明らかに猛者揃いの集団の中で、リーダーとして認められているモブ顔の人   作:べにべにベニヤ板

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幕間:けんぞうさん

 

 「死んだ記憶はありますか?」

 

 その声は、ひどく場違いに澄んでいた。

 死の恐怖、アスファルトの冷たさ、救急車のサイレン。

 それらすべてを断ち切って、俺をあの無機質な部屋で出迎えたのは、中学生ぐらいの少女だった。

 

 彼女の瞳には、子供らしい幼さはない。

 数多の地獄を潜り抜けてきた者にしか宿らない、深く暗い諦観があった。

 その瞳に魅入られたことが、すべての始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「俺達でやるぞ」

 

 

 ――⋉ヨハ⋈ネス・デレー♪♪

 ――特徴:きそがわ、つよよい

 

 

 視界が赤く染まっている。

 鼻腔を突くのは、川から溢れだしたヘドロ臭と自らの体から溢れ出す鉄の匂い。

 漆黒のスーツはズタズタに引き裂かれ、もはや筋肉組織を補助する機能すら失っていた。

 

 「おっさん、あと少しだ!」

 

 横で必死に叫ぶ坊主の声が、水の中にいるように遠い。

 

 「あとは、詰んだボスをロボットが倒しきるのを待つだけだ――だから、意識を保ってくれ!」

 

 震える手でコントローラーを目の前に突き出してくる。

 液晶に映るマップには、少しは離れた位置にたったひとつだけ赤い光が蠢いていた。

 

 

 ――あぁ、ダメだな……。

 

 

 倒しきるより先に死ぬ。

 間に合わないだろう。

 つまり、俺はここまでだ。

 

 薄れゆく意識の中で、己の歩みを振り返る。

 随分と、長くこの部屋に留まってしまった。

 エンドウ、ヤマシタ、オカモト、イナグマ――そして、サナさん。

 共に戦い、散っていった戦友達。

 彼らとの戦いがなくして、自分はいない。

 この地獄のような部屋で、俺はどれだけの人に救われたのだろうか。

 そして俺は、どれだけの人を救えたのだろうか。

 次は俺の番なのだろう。

 

 耳元でかつての仲間たちの声が聞こえた気がした。

 100点を獲得し、この部屋の記憶を消して去っていった者たちの、晴れやかな、けれど名残惜しそうな声。

 彼らは、自分たちの生存と引き換えに、この部屋の未来を俺に託した。

 そして俺は、彼らの代わりに地獄を見守り続けることを選んだ。

 

 

 ――ありがとう……。あなたのおかげで『解放』を選ぶところまで行けた。

 ――けんぞうさんがいなければ、何度死んでいたかわからなかったわ。

 ――本当にありがとう。そして、どうかこの先も多くの人を……僕のような人を救ってください。

 ――私は部屋をでてしまいますが、あなたになら……。

 

 

 「お前になら託せる……。この先を見届けてくれ……」

 

 喉から漏れたのは、血混じりの掠れた声。

 

 「……おっさん。何言ってんだよ……。生き残り続けるんだろ!?サナさんとそう約束したんだろ!おい!おっさ――」

 

 目を瞑ろうとしたとき、坊主の叫びが、過去の記憶を呼び覚ました。

 かつてサナさんが、誰もいない部屋で俺にだけ語った、世界の終わりの物語。

 

 

 ――カタストロフィ?

 ――えぇ、そうよ。ブラックボール。『100点リスト』と『タイマー』を出して。

 

 ――100-Punkte-Bonusliste

 ――1 Klar Schwerkraftkanone

 ――1 Klar Primäre Steuereinheit

 ――1 Klar Übertragungsgerät

 ――1 Klar Flug-Einheit

 ――2 Klar Hartanzug

 ――3 Klar Serienroboter

 ――……

 ――220751267

 

 ――これは……ドイツ語ですか?

 ――えぇ、そうよ。運営はドイツなの。そして、このタイマーが世界終了の合図。

 ――0になったとき何が?

 ――宇宙人との全面戦争よ。私はそのために武器をたくわえている。

 ――……その根拠は?ただのゲーム終了の合図なのかもしれません。

 ――知ってるの。全て。

 ――ターニングポイントはふたつ。

 

 

 俺は、最期の力を振り絞って坊主の胸ぐらを掴んだ。

 俺が死んでも、この正解だけは繋がなければならない。

 

 「ブラックボールに『げぇーむるーる』を……それと――」

 

 彼女が命を賭けて、この世界に遺そうとした()()を。

 

 「イタリアか()()で……カトウマサルとクロノケイに接触しろ……!」

 

 坊主の瞳に、俺の必死な形相が映る。

 

 「二人が真理の部屋への鍵になる……!」

 

 言い終えると同時に、全身の力が抜けた。

 視界が白く濁っていく。

 

 

 ――あぁ、サナさん。あなたの見たシナリオは、これで少しでもマシな方へ書き換わっただろうか。

 

 

 次に目を覚ますのが、あの無機質な部屋なのか、それとも彼女の待つ場所なのか。

 それを、少しだけ楽しみに思いながら、意識を手放した。

 





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過去編はこれにて終了になります。
残り、「大阪編」が6話、「えぴろーぐ編」が4話で完結予定です。
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