木村さんのラジオ番組『フラワ』の収録を終えて、中山さんと一緒にアミュズのビルに戻って来た。
木村さんには自身のユーチューブチャンネルにも出演を頼まれてしまった、今度も何か奢ってもらえるのだろうか?非常に楽しみだ。それにしてもプロ転向すると仕事が色々と増えるな。
中山さんのデスクに行こうとしたら、受付の綺麗なお姉さんに呼び止められる。
とりあえず手握っとこうか。
「何かご用かな、お嬢さん♡」
「きゃ、UTUMIお姉様、ギターが届いてますよ」
「えっ、マジで」
ババン!
乱暴にドアを開け部屋に入れば、中山さんの机の上にででんと置かれてるダンボール箱、サイドにはしっかりとフェンダーのロゴマークが入っている。
「な、中山さん、開けていい?良いよね?」
「ハハ、そんな顔されたら駄目なんて言えませんよ、どうぞご自分で開けてください」
「あい♪」
バコッ
「おぉ!」
まずは真紅のハードギターケースが顔を出す、震える手でケースの止め具を外せば。
「ふおーーーーっ、私のストラトちゃん♡」
「新品の傷一つないダブルカッタウェイの真っ白なアルダーのボディ、メイプルネックに指板はローズウッド。
絶妙なエルボーコンターとバックコンターの形状だから私の身体にジャストフィット!!
そして3つのシングルコイルに2点止めブリッジ、極め付けはボディ前面にワンポイントで上品に入ったUTUMIの文字に横顔のシルエットのイラスト!」
色々こだわったら定価66万(プロショップと同等の値段)の台数限定販売になっちゃったけど、メーカーの人も絶対即完売するって言ってたしいいよね。
たまらん!自分仕様に作ってもらった私だけのストラトキャスター!うわ〜ん、嬉しいよぉ〜!
思わず頬擦りしちゃうね、うわぁ〜、塗装もしっとりすべすべだァ。
マイギターに頬擦りしながらクルクル回る、ふと後ろを見れば。
あり?中山さん何引いてんの、ほらほらよく見てよ、私のギターカッコいいでしょ。
「そうだ、HOTOMIさんに見せに行かなきゃ!中山さんちょっと出て来ます」
バタン!
「ちょ、UTUMIさんこの後レコーディングの打ち合わせが、ってHOTOMIさんの所ならちょうどいいか」
タクシーとっ捕まえてHOTOMIさんのスタジオへ、あ、財布忘れた、着いたらお金借りよう。
バタン!
「HOTOMIさん、お金貸して!って、あれ?光さん?」
「あれ?早かったねUTUMIちゃん」
なぜか応接にいた光さんにお金を借りて玄関に戻れば、後から追っかけて来たのか中山さんがタクシーの運ちゃんにお金払ってた。
「もう、何やってるんですかUTUMIさん」
「すんませ〜ん」
さて、仕切り直し。
スタジオに戻れば、HOTOMIさんと光さんが呆れた顔で出迎えてくれた。
「お前、バカだろ」
「UTUMIちゃん、ギャップ萌え!」
「今日はレコーディングの打ち合わせって言ってたでしょ、だからわざわざベースの光さんまで呼んでるのに」
「あ、今日でしたっけ、ギター届いてちょっと舞い上がって忘れてました」
「ちょっと〜?」
中山さんがジト目で見てくる、ちょっとですよ。
「何、UTUMIちゃんギター作ったの?見して見して!」
「光さん!そうなんですよ!私のギターが出来たんです!ほらほら」
ケースを開けてご開帳、御神体が登場ですよ!
