ボフンッ
ベースを手に楽屋に戻る山本光は、部屋に入るなりソファーにへたり込んで叫ぶ。
「凄いぞ私、あの化け物共相手にやり切った、負けなかったぞーーーっ!!」
その光のやり切った姿を見てドラムの神保が誉めるように優しく微笑む。UTUMI達三人はステージ裏で夏元プロデューサーに捕まっていたので楽屋には今二人しかいない。
「今日のUTUMIは本当に神がかっていたわ、思わず聞き惚れてミスりそうになっちゃった、ねぇ神保さん、なんであんな化け物が今まで世に出てこなかったんだろう?」
「25歳だっけ、確かにデビューとしては遅いよな、でも今日のステージを見てるとそんなのどうでもよくなるね、僕も今日のステージは全力出し切ったもの、疲れたわぁ」
第一線で活躍してる光と神保だが、UTUMI、M-HOTOMI、ジャーの三人と
楽屋だけではない、ステージでも動揺は広がっていた、芸歴の長いベテラン組はUTUMIに本物の力を感じ楽しそうにニヤニヤと笑い、若手組は反対に絶望感に包まれていた。
「あんなの反則でしょ、あの美貌にあの歌声、それにあの世界的ギタリストのM-TOTOMIとジャーとセッション出来るギターテク、これは勝てない」
「もうヤダ!なんであんな化け物とデビューが被るのよ!運が悪すぎる勘弁してよ」
「かっこよすぎてやばい、同じ女なのに惚れるぅ〜!」
「絶対にこの人の時代が来る、UTUMIと比べられる前にもう引退しようかな」
「さっきの歌声が頭にこびりついて消えない、ずっと脳内で流れてるぅ」
「夏元Pさん、UTUMIお姉様とコラボでなんかやってくれないかな♪」
「これ日本どころか韓国でも売れるよ、ダンスは…あ、ギタリストは踊らないからいいのか」
「マジで綺麗なお姉さんだなぁ♡」
様々な思惑や感想が飛び交う中、全員の視線はステージ裏で夏元と楽しげに話しているUTUMIに注がれていた。
実は夏元の計画は番組全体に張りめぐされていた、トリの福山との共演はもちろん、途中akbのパフォーマンスではサポートギターで無理矢理出させられ、三山HIROSHIのけん玉チャレンジにも参加した(これは珍しくUTUMI本人が熱望した)、しかし結果は気合いの絡まったUTUMIの失敗でギネス更新はならず。まぁそれはそれで盛り上がったのだが。
「クソッ、来年はリベンジだわ!絶対に成功してみせる!!」
自前のけん玉を握り締め天を見上げるUTUMI、東京の空は星が見えない。
その真剣な表情は歌ってる時よりよっぽどマジだった。
ついでだからとさゆり石川のバックで天城越えをギターで弾かされる、気づけばどの時間帯にもUTUMIが映っている異常事態になっていた、働きすぎである。
普通これだけ出ずっぱりだと他の出演者の反感をかうものだが、オープニングでのインパクトが強すぎて皆が我先にと絡んで引っ張り出してくるのだ、UTUMIも立派な社会人で営業もやっているだけにこの辺の対応はそつなくこなしていた。
「良し!リサさんのサインゲット!春夏にお土産出来た!あれ、坂本さんどうしました?夜桜お七、ええ弾けますよ家の親父のカラオケの十八番ですから、やだなぁ〜一緒になんか歌えませんよ、そんな事したら坂本さんのファンに怒られちゃいますよぉハハハ」
ギャリン♪
「…あれ?何で私、坂本さんの横でギター弾いてるの?今日何曲弾くんだよ」
今度はRADの野田さんが話しかけて来た。
「え、ごめんなさいRADの曲は弾いた事ないです、味噌汁'sの曲ならマルコメ味噌のCMで聴いてたので弾けますけど」
トリは福山雅春とのツインボーカル&ツインギター、
本来は福山の曲では無いのだが、本人が酷く気に入って本気で練習したらしく、めっちゃギター上手かった。
サポートギターにはM-HOTOMIさんが勤めて番組ラストを盛り上げた。
ジャガジャガジャガ♪
福山とUTUMI、美男美女がお互い背中を合わせで仲良くギターをかき鳴らせば、男女関係なく声が上がる。
これが若い可愛いだけのアイドルなら絵にならないのだが、UTUMIは25歳だけに色気が半端ないのだ。
UTUMIはと言えば帰ったら春夏に怒られそうだなと思い、遠慮して少し身体を離すのだった。
「イアヤァーー、福山ぁ!お姉様から離れないでぇ!」
「マシャー、UTUMIとだったら許すぅ!」
「クソォ、お似合いだよお前ら!チクショー!」
今年の紅白歌合戦は誰かさんのせいで赤組の番組史上圧倒的な勝利で幕を閉じた。
ちなみに最高視聴率は72%を記録した、昭和かよ!!
