STAR WARS The ONE   作:竜・M・美日

9 / 11
銀河を泳ぐものたち

 銀河。それは無限の未開拓地が広がる場所──ここでは何事も起こり得る。例えば、敵の戦闘機から不意打ちを受けることも。

 

 

〈シナトベ〉が激しく揺れる。現在、アウター・リムの小惑星帯で戦闘機から逃亡中だ。

「いっ……賞金稼ぎか?」

 頭を打ったアスタラが副操縦席に捕まりながら尋ねる。

「違う、宇宙海賊かギャング。所属は……似たような機体ばかりで分からない!」

 小惑星をすり抜け、追っ手を撒こうとするが振り切れない。相手もやり手だ。

『シールドが切れそうだぞ!』

 機関室にいるダイスの報告にナーシャは意を決したように頷く。

「仕方ない! アレ出すしかないわね! アスタラ!」

「なんだ?」

「機銃撃ったことある?」

「機、銃……?」

 初めて聞く単語にアスタラは困惑する。

「無いわよね! じゃあ、宇宙船の操縦は?」

「二度……」

「十分! 代わって!」

 突然の交代に面食らう内に、ナーシャが船体後部に走っていく。慌てて操縦席に座り操縦桿を握る。

 ナーシャが機関部脇の端末を操作すると銃座がせり上がった。座ると同時にエンジン上部のパネルがスライドし、キャノピーが展開。前方で鳥が首をもたげるように、〈シナトベ〉に似合わない重レーザー砲が姿を現す。

