「あぁ〜!困ったエンジンがかからない、このままでは遅刻してしまう〜」
朝コンビニを出ると若くてカッコよさげな男の子が、車の横で大声で独り言を言っている、え、もしかして俺にアピールしてる?しょうがないなぁ、困ってはいるようだし声くらいかけるか。
「エンジン掛からなくなったんですか」
「は、はい!コンビニエンスストア寄って出てきたら、エンジンが!すいませんがバイト先に送ってもらえないでしょうか」
バイト?こんな高級車に乗ってるのに?車はどうすんの?JAF呼んだ方がいいぞ。
「ちょっと見てあげる、ボンネット開けて」
「へっ、でも」
ガコン
「あ〜、イグニッションコードが外れちゃってるわ、よっ!これでかかると思うわよ」
キュルル、ガオン!
「あっ」
「良かったね」ニコリ
「は、はい、ありがとうございました、お姉さん凄くカッコいいです!惚れました!」
「ハハ、ありがと、でも早く行かないと遅刻しちゃうんでしょ」
「いえ、お姉さんには是非お礼を」
「あ、ごめんね〜私も仕事があるから、じゃあ気をつけてね」
ヴァボボ
ガチャ
「すいません、ちょと道を尋ねたいですが」
ん、今度はスーツを着た渋いオジサンに道を聞かれる、日本語がちょっと怪しいけど、中国か韓国の人かな、まぁ、長野も外人さんが増えてるしこんな事もあるか。
「どこに行きたいんですか?」
「ステーションに行きたいです、新幹線の時間が」
え、駅って長野駅だよな、ここからだと説明しずらいし、急いでるなら。
ピッ
「あ、丸ちゃん先輩、ちょっと駅まで人を案内してくるので少し遅れます」
「乗ってください、駅まで送りますよ」
「へっ、いや、尋ねた私が言うのも何ですが、いいのですか?」
「だって途中で迷ったら、新幹線に乗れなくなっちゃいますよ、さぁ、早く」
バタン、ヴァボウ!キャラララララ!
「大丈夫、車なら5分で行けるから、シートベルトしっかり閉めてね」
「は、はい!」
「おじさん、もしかして中国の人?」
「いえ韓国です、商売で来ました」
「そうなんだ、わざわざ大変だね、でも日本語上手いですね」
「最近、韓国でも日本語習えます、頑張って覚えました」
「へぇ、そうなんだ、私まだ韓国って行った事ないな、えっと、アンニョンハセヨ」
「!完璧な発音です、それなら…」
「韓流ドラマ、お母さんが一時期見てて、何回か一緒に見てたんですけど、これぐらいしか韓国語しゃべれないんですよ、あ、着きましたよ」
「では、良い旅を〜」
「カムサハニムダ」
オジサンが深く頭を下げた後、駅に入って行くのを見送る、噛むサハに?あぁ、ありがとうか。
お礼を言われるとちょっと良い事をした気になるね、さて会社会社。
ジリリリ♪
「はい、スタジオエムです♪」
「私、ナインエンターテイメントの李と申しますが、UTUMIさんをお願いしたいのですが」
「ああ、李さん!私です、内海です、この前はマキュロスのゲネプロご苦労様でした」
「UTUMIさんこそ、わざわざすいませんでした」
「で、どうしたんですか」
「いえ、UTUMIさんに我が社を一度見てもらいたいと思いまして」
「我が社、中国のですか?」
「韓国です、芸能部門は韓国を拠点にしていますから、どうです旅費も宿泊費も我が社で全部出しますから、一度見学を」
「李さん、お誘いはありがとうございます。でも今は仕事の引き継ぎで忙しいので、ちょっと無理ですね」
「引き継ぎですか?」
「えぇ、今度正式にアミュズとプロ契約をすることになっちゃいまして」
『遅かったか』
「へっ、今なんて」
李さんが中国語で何か呟く。
「いえ、何でもありません。プロ契約おめでとうございます」
「ありがとうございます、あ、でも中山さんを通してもらえれば、今度は平日でもお仕事受けられると思うので」
「そうですね、UTUMIさんとは是非ご一緒にお仕事したいですね、ではお時間とらせてすみませんでした」
「いえ、こちらこそすみませんでした」
ガチャ
長野駅に隣接した、ホテルメトロポリタン長野の1室。
「李社長、どうでした?」
李に尋ねる男の後ろには2人の男性が緊張した様子で立っている、一人は朝コンビニの前にいた若い男、一人は会社前で道を尋ねた男だ、両名ともナインのタレントで俳優をやっている。
UTUMIの好みのタイプを探るため接触を図るも、あっさりと流されてしまった、なんの成果も出せずに、そのせいで李を前に緊張しているのだ。
「一歩遅かった、アミュズに先を越された!」
「このタイミングでですか!前回の時は全然動きはなかったのに、うちの動きが読まれていたのでしょうか?」
「中山め、UTUMIに一体どんな手を使ったのか」
中山と言うよりM-HOTOMIの方なんですけどね。むしろ男性の好みを探っても何の意味もなかったんですけどね。
わざわざ、何かあってもすぐ動けるようにと長野まで足を運んでいたのにね。(ちなみにUTUMIはまだパスポート持ってないからな)
李は胸ポケットからスマホを取り出し、おもむろに電話をかけ始める。
トゥルルルル♪
「はい、中山です」
「どうもナインエンターテイメントの李です、突然のお電話失礼します」
「ナインの李さん!…そ、それは構いませんが」
「この度は、UTUMIとのプロ契約おめでとうございます」
「なっ、情報が早いですね、流石ですね」
UTUMIとのプロ契約の話は3日前の事だっただけに、中山もびっくりした。
どこだ、どこから情報が漏れた。(本人から)
「「…………」」
「情報の鮮度はこの世界では重要ですから、しかし敏腕の中山さんがどうやってUTUMIを口説き落としたのか、参考までにお聞きしたいと思いまして、こうしてお電話したのですよ」
「私は何も、UTUMIの方からプロになりたいと言ってきたんですよ」
「………………そうですか、それは中山さんは実に運がよろしい」
「ははは、まったくです」
「では、今後アミュズさんとは、色々と協力してこの業界を盛り上げていきたいですね、主にUTUMIさんにはご協力願えれば幸いです」
「ええ、私の出来る範囲で頑張らせていただきます」
ピッ
「クソッ、あの狸親父め!白々しい!手の内は晒す気はないか!」
「李社長…」
「アジアの音楽フェスへの参加をアミュズに打診しておけ、中山め、このままあっさり引くと思うなよ」
李はそう言うと、部下に撤収を命じた。今は日本に居る意味はカケラも無い。
一方、アミュズの中山は自分のデスクにまたしても突っ伏していた。
「あっぶねぇ〜、流石ナインの李だな、どんな情報網だよ、UTUMIがあのままだったらどうなっていたか」
中山はポケットからタバコを取り出し咥えるが、デスクは禁煙だと思い出し、火のついていないタバコをゴミ箱に投げ入れた。(勿体ねえ)
「HOTOMIさんには、大きな借りが出来てしまった。なんかお礼をしなきゃいかんなぁ」
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