石花病の治療薬を完成させ、ラグザの人々を救った私たちは、修理を終えた〈ピースメーカー〉へ向かうことになった。
だが、その裏でギオウはモンローを暗殺し、銀河調和防衛軍の全指揮権を掌握していた。
そして、私たちを始めとする海賊艦隊が〈ピースメーカー〉への攻撃を開始する中、私たちはシールドの隙間をハイパースペースで突破し、強引に艦内へ侵入する。
コアルームへの近道を進む途中、私は故郷を滅ぼしたシセルと対峙し、ナーシャたちを先へ送り出した。
私たちは青と赤の光を放つセーバーを構え、因縁の対決に挑む。
〈ヒトリガ〉を中心とした海賊艦隊は、〈ピースメーカー〉に向かって突撃を開始した。戦闘機の大群が巨大戦艦の周囲を飛び交い、無数の閃光が宇宙を彩った。
一方、艦内でも光が交差していた。槍のようなセーバーを手にシセルが動く。
その動きは速く、目で追うことすら困難だった。アスタラは必死でセーバーを構え、赤い光刃を受け止めた。衝撃が腕に走る。
シセルの剣技は、一撃一撃が的確に急所を狙い、無駄がなかった。
「……弱い」
アスタラの前で、初めてシセルが喋った。
「お前も、その程度か」
アスタラは反撃しようとしたが、シセルの動きが一歩先を行き、すべて防がれた。
さらに、アスタラ自身に異変が起きていた。戦いが激しくなるにつれ、右腕の聖痕が疼き始めた。
シセルの放つ殺意に反応し、心の奥から殺意と悪意が湧き上がってくる。エイゾの焼け野原、ラナとフィーマの最期、無惨に殺された同胞たちの顔が脳裏をよぎった。
「そうだ、怒れ」
シセルの加工された声が、どこか嘲るように響く。
「怒りは力だ」
セーバーがぶつかり、青と赤の火花が何度も通路を照らす。
巨石の前に辿り着いたナーシャたち。
パドゥが背負っていたバックを下ろすと、中から装置を取り出して巨石に取り付ける。
「こいつで周波数を合わせて、共振させれば……!」
その時、自分たちが入ってきたブラスト・ドアが激しく叩かれた。
「バレイ! 開けて、投降しろ!」
向こう側からソーラの声が聞こえる。
「無理に決まってるでしょ……!」
ナーシャがこじ開けられそうなドアにブラスターを構えた。
「パドゥ、急いで!」
セーバー同士で鍔迫り合いになった──その瞬間、柄で顔を殴られる。
「うっ……!」
アスタラが一歩後退する。その隙に、シセルのセーバーが脇腹を掠めた。
「っ! お前は……何者だ……!」
息を荒げながら尋ねるアスタラ。しかし、シセルは答えない。代わりに、さらに激しく攻撃を仕掛けてきた。アスタラは防御に徹する。
理力を使えば、シセルを圧倒できるはずだが、シセルの殺意が聖痕を疼かせ、集中力を削ぐ。
悪意を込めた理力なら、簡単にこの戦いを終わらせられる。しかし、それではアスタラ自身の理力のバランスが崩れ、暴走するかもしれない。
アスタラは覚悟を決め、全力で斬りかかった。だが、それは罠だった。シセルがセーバーの先端に手を添え、何かを操作する。
反射的にアスタラが顔を反らした──その直後、目の前で短い光刃が左右に展開した。
「っ!」
避けきれず、光刃が左目の下を掠め、焼けるような痛みが走る。
シセルは十字の槍となったセーバーでアスタラのセーバーを絡め取ると、そのまま弾き飛ばした。続けざまに突きを繰り出す。
アスタラは理力でセーバーを引き寄せ、十字に展開した光刃の角へ叩きつけた。
二人のセーバー使いの戦いは、激しさを増していく。
シセルは狭い通路でセーバーを振り回す。壁や床が傷ついても構わない。ただひたすらに、アスタラを殺すことだけに躍起になっているように見えた。
対して、アスタラは一撃一撃を凌ぐだけで精一杯だった。セーバーのリーチの差が大きい。このままでは、ジリ貧だった。
アスタラの瞳の色が黄色に変わる。一瞬だけ、理力に悪意を込めた。シセルのセーバーが弾き飛ばされる。
体勢を崩したシセル。その隙を逃さず、アスタラは長いセーバーを真っ二つに切断した。
両手に残った、二つに切断されたセーバーを眺めるシセル。