「よし、いくわよ!」

 ナーシャが操縦するため使う機会が無かったが、今はアスタラがいる。遠慮なく引き金を引く。爆音を立てて銃口から太いレーザーが放たれ、小惑星の一つが蒸発した。

「……最高ぉ!」

 手応えに興奮したナーシャが連射する。

『おい、調子に乗るなって!』

 ダイスの忠告を気にせず、撃ち続けた結果、戦闘機に直撃し跡形もなく消し飛んだ。

「今の見た⁉」

 はしゃぐナーシャの声を聞きながらアスタラは前を見た。目の前に一機、現れる。

「……前から一機!」

 戦闘機の砲門が光り、〈シナトベ〉の船体が揺れる。

『ヤバい! ヤバい! アスタラ、メインコンソールの──!』 

「ダイス、悪いが読む暇がない!」

「ちょっと失礼」

 戻ったナーシャが操縦するアスタラの隙間に体を入れる。お姫様抱っこのような形でスイッチを押す。

「ここで砲門を開く」

 コックピット前部がスライドし砲門が現れた。

「次に安全装置解除」

 トグルスイッチの一つを上げる。

「最後にレバーを握る」

 ナーシャはアスタラの手を開かせ、その手に自分の手を重ねてレバーを握った──目の前の一機が吹き飛ぶ。

「お見事。使わない時はどっちも切って」

「ああ」

 ニヤリと笑うナーシャはするりと抜けて副操縦席に座って息を吐く。アスタラが指示通りに切った──警報が鳴る。

「なんだ?」

「……シールドが切れたわ」

『ほら見ろ、大砲を撃ちまくるからだ! パワーが切れるぞ!』

「近くの星で補給すれば平気。それにしても、さっきの連中は──」

 そこで一際大きな衝撃が船体後部を襲い、火花を散らす。

「ちょっと待って、今のどこから……⁉」

 ナーシャが上を向く。そこに小惑星を物ともしない二回りほど大きい無骨な海賊の旗艦が姿を現す。

「嘘でしょ……!」

 旗艦の砲門からレーザーが放たれ、無防備の〈シナトベ〉に直撃した。

「ブラスターは弾くんじゃないのか……!」

「あのね! あんなのに撃たれたら、熱と衝撃は逃がせないわよ! 意味わかる⁉」

『喧嘩してる場合か! エンジンが被弾したぞ!』

 ダイスがエンジンを確認しにいく。通信が入り、荒い獣のような息遣いとハッティーズ語が聞こえてきた。

「……ベルマンだわ」

 工業惑星ペテの街、ベル・テルの酒場でアスタラに絡んできたシスタヴァネンだった。

「なんと言っている?」

「腕を切られたことを恨んでるみたい」

 唸るような吠えるような声が続く。

〈小僧ども! てめえらまとめて消し炭にしてやる!〉

 黒光りする義手を振り回す息巻くベルマン──その瞬間、宇宙が一瞬呼吸を止めた。通信に低いノイズが走る。

「何……?」

 ナーシャが眉をひそめる。一方、アスタラは右腕が(うず)くのを感じた。

「……何か来る」

「えっ……ちょっと⁉」

 アスタラは一気に操縦桿を押し込み、急降下した。

〈いい(まと)だ! 狙え──!〉

 ベルマンの指示はそこまでだった。次の瞬間、旗艦側面の空間がわずかに歪み、黒い影が現れた。一体ではない。数え切れない群れが空間の裂け目から滑り出す。回避できなかったベルマンの旗艦は、巨大な触手と重力の奔流に巻き込まれ、木の葉のように粉砕された。

 怒号と悲鳴がノイズの中に消える。代わって〈シナトベ〉の船内に響いたのは、金属的な駆動音ではなく、魂を揺さぶるような深い鳴き声。窓のすぐ外で、巨大な目がゆっくりと通り過ぎた。ナーシャが呆気にとられながらつぶやく。

「パーギル……」

 星間空間を泳ぐ巨大生物。突然現れ、突然消える。パイロットの間では衝突事故を起こす厄介な存在として有名だった。

 二人が見惚れている──後方から嫌な音が響いた。ダイスが慌ててコックピットに戻ってくる。

『パワー切れだ!』

「嘘でしょ……!」

〈シナトベ〉のスピードが見る見る落ちていく──後ろにパーギル・ウルトラという四百メートルにも達する個体が大きな口を開けた。

「食べられる、どうする……⁉」

 操縦桿を握るアスタラを見ると、どこか覚悟を決めた目だった。ナーシャの頭に最悪のアイデアが浮かぶ。

「……付き合いは短いけど、私たち結構無茶してきたわ……操縦代わって!」

 慌てて操縦を代わろうとするがアスタラが押しとどめる。

「口に入る」

「正気⁉ あんなのに飲み込まれたら、噛み砕かれるか酸で溶かされるのがオチよ⁉」

「このままでは修理できず漂流するか、体当たりされるだけだ。信じてくれ」

 アスタラがスロットルを戻す。エンジンを切った〈シナトベ〉が巨大な口──その奥の暗闇へと吸い込まれていく。

「冗談じゃないわよーッ‼︎」

 ナーシャが悲鳴に近い声を上げる中、口が閉じた。

 

 飲み込まれた〈シナトベ〉を包んだのは、耳が痛くなるほどの静寂。ライトを点灯した瞬間、二人の目に飛び込んだのは、パーギルの胃ではない──宇宙だった。

「どうなってるの……? パーギルの中じゃ?」

 暗黒の空間には無数の船の残骸が漂う。数千年前の旧式偵察機。見たこともない形状の古代船。最近消息を絶ったと思われる貨物船。それらが奇妙なことに、腐食一つなく静かに浮かんでいる。

「……全部、船?」

 ナーシャが息を呑む。

「過去に同じことを考えた者たちがいたようだ」

「それって、私たちの未来の姿じゃない?」

 皮肉を言われつつアスタラは一点を指差した。

「あれは?」

 デブリの中に巨大な艦船が漂流している。幸運にも艦体側面のドックが半開きだ。

「入るしかないわ」

 アスタラが操縦桿を向けて中に入る。ドックは数百機を収容できそうな広さだったが、一機も停泊していない。開いているスペースへ機体を寄せる。ナーシャがレバーの一つを下げた。

