長野・須坂東インターチェンジを降りるとTUTAYAがある、昨年末すぐ横に今話題のイオンモールが出来てどうなるかと思ったが未だ元気に営業を続けている。やっぱ本屋さんは大事だよね。
そのTUTAYAのレジでこんなやり取りがあった。
「店員さん、内海ちゃんの「天城越え」のシーデーはどこにあるだい?」
白髪頭に腰の曲がったおばあちゃんに尋ねられ、40代と思われる店員は首を傾げる。
内海ちゃん?天城越えって石川さゆりだよな、あ、そう言えば去年の紅白で。
「あぁ!UTUMIかぁ。おばあちゃんUTUMIは紅白で天城越えを本人と一緒に歌ってたけどCDにはなっていませんよ」
今年ももう半分を超えてるが、今更紅白での歌を求めてきたのか?
「そうなんかい、じゃあ内海ちゃんがサブちゃんの「祭り」を歌ったのはあるかえ」
「祭り?いやそれは歌ってないんじゃないかな、当然CDは北島サブローのしかないですけど、ん、あったかな?」
「そうかい残念だね、シーデーならまたいつでも聴けると思ったんだけどねぇ、カセットでもいいんだけどネェ」
「紅白の歌やアニメの主題歌だったらマキシシングルで出てますけど、おばあちゃんスマホは持ってる?」
「そんなハイカラなのじゃなくて、内海ちゃんの歌う演歌がすごく良かったのよ、またカラオケ大会に出てくれれば良いんだけどね、内海ちゃんも忙しいらしくてね、来年だと生きてるかわからないでしょ」
「カラオケ大会?」
何言ってんだこの、おばあちゃん、ボケてるのか?
1週間前、スタジオエムにて。
「藤崎、金曜日の夜アンプ貸して♪」
カチカチ、カチャカチャ
「ん、何すんだ?」
「実家の隣の公民館で明後日、町内会のカラオケ大会あんだよ」
「は、お前そんなのに出るのか?」
カチカチ
「1位だとスイカ1玉貰えるんだよ」
「買えよそれくらい」
「無料で貰うから良いんだろ」
「ハァ〜、アンプはスパーク2でいいな、持ち歩けるのがいいんだろ」
「サンキュー!」
「スマホにアプリ入れとけよ、そうすれば音も簡単に作れるから」
カチカチ、タンッ
「そうなの?」
「お前プロになるんだろ、HOTOMIさんのスタジオで何見てんだよ」
「プロ機材だと凄すぎて、何やってるかよくわかんないんだよ」
「こんなど素人がシグネチャーモデル出すのか、メーカーとの打ち合わせの時はHOTOMIさんか俺に相談しろよ」
「あ〜い」
こいつ、ギターは大好きで上手いくせに、感覚派で知識がないんだよな。
まぁ、実際ギターの腕前は格段に上がって藤崎を超えてるんですけどね。
金曜日、午後7時。須坂市、大谷地区町内カラオケ大会。
夕方5時から開催されていたカラオケ大会、すでに集まった人々の半分以上が自慢の喉を披露し、酒も入って盛り上がっていた。
そこに公民館の隣に家を構える内海家の主人である敏夫が、差し入れの一升瓶を持ってやって来た。
ザワザワ
「あの別嬪さんはどこのねえやんだ」
「ほら内海さんとこの娘さんだと」
「ああ、隣の家の綺麗な嫁さんの家か、あの家の娘っ子、あんなに綺麗だったか?」
「昔はよく公民館の駐車場で遊んどったな、確か二人いなかったか?」
年に1回の爺さん婆さんの親睦会の意味合いが多く、若者の参加はここ数年は皆無な大会だ。
内海家は会場の公民館の隣にあるため、父敏夫は毎年参加している、歌う曲も毎年おんなじではあるが。
今年は一人では無い、浴衣美女二人を侍らせての参加だ、いや、その後ろからTシャツ短パンの春夏も、焼きとうもろこしを齧りながらついてきている。醤油を塗って焼いたもろこしって美味いよね。
「あら?佐藤のおじいちゃん、もう腰は大丈夫ですの」
「おぉ、秋江さん!相変わらず別嬪さんじゃな、浴衣美人とはあんたみたいなもんを言うんじゃ、今年は秋江さんも歌ってくれるのかい」
「ありがとうございます、今年は私の代わりに娘が張り切ってますのよ」
カラオケの機械のそばで、母親とお揃いの浴衣を着て何やらスピーカーを設置している娘を見る。
「ほぉ、こりゃまた秋江さんに似て別嬪じゃの、前に見た時とは別人のようだわ」
佐藤のおじいちゃん、それ、妹の方と勘違いしてますよ。
去年のカラオケ大会の優勝者、佐藤さんは直感で娘さんのただならぬ雰囲気を感じ取った。
ここに集まってる爺さん婆さんは、浴衣を着ただけで紅白で見たUTUMIじゃなく内海さん家の娘として認識していた。髪もアップにしてるしね。
バツン、カチカチ、ジャラリン♪
「アーアー、良し、繋がった、えっと音の調節は…」
結局、お兄ぃは藤崎さんにスピーカーを借りて来た、演歌縛りでギターの持ち込みを許したがどうなることやら。でもお兄ぃはなんか知らんが古い曲を良く知ってるんだよな、会社でラジオとか聞いてるからか?
お兄ぃが公民館のステージでマイクを持つ、私はお母さんと一緒に座布団を持ってきて後ろの方に座った。
お母さんも焼きもろ食べる?えっ、いらないの、美味しいよ。
「ど〜も隣に住んでる内海敏夫の娘です、今日は久しぶりにカラオケ大会に参加させてもらいますね〜」
「おーっ、内海さんとこのお子さんか、ええぞ、姉ちゃん何曲でも歌え!ビールいるか!」
「あざます!あ、今度プロになるんで、そん時は応援よろしくお願いします」
「頑張ってね〜、ちょっとおじいさんお酒ついであげて」
「サンキューで〜す!では挨拶がわりに「天城越え」なんぞを」
ジャラーン♪
こら、お兄ぃ、お父さんも何曲歌うねん!じいちゃん、ばあちゃん、ノリノリじゃないか、あ、おじいちゃん血圧高いんだからそんなに興奮しないの、ポックリ逝っちゃうよ。あぁ、おばあちゃんしっかり!!
もうカラオケ大会じゃないな、歌謡ショーだよ、天城越えに始まってサブちゃんの祭りに夜桜お七、世界の国からこんにちは?三波春夫って誰よ、あ、美空ひばりは名前聞いた事があるぞ、お祭りマンボ?知らんわそんなの!!
タダ酒とアンコールの拍手もありお兄ぃもノリノリで15曲を歌い切った。マジで洋楽なし演歌だけでやりやがったぞコイツ、凄えな。
結局、カラオケ大会の優勝者は去年に続いて佐藤のおじいちゃんだった、お兄ぃは流石にプロは反則という事で特別賞だった。商品はスイカ1玉だったので結果オーライだ。
あ、お母さんその手に持ってる大量のキュウリとトマトは?佐藤のおじいちゃんに貰った、いつの間に。
さぁ、明日からお仕事ですよ!
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