アスタラはセーバーを突きつけた。
「降参しろ。お前の負けだ」
その言葉に、シセルは手にしていた柄の一部を床へ落とす。そして、残った柄を握ると、内部から伸びていた棒状の部分が外れ、片手持ち用のセーバーへと切り替わった。
「……まだ終わってない」
次の瞬間、シセルは軽々と傍にあった台座へ飛び乗った。
そこから別の台座へ、壁へ、床へ。狭い空間を縦横無尽に跳び回りながら、アスタラへと斬り込んでくる。
長い武器から短い武器へ、戦い方そのものが変わった。
アスタラが得意とする、風のような戦い方がまったく通用しない。
追い詰められたアスタラの身体を、シセルのセーバーが掠めていく。嵐のような猛撃についに膝が折れた。
シセルがとどめを刺そうとした──その瞬間、理力の変化を感じ取った。
パドゥの装置によって、巨石にヒビが入り、二つに割れた。
「やったあ!」
目的を達成した二人がハイタッチをする──その直後、シセルに蹴飛ばされたアスタラが吹っ飛んできた。
「アスタラ⁉」
「大丈夫ですか⁉」
二人でアスタラを抱え起こす。体中に傷を負い、かなりシセルにやられていた。
「巨石は壊したわ! 逃げるわよ!」
アスタラは巨石を一瞥すると首を振った。
「……違う」
「えっ」
「これは、エイゾの巨石じゃない……」
そのとき、場違いな拍手が響いた。カスムがコアルームに入ってくる。
「あんた……!」
「お見事でした。ここまで窮地に追い込まれたのは初めてです」
「余裕ぶっていられるのも今の内だ!」
パドゥが啖呵を切るが、カスムは微笑んだまま、首を振る。
「君は……確か、パダワン君でしたかね?」
「パ・ドゥー・ワだ!」
「どちらでもいいです。それにしても、いただけませんね」
「何がよ!」
カスムは傍のコントロールパネルを操作すると、制御装置真下の隔壁が開く──遥か下の貯蔵庫に、エイゾの巨石とよく似た巨石が十個ほど並んでいた。
「嘘……」
「あそこだ……あそこにエイゾの巨石が……!」
「まさか、私が巨石を嵌めたままで、なんの備えもしなかったとでも? 生憎ですが、あなた方の読みは甘かった」
手をひらりと動かす。
「予備なら確保済みです」
「あれは……全部、本物……?」
「ええ。どれも本物です。似たものを集めるのには、少々苦労しましたが」
作戦は失敗だった。これらすべてを破壊する余裕はない。
「っ! ギオウ! ラグザのことを知ってて、なんでこんなことを!」
「私はラグザの被差別惑星という汚名をそそぐためにも戦っているのです」
「なんだって……?」
「そのための銀河統一。誰も差別をされることのない銀河です。〈ピースメーカー〉は、その調和のために存在する」
ナーシャが前に立つ。
「私の星では、それは支配と言うわ。意味わかる?」
「私の星では、それを統治と言います」
カスムは笑うと後ろに下がる。
「さて、おしゃべりはここまでにしましょうか。シセル」
赤いセーバーが灯り、カスムの前に立つ。
アスタラがゆっくりと立ち上がった。
「行け……」
「でも!」
「早く──掴まれ!」
アスタラが二人を抱えて床に伏せる。艦内を衝撃が走った。
「何……⁉」
その場にいた全員がバランスを崩した。初めてカスムの表情が崩れた。見れば、炎上した海賊船の一隻が〈ピースメーカー〉に特攻していた。
一瞬の隙を突き、アスタラがシセルに向かって理力を放つ。
シセルはあっさりと吹き飛ばされ、壁に激突する──その衝撃で、彼女のバイザーの右半分が割れた。
振り向くと、そこには驚くほど若い、無表情な──女性の顔が現れた。
パドゥがシセルの顔を見た瞬間、凍りついた。
目が大きく見開かれ、唇が震える。
「姉……さん?」
アスタラとナーシャが、パドゥを見る。
「……ル・シェラ・ワ?」
パドゥが震える声で言った。
「生き別れた双子の姉さん」
シセルはゆっくりと立ち上がる。
割れたバイザーの隙間から、パドゥを見つめる。しかし、そこには何の感情もない。
「ルシェ姉さん、僕だよ! パドゥだよ!」
