内海秋江。
長野赤十字病院 2階心臓血管外科。
今日はお兄ちゃんの定期検診に付き合って病院に来ている、平日で春夏は学校ですしね。
「やあ、最近はまた一段と忙しそうですね内海さん、おや、今日はお母さんもご一緒で、相変わらずお綺麗ですね、息子さんの容姿はお母さんの遺伝なんでしょうね」
担当の月岡先生とはお兄ちゃんがお正月に入院した時に話すようになった、外科としてはかなり優秀な先生で、なぜかお兄ちゃんの担当らしい、とりあえず頭を下げておきましょう。
「ご無沙汰してます月岡先生、いや〜ギターの方をメインの仕事にしたら、急に忙しくなっちゃって」
「お身体の方は異常ありませんか?」
「身体は調子いいですよ、ちゃんと生理も来てますし、お酒も美味しいです」
「内海さんはお酒もタバコもやりますから、気をつけてくださいね。まぁ、今回も検査結果には残念ですが異常はないようですし良いことです、少しは異常があっても良いんですよ、ちなみに男性との性交はまだ…」
ちょっと変わった先生よね、医者として患者の健康を残念がるなんて。
「いや〜、流石にそう言う気にはなれなくて」
「経験したら報告してくださいね、何か体に変化があるかもしれませんし」
あぁ、そう言うことね、隣で会話を聞いていて思う、あぁ、この子は孕ます側じゃなくて、孕む方になったんですものね、あら、孫も良いわね。
ベビー服はどうしましょう、あ、そうだ忘れないうちに。
「で、先生、この子が女になった原因ってまだわからないんですの」
「お母さん、申し訳ないですけど、この病気は症例が少ないうえに謎が多くてですね、内海さんのような若年齢の症例は世界でも初めてでして、検査しても健康であることしかわからない状態でして」
まぁ、私も長く生きてて、初めて聞いた病名ですし、取り敢えずこの子が健康ならいいのかしら。
「そうなんですか、じゃあこの子はもう一生女のままなのですね」
「力及ばずで申し訳ない」
月岡先生が深々と頭を下げる、そんなに責めてる訳ではないので少し恐縮してしまうわね。
「母さん、そんなに気にしてたの?」
「いや、だったらもうお兄ちゃんが着てた男物の服、いらないかなって」
タンス2つ分はあるのよね、邪魔だわ〜。
「そんなに残ってたっけ?」
「なんか捨てるのも勿体無くて〜、また男に戻って着るような事があったらと思うと」
その会話に月岡先生も口を挟んで来る。
「だったらバイパス沿いのリサイクルショップで売るのはどうでしょう、私も売りに行った事ありますよ、あまり大した金額にはなりませんけど」
「あぁ、あそこギターとか釣り竿も売ってるよね、でもブランド物とか着てなかったからグラム(重さ)で買い取りになっちゃうな」
病院に来て何の話をしてるやら、うん、これもうお兄ちゃんは病院に来る意味ないんじゃないかしら。
ヴァボボボ
せっかく長野に出て来たついでなので、お兄ちゃんの事務所に寄ってみる、確か代わりの子が入ったのよね。
カラン
「あ、秋江さん♡」
私に気づくと藤崎くんが駆け寄ってくる、ワンコみたいで可愛いわね。
「はあい、藤崎くん元気ィ♪」
「はい!秋江さんに会えて元気です」
私の後ろからお兄ちゃんが顔を出す。
「オ〜イ、私もいるんだけど〜、あれ?丸ちゃん先輩はいないの?外回り?」
「桐山さんとこに打ち合わせに行ってるぞ」
「あぁ、陽子ちゃんのお父さんか」
カチャ
「ああーーーっ!お姉様ぁ!」
奥の部屋から制服姿の女子高生が出てきて、お兄ちゃんに抱きつく、確かこの子は春夏の高校の。
「ありゃ、陽子ちゃん来てたの、学校は?サボリ?」
「今日はテストだから半日ですよ、ん?」
女子高生ちゃんと目があう、お兄ちゃんを見た後、びっくりしたように二度見された。
「わぁ!もしかしてお母様!うわぁ凄い綺麗、お姉様そっくり!あ、初めまして、お母様、桐山陽子です」
「「そんなに似てるかぁ?」」
お兄ちゃんと藤崎くんの声がかぶる。
「目元とか口元とか、スタイルとか、お姉様ってお母様似なんですね!」
あら、良い子だわ。
「母の秋江です、よろしくね」
カチャ
「陽子ちゃん、資料あった?ってUTUMIさんと……お姉さん?」
ふっ、姉と間違われるのも悪くないわね。
「どうも〜、姉の秋江で〜す、よろしく」ピ〜ス!
「こらこら母さん、圭ちゃんが本気にするからやめなさい」
「えぇ!お母さんなんですか!うそっ!若っ!」
「フフフ」
応接で皆でコーヒーを飲む、あれ?仕事はいいのかしら、社長さんがいないからいいのか。
「どう圭ちゃん、仕事は慣れた。あんまり来れなくてごめんね、寂しかったでしょ」
「お前がいなくて、何で圭さんが寂しがるんだ」
「ムッ、お姉様、私は凄〜く寂しかったですぅ!」
「ほら、陽子ちゃんはこう言ってるじゃない、ね、圭ちゃんも私がいなくて凄く寂しかったよね」
「この変態共と圭さんを一緒にするな」
「ハハハ」
「あら、圭さんはモテモテなのね、羨ましいわ〜」
「ちょ、お母様、ここでそんな事言わないで下さい!」
「チッ、お姉様はあんたなんかには渡さないわよ、いい気にならないでよね」
『私の内海くんに手出したらクビよ〜!』
あら、空耳かしら、どこからか怨嗟を含んだ声が。あ、社長さんの声に似てるわね。
お母さんこう言うの大好きよ、昼ドラみたい、私も「この泥棒猫!」って言った方がいいかしら、それともお姑みたいに。
で、お兄ちゃんは何してるのかしら。
「UTUMIさんは何でしゃがんで私の足を見てるんですか」
「今日は母さんとずっと一緒という苦行だったので、癒しが必要かと思って」
へぇ、圭さんって綺麗な脚をしてるのね、タイトスカートじゃなくてパンツでも良い感じになりそうね。
ま、それはさておき。ガタッ
スパーーーン!!
「痛っ!て、母さんどっからハリセン持ってきたの!」
「良い女がそういう品のない事しないの、親として恥ずかしいでしょ」
使い終わったハリセンを藤崎くんに返す、ありがとね。
「圭さん、藤崎くん、この子がバカやったらすぐに私に連絡してね」
「「ハイ!お母様!(秋江さん!)」」
本当に幾つになっても落ち着きのない子ね、こんなんで芸能界で生きていけるのかしら。
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