上がった──ゴルザの背後を大きな影が覆った。
「おぎゃぁっ⁉」
次の瞬間、ソフィアが操縦するスピーダーがゴルザを雪の中へ押し潰す。
大量の雪煙が舞い上げて、スピーダーはそのまま戦車を追って走り去った。
「アスタラさん!」
パドゥからセーバーを受け取る。
「ありがとう。先にスピーダーに戻っていろ!」
パドゥが横に並んだスピーダーへ乗り込むのを見届け、アスタラは戦車の装甲へセーバーを突き立てた。穴を開け、車内へ侵入する。
兵士がギョッとしてブラスターを構えるが、引き金を引くより早く、理力でブラスターごと兵士たちを外へ放り出し、雪原へ叩きつけた。
「ア、アスティ……!」
袋を抱えたペイトンが引きつった顔で後ずさる。
「やあ、ペイトン」
アスタラは笑顔すら浮かべず、ペイトンの顔面に強烈な拳を叩き込んだ。
袋を取り返すと、外からパドゥの呼び声が聞こえた。
「アスタラさん、崖です‼︎」
外を見ると、切り立った崖が目前まで迫っていた。
アスタラは理力を使い、ハンドルを強引に切る。片側のキャタピラが空転し、戦車の巨体が横滑りした。そのまま雪面の段差に乗り上げ、車体が大きく傾く。
戦車は横転し、雪煙を巻き上げながら斜面を滑っていく──崖の縁ギリギリで、ようやく停止した。
スピーダーが傍に停まり、二人が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!」
「先に行け……!」
袋を手にしたアスタラが戦車から這い出してきた。
無事を確認し、崖を見ると精巧な氷の橋が架かっている。
「あれを渡りましょう……!」
二人が橋を渡っていくが、渡り切る寸前、ソフィアが突然パドゥを抱き寄せる。
吹雪に紛れて見えなかったが、橋の向こう側に別行動を取っていた兵士が待ち構えていた。
そこで袋を腰に結わえたアスタラも橋を渡ろうとして、その状況に気づく。
「まだ終わってねぇぞ……!」
背後から声が響く。振り向くと、殴られた顔を抑えたペイトンがブラスターを握って迫ってきた。
前からも兵士たちが橋を渡ってくる。
「落とすぞ! 私たちに手を出すな!」
袋を橋の外に掲げるが、ペイトンは大口を開けて笑う。
「やれよ、アスティ!
「アスタラさん!」
「来ます!」
全員の声が渓谷に反響した。
「くっ──そうだ……」
あることを思い立ち、アスタラはワイヤーフックを足元に投げた。橋を貫き、返しが掛かる。
「パドゥ! オルム=アンジェだ!」
なんのことか察したパドゥもフックに手を掛ける。
「……ソフィアさん、フックを橋に」
「あぁ……」
その囁きで、ソフィアはアスタラが何を考えているのか分かった──二人もフックを刺す。
「ナーシャと一緒がよかった……」
「あの人はああやって生き残ってきたんですよ……」
「……それで納得できるの?」
「……納得できるわけ無いじゃないですかぁ!」
アスタラが袋を高く掲げる。
「ペイトン、宝が欲しいかッ!」
吹雪の向こうでペイトンが目を見開く。
「なら、取りに行け……地の底で!」
理力で腰のセーバーを起動する。青い光刃が吹雪を切り裂いた。
アスタラは体を大きく捻り、氷の橋を横薙ぎに斬り払う。
「やめろ、正気か⁉」
足場の氷が砕ける。ソフィアとパドゥはワイヤーをしっかり握って伏せ、支えの無い兵士たちは悲鳴を上げながら奈落へ落ちていった。
橋が割れる瞬間、ペイトンがアスタラ側へ飛びつく。
二人は橋の残骸に辛うじてしがみついた。遥か下には青白い闇が広がる。
「登りましょう!」
ソフィアたちはワイヤーを頼りに崖を登っていく。
「アスタラ……! テメェっ!」
一方でペイトンが片腕だけで体を支えながら、アスタラへ拳を叩き込む。
「ぐっ!」
負けじとアスタラもペイトンを殴り返す。壁になった橋にしがみついたまま、二人は殴り合う。
「俺の宝だ、寄越せ!」
ペイトンが袋を引っ張るが、アスタラも握り締めて離さない。
「……お前はいつもそうだ!」
「何がだ!」
「金と宝しか見ていない!」
「天地にあるすべての物を欲するは、知的生命の
ペイトンが叫ぶ。袋が破けて氷晶が落ちていく。
「あっ!」
二人の視線が下へ向く。袋からこぼれ落ちた氷晶は、崖の一部に引っかかって淡く輝いている。
ペイトンは滑り降り、アスタラはワイヤーを伸ばして、氷晶を挟んで二人が手を伸ばす。アスタラの手はわずかに届かず、理力で氷晶を引き寄せる。
「俺の宝だ……!」
「いい加減にしろ! 書いてあっただろう!