シセルの動きが、かすかに止まった──すぐに片手セーバーを三人に突きつけた。
「僕、パドゥだよ。覚えてる? ラグザで、〈ピースメーカー〉に連れ去られて──」
「知るか……」
シセルの声には、かすかな揺れが宿っていた。
「俺は……任務を遂行するだけだ」
「姉さん! 目を覚まして!」
パドゥが駆け寄ろうとした瞬間、アスタラが手を振った。見えない力がパドゥをシセルから引きはがす。
「ナーシャ、パドゥを連れて逃げろ!」
アスタラが叫んだ。ナーシャが、まだシセルの名前を呼ぶパドゥを引っ張って走り出した。シセルは追おうとしたが、アスタラが再び立ちはだかる。
「相手は私だろう」
シセルは一瞬、目を泳がせると再び戦闘態勢に入った。
再び青と赤のライトセーバーが交わる。
「ルシェ姉さん!」
「パドゥ前見て!」
ナーシャの声で前を向くと、安全柵も無い三メートルほどの狭い通路が続いていた。踏み外せば、真下の貯蔵庫まで一直線だ。
「早く渡るわよ!」
「でも……!」
後ろからライトセーバーを振るう二人が迫ってくる。
ここでパドゥが持っていた通信機からドゥルダの声が響いた。
「おい聞こえるかい!」
「ママ! 状況は⁉」
「撤退だ! 海賊艦隊は壊滅した! あたしらもすぐに脱出する!」
そのとき、通信機の向こうから激しい衝撃音が響いた。
「なんだいどうしたんだい!」
〈トラクタービームに捕まった!〉
「なんだって⁉」
「ママ⁉」
パドゥが声を掛けるが、〈ヒトリガ〉艦内はそれどころではなくなっていた。
「全速力だよ!」
〈舵が動かないよ、ママ!〉
「いつもの馬鹿力はどうしたんだい!」
「ママ!」
「なんだい!」
「ドゥルダ! エンジンが爆発しちまう!」
老整備士の言葉に舌打ちする。
「泣き言なんて聞きたくないね! こっちも手一杯だ! ハイパードライブを──うわぁっ!」
通信機から激しい爆発音が響いた。
「ママ! ママ⁉」
パドゥが愕然とし、ナーシャが唇を噛み、アスタラとシセルが鍔迫り合いをする。
それを見ながらカスムは腕の端末を触る。
「シセルを完璧な戦士に」
カスムの腕のレーザーサイトが、パドゥの胸を捉える。
シセルが一瞬、動きを止めると赤い閃光が走る。その隙を狙い、アスタラがセーバーを横薙ぎに振る──空振った。シセルは空中で一回転して、それを避けていた。
「っ!」
そのまま凄まじい勢いで駆け抜けたシセルの刺突がパドゥに向かう。
「ダメっ!」
ナーシャがパドゥを押しのける。
シセルと向かい合うナーシャ。時間が止まったように感じられた。
ナーシャはゆっくりと、自分の胸を貫く赤い光刃を見た。
そして、ナーシャの手がバイザーの割れた部分から、シセルの頬に触れた。まるで、母親のアナシアのように。
「そっか……」
ナーシャがかすかにつぶやいた。
「あなたも……苦しんで……」
「ナーシャ……?」
「……ナーシャさん?」
アスタラとパドゥが呆然とする前で、赤いセーバーが消えた。シセルの目が震えている。
ナーシャはゆらりと体勢を崩すと、ゆっくりと足場から転落していく。
静かに目を閉じると、巨石に向かって落下し──姿を消した。
「あっあ……」
言葉が出ないパドゥ。
「ナーシャ……」
アスタラが目を閉じる。今起きたことを否定しようとするが、目の当たりにした。最高の相棒を失った。
「……ナーシャァァァァッ‼︎」
アスタラの絶叫が通路に響き渡る。目が邪悪な黄色に変わり、右腕の聖痕がこれまでにない激しい疼きを発する。赤黒い痣が腕から肩へ、胸へ、全身へと広がっていき、顔の右半分を覆った。
理力が暴走する。
目に見えない力の奔流がアスタラの周囲に渦巻き、金属の壁が歪み、配管が破裂する。シセルは吹き飛ばされ、遠くの壁に叩きつけられた。
アスタラの怒りは、戦艦そのものに向かう。
艦体がうめき声を上げて歪んだ。
それによって閉じられていたブラスト・ドアがこじ開けられる。巨大なカイバー・クリスタルが不安定に輝き、艦内の照明が一斉に点滅する。