 着陸脚が降りたところで〈シナトベ〉の限界が来た。着地と同時にライトが消える。

「……最高」

 エンジンの調子を見ていたダイスが戻ってくる。

『エンジンがご臨終(りんじゅう)だ』

「直せる?」

『今ある工具じゃ無理。新品に換装するしかないな』

「ここで見つけないと……大気は?」

『平気だと思う』

「アスタラ。念のため酸素マスクね」

 ナーシャは私室から自前の、アスタラはマーレから持ち出した酸素マスクを付けて、船から降りた。三人は薄暗く広大なドックを見渡す。

『予備電源で動いてるんだ』

 ダイスが近場の端末に接続すると艦内部を調べる。

『メインルーム発見。おっ、別にドックがあるな。そっちは船が停まってる』

「エンジンと燃料は現地調達できるかもね。私はドックを見る。二人は電力復旧」

『……ちょっと待てよ』

 ブラスターを抜いて行動に移るナーシャをダイスが止める。

『よく分かんないけど……この船の連中、パーギルを調べてたみたいだ』

「……とにかく電力を復旧させて。そうだ」

 ナーシャがアスタラにコムリンクを渡す。

「これは?」

「無線機。マイノックがいたら教えて」

 そう言い残しナーシャは離れて行く。

「……マイノック?」

『船のパワー・ケーブルをかじってエネルギーを吸うんだ』

「今の〈シナトベ〉にパワーは無いはずだ」

『オイラをビビらせてんだよ』

 冗談が通じないアスタラに呆れつつ二人はメインルームに向かう。

 

 

 探索するナーシャは薄暗い通路をブラスターを構えて進む──突然、冷気が肌を刺した。

「寒っ……何?」

 奥から白い冷気が流れていた。覗くとそこは冷凍保存庫。壁に何かが爆ぜたような焦げ跡が残り、床には(しも)が広がっている。片隅で、星の欠片のような塊が不思議な輝きを放つ。

「綺麗……」

 しばらく眺めてからつぶやく。

「……売れるかしら?」

 価値を見定めていると、テーブルに置かれていた手持ちコンテナが目に入る。

「『衝撃厳禁! コアクシウム』……?」

 聞いたことのない物質だった。

 

 

『到着』

 道中、無事にメインルームに着いた二人。早速、ダイスがメインコンピューターにアクセスする。壁面のモニターが復帰し艦内図が映る。

「どうだ?」

『電力システムは……あった! 待ってくれよ』

 数分後、電気がつく。

『ついた!』

「──私はドクター・フォン」

 突然背後から声が響き、アスタラは反射的にセーバーを抜く。そこに白衣を着た老年の異星人が立っていた。

「私はアスタラ──」

『ホログラムだよ』

「最後の研究日誌。題して『パーギルとハイパースペース』」

『ハイパースペース?』

 そうして博士の講義が始まった。パーギルがなぜ神出鬼没に現れるのか。その謎を解くために長年彼らに同行し、最後には自ら中に飛び込んだ。そこから出た結論、パーギルは光速を超えることで、通常空間とは異なる時空──ハイパースペースへ潜行していた。

「──私たちはついに完成させた。名付けてハイパードライブ。ハイパースペースへ突入できる推進システムだ」

 だが、と博士は問題点を出す。

「ハイパースペース・ジャンプには精密な計算が必要だ。計算せずにジャンプすると、恒星や天体を突き抜ける危険がある。またハイパードライブを動かすにはコアクシウムが必要不可欠だ」

「コアクシウム……」

「幸運なことにコアクシウムはパーギルの内部で自然生成される。また、航路計算用の演算機も完成した。……だが、残念ながら私が使う機会は無い。仲間たちは皆死んだ。残ったのは私一人だ。だが悔いはない、宇宙の謎の一つを解明できた。研究者としてその喜びとともに一生を終える。記録終了」

