【TS】兄だった人は姉になりました。   作:R884

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アミュズプロダクション中山

通り沿いに停めた車の窓からビルを見上げる。

 

NHK紅白歌合戦、日本国民なら一度は聞いたり見たりしたことがある番組名だろう、まぁ、最近ではあまり見ない者も増えているようだが、一時期は視聴率80%台を叩き出した国民的TV番組だ。

まぁ、今は人気のドラマでも20%行けば大ヒットと言われる時代だから、視聴率が下がっているとは言えこの番組が今だに20%超えを記録してるのはけして馬鹿にできない数字だ。

 

出場者の正式発表は11月に入ってからだが、出演者のスケジュール調整もあり内定はこの時期にはされているのが現状だ。

その中でも今、俺たちマスコミの話題になっているのはアミュズプロダクションのUTUMIと言う存在だろう、今年度突然この業界に現れ、デビュー曲とセカンドシングルである映画の主題歌がオリコンチャートを1・2フィニッシュで独占した、しかも全くの無名の状態からだと言うのだから本物と認めざるを得ない運と実力の持ち主だ。

デビュー曲には世界的ギタリストのM-HOTOMIがフルで監修、木村拓哉&福山共演の映画主題歌ではこれまた世界中にファンを持つカリスマ作曲家菅野(すがの)洋子がご指名、普通の新人ならこれらのビッグネームの前に霞んでしまうものだが、二人のカリスマがその歌声やギターテクニックを大絶賛している。

そして、どこか中性的な魅力で男女共に人気が高い。

 

久しぶりに芸能界に現れた本物と騒がれるUTUMI、彼女にNHKが熱烈なオファーをしたと言うのだから、俺らマスコミも動かざるを得ない訳だ。

 

所属するアミュズプロダクションに取材を申し込むも、あっさり断られた。流石に週刊誌にはガードが硬い、芸能界では切れ者で有名な中山が担当しているだけの事はある。だが、こっちもプロだ「はいそうですか」とあっさりと引き下がる訳にはいかないのよ。これでメシ食ってる身だからね。

そんな意気込みでアミュズの本社ビルに張り込みをかける。

 

 

あ、出てきた!中山だ。

 

「どうも中山さん、週刊現状の佐々木です、ちょっとUTUMIの事でお話し聞かせてもらえませんか」

 

「…………」

 

本社ビルから出てきた中山に突撃取材をかける、やはり取材交渉は直に限る、メールでの問い合わせなんざ逃げられてお終いだからな。

帰ってくるのは無言の冷めた視線、その顔からは考えが読めない、食えない親父だ。

 

「あの…」

 

「UTUMIへの取材は全てお断りしているはずですが」

 

冷たさを含んだ返事に、一瞬背筋が冷える。

 

「では一つだけ、UTUMIの紅白出場、これは本当なんですかね」

 

「……!チッ」

 

中山の表情に怒りの感情が浮かぶ、おそらくこの情報を漏らした相手に対する怒りだろう、これはいよいよ真実味が出てきた、是非とも裏付けを取りたいところだ。

 

「佐々木さんだったかな、その噂は君の所だけかな」

 

「ウチの編集長が局と仲が良いので、まだ他社は掴んでは…」

 

「ああ、編集長は菊池君か、相変わらず彼は強引だな、そのやり方で何度も痛い目に遭ってるのに、まぁいいでしょう」

 

中山はしばし考えた後、口を開いた。

 

「佐々木さん、ここではなんですので、ちょっと場所を変えましょうか」

 

よし、捕まえた!

 

 

 

 

カランカラ〜ン♪

 

裏通りの古びた喫茶店、その一番奥の席に腰を下ろす。

この席なら俺達の会話は誰にも聞かれることはないだろう、秘密の話をするにはもってこいの場所だ。

 

「ホットを二つでいいかな?」

 

すすめらるままに注文をすると、店内にはクラッシックが聞こえるだけで他の客はいなかった。

こんなに客が居なくてやっていけるのか?マスターらしいおっさんはコーヒーを置いてすぐにカウンターに戻って行った、愛想も無いせめて可愛い女の子でも雇えば良いのに。

 

ズズッ

 

「あ、美味い」

 

コーヒーは予想外に凄く美味い、ふむ、これなら固定客はいるかもしれない。

 

 

そんな事を考えていると、話を切り出したのは中山の方だった。

 

「実はですね、今日UTUMIは都内の某スタジオでレコーディングをしていまして……」

 

中山がテーブルの上に置いたスマホ、動画の再生ボタンを押す。

 

「え、こ、これは……」

 

びっくりして顔を上げればニヤリと笑う中山の顔、あ、もしかして捕まったのは俺の方かもしれない。

 

「佐々木さん、貴方には是非書いてもらいたい記事があるんです、いえ、決して損はさせませんよ、お互いに利のあるお話です」

 

「…………」

 

「…………です」

 

「でも…………」

 

 

 

さっきまであれほど美味いと感じていたコーヒーが急に苦く感じた。

 

 

 

 

 

 

次の日、俺はアミュズプロダクションの中山にUTUMIの取材をする事を許可された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、仕事だし!負けたとか思ってないし」

 

 

 

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