【TS】兄だった人は姉になりました。   作:R884

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秋刀魚にひやおろし

「へ~アミュズプロダクションねぇ、私でも聞いた事ある芸能プロダクションだね」

 

「そうなの?春夏、そっち方面に興味あるの?それだったら私応援しちゃうよ」

 

グビリ

 

「まさか、こんなちょっと可愛いくらいの女が夢見るわけないでしょ」

 

パクリ

 

「いやいや、妹さんも十分アイドルグループならやって行ける可愛さですよぉ、ささ、内海さんもう一杯」

 

「あ、どうも」

 

グビリ

 

「うまいなぁ、このひやおろし!どこのですか?」

 

「京都の伏見から取り寄せさせてもらいました」

 

「おぉ、西のくだり酒ってやつですね、キリッとしてて美味い!」

 

グビリ

 

「いや~、お綺麗なのに男まさりないい飲みっぷりですな、ますます良い!」

 

「お姉ちゃん、お酒大好きだもんね、でもこの秋刀魚(さんま)も凄く美味しいよ、やっぱ秋は秋刀魚が美味しいよね~」

 

「「「ハハハハ」」」

 

思わず笑いがごぼれる、美味しいもの食べてると幸せな気分になるよね。

近年は秋刀魚も不漁で価格が上がり、我が家の食卓には出てこなくなった高級魚になっている。

それなのにこうして兄妹揃って、秋刀魚とひやおろしを堪能出来てる理由はと言えば。

 

「ハハハ、妹さんからも言ってあげてくださいよ、お姉さんは絶対に人気アーティストになりますから!」

 

「もう!中山さん本気で言ってます?お姉ちゃんが人気アーティストなんて」

 

「もちろん、この道30年、私の目に狂いはありません!」

 

目の前でそう言い切る、アミュズプロダクションの中山 (さとる)さんのおかげなのだ。

なんだこの状態。

 

 

 

 

 

 

 

私が今日の夕飯どうしようかと冷蔵庫を覗いていると、兄がスーツを着た中年のおっちゃんを連れて帰って来た。

 

「春夏、今日の夕飯は、ジャジャーン!秋刀魚だぞ!」

 

「えっ、どうしたん?まだ、いいお値段するでしょ」(昨日見たスーパーでは1匹400円もしてたぞ)

 

「フフフ、それはこちらの中山さんの奢りなのだ、しかもひやおろし付きだよ!」

 

スーツのおっちゃんがペコリと頭を下げ、兄が嬉しそうに緑の一升瓶を持ち上げる、実にいい笑顔だ。

 

「おぉ~!」

 

中山さんが手にしていた発泡スチロールを玄関先に置けば、中にはプリプリと太った大きな秋刀魚が6匹も入っていた、クチバシも黄色いし、目も濁っていない、鮮度は申し分ないね。

去年の秋は結局食べれていないので、本当に久しぶりの秋の味覚だ、思わず涎が出てしまう。

松茸?知らない食べ物ですね~。買えるかあんな高いの!

 

う~ん、6匹か、うちのグリルだと2回に分けないと焼けないかな。

 

「で、この人誰?」

 

 

 

こうして冒頭に戻るわけなんだが、中山さんによれば今日は兄の会社にスカウトに押しかけたのだが。

 

「そんなすぐに決められるような事じゃない」

 

と兄に返事を濁されたようだ、そこでなんかお母さんに入れ知恵されていたのか、中山さんが取り出したのがこの秋刀魚とお酒だったらしい。

お母さんめ、兄の食い意地と酒好きの弱点を的確に突いてきたな。

中山さんはあくまでもお近づきのしるしと言って、兄に手渡してきたらしい。

 

どう考えても賄賂だ。

 

気を良くした兄は、一緒に食べようと言ってそのまま中山さんごと連れ帰ってきたらしい。

おいおい、兄よ、あんたは今若くて綺麗な姉ちゃんなんだぞ、もうちょっと危機感持てや、いつまで男のつもりでいやがるんだ。

 

…でも、秋刀魚が美味しいからいいか。

お兄ぃにとって秋刀魚と日本酒の組み合わせは、刺身、おでんと並ぶベストな組み合わせらしい。

大根おろしもうちょっと多めに()っとくかな。

 

「あ、妹さん、この旭ポン酢をかけても美味しいですよ」

 

「ポン酢?本当だ、このポン酢超美味しい!」

 

やば、中山さん凄く良い人かもしれない。

 

3人で秋刀魚を食べ尽くした後も酒宴と中山さんのスカウトは続いた。

兄はすっかり中山さんに気に入られたらしい、兄がやんわりと断り続けるもなかなか引き下がらない。

しっかりとは断れない、この辺は秋刀魚とひやおろしの賄賂が効いている。

 

 

 

「では、どうでしょう内海さん、今週末にうちのプロダクションで出場枠を持ってる音楽番組の収録があります」

 

「はぁ」

 

「そこで試しに内海さんに出演してもらうのはどうですか、あくまでお試し体験で1回だけ」

 

中山さんは芸能界の雰囲気を一度感じてみて、それから決めてはと勧めてくる。

出場枠か、やっぱりTV業界にはそう言うのがあるんだ、て事は中山さんの事務所って結構力持ってるんだな。

 

「ま、まぁ、1回くらいならやってみてもいいかな、のど自慢大会みたいなもんですか」

 

兄の言葉に中山さんが喜ぶ、お兄ぃちょっと早まったんじゃないかな、既成事実作る作戦かもよ。

 

「ミュージックセッションと言う番組です」

 

「えっ、お姉ちゃん、それってゴールデンの人気番組だよ」

 

「あ~、ヤモリさんの番組、ってカラオケでものど自慢でもないじゃん」

 

「大丈夫ですよ、あんなの素人に毛の生えたような下手くそな歌手しか出てませんから、のど自慢大会とたいして変わりませんよ、そんなゴミの中に宝石を落としたら…ククク」

 

下手くそって、結構毒舌だな、なんか中山さんって結構ストレス溜まってそう。

 

「でもあの番組ならオリジナル曲じゃないと駄目なんじゃないの」

 

「はい、そこでご用意するのが、この曲です」

 

私が質問すると中山さんにドヤ顔でスマホの画面を見せられる、タイトルないじゃん。

 

「もちろん、未発表のオリジナルですよ、実はこの曲はうちの新人にと作曲家に頼んでいたものなんですが、先日の内海さんの動画を見てピンと来まして、今は私の預かりになってるんです」

 

「え、いいんですか?その新人さんは」

 

「あぁ、いいんですよ、その新人にはとても歌えそうもなかった曲ですから、適当なのあてがって歌わせます」

 

中山さんがなんか悪そうな顔して笑うと、止める間も無くスマホから音源を再生させた。

 

あ、これ罠かも、聞く前に止めなきゃいけない奴だったかな。

 

ポチ

 

 

 

♪♫~

 

「…………………………」

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