「俺のだぁッ!」
構わず手が氷晶に触れた──その瞬間、冷気が噴き出した。
「……え?」
指先が白く凍りつく。
「な、なんだよ……こりゃ……!」
氷は腕を這い上がり、肩を覆い、全身へと広がっていく。
「あああああ……!」
体がみるみる氷に包まれ、最後に残った顔が恐怖に歪み、体勢を崩した。
それを見たアスタラは、ペイトンの手から氷晶を理力で取り上げる。
完全に凍りついたペイトンは氷の塊となって落下し、深い闇へ吸い込まれ、やがて小さな光を残して砕け散った。
「引き上げますよ……!」
ソフィアがパドゥを引き上げ、息を切らした二人はアスタラを待つ。
アスタラが縁から顔を出すと、手の中の氷晶を見せた。理力で膜を作り、凍りつかないようにしている。
「やった……!」
二人が安堵の笑みを浮かべるのを見て、アスタラは力が抜けたように、その場にもたれ込んだ。
こうしてアスタラたちは氷晶を手に入れることに成功したのだった。
惑星ラグザでは、海賊たちが続々と集結していた。
アスタラたちがラグザを発ってから、一週間が経っていた。
「まだかい……置いてっちまうよ!」
ドゥルダが焦ったようにつぶやく。
今のところ、心配していたほど感染が広まる様子はなかった。だが、不安は拭い去れない。
そこで、エンジン音が響いた。空を見ると二機の宇宙船が姿を現す。スムーズに着陸する〈シナトベ〉と、フラフラとその横に〈テティス〉が降り立つ。
「船長ただいま!」
〈シナトベ〉からナーシャとアスタラとパドゥが元気な姿を見せる。
「ママ! ワクチンを持ってきました!」
「遅かったじゃないか!」
「作るのに手間取っちゃって。でも、もう大丈夫です!」
一方の〈テティス〉からは、ソフィアと青い顔をした医師団が降りてきた。
「あなたがドゥルダ様ですね? わたくしたちはマーレから参りました」
「わざわざ医療の星からかい。ありがたいねぇ」
「早速、診察に掛かります」
素早く難民キャンプを見て回る医師団たち。
「間に合ったようだな」
「今のところはね」
〈ママ! 〈ピースメーカー〉の通信を傍受したよ!〉
ビッキーが通信機を渡してきた。
「貸しな。ふん……暗号にしても無駄だよ……何?」
ドゥルダの顔色が変わる。
「マズイ、〈ピースメーカー〉の修理が終わった」
アスタラたちが顔を見合わせる。
「……急がないと手が出せなくなる。出発するよ! 何モタモタしてるんだい!」
部下たちに檄を飛ばすと、慌ただしく〈ヒトリガ〉に入っていく。
それを見ながらソフィアがナーシャに声を掛ける。
「……行くのですね?」
「うん」
「わたくしはここに残って経過観察に努めます」
「ありがとうソフィア」
「ナーシャ、必ず帰ってきてください」
「もちろん」
ソフィアがナーシャを強く抱きしめた。
「パドゥ! さっさと船に乗りな」
ナーシャたちを見たパドゥがドゥルダと向き合う。
「ママ! 僕もアスタラさんたちについていきます!」
「何言ってんだい。お前さんみたいな小僧に何ができるんだ」
「僕は〈ピースメーカー〉の主砲の破壊方法を知ってます!」
ドゥルダはしばらくパドゥを見つめた。
「……生きて戻れないよ」
「分かってます!」
「覚悟の上だね!」
「はい!」
「四十分で支度しな」
パドゥは急いで〈ヒトリガ〉に荷物を取りに向かった。
アスタラがソフィアと別れたナーシャに歩み寄る。
「ナーシャ」
「……何?」
「こっちに来て欲しい」
そして〈シナトベ〉の陰につれていく。
「何よ?」
アスタラは覚悟を決めたように目を閉じる。顔を近づけ、ナーシャと唇を重ねた。いきなりのことに目を見開くナーシャ。
しばらくして唇を離す。
「……ど、どうしたの?」
「仲直りの一つになると聞いた」
目を開いたアスタラは真面目にそう答えた。
「……は?」
「仲直りをしたい……なぜ怒って──ぶっ!」
理力で怒りを感じ取った──顔面に見事な右ストレートが炸裂した。
「二度とするな! 意味わかる⁉︎ この変態!」
ナーシャは顔を真っ赤にしながら〈シナトベ〉へ向かう。
一方のアスタラは鼻を抑えながら、何が悪かったのか