「では皆さん、良い年を〜!」
司会の綾瀬はるかの一声で番組は終了する。
ゴ~ンゴ~ンと除夜の鐘がどこからか聞こえてくる。
「「「「「「カンパーーーーイ!!」」」」」」
番組が終われば俺の今日のお仕事は終了だ、レッド&ホワイト(仮)のメンバー5人で打ち上げである。
中山さんや夏元さん達はまだ仕事があるらしいので不参加だ、このあと仕事が無いメンバーだけの打ち上げ、紅白に出るような歌手の皆さんは年末年始もカウントダウンライブなどの仕事があるようで大変だねぇ。働き過ぎで倒れないでね。
「今日は満足いく演奏が出来た!と言う事で今日はジャーのおっさんと俺の奢りだ飲め飲め!お疲れ様ァ!」
HOTOMIが打ち上げの挨拶をするとジョッキを一気に煽る。
「今はHOTOMIの方が稼いでるだろ奢れよ」
「いやいや、大先輩を差し置いてそんなこと出来ませんよ〜ハハハ」
「「「ごちになります!!」」」
UTUMIと光、ついでに神保までも調子に乗って頭を下げ声を上げる、ノリは大学コンパに近い。
「「おう、飲め飲め!!」」
一仕事終えた後の酒は美味い、あ、お姉さん、生お代わりお願いします。
「へ、紅白見てたの?ありがとう、握手?いいですよって、何人並んでるのよ!」
お姉さんの後ろにはズラリと店員とお客さんが並んでいた。やっぱ居酒屋は人が集まるよね、サインは時間かかるからと断ったけど、お店にはバイトのお姉さんの似顔絵書いて1枚だけ描いて渡した。なんか店長さんと揉めてるけど大丈夫?あ、HOTOMIさん達他のメンバーにもサイン書いてもらおうか。あ、写真の方が良い。
「ハハ、UTUMIは明日から大人気で大変だぞ、ん、もう今日か?なんせ今日の紅白で日本中の人間に知れ渡っちまったしな」
ジャーが突っ込むが今更である、紅白はお年寄りから子供まで見るのだから。
飲み始めてしばらくすると光がUTUMIに話しかけてくる、酔っているのか顔が少し赤くなってて可愛い。
「ねえ、UTUMIは25歳だったよね、なんでもっと早くデビューしなかったの?そうすればデザイン会社に勤めなかったのに勿体無いな」
「へ、だって私そんなにギター上手くなかったし」
「あれで!?じゃあ歌手でデビューすればよかったじゃん、あんだけ歌上手いんだから」
「私ごときが、あ、でも高校の時に母親にアイドル (ジャニー◯)やらされそうになった事はありますよ、断りましたけど」
「「「「うわぁ、勿体な!」」」」
「でも、こいつにアイドルなんて無理だろ、酒とタバコがやめられないアイドルなんてすぐに干されるわ」
「えぇ、仕事ならやめますけどぉ〜」
UTUMIがHOTOMIの言葉に口を尖らせて反論するが、絶対に無理だろう。
「無理無理、じゃあアイドルの歌、なんか歌ってみろよ」
「くっ言わせておけば、よーし!ジャーさんギター貸して」
UTUMIがスクっと立ち上がるとジョッキを一気に煽る、ジャーのストラトキャスターを構えると店内から大きな拍手が巻き起こる。
マイク無しの弾き語り、お前は流しか!
ジャルリラン♪
「では、UTUMI。松田聖子さん歌います!」
「「「「おおぉーーーーーーーーっ!!」」」」パチパチパチパチパチパチパチパチ
ジャラーン♪
結果、他のお客からのリクエストにも応え計6曲の80年代のアイドルソング(父親がアイドル好きの影響)を熱唱した、その姿はHOTOMIがスマホでライブ配信してめっちゃバズった。
居酒屋中が大盛り上がり、お酒は程々に。