東京、M-HOTOMIの録音スタジオ。
「シグネチャーモデル!!」
思わず大声を出してしまった。
「あぁ、なぜか俺の所に何社か問い合わせが来てる、ギターマガジンの取材や8JAMに出演したからじゃね」
ジャカジャ
ギタリストとして有名になると楽器メーカーから、個人的なカスタムを施した自分の名前を冠したモデルのギターが出る事がある、所謂〇〇モデルと言うやつだ、当然だが目の前のHOTOMIさんにもその名前を冠したシグネチャーモデルが存在する、それはジャーさんやヒサヒさんも同様である。
シグネチャーモデルは個人の名を冠した、ギタリストとして有名になった何よりの証明なのだ。
「お前だったらやっぱりフェンダーが良いだろ」
「え、フェンダーで作って貰えるんですか!」
ジャカジャカ
「お前の愛用ギターがストラトだからな、ジャーさんと同じ日本製になると思うが」
愛用と言うか2本しか持ってないけどね。
「マジで」
ジャカジャン
これはすでに成功例を何度も出しているHOTOMIの影響が大きい、でなければデビューして1年たらずの新人のモデルを出そうなんて話は出るはずがない。
だが、やはりメーカーとしても知名度のあるギタリストのシグネチャーを売り出して儲けたいのは本音だ、フェンダーとしても女性ギタリストではリスクが多いが、その点ではUTUMIの知名度、人気は決して無視出来ないものだった。
「ウッ、ウエッ…」
「お、おい、泣くなよ、おい」
「らって〜〜、うでじくて〜」
これは女になって涙もろくなったわけじゃない、こんなチャンスは男だろうが女だろうが関係なく、めっちゃ嬉しいに決まってるじゃないか。Fender Stratocaster Model UTUMI、なんて良い響きだろう。
目の前でボロボロ泣き出した俺に、HOTOMIさんがあたふたしているのが面白い、こんなHOTOMIさんは滅多に見れるもんじゃない。
「けどお前スポンサーがつくからエンドース契約とかあるし、その売り出すモデル使わなきゃいけない期間とか色々条件あるぞ、商品だから宣伝にも駆り出される」
「でも仕様は私の好みに合わせて作ってくれるんですよね、だったら全然問題ないです!」
「うわ〜、どうしようワンポントでイラストとか入れちゃおうかな、色は白で良いとしてネックは……」
浮かれまくる私にHOTOMIさんが呆れてる、自分は何本もシグネチャーモデル出してるからって偉そうに。
そんなお偉いHOTOMI様には、今の俺のこのめちゃめちゃ嬉しい気持ちはわかるまい。
(こいつ誰のおかげで専用モデルを出せるか分かってません)
「じゃあ、中山さんの会社とちゃんとプロ契約結んどけよ」
「へ、やっぱパート契約じゃダメですか?」
「アマチュアギタリストが専用モデルを出せるわけないだろう。テストも多いからな、今の週末だけの活動だとシグネチャーモデル出すのは厳しいぞ」
「うう、会社の有給使ってもダメかな」
「契約細かいしライブも多くこなさないといけないしな、まぁ、そろそろプロになっても良いんじゃないか、お前の腕だったら十分ギターで食っていけるだろ、むしろ女性ギタリストならトップレベルだぞ」
「うう、悩むぅ〜、デザインの仕事がぁ〜」
(HOTOMIもギタリストの立場的に良かれと思ってプロ転向を進めてますが、別にメーカーの個人モデル販売の栄誉とか考えなければ、自分でお金をかけてギターをカスタムする方法もあります、それこそ世界で1台限りの。これは出版社から小説を出すか、自費出版で出すかの違いと似ていますかね、違うか?)
「月末にはメーカーに返事返したいから、考えておけよ」
「あい」
週明けスタジオエムで早速、丸ちゃん先輩と藤崎に相談してみる。
「マジか!シグネチャーモデル出せるなんて凄え名誉じゃないか!全ギター小僧の夢だぞ、凄え!」
案の定、藤崎はプロ転向を進めて来た、俺にギターを最初に教えてくれたのって藤崎だから当然かもしれん。
「そっか、それは藤崎くんが興奮するほどの事なんだね、個人としても社長としても内海くんが会社を辞めちゃうのは悲しいけど、仕方がないよね、これからはテレビの前で応援してるね」
丸ちゃん先輩が涙ぐむ、その悲しそうな顔を見ると気持ちが揺れる、でも丸ちゃんまだ相談の段階なんですけど。
藤崎はUTUMIモデル出たら1本譲れよと宣ってまだ興奮してるな、お前はそう言う奴だよ。
「じゃあ、お姉様は今度からスタジオエムをバイト先にすれば良いんじゃないですの?」
「「「へっ!」」」
「お姉様のやってる仕事の引き継ぎなら、UTUMIのファンでデザイン経験者を募集するのも手ですよ」
いつの間にか居た陽子ちゃんが言った言葉に、社会人3人がビックリした声を上げる。
「「「よ、陽子ちゃん」」」
「なんでしょう」
陽子ちゃんが可愛く首を傾げる。
「どっちのお仕事をメインにするかの問題でしょ」
「そ、そっか、そうだよね別にデザインの仕事を辞めなくても」
チラッと丸ちゃん先輩を見れば、ニコリと微笑んでいる、藤崎を見ればマジかぁ!と言いながら手を顔に当てていた。
デザイン業界でバイトはやりづらいかもしれないけど、今の時代リモートでもやれない事はない、実際入院中はリモートで仕事していたし。
「陽子ちゃん!」
「な、なんですの」
ガバァ
悩みが解決した喜びで、思わず陽子ちゃんを抱きしめてしまった。
「お、お姉様ぁに抱き、ウキュ〜〜〜〜〜」
「わっ、陽子ちゃん、鼻血が」
幸せそうに鼻血を出して白目を剥いてる陽子ちゃんに、慌てる俺たち。
でも良かった、少し形は変わるかも知れないが、まだこの縁が繋がっていることを実感して、3人で見つめ合って笑った。
「「「ハハハ」」」
丸ちゃんの事務所はこの不景気な中でも順調だ、それなりの給料が出せる、仕事も多くなってるしここらで人を入れるのは間違ってない、面接は俺が立ち会うか。
あ、そうか、帰ったら春夏にも報告しないとな。
「お兄ぃ、正座!社会人はホウレンソウが重要ってわかるよね」
「はい!」
「じゃあ、なんで私には結果報告だけなのかな、かな?」
株式会社アミュズプロダクション、本社応接室。
俺がプロ転向する話を中山さんに告げる、中山さんは満面の笑みで快く迎えてくれた。
「UTUMIさん、とうとうプロ転向ですね、私もさらに頑張らせていただきます!」
「お世話になります、で、中山さんの会社ってバイトって大丈夫ですよね?」
「はい?」
「いや、今度から芸能界をメインにして、デザインの仕事をバイトにしようと思うんです、だから、出来ればこれからも長野から通うように出来ればなと考えていまして」
地方に住んでる芸能人っていますよね。
ギバちゃんとか秋田から通って仕事してるって、陽子ちゃん言ってたし。
「そうきましたかぁ〜」
応接室で中山さんが机に突っ伏す、え、そんな変な事言った?
これまでも無理矢理パート契約していたので、UTUMIのバイトも駄目と言えない中山だった。
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