 博士のホログラムが消えた。足元には白骨化した遺体。アスタラはそれに手を合わせる。壁面の艦内図モニターに、保管庫のロック解除を知らせる表示が現れた。

『行ってみるか?』

「……ああ」

 そして、二人は台車の上に安置されていた、有機的なパイプと複雑なパーツが組み合わさった、試作品のハイパードライブを見つけた。

『エンジン以上の物が手に入ったかも』

 

 

 電気が復旧した船内を歩くナーシャ。ドック前のブラスト・ドアが開いた瞬間、愕然とした。

「何これ……」

 ドックの中には無残に破壊された船が何隻も放置されていた。

「無傷のエンジンと燃料はあるんでしょうね……?」

 コアクシウムという収穫はあったものの、ナーシャの表情は曇る──静かなドックの中でコムリンクが鳴った。

「もしもし?」

「ナーシャ、合流したい」

「私も……相談したいことがあるわ」

 三人は船の残骸が積み上がるドックで合流し、それぞれが見聞きしたことを共有した。ナーシャが目を丸くする。

「ハイパードライブ……そんな物が……⁉」

「だが、動かすにはコアクシウムが必要らしい」

「コアクシウム? これのこと?」

 ナーシャが持ってきていたコンテナを見せた。

「……中から凄まじい力を感じる」

「じゃあ、それ動かせるじゃない!」

『待てって。どうするにしてもさ、宇宙に出ないといけないだろ? エンジンと燃料が無いと〈シナトベ〉は動かないぞ』

「……なら、エンジンを見つけるしかないわ。よし、決めた」

「何をだ?」

「シナトベを改造する。銀河一早い船に!」

 残骸の山を見て腕まくりをするナーシャ。

「本気か?」

「そっちはハイパードライブをどうにかして」

「私は何も分からないぞ」

『オイラも』

「弱音吐かない! 本当にパーギルがハイパースペースに跳ぶなら、早く出ないとどこに行くか分からないわよ! 大丈夫、目利きには自信あるから!」

 そう言って山に果敢に向かっていくナーシャ。アスタラとダイスは目を合わせる。

「大丈夫なのか?」

『まあ、ナーシャは〈シナトベ〉を一から作ったからな』

 やるべきことをやるため二組に分かれた。

 

 

 ハイパードライブの前に立つ二人。

『とりあえず、こいつを運ばないとな』

「ああ、それに演算機とやらも探さなければ」

『こういうのって大抵セットで──』

 横を見ると、直径五十センチほどの天球儀に似たドーム状の装置があった。

「これか?」

『多分。とりあえず持って行こうぜ』

 演算機は手に入ったが、台車はロック機構で床に固定されている。

『ロック掛かってるな。解除装置を探す──』

 アスタラが右手をかざした。痣がかすかに明滅した。

『おい、アスタラ!』

 ダイスが止める暇なく、右手を握る──ロック機構が内側から押し潰されたように砕けた。アスタラは額から汗を流し、片膝をつく。

『無茶すんなって! また、マーレに逆戻りなんて冗談じゃないぞ!』

「……ナーシャには黙っていてくれ」

 アスタラの薄ら笑いに、ダイスは肩をすくめた。

『さっさと運ぶぞ……』

 

 

 一方、船の山の中でエンジンを探すナーシャ。一機ずつエンジン部を確認するが、目当ての物は見つからない。大半が故障や破損しており、そもそも〈シナトベ〉の規格に合わない物ばかりだ。

 だが、ナーシャは諦めなかった。ここで終わるわけにはいかない。気づけば百台近く調べた頃だった。

「よい、しょっと!」

 中を覗いた瞬間、その目が見開かれる。

「……嘘」

 ナーシャの指が震える。エンジン側面に刻まれていたのは、古びてなお消えない刻印。

『ブラウン科学サービス』

「まさか……。も、もし本当なら……数百年前に七百台しか製造されてない幻のエンジン!」

 エンジン表面を叩くと、澄んだ金属音が返ってくる。

「しかも新品同然!」

 本来なら博物館に展示されていてもおかしくない。現存する大半は経年劣化によってくず鉄と化している。

「今日パーギルの中にいるのは、この時のためだったのねッ!」

 ナーシャはゴミの山の上で歓声を上げた。

 

