「UTUMIさん、パスポートをとってください」
俺がアミュズの中山さんのデスクでストラトちゃんの指板にオレンジオイルを塗っていると、部屋に入ってくるなり中山さんが、そうおっしゃった、パスポート?
「え〜っと、パスポートって外国行く時に使うアレですよね」
「UTUMIさんまだ持ってないんですよね、来月、韓国の仁川で行われる日韓音楽フェスティバルに呼ばれてしまいました、今すぐパスポート申請出してください」
中山さんが何故か顰めっ面で告げる。
「オンラインでも申請出来ますが、初めては窓口の方が融通が利いて良いでしょう、取得には2週間はかかる場合がありますからね、一般旅券発給申請書、戸籍謄本、写真、運転免許証を用意してくださいね」
「ハ、ハイ、で窓口って?みどりの窓口?」
「そうですね、UTUMIさんの場合県庁の横に長野地域振興局パスポート窓口ですね、念のため荒川を一緒に行かせましょう」
「ハ、ハヒィ」
流れるような業務連絡に、口を挟む間もない。
でも、韓国か、焼肉が美味しいんだっけ、ナインの李さんに挨拶に行こうかな。
「で、何で私までパスポート作るのよ!せっかく今日はテスト明けで休みなのに」
「良いじゃん、ついでだし春夏も一緒に作ろうよ」
お兄ぃに朝起こされたかと思ったら、何故かパスポートを作りに行くのに付き合わされた。
アパートを出ればアミュズの荒川さんと言う人が車のドアを開けて待っている、すみませんねわざわざ長野まで、ご苦労様です。出張手当とかもらって下さいね。
てか、お兄ぃ、中山さんに信用されとらんな、わざわざ部下の人をよこすとわ。
バタン
「あれ?パスポートってなんか書類いるんじゃないの?」
「どうぞ、お二人の必要書類はまとめておきました」
車の中でお兄ぃを見れば、荒川さんが書類を渡して来た、至れり尽くせりだな。
まぁ、今どきのJKとしてパスポートぐらいあった方が良いだろうし、助かるけど。
「で、お姉ちゃん、外国行くの?」
「韓国。春夏も行く?」
「えっ、いつ?」
私の問いに答えたのは運転席の荒川さんだった、若いのに優秀なお姉さんだ。
「来月頭の3日間です、春夏さん。ご一緒に行かれるならホテルの手配もしますよ」
「韓国か、焼肉にキムチ、冷麺にプルコギもいいな、って私受験生だからそんな暇ないですぅ〜」
こんな時期に旅行なんて行ってたら、お母さんに怒られちゃう。
「まぁまぁ、お土産買ってくるから」
「韓国海苔とか買って来んなよ、日本でも売ってるからな」
「別に食べ歩きに行くわけじゃないよ、お仕事だよ」
「えっ、パスポート作るのに手数料なんてかかるの?9300円も!」
申請作業を終え、外に出る、ふぅ、一仕事終えたぜ。
何にせよパスポートゲットだぜ!えっ、すぐには貰えないの9日間もかかるの、お兄ぃギリギリじゃん。
お兄ぃがパスポートとったら、外国に行く事が増えるのかな?バルカ共和国なんて行っちゃったりして、ん、実在する国だっけ?ベキの役所広司さんカッコいいよね。
「あ、お昼は3人でかっぱ寿司行こうよ、私サラダ軍艦が食べたい」
「春夏、あれ好きだよな、本当に長野県民だな」
「サラダ軍艦って何です?」
「なんか知らんけど長野では人気ある寿司ネタです、女性は特に好きですよ」
「へぇ、食べてみたいですね」
「かっぱ寿司と言えばメニューに本気シャリ(シャリだけでネタなしの3貫で110円)てのがあるけど、あれ頼む人っているのかな?」
「前に会社で食べ行った時に丸ちゃん先輩頼んでたよ、荒川さん、私ビール頼んでいい?」
「1杯だけだよ、お姉ちゃん」
ナインエンターテイメント韓国ビル。
「李社長、アミュズの中山からフェス参加の受諾が来ました」
「良し、それでホテルの手配は出来てるか」
「パラダイスシティのスイートを押さえてます」
「いいだろう、あそこなら空港にも会場にも問題ない」
「はい、しかし李社長、本当にUTUMIの出番がラストでいいのですか?」
「君は彼女の出演した歌番組を見ていないのかい、彼女の後に歌うタレントの身にもなってみたまえ」
部下が退出し、李は窓辺に立つとニヤリと笑みを浮かべる。
「ん、UTUMIだったらソウルの広蔵市場とかも喜ぶかもしれんな」
李華雄もだいぶUTUMIの事を理解し始めたようだ。
翌日
日韓文化交流音楽フェスティバル「Xnterstellar Music Festival (インターステラミュージックフェスティバル))のホームページに日本のアーティストUTUMIの出演決定の文字がデカデカと刻まれた。
「はぁ〜!なんでコリアやねん、こっちの方が先にオファーしとるやろ!」
なんかどっかのヤンキーネーちゃんが激オコだったりする。
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