「よっこいせぇ」
金曜の夕方、明日の燃えるゴミの日に合わせゴミ袋を片手にアパートの廊下に出る、休みの朝はやっぱり、ゆっくり寝てたいじゃない。
ふと下を見れば見覚えのある金髪が。
「んん。何やってんだお兄ぃ」
下の駐車場、お兄ぃが自分の車の横で中腰の姿勢でじっと1点を見つめている。
左手にはコンビニ袋、右手に持つのは魚肉ソーセージか?
視線の先に居るものは、ちょっとデブな三毛猫が、こちらもお兄ぃを見つめてじっとしている。
いや猫が見てるのは魚肉ソーセージか。
「あ〜、また野良に餌あげようとしてるのか、地区の回覧板で野良ニャーに餌はあげないでくださいって言われているのに、組長さんに文句言われても知らないぞ」
お兄ぃの右手でプラプラ揺れる魚肉ソーセージ、揺れに合わせるようにユラユラと顔を動かす三毛猫、よく見ると片耳の端が切られて欠けている、一度は人間に捕まった奴だな。
お兄ぃは昔から猫がめっちゃ大好きだ、しかし猫の方がお兄ぃを好きになる事は永遠にない、何故か警戒され懐くことはないのだ。
悲しいけどこれが現実だ、あ、私には猫の方から寄ってくるよ、これも人望の差だね、決して私の方が親しみやすい顔だからではない。フフフ
現に猫はお母さんにも懐かない、むしろ見たら逃げる、お父さんは猫アレルギーなのに寄ってこられる、蕁麻疹が出来るのでちょっとかわいそうだ。
結論、野生動物には人間の良し悪しが本能的にわかるものなのだ。ワハハハ?
しかしお兄ぃよ、そのいかにも襲いかかるような姿勢はいかがなものか、そんなだからいつまで経っても懐かれないんだぞ、それに今は見た目が美女になってるだけにその図はいかにも微笑ましい、タイトスカートでそんなに足を広げるんじゃない、ほら向かいの家の叔父さんがニコニコと優しく見守ってるじゃないか。
ジリっとお兄ぃが1歩前に出る、それに合わせて伏せの姿勢をとる三毛猫、お互いが様子見だ、先に動いた方が負ける。何にだよ?
「あれ?竜太だ」
通りの向こうからチャリンコに乗った竜太が近付いて来る、通りのファミマにでも行った帰りかな、ハンドルには小さなビニール袋を掛けている、ファミチキかな。
あ、お兄ぃに気づいた、そりゃああんな金髪姉ちゃんが目を引くカッコで変な姿勢で止まってれば目立つわな。
お、お兄ぃの狙いに気づいたな、流石は気がきく私の彼氏だね、チャリンコを降りて静かに三毛猫の方を向いた、お兄ぃとのアイコンタクト、ピキーーーン以心伝心、二人が深く頷いた。
三毛猫捕獲作戦の始まりだ、いい歳扱いて何やってんだアイツら、小学生かよ。
お兄ぃと竜太、両方向から挟まれた三毛猫はフシャーと尻尾を立てて警戒してる、そりゃそうなるよね。
いつの間にかお向かいの叔父さんの横に叔母ちゃんと小学生の娘が増えてやがる、4名のギャラリーが静かに二人を見守る。
一瞬の静寂、お兄ぃと竜太が一斉に駆け出す、バカだなアイツら猫は追うと絶対に逃げるんだよ。
フシャーーーッ
距離が近かった竜太が猫パンチの洗礼を受ける、あのパンチを避けるのは至難の業だ、あ、引っ掻かれた、次はお兄ぃだが三毛猫は近づいてくるお兄ぃの右手に正確に狙いを定めている、猫特有のジャンプ力を活かして飛び上がるとすれ違いざまに魚肉ソーセージを咥え一瞬で奪い去る。お見事だ!
振り返りながら絶望の表情を浮かべるお兄ぃが面白い、なんであんなに猫の扱いが下手なんだ、好きこそモノの哀れ也って奴だな。
タッタッタッタッ
魚肉ソーセージを咥えて走り去る三毛猫を、竜太とお兄ぃが見つめる、夕日に照らされた二人の顔はどこか満足気だ、ハイタッチまでしてやがる、友情でも芽生えたか?
お向かいさん夫婦には拍手までされる始末。
あ、二人が私に気づいた、やめろ!肩を組みながら手を振るな恥ずかしい、お向かいのご夫婦が微笑んでるやないか。
なんだこの絵は、ちょっとカッコいい高校生男子とめっちゃ美人なお姉ちゃんが、野良猫の餌付けに失敗しただけなのに、何か良い事したような雰囲気出してんねん、動画に撮っておけばどこかの番組に投稿できたかな。
バレては仕方ないので駐車場横のゴミ集積所に降りて行くと、竜太とお兄ぃが笑顔で迎えてくれた。
私はちょっと呆れたように笑ってしまう。
「よう、春夏、やっぱ猫は素早いな、イテテ、引っ掻かれた」
「あいつ、あんなふうに奪ってかなくてもギョニソあげるのにぃ〜」
「バカでしょ、あんたら。猫なんか待ってれば勝手に寄って来るんだぞ」
猫の写真で有名な岩合光昭さんも、そう言ってたような気がするから間違いない。
「「えぇ〜、絶対来ないよぉ〜!」」
ウニャ〜♪
3人で話してると私の足元にさっきの三毛猫が居てすり寄って来る。御丁寧に口に魚肉ソーセージを咥えながら。
私はゴロゴロと喉を鳴らす三毛猫を撫でながら二人に言う。
「ほらね」
「「ウッソーーッ」」
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