 

『やっと着いた……』

 ダイスが疲れたようにアームを伸ばす。なんとか〈シナトベ〉の機関室まで運び込めた。

『配線はナーシャに任せた方がいい。修理ならともかく、勝手にいじったら怒る』

「……ナーシャが来る」

 アスタラがそう言った瞬間、ナーシャが船に飛び込んできた。

「二人とも聞いて──!」

 そこから興奮気味のナーシャによるエンジン講義が始まった。聞き終わるまでに一時間かかった。

「──っていうことなの! 意味わかる⁉」

「そうか……」

「そう! へぇ。これがハイパードライブ? いい(つら)構えじゃない」

 その褒め言葉にアスタラはダイスを見る。

『顔があるか聞くなよ。例えだぞ』

 ナーシャは満足げに頷く。

「なんとかなりそうね。二人は古いエンジンを外して、新しいエンジンをお迎えして! くれぐれも傷つけないでよ!」

 嬉しそうに走っていくナーシャを見て、二人は肩をすくめる。

〈シナトベ〉の本格的な改造が始まった。

 

「この回路に配線、部品も! ほとんど新品! ここに住みたい!」

 宝の山を前に目を輝かせるナーシャを横目に、アスタラたちはエンジンを台車に乗せて運ぶ。

『ほどほどにしとけよ! ……このままだと全部改造する気だぞ』

「いざとなったら私が理力で落ち着かせる」

 エンジンを運び終わり、演算機を持つアスタラの前で、大量の部品を抱えたナーシャが船内を走り回る。

「ナーシャ、これを置く場所だが──」

「コックピット以外ね。ハイパードライブ操作用にするから」

 そう言って、副操縦席のコンソールを剥がし、太いエネルギー・ケーブルを座席の下に通し、中央まで引っ張る。ナーシャの左手が届く位置にハイパードライブ用のレバーが組み上げられていく。

『どこに置く? コンソール周りがいいよな』

「そうだな……」

 ダイスの平面な頭を撫でる。ふと、手に持つそれとダイスの頭の大きさが合うことに気づいた。

「ダイス」

『な、なんだよ』

「すまない」

 ダイスがじりっと後退する。

『まさか……オイラに繋ぐ気か⁉︎』

 アスタラは天板を外し、中を覗く。ダイスを構成する部品と、よく分からない回路が敷き詰められていた。

『変な所触るなよ……!』

 空いていたソケットに回路を挿し、そのまま演算機で蓋をする。無機質だった頭部に天球儀が追加され、威厳と愛嬌がある形に変貌した。

『うおおおっ……!』

「大丈夫か?」

『オイラ……今ならケッセル・ランの安全な航路を何百通りでも出せるぞ!』

 ダイスは自信に満ちた様子で応えた。

「それは……凄いのだろうな」

 

「終わったぁ!」

 数時間か、数日か。顔を(すす)だらけにしたナーシャが手袋を外し、適当に放り投げてエンジン部から出てくる。

「エンジン良し! ハイパードライブもたぶん良し! あとはあの山からいくつか部品を……」

〈シナトベ〉の改造計画に頭を巡らせるナーシャに、ダイスが一言。

『燃料は?』

「……あっ」

『嘘だろ。燃料が無いと動かないんだぞ!』

「分かってるわよ! でも、あそこから燃料は……」

「何か別の物は使えないのか?」

 腕を組んで考え込むナーシャにアスタラが尋ねる。

「別の物……エネルギー……」

 ハッとした二人が目を合わせると同時に言った。

「コアクシウム」

 