「わぁ、また白のストラトなんだ、好きね〜」
「ふっふっふっ、よく見てココ!私の名前入りシグネチャーモデル!」
「えっ、マジで、もう自分モデル出せるの!早くない」
「へへ、私もプロになりましたからね」フンス
「で、途中何度も質問されたが、お前が納得いくものになったのか?」
「バッチリですよ!ボディ作るのに3日も工房に行きましたからね、コンターの角度にはこだわった甲斐がありました、超弾きやすいですよ」
ギャリリン、キロキロキロキロキロキロ♪
「へぇ、良い音じゃん」
「本当だ、凄く良い感じ、前のはひどかったからね〜」
「…………」
「中山さん、今日は打ち合わせ中止で、こいつがこんな調子だと話にならねえ」
「ハハ、わかりました、じゃあ私は会社に戻りますね」
「で、どうよ?新しいギターを弾いてみての感想は」
「う〜ん、もう前のストラト弾けなくなっちゃったかな、なんかコレが弾きやす過ぎて」
「ハハ、だろうな、良いだろ本物は」
「本物?」
首を傾げているとHOTOMIさんが光さんに話しかける。
「光もベースでシグネチャー出してるよな?」
「ええ、私、手が小さいからネックは細めで調整して貰ってますよ、とても弾きやすいです、ってあぁ〜!」
光さんが何かに気付いたように声を上げる、HOTOMIさんは今度はこっち向いた。
「お前、ジャーさんから貰ったギターあんまり弾いてないだろ、そこで気つけば良かったんだけな」
「いや〜、ピカピカだからもったいなくて、ん、何に?」
「ジャーさんもちゃんと説明すれば良いのにな、おかげで俺にこんな役が回って来た」
「「?」」
光さんと一緒に首を傾げる。
「実質、今手にしてるフェンダーがお前にとって、人生1本目のギターになるんだよ、前のは練習用だな」
「?」
「UTUMI。そうだな〜、お前車、はエンジンパワーで分かりにくいか。じゃあ自転車って乗ってるか?」
「実家にいた頃は乗ってましたよ」
「自転車屋で買ったか?」
「ホームセンター19,800円ですね、それが?」
「自転車ってメーカーからほぼ完成した状態で店に届くのよ、ホームセンターではそれをアルバイトみたいな店員が適当に組み立てて店頭に並べるんだ」
「そうなの?」
「けど、ちゃんとした自転車屋だと、その完成しかけた部品まで全部バラして組み直すんだ、スポークの1本まで、完成形はホームセンターに並んでるのと一緒に見えるのにだ」
「コスパ悪いっすね」
「でも、形は一緒でも乗ってみれば別物だ、職人がフレ取り(スポークの調整)した車輪なんか感動するぜ、漕ぐ時に超軽く感じるからな」
「けどお値段は?」
「そりゃホームセンターよりは高いよ、でも俺は絶対に自転車屋で買うね、本物だからな、ギターだって一緒だ、一流の職人が組んだギターはやっぱどこか違うんだよ」
「…………」
「で、お前が今まで使ってたストラトは本物か?偽物か?」
「カスタムショップのなんか高くて買えなかったんですよ、元々私が使ってるのって中古の日本製のST62ですよ、知ってます?」
「わかるわ、それくらい!しかも自分で修理した奴な、いや修理したのは藤崎くんか」
「だって、中古でボロボロだったから」
「アマチュアだったらそれでも良かったんだけどな、お前はプロになるんだ、本物を使わないのはわざわざ金払って見に来たファンに失礼だろ」
「まぁ、UTUMIちゃんは歌声がとんでもないからギターの音がちょっと弱くても私は全然気にならなかったけどね」
「光さん」
「あぁ、ヒサヒも番組で同じようなこと言ってたろ、お前耳が良いから音は合ってるけどな、俺レベルにはすぐ分かるぞ」
「あぁ!それそれ、あのギターでも音は合ってるんだよね、ある意味凄いなって思ってた」
「菅野のおばちゃんは感覚派だから、その辺いい加減な部分があるんだよ」
「うぎゅ、二人してボロクソ。せっかく気分上がってたのに」
「ふっ、これからは道具には金をケチるな、自分のギターが1本しかないギタリストなんてプロとは言えないぞ」※
「うそ!UTUMIちゃんって1本しかギター持ってないのぉ!」
「経費で買えるかな?」
「「確定申告あるもんな(ね)」」
UTUMIは自分のギターを抱きしめながら、初めて自分がプロになった事を意識した。本当に今更だが。
(※ジャーさんから貰ったギターはあるけどただの色違いだからね)
「良し!とりあえずHOTOMIさんのスタジオに来た事だし、オニューのギターを弾きまくろう」
「私も付き合ってあげる」
「仕方ねえな、俺も付き合ってやるよ、まずは酒買いに行ってくるわ」
「「ヤッター!」」
あ、85話にMaika様にいただいた挿絵入れてます、良い感じですよ。
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