「では、納品はウチの事務所に配送してくれればいいから」
「わかりました、デザインラフ上がったらPDF送りますのでご確認ください」
「ああ、それでよろしく、じゃ」
夏元さんが帰ろうと立ち上がるが動きが止まる。
「ん……あぁ、あぶねぇ、来た目的を思い出した」
再び腰を下ろすと俺に向き直る。
「今日は中山さんからYouTubeのチャンネルを、立ち上げろって言われて来たんだよ、あぶねえなぁあのまま帰るとこだったぞ、普通に一仕事したから油断した」
知らんがな、こっちは美味しい仕事の発注貰ったからもう帰っていいですよ。
なんか面倒そうだし。
夏元さんが思い出したようにYouTube用の動画を撮ると言い始めた、そりゃデザイン事務所だから商品撮り用のスペースと照明ぐらいはありますけど、マイクは流石に無いですよ。
と言うかなんで夏元さんが俺のYouTubeチャンネルを監修するの?
「大丈夫、マイクはウチで使ってるの持ってきている、編集は俺の知人に頼むからUTUMIの負担は少ない」
本当に用意がいいな、仕事が出来る人って素敵。
「アカウントはアミュズから飛ぶようにするとして、年末までに5本はアップしたいから、その分今日撮っちゃおう、とりあえずなんかやってみろ」
おいおい、有名プロデューサーのくせにこっちに投げっぱかよ、演出はどうすんだ。
「大丈夫、どんな映像でも編集でちゃんと見れるようにはしてやる」
う~ん、信用有るんだか無いんだかわからん残念コメントありがとうございます、うんじゃ自己紹介でも。
「えぇ~UTUMIです、25歳、趣味はギターで特技はチラシのデザインが出来ます、好きな食べ物はカツ丼です♪」
「お前なぁ、アダルトビデオじゃないんだから、そんなつまんない自己紹介いらないんだよ」
早速ダメ出し食らった、自分でもちょっとそれっぽいなと思っただけに、少し恥ずかしい、スリーサイズも言った方が良かった?
「だったら何言えばいいんですか~」
「名前の後に今から何やるか言えばいいんだよ、まったく、中山さんはこう言う事やらせないんかね」
「あ~、週末しかアーティストやってないんで、この手のプロモーション仕事は任せっきりで」
「今はネットを使わない宣伝なんかないぞ、しっかりやれ」
「うぐっ、ここにもペーパーレスの波が、もっとアナログで行こうよ〜」
結局、ギタリストらしい良くある弾いてみたシリーズをやってみる。
「じゃあ、今日は簡単にギターのピック弾きとスラップの仕方を紹介しますね」
「まずはピック弾きから」
右手にピックを持って弦を弾く。リフは有名な奴でいいか。
ジャララン、バキ、パキィ、ベキベキベキ、ベキャベキャ♪
「で、このままピックを中指と薬指に挟んでスラップに移リマ~ス」
ズダダダダダダダ、ボン、ボン、ダダダダ♪
「うぉ、凄ぇ。お前いつの間にそんな事を出来るようになったんだ、ピックからスラップに違和感なく移ってる、上手ぇ!」
藤崎がカメラを覗きながら呟く、声入っちゃうよ。
「あぁ、この弾き方?ジャーさんからこの前習ったんだ、いい感じでしょ」
「いいなぁ、今度教えろよ」
「OK!」
「…………UTUMI、ついでだからなんか歌ってみろよ」
じっっと見ていた夏元さんが歌えって言ってくる、そんな簡単に言ってくれちゃってまぁ。
「歌うの?そうだな、じゃあこの前コインランドリーで歌った奴をばリベンジで」
ジャロリラ♪
LaLaLa~~~~~~~~~~~~~♪
エイミーワインハウスのバックトゥブラック、この前の大学生は反応イマイチだったけど、ワッハッハ、今度は受けるといいなぁ、最近風呂場でよく歌ってるから少しはマシになったのだ。
恨み節の歌詞の割にはノリノリである。
「「「……………」」」
狭い事務所だけにUTUMIの声が何処にいても聞こえる、それほどまでに声が通る。