「よくもナーシャを……!」
そのままシセルの首を理力で絞め上げ、持ち上げた。足が床につかず、シセルが激しくもがく。
怒りが爆発した。止められない。
アスタラの右腕の聖痕が赤黒く輝き、痛みが全身を走った。
だが、今回はそれを抑えようとしなかった。怒りに任せ、理力を解放した。
戦艦全体が激しく軋み始める。隔壁が歪み、床が波打つように隆起し、無数の配管から蒸気が噴き出した。アスタラの理力が、〈ピースメーカー〉の構造そのものを捻じ曲げようとしていた。
「なんという力だ……!」
カスムが、恐怖と好奇心の入り混じった声を上げる。
「っ! やめて! アスタラさん!」
涙目のパドゥがアスタラの腕に必死にしがみつき叫んだ。
「これ以上やったら、僕たちも脱出できなくなるっ!」
アスタラはパドゥの言葉に、少しだけ我に返った。船体が歪んだことによって壁に亀裂が入り、外へ通じる脱出路が開いた。パドゥに引きずられるようにして外に出る。
だが、アスタラの心には闇しかなかった。ナーシャの笑顔。赤髪が風になびく姿。胸の鳥のペンダントが揺れるのを、もう二度と見られない。
〈ピースメーカー〉が傾き、〈シナトベ〉がドックからずり落ちていく。
『おい急げ!』
ダイスが手を振っている。二人が急いで乗り込む。
『おい、ナーシャは⁉』
「……ハイパードライブの準備して!」
涙を流しながら、パドゥが操縦席に座る。アスタラは脱力したように副操縦席に座る。
『おい、まさか……』
「急いで……!」
ナーシャに教えられた通りの手順を踏み、〈シナトベ〉を操縦する。
〈ピースメーカー〉のドックを飛び出し、宇宙に出る。周囲には海賊艦隊の残骸が散らばっている。それを避けながらハイパードライブ・レバーを握った。
『ど、どこに……』
「どこでも‼」
しばらくして〈シナトベ〉はハイパースペースへと姿を消した。
青白い空間を漂う中、アスタラは窓に額を押し当て、目を閉じていた。
聖痕の疼きは続いている。だが、もうどうでもよかった。
大切なものをすべて失った以上、痛みなど些細なものだった。
操縦するパドゥが、横から小さな手を彼の肩に置いた。
「……あの戦艦を止めます。ナーシャさんのためにも……!」
震える声でそう言った──だが、アスタラが答えることはなかった。
一方で、〈ピースメーカー〉の中は大混乱に陥っていた。
「被害報告を」
ブリッジに戻ってきたカスムが船員に尋ねる。
その背後で、シセルが苛立ったように割れたメットを投げ捨てると、絞められた首を押さえていた。
「……〈ピースメーカー〉の八割が破損しています!」
船員からの報告にカスムは眼鏡を押し上げた。
「一旦、計画を遅らせ、〈ピースメーカー〉の修繕を優先させます。ジリスにハイパージャンプを」
船員が命令を確認すると、すぐさま〈ピースメーカー〉のハイパードライブが起動する。
後ろからソーラが居心地が悪そうな顔をして入ってきた。話しかけることはしなかった。ソーラもナーシャの最期を目にしていた。
「アスタラでしたか、あのフォース使い、なかなかの実力でした」
聞いているか分からないソーラに向かって、カスムが話しかける。
「……ですが、まだ計画が遅延しただけです。海賊艦隊も壊滅。私の優勢……これはあくまでも戦術的撤退なのです」
その言葉に、ソーラは何も答えなかった。
銀河調和防衛軍は、新たな指揮官カスム・ギオウの下で、銀河における勢力を拡大し続ける。〈ピースメーカー〉は修復され、より強力になる。
そして、〈ピースメーカー〉もまたハイパースペースへと消えていった。
目の前を流れるハイパースペースの中でアスタラは目を開ける。その瞳には、もう怒りも悲しみもない。あるのは、深い、底なしの虚無だけだった。
銀河を絶望が支配していた。
エピソードⅡ 仮初の平和 完
Story by
LONG M. MEIRI
Inspired by the works of
GEORGE LUCAS and STUDIO GHIBLI