ブロロロ
外回りの打ち合わせから帰ってくると事務所の前に、メルセデスベンツマイバッハなる超高級車が停まっておられた。
叔父さんのおんぼろカローラを遠慮がちに隣に停める。別にトナラーじゃないよ。
「今度は誰だろ?」
このパターンにもすっかり慣れてしまった自分を感じるね。
俺が車を降りると、隣のメルセデスからも男の人が出て来る、ん、どこかで見たような顔のおっちゃんだな。
バタムッ!
「君がUTUMIだね、普段は金髪のショートなんだ、変装似合ってるな」
あ、そうだった。今の俺金髪ショートで変装してるんだった、それなのに一目で俺がUTUMIって良くわかったなこの叔父さん。
「あ、あのどちらさまで」
「あぁ、これは失礼。芸能プロデューサーをしている
「夏元P?あぁーーーっ!!おワンコクラブ、まみまみの旦那さん!!」
「えっ、君いくつ?あの番組って80年代だぞ、生まれてないだろ」
おじさんがビックリした顔をする。まぁ、俺自体はおワンコクラブなんて知らん25歳だしな。
「お父さんが、おワンコクラブのファンで、いつもうしろ指の曲カーステで流してました、いつか夏元は殺すってブツブツ言いながら」
「ハハハハハ…怖っ!」
あ、目逸らした、勝ったぞ親父。
カチャ
「ど、どうぞ、コーヒーです」
「ほら〜丸山先輩、いい加減コーヒーメーカー買えって言ったじゃないですか」
「だって、こんなに有名人が頻繁に事務所に来るなんて普通思わないでしょ、決算終わるまで待ってよ、そしたら良いの買うからぁ」
なんか横でブツブツ言ってる二人がいるけど、今は無視だな。
まぁ、普通はこちらから出向いて頭下げるような人物だもんな。
良いじゃんネスカフェゴールドブレンド、美味しいよ。
「へぇ、中山に聞いた通り、本当に平日はデザイン事務所で働いているんだ」
「そうですね、主に印刷物を扱ってます」
「じゃあ、イベントのリーフレットやチラシもここで頼めるかな」
「もちろん出来ますよ、予算はおいくらですか?」
「ペーパーレスの時代になったとはいえ、やっぱりファンは手元に残る物を欲しがるんだよね」
そりゃファン心理としてはそうだろうな、スマホに入ってる写真データよりは手に取れるチラシの方が記憶には残りやすい。常に視界に入る強みだ。
「試しに月末のイベントで使う選抜メンバー10名分のリーフレット、100万くらいで出来るかな」
「デザインは共通の10パターンでよろしいですか?宣材写真をいただけるならお引き受け出来ると思いますが」
ん、なんか夏元さんがニヤニヤしている、なんか俺おかしい事言ったかな。
「なるほど、仕事も本当に出来そうだ、話題作りにと話を振ってみたんだが、この際だ本当にここに頼んで良いかな」
あぁ、ネタのつもりで試されたのか、しかし有名なプロデューサーなのにこんな販促の仕事もやるんだなこの人、てっきりスタッフにやらせていると思ってた、でもアイドルのリーフレットなんて仕事は初めてだし、面白そうだしやってみたいな。
丸ちゃん先輩を見れば手でOKサインを出してる、良し。
「お受けします」
ん、あれ?
何か引っ掛かるが早速デザインの打ち合わせをする、サイズ、紙の種類、枚数、納期の確認、藤崎がいそいそと見積書を作って持って来る。
「本人が手配りでファンに渡すんですか?それなら表面はグループ名と名前、イベントの日付が入っているだけのシンプルな感じで良いんじゃ無いですか、QRでもつけて個人のインスタにでも誘導して」
「いいね、片面は制服姿のバストアップ写真使ってインパクト出そうか、向きそろってた方が統一感出るか?」
「じゃあ、QRコードは胸のビーチクの位置に入れます、ちょっと意味深に」ニヒヒ
「男には受けそうだな、それで行こう!」ニヤリ
やはり決定権のある人と直接打ち合わせをすると話が早い、その場でデザインラフを描いてOKをもらえる、テンポが良い仕事は楽しいね。
打ち合わせしてると夏元さんが事務所に飾ってあるサイン色紙を目に止める。
色紙に描かれたイラストと丸山社長を見比べ頷く。
「あのサイン色紙のイラストはもしかして君が?」
「あ、はい、そうですよ、イラストは得意なんです」
「ふむ、チラシにメンバーの似顔絵をワンポイントで入れれるかな、UTUMIの署名入りで」
「10人分ですか、イラストは別料金になりますけど」
「倍の額出そうじゃないか」
「「「やりましょう!!」」」
スタジオエムの3人の声が揃う、地方のデザイン事務所としては破格のお値段だ、イラストなんか俺が描くんだから経費かからないしね。
夏元の頭の中ではUTUMIとグループの親しさをアピールが出来、話題性とそれに伴う集客を天秤にかける、十分に元は取れると判断した。
内海としても掛かる経費に対して儲けが凄いと、ウキウキだ。これをWINWINの関係と言わずしてなんとする。
「相変わらず内海くんはお客さん乗せるのが上手いなぁ」
「ほんと営業向きだよな」
いきなり入ったお仕事に慌てながらも事務所は動き出す、美味しい仕事になりそうだ。