ペリッ
サクッ
「うん、美味い、母さんも食べるか」
「あなた、またそれ食べてるの?飽きないわね〜」
東京駅のイラストが描かれた箱に金色の包みに入った東京駅丸の内駅舎チョコサンドクッキー(12枚入972円税込)、最近頻繁に東京に行くようになった息子のお土産だ。東京駅の売店で売っている東京駅オリジナルの商品らしいのだが、東京の土産としてはどうなんだろ、温泉に行って温泉饅頭を買ってくるようなものか。行く度に買ってくるからもう5箱くらい棚にあるけど。今度は東京ばな奈かひよ子でも買ってこないかな?
なんかこの前、いきなり家に来て叔父さんと交換していたカローラを自分の車に戻すと言って、慌ただしく帰っていった。
仕事で何かあったのだろうか、あいつ運転荒いからちょっと心配だ、今度隣に乗せてしっかりレクチャーしてやろうか。
「じゃあ、あなた、私はパートに行ってくるから戸締りお願いね」
「おう、気をつけてな」
ズドドッドドオォ
秋江《あきえ》がバイクで出かけるのを見送る、さて私も今日は会社に顔を出すか、棚からチョコクッキーの箱を取り出す、事務所に置いておけば、事務のおばちゃんが喜んで食べるだろう。
最近乗ってないけど、34Rのバッテリーまだ上がってないだろうな。
「ちょっと走りに行ってくるね」
「またぁ、お兄ぃも飽きないね〜」
「おう、この前ものすごい運転を経験してな、忘れないうちにちょっと走っとこうと思ってね」
「安全運転でね、赤キップなんか切られたら余計なお金かかっちゃうからね」
お金どころか、車社会の田舎で免停になんかなったら仕事にならないのだ。
「おう、大丈夫、最初は軽く流して様子見るから」
ヴァボボボォ!
「まったく、元気よね〜」
お兄ぃがクルマで出かけるのを見送る、さて私はもう寝ますかぁ。
水曜日のシンデレラ
最近、絶滅危惧種になりつつある走り屋の間でまこと密やかに噂されてることがある、水曜日の午前0時に◯◯峠を型の古いRX-7が、ラリードライバーのような気狂いじみた走りで駆け抜けると言うのだ。
しかもドライバーは絶世の美女だと言う、だだその容姿は金髪だの黒髪だのとあやふやだった。
眉唾物の噂話だが、実際に見たと言う者が3人もいれば、狭い世界だけに噂が広がるのも早かった。
だがそんなスピードで夜道を走るドライバーの顔をどうやって見たと言うのだ。
「頂上の自販機のところでタバコ吸ってる所をチラッと見たんだよ!マジで美人なの、まるでUTUMIみたいだったんだよ!」
「はいはい、お前は美人だとみんなUTUMIだな」
走り仲間のこいつがそう言い張るもんだから、こうして平日の夜にわざわざ峠に足を伸ばしてしまった。
ん、スマホが…
チャンチャン、チャン♪
「はい」
「下の橋だけど、1台RX-7(FC)がすれ違ってそっちに上がってったぞ!女だった!」
「速かったか?」
「いやゆっくり流してたけど、あの音は結構いじってるぞ」
ヴァギャーーーーーーーーーーッ!!ギャオォ
「来た!」
下から上がってくるスキール音とロータリーサウンド、間違いないRX-7だ。
コーナーの先にヘッドライトが見えたと思ったら、あっという間に目の前に迫っている、異様に速い。
ヒュルルルル、ドギャオゥ!!
ウエストゲートが抜ける音と共にブレーキランプが一瞬点灯、その瞬間コーナーに合わせてRX-7の車体が横向きに滑り出す、ほとんどカウンターをあてない完璧なブレーキングドリフト、右コーナーから左コーナーに続くS字コーナーを流れるように駆け抜けて行く。チラリと見えた横顔は確かに髪の長い女性だった。
ビリビリと空気が震えた。
「「凄ぇ!」」
ズギャアアアアアーーーーーーーーーッ!
「「…………」」
バタン!
「早く隣に乗れ!追いかけて頂上に行くぞ!」
とても追いつけるスピードじゃないが、一縷の望みをかけて追いかける、頼む頂上で止まっててくれ。
スキュキュキュ!
ボッボボボボボボボボッ
ガコン、カシュ
峠の頂上、湖横の駐車場の自販機で缶コーヒーを買って、タバコに火をつける。
ふ〜〜っ、美味い。この瞬間が良いよね。夜の峠、誰も居ない道端で煙を吸い込む、最近は仕事やバイトが忙しくて峠には来てなかったが、この雰囲気は好きだな、藤崎のバイクと一緒に来てた頃が懐かしい。
プゥァアアア
「ん、上がってくる車がいるな、下の方で止まってた軽の子かな」
キキィーーーーッ!
「い、いたぁ!!白のセブン!……………へっ」
あの長い黒髪、あの完璧なスタイル、なによりもその顔ぉ!
「「マジでUTUMIだ!」」
バタン
「やあ、今日は涼しいね、君たちも走りに来たの?」
「は、はい!ご、ご機嫌麗しゅうですます」
うわっ、あのUTUMIが笑顔で話しかけてきた、俺ら今UTUMIに話しかけられてる、感動と緊張で上手く喋れない。
「あ、あの、運転上手いっすね!」
「結構この峠は走り込んでるからね、君達は走り屋?最近は夜にわざわざ走る子少なくなったでしょ」
「お、俺ら、いや自分達は車が好きで、う、UTUMIさんの大ファンです!!」
「へ、…あ、ありがとね」
俺たちの言葉にポリポリと罰が悪そうに頭をかくUTUMI。まさかバレてないとでも思っていたのか、スッピンでも一目でわかる美貌なのに。
「あの!記念に一緒に写真いいすか」
「あぁ良いよ!どうせなら君のコペン、私のセブンの横に並べなよ」
「はひぃ!光栄です!」
「ほら、もうちょっとくっつかないと3人入んないよ」
紅白出場アーティストのUTUMIなのになんでこんなにフレンドリーなの!近い近い、なんか甘い良い匂いがするぅ!Tシャツパンパン、胸デッカ!目が離せないぃ!
「ハイ、チ〜ズ!」カシャ
「どれどれ、はい、これで良い?」
俺のスマホの画面に映るUTUMIとのツーショット、隣のコイツ邪魔だな、後で消したろ。(これは二人して思ってます)
「じゃあまたね〜、無茶して事故るなよぉ!」
「「は、ハイッ!」」
ヴァギャアアア!
走り去ってゆく白いRX-7、その姿をエンジン音が聞こえなくなっても、いつまでもいつまでも見つめていた。
少年達は今日の夜を一生忘れないだろう、そしてこの女のせいで理想が高くなり過ぎ、彼女が出来なくなるのだ。(笑)
う〜ん、結局こうやって書けるとすぐに投稿しちゃうから、書き溜めが出来ないんだな。我ながら堪え性がない、もっと話を練った方がいいのか?
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