日曜の夜、もうじき日付が変わろうとする頃。
中学館のCan Can の編集ルーム、一人の中年女性が音楽バラエティ番組をじっと見ている。
Can Canは創刊40年を超える月刊女性ファッション誌だ、20代前後の女性読者が多く赤文字系の雑誌だが、一時期は80万部を売り上げていた、だが最近は出版不況もあり14万部までに部数が落ち込んでいる。
「やっぱり彼女を表紙に欲しいわね」
TV画面をじっと見ていた亀井編集長がボソリと呟く。見ていた番組は8JAM、モニターの中ではUTUMIが楽しげに白いギターを弾いて歌っていた、ファッションセンスも亀井から見ても合格点だ。
「誰がコーディーネートしてるのかしら、まさか自分で?」
相変わらずとんでもない歌唱力、ツヤツヤの長い黒髪、スラリと長い白い脚、何よりもその美貌は女性ならば誰もが憧れるものがある。
「まだ、美容系のCMには出てないのが不思議ですよね、どこもオファーはしてるでしょうに」
「あら、もう打ち合わせは終わったの?」
亀井編集長に声をかけたのは、この編集室でも亀井に次ぐ権限を持つ副編集長の宮守だ。
宮守も亀井と一緒にTV画面をじっと見つめる、日曜の夜だと言うのにトップ2人が編集室に揃っていた。
「前に月刊スクリーンの風間も言ってましたが、確かにとんでもない魅力がありますね」
「うちの雑誌に引っ張り出せない?Guitar magazineなんてニッチな雑誌になんで先を越されてるのよ」
UTUMIが表紙を飾ったアニメ雑誌やGuitar magazineの先月号はとんでもない売り上げだったと言う、Can Canとしても是非その恩恵にあやかりたい所だ。
「と言うか、あのビジュアルでなんでアニメ雑誌やギター雑誌なのよ!あれほどの美貌ならファッション誌やグラビアから引っ張りだこでしょうに」
アニメ誌は川森監督が暴走し、ギターマガジンの方はUTUMI本人が暴走した結果だ。
「どこの雑誌も交渉はうまく行ってないようですね、高談社のフライデーも彼女に水着グラビア申し込んで中山さんを怒らせたそうです、彼女かなり活動が制限されているんですよね、その匙加減が中山さん上手いですよ」
「くっ、アミュズの中山か、あいつが関わるなら水着グラビアなんて安っぽいものにOKは出さないだろうな、高談社はバカなのか」
「いや、私も女ですけど彼女の水着姿は見てみたい気持ちはわかりますけどね、実際バニーガールのコスプレはしていますし」
「あぁ、凄くスタイル良かったな」
あのUTUMIのコスプレを見た時、何かを思い出しそうでモヤッとしたのだが。
「ですね」
再度、二人は考え込む、なんとしてもUTUMIを表紙に使いたい、その気持ちは一緒だ。
「では編集長、誌面でギター特集を組むと言うのはどうでしょう?それなら出演交渉しやすいんじゃないでしょうか」
「うちはGuitar magazineじゃないんだぞ、うちの読者層には」
ピルルルル♪
「すまない、電話だ」
亀井にかかってきた電話のせいで中断される会話、宮守は亀井の元を離れ自分のデスクに向かった。
ピッ
「亀井です、珍しいわね、秋江から電話かけてくるなんて、どうした?」
電話の相手は昔アパレル関係で付き合いのあった、古い友人だった、確か今は結婚して苗字も変わり長野の方に住んでいるのだったか。
「おひさ♪、良かった番号変わってなくて。ねえ、いきなりで悪いけど亀井の知り合いで、腕の良い職人さん紹介してくれない」
「何、貴女また服作り始めたの?」
この友人の服作りのデザインとセンスと腕はピカイチだった、デザイナーでもやっていけただろうに、結婚して田舎に引っ込み自分では作るのをやめていたはずだが。
「最近、息子の服作るのにハマっちゃってね」
「息子の服?貴女も親バカやってるわね〜」
「私に似て何でも似合うから楽しくて、つい」
あらあら、確かに秋江は凄い綺麗で当時はモデルを頼んだ事も何回かあったが、そんな彼女も今は一人の母親か、自分の息子に服を作ってあげてるとは親バカだなぁ、そう思うと不思議と心が温かくなる気がした。
「良いわ、何人か上手い人紹介してあげる。息子さんにかっこいい服作ってあげなさいよね」
「ありがと、やっぱCan Canの編集長ともなると頼りになるわ、服が出来たら写真撮ってメールするわね♪」
「どういたしまして、楽しみにしてる、じゃあ秋江も元気でね」
ピッ
「ん、私に似て?」
どうにも違和感が、何か引っ掛かるものがあったが、亀井はまぁいいかと流してしまった。
スマホをポケットにしまうと改めて、自分のデスクに戻っていた宮守に声をかける。
「宮守ぃ!さっきの件だけどな、憧れのUTUMIが使ってるギターはコレ!って紹介なら特集組めるかな?」
「亀井編集長、彼女はいつも同じギターしか使ってないから、その組み方はちょっと無理が……」
「う〜ん、何か特別なツテでもあればな〜」
UTUMIのギターは大学時代に買った、中古で安物の使い古したストラトキャスターだからね、(5万まで値切って、壊れてた所は藤崎が補修した)最近はジャーから貰った桜色の新品のストラト(こっちの方が33万でめちゃ高い)もあるけど、もったいなくてあまり使ってない。ギタリストを自称するくせに。
一方、長野県須坂市、電話を切った内海秋江は。
「よし、これでドームでの衣装も完成の目処がついたわ、やっぱ持つべきは友人よね」
後日、秋江から送られて来た添付画像を見た亀井が、編集室中に響く悲鳴を上げる事になるのだが、それはどうでもいいか。
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