〈シナトベ〉の燃料注入口を開けるナーシャを見てダイスが慌てる。

『お前ら正気か⁉ 燃料タンクに未知のエネルギーを突っ込む気か⁉』

「やるしかないでしょ」

 手持ちコンテナから一本、試験管を出す。

「えっ……結晶が溶けてる……!」

 出した途端に結晶が液体のように溶け出し、凄まじい熱量を発しながら膨張を始める。

「急げ、ナーシャ!」

 ナーシャは熱を帯びた試験管を燃料パイプに注入した。流入した天然コアクシウムが燃料系を駆け巡り、〈シナトベ〉が震え、警報が鳴り響く

「ヤバいかも!」

 その言葉にアスタラが機体に両手を当て、目を閉じる。右手の痣が激しく発光し始めた。

「……荒ぶるな。鎮まれ……!」

 理力を集中させる──暴れ狂うコアクシウムの熱が徐々に鎮まっていく。だんだんと振動が収まり、静かになった。

「……どう……?」

 心配そうな表情のナーシャにアスタラは口元を拭う。

「……落ち着いたようだ」

 

 ナーシャは操縦席に、アスタラは副操縦席に座り、ダイスは接続ポートに収まる。

「さて、行くわよ」

 エンジンを掛けると船体に明かりが灯った。

「動いた!」

 すぐさま着陸脚を収納し、スロットルをゆっくり開く。ドックから出たところでさらに押し込む──反応が(にぶ)い。

「……あれ?」

「大丈夫か?」

「さあ、わかんな──いっ⁉︎」

 急加速し、二人が座席に押し付けられる。

 メインブースターから噴き出す炎が、オレンジから透き通るような白銀に変化した。

「速すぎ……っ‼︎」

 衝撃波を引き連れながら、ナーシャは必死に操縦桿を操り、目の前に迫るデブリを間一髪でかわす。

「……このぐらい、できなきゃ……フーの血筋の名折れよ……!」

 ナーシャの口元が吊り上がる。すると宇宙のような空間に似つかわしくない光が、前方に見えてきた。

「出口だ……!」

 その穴を通る──〈シナトベ〉がパーギルの口から飛び出した。ナーシャとダイスが歓声を上げ、アスタラが頷く。

 船を急転回させ、パーギルの目の傍でスロットルを戻した。

「ありがとう! 伝わってるかしら……」

 アスタラがパーギルに向かって右手をかざす。

「……ああ。きっと伝わっている」

 パーギルは一声()くと体が光り始める──姿を消した。

「……ハイパースペースに?」

「きっとそうだ」

 

「ところで、ここどこ?」

 宇宙空間なので代わり映えはしないため、ナーシャが尋ねる。

『未開領域だよ』

「そんな所にいるの⁉︎」

 最初に海賊と戦ったアウター・リムよりさらに外。ほとんど星図にも載っていない領域だ。

「整備もしたいし、戻らないと! 早速、ハイパードライブを動かすわよ! 準備はいい?」

『ハイパースペース航路、計算完了だ!』

「よし! パーギルが見ている景色。私たちにも見せてもらうわよ!」

 意を決してハイパードライブ・レバーを倒す。背後の機械室から響く、高周波の唸り。それが全身に伝わる振動へと変わり、コックピットを激しく揺さぶり始める。

 フロントガラスの外で白光が、最初は控えめに、やがて視界を覆うほどの強烈な明滅を繰り返す。周囲の景色が歪み始め、窓の外の風景は青と白が入り混じった光の残像へ変化していく。さらに船体の周囲で、バチバチと乾いた破裂音が弾け、青白い稲妻が船体の周囲を走る。

「船から雷が……」

「吹っ飛ばないでよっ……!」

『ジャンプまで、三……二……一』

 ダイスのカウントダウンの後。鏡のような船体がこの世のものではない異様な輝きを放つと、現実の境界線が透明な膜のように弾けた。〈シナトベ〉の姿が消える──あとには静寂だけが残されていた。





【挿絵表示】

ダイス アップデートバージョン
※本作の挿絵は、著者の指示・監修のもとAIを使用して生成した「イメージボード」です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。