【TS】兄だった人は姉になりました。   作:R884

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狸と狐と天然と。

アミュズプロダクション、中山のデスクを長身で細身の男が尋ねてくる、世界的ギタリストであるM-HOTOMIだ。

大物ミュージシャンの来訪に否が応でも部署中の視線が集まった。

 

「よっ、中山ちゃん。これ長野のお土産戸隠そば、凄い美味しいよ」

 

「わざわざどうも、で、どうでしたHOTOMIさん、UTUMIは説得出来ました?」

 

「は?説得、なんのこと?あ〜、な〜んか地元のワイン会社のCM作ってたから1曲書いてきた」

 

「へ?なんですそれ、UTUMIのスカウトしに長野に行ったんじゃ」

 

一緒に飲んでたらいつの間にか、そんな事になってたんだよなとHOTOMIが不思議そうに首を傾げる。

しかし、すぐに真面目な表情で中山に向き直った。

 

「中山ちゃん、彼女は本当に良いな、一緒にギター弾いてあんなに楽しかったの久しぶりだよ」

 

実感のこもった言葉に中山も息を呑む、内海はこの人にここまで言わすのか。

 

「あれだけ綺麗なのにどこか男性的で豪快、なのに歌声には何とも言えない独特の色気がある、どうやって育ったらあんな人間になるんだろうね、凄くチグハグで魅力的だ」

 

「そう思うんでしたら協力してくださいよ~」

 

「焦る必要はないさ、あんな目立つんだ、本人の意思とは別にすぐに表に出てくるよ」

 

「いや、だからその前にウチで押さえておきたいんですって」

 

 

 

 

 

所変わって桐山部長。

 

「HOTOMIってあのM-HOTOMI。ギタリストの?」

 

「ええ、先日お会いしてCMのお話をしたら、曲を作ってくれて」

 

「あ、あの、内海さん、流石にそこまでの予算は出せそうにもないんですが」

 

スポンサーに掛け合って何とか倍額は引き出したが、M-HOTOMI作曲となればとてもその金額じゃ足りないぞ。

 

「ああ、作曲はHOTOMIさんのご好意と言う事でお金はかかりません、あぁ、仲介料ぐらいは請求させていただきますけど」

 

「マジで!」

 

何、その人脈。まだお試しデビューしただけでプロダクションにも入ってない状態なのに。

このCM、UTUMIとM-HOTOMIの名前だけで超話題になるの確定じゃないか、社長賞は確実だな。

CM大賞とかも狙えるかも。

県の行政にも話し振っとくか、そうすれば信州のPRって事で予算ぶん取れるな。

 

 

「…部長?大丈夫ですか、桐山部長?」

 

「いや、失礼。あまりにびっくりして少し考え事を」

 

「ですよね、私もびっくりしましたものハハハ」

 

笑い事じゃねえよ、お、恐ろしい娘。

 

 

 

 

 

 

 

 

それでもって2週間後、なんかペース早くない?CM流すの4月って言ってたよね。

 

俺は今小高い丘の葡萄畑の中を、HOTOMIさんの(メロディ)を口ずさみながら歩かされている。

おいおい、何だよこのヒラヒラした衣装、深窓のご令嬢じゃあるまいし、お股がスースーして落ちつかねぇ〜。

カメラマン、ずっと黙って撮ってるけど、なんか反応してくれ恥ずかしくて居た堪れない。

 

LaLaLa~♪

 

葡萄畑の女神が枝に触れて行くと新芽が出て房がたわわに実るシーン。

畑は後からCGで加工するので今は女神のシーンの撮影だ。

本日3回目のお着替えで北欧神話に出てくるような格好になっている、ちょっとエロい。

 

 

 

 

「…………美しい」

 

カメラマンをやってもう20年、初めてファインダー越しの笑顔に心を奪われた。

地方局の契約カメラマンを経て独立、個人でやりながら様々な物を撮ってきたが彼女は別格だな、良く言われるたとえだが彼女にはオーラがある、まるで本物の女神のようだ。

このCMはきっと凄い話題になるぞ、放映されたら親や親戚、知り合いにも思い切り自慢しよう、この映像を撮ったのはこの俺なんだと。

 

 

 

 

 

最後のカットはワインセラーで酒樽をバックに、グラスを煽ってニッコリと笑う。

お、美味えなこのワイン、白ワインってあまり飲まないけどこれはいけるじゃん、ほ〜んシャルドネね、帰りに販売所で買って行こう。

え、りんごのお酒シードルもあるの、そっか飯綱ってりんご畑多いもんな、丸ちゃん先輩に買っていくか。

 

「ハイ、カットォ!!お疲れ様です」

 

 

監督のカットがかかってCM撮影が終了した、NGが出なかったのでサクサク順調だ、後は編集作業に立ち会えば完成に1歩近づく。本当に早くね、これで製作費も多いんだから美味しい仕事だよな。

 

 

 

「あ、社長さん、どうでした?」

 

撮影の様子を見学していたワイナリーの社長さんにご挨拶。

最終的にスポンサーである社長さんのOKが出なければ終わらないのが、この仕事である、恐る恐る尋ねざるを得ないのが下請けの仕事なのだ。

 

「いや〜、最高だよ!ウチのワインにピッタリの映像だ、特に女神役の君は華があって良いね〜」

 

「ありがとうございます!社長さんの所のワイン、凄く美味しくて自然に笑顔になっちゃいましたよ!」

 

「お、そうかね。若くて綺麗な女の子にそう言ってもらえるのは嬉しいね、お土産に1箱持たせるから飲んでくれ」

 

「あざ〜っす!」

 

シャーーーッ!無料(ただ)でワインゲットだぜ!

本当にこのCMの仕事は簡単にOK出るので楽だ、今までで一番順調じゃないか、マジで。

しかもモデル代は自分でやってるから無料(ただ)だし、丸儲けだね。

 

 

そうだ、HOTOMIさんにもワイン1本送っとこう、お礼は大事だよね。

 

 

事務所に戻って藤崎にHOTOMIさんにワイン1本送るって言ったら怒られた。

いや、1ダースは流石に送り過ぎじゃないかな、そんなに飲めないしょ。

俺の分は?えぇ〜、自腹ですかぁ。

 

 

あの社長さんにおねだりしたら、もう1箱くらいくれないかな?

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