夏元はブルリと身体を震わせる、組んでる腕には鳥肌が立っていた。
「マジか、中山さん。これは反則だろ」
初めてUTUMIの生歌を聴いたがこの迫力はなんだよ、日本どころか世界で通用する歌声じゃないか、これはアリアンティがツアーにマジで誘うわけだ。
パチパチパチ
「上手いじゃないか、受け良さそうだからその調子で4・5曲歌ってみろ」
「え、弾いてみたシリーズじゃダメ?」
「お前、アーティストでギタリストじゃないだろ」
「うぇ〜い、じゃあ次はアネサフランクリンのシンクをやりま〜す」
ジャカジャカジャカ
LaLaLa~~~~~~~フリ〜ダ〜♪
おいおい、R&Bだけじゃなくソウルも歌えるのかよ、しかもまるで自分の歌みたいに自然に歌ってやがる、オペラ歌手並みにバカみたいな声量で楽しそうに。
隣の藤崎くんを尋ねるように見れば。
「あいつ70年代の洋楽が好きなんですよ、ジミヘンとかローリングストーンも歌えますよ」
(あ、これ男の時だった、今ならジャニスとか似合うかもしれないけど)
「うわぁ、もうどうやっても売れるなコイツ」
夏元の脳裏に様々なシーンが浮かぶ、日本人がアメリカで実力でトップをとる、それはもう夢物語ではない、こいつなら、UTUMIなら実現可能だ。
「次はジェームスブラウン、The Old Landmark」
〜♪♬
「はは、ブルースブラザース好きなんすよアイツ」
隣の藤崎が呆れたような顔で説明してくれる。
男の歌も女の歌も…………天才か。うん、洋楽以外も聞いてみたいな。
「次、洋楽以外、日本の歌でなんかやれ」
「え、日本かぁ、歌詞ちゃんと覚えてるのだとこれかな」
ジャカジャン
あぁ〜〜♪
「川の流れのようにか、コイツ誰がこの歌作ったか知ってて歌ってんのかね、ギターアレンジとか新鮮で凄え良いじゃねえか」
ジャージャガジャン♪
「…………」
「おーし、歌はそんなもんでいいだろ、ちょっと映像チェックするから休憩 (これ以上驚かせられたらこっちがもたん)」
カチ、ボッ
夏元さんがPCで映像チェックし出したので、俺らは一服することにした。ふぅ〜、一仕事終えた後のタバコは美味い。
それを見た夏元さんがなんかカメラを向ける。え、休憩じゃないの?
「UTUMIはポールモールなんて吸ってんのか?渋いな」
「キャメルも吸いますよ、洋もくが好きなんで」
「今時はどこも禁煙で肩身が狭いですよね」
藤崎がハイライトを吸いながらデッカいガラスの灰皿を俺の前に置いてくれる。
「サンキュ」
この事務所は俺と藤崎が喫煙者なので換気扇のある給湯室ならタバコが吸えるのだ。
ウチのデザイン事務所にはヤクザの組にありそうな大きめのゴツゴツしたガラスの灰皿がある、このズシリとした重量感を俺は気に入っている、昔のサスペンスドラマでは殺人の際には鈍器に使われそうな貫禄がある
「夏元さんは吸わないんすか?」
「周りが若い子多いから、吸わなくなったな」
「あぁ、アイドルって二十歳前ばかりですもんね」
仕事終わりの一服は美味いんだけど、今は喫煙者には厳しいからな。
「私アイドルでデビューしたら禁煙でもさせられたかな、そうだったら絶対デビューしなかったな」
「ハハ、お前は酒もタバコもやるからな、アイドルじゃ駄目だったな」
「いや、女性アイドルならイメージ悪いから、普通やめさすぞ」
「「ハハハ、あっぶねぇ〜」」
「そうだ、酒と言えばお洒落って漢字は酒に落じゃないんだ酒に1本、線が足らないんだぜ、知ってた?三昧《ざんまい》も三に味じゃないんだ左が日なんだ、ビックリだよ!この前FM長野のラジオで言ってて目から鱗だったんだ」
「コイツ、バラエティに出しても良い味出しそうだな」
「あ、いいんじゃないですか、コイツ結構天然ですから、クイズ番組でもアホな回答しますよ」
「やめて〜、内海くんのイメージが壊れちゃう!」
丸ちゃん先輩、俺にどんなイメージ持ってるのさ?