明らかに猛者揃いの集団の中で、リーダーとして認められているモブ顔の人   作:べにべにベニヤ板

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そして、重力銃の破壊的な一撃が――

 

 夜の冷たい風が、ビルの屋上でスコープを覗き込む自身の頬を撫でた。

 眼下の道頓堀は、元の街の面影を完全に失っている。

 

 瓦礫の中心で、くぐもった破裂音が響く。

 多田さんの放った一撃が、死神の頭部――あの悪趣味な髑髏を跡形もなく粉砕したのが見えた。

 

 「……やった!?」

 

 隣で身を潜め、私の護衛をしていた良守くんが、思わずといった様子で声を上げる。

 反対に、スコープから目を離すことなく淡々と返した。

 

 「静かに。まだ動いてる」

 

 事実、照準の先では、頭部を完全に失った死神の肉体が膝を突くどころか、より不規則で悍ましい躍動を見せ始めていた。

 

 つい十数分前まで、自分と隣にいる良守くんと東京チームの大男と子どもの4人で西側の区域で星人の残党処理に当たっていた。

 

 特に厄介だったのが、炎を纏って突進してくる『火車』の星人だった。

 燃え盛る山車のような巨大な質量と熱量に手こずり、掃討に想定以上の時間を奪われた。

 ようやく黒焦げの残骸に変え、同様に他の星人の処理に当たっていた多田さんと合流したときには、道頓堀の中心はすでに原型を留めない地獄と化していた。

 

 

 ――君たちは屋上で隠れて合図があるまで手出しをしないように。かなり強い星人がいるみたいだ。

 

 

 先ほどまでの死闘で、この化物の弱点は割れている。

 故に、合流してすぐ、多田さんから下された指示はひどくシンプルだった。

 

 認識外からの攻撃。

 

 この星人は視認された攻撃や予測できる殺意に対しては無敵の防御と再生力を誇る。

 だが、完全に意識の外からの一撃を受けた場合にのみ、奴の再生能力には明確な遅滞が生じる。

 ただし、遅滞が生じるだけであり、少しでも肉片が残っていれば即座に元の姿へと再生してしまう。

 

 完全に息の根を止めるには、その一瞬の隙を突き、一撃で全身を消し飛ばす必要がある。

 広範囲を圧し潰す重力銃が最適に思えるが、遠方ではあのレベルの星人を消し飛ばす威力はでない。

 近づいては意識外という条件が崩壊してしまう。

 だからこそ、狙撃が可能な長銃を構え、絶対に怪物の意識が向かないこの高所に伏せているのだ。

 だが、長銃ではどうしても肉片が残る。

 故に、これはあくまでも隙を作るための一撃だ。

 止めはあの二人に任せることになる。

 不安はある。

 だが、信じるしかない。

 

 眼下では、吹き飛んだ首の断面があっさりと再生する。

 

 「うそだろ……あんなの、どうやって殺すんだよ……」

 

 良守くんの引きつった声が聞こえる。

 同じ気持ちだった。

 だが、自分はただ単純に与えられた役割をこなすことだけに意識が向いていた。

 

 二つの影が怪物を挟み込む。

 

 岡と呼ばれていた大阪の男が、ハードスーツの出力に任せて正面から突撃した。

 自チームの鬼塚さんのように拳主体で戦う訳でも、ただ力任せに殴るだけでもない。

 装備の機能をフル活用した戦いだった。

 

 両肘の先にある装甲から鋭利なブレードを展開し、攻撃を斬り伏せながら死神の懐へと潜り込む。

 そのまま豪腕を胴体へと深々と突き刺すと、密着した掌の砲門から、零距離で灼熱のレーザーを解き放った。

 

 だが、死神は即座に再生すると正確に岡の腕を掴み返し、背負い投げるように瓦礫へと叩きつけた。

 

 地響きがビルの屋上にまで伝わってくる。

 

 土煙が舞う中、多田さんが動いた。

 彼は迫る巨大な腕の薙ぎ払いを、抜き放った刀で滑るように受け流し、返す刃で手首の腱を深々と削ぎ落とす。

 そのまま姿勢を低くして攻撃を潜り抜けると、流れるような動作で長銃を構え直し、再生が追いついていない死神の駆動部へ、無表情のまま的確な一撃を撃ち込んでいく。

 

 剛の岡と、静の多田。

 全く性質の違う二つの駒が、図らずも噛み合い、バグめいた怪物をその場に釘付けにしている。

 

 

 ――……ヘイトは完全にあの二人が買ってる。

 

 

 クロスヘアが、激しく入り乱れる三つの影を正確に追い続ける。

 

 隣で良守くんが焦燥に駆られて何かを呟いている。

 だが、自身の耳にはもう入っていなかった。

 多田さんからの合図があるまで、その隙が露呈するまで。

 瞬きせず、スコープの向こう側を監視し続けていた。

 

 展開される死闘は、激しさを増していた。

 多田さんの執拗な関節への銃撃に苛立ったのか、完全に再生を終えた禍々しい髑髏の頭部をグンと下げ、自らの足元深くに入り込んでいる彼を直接見下ろした。

 

 眼窩の奥で、赤い光が極限まで圧縮される。

 己の懐にいるちっぽけな人間を焼き尽くそうと、致死のレーザーを下向きに放とうとした、その瞬間。

 

 多田さんは、遥か上空のビルの屋上へと視線を向けた。

 スコープ越しに、視線が交差する。

 

 

 ――今だ。

 

 

 口の動きすらない。

 ただの視線による合図。

 多田さんが怪物の視線を完全に下へ向けさせたことで、上空の自分は怪物の意識から完全に切り離された。

 呼吸を止めたまま、引き金を絞り切った。

 

 怪物の目から光線が放たれようとした直前、長銃の着弾が先んじた。

 放たれるはずだったエネルギーの暴発を巻き込み、髑髏の右半分が内側から爆発する。

 完全に吹き飛ぶには至らなかったものの、頭部は半壊し、ドロドロに焼け焦げた悍ましい断面を晒した。

 だが、攻撃はそれだけでは終わらなかった。

 

 次弾より早く、怪物の右肩から脇腹にかけての半身が、別の強烈な爆発によってごっそりと抉り取られたのだ。

 

 

 ――……私じゃない。別の角度からの狙撃……?

 

 

 スコープの視界の端で、別の廃ビルの影から発せられたわずかな人影を捉えた。

 同じように不自然な着弾に良守くんが疑問を漏らす。

 

 「誰だ?」

 「多分だけど、東京のチームよ」

 

 

 ――多田さんが指示を出していたようね……。

 

 

 彼らもまた、戦場から完全に気配を消し、この致命の隙が生まれる瞬間をじっと息を潜めて待っていたのだ。

 言葉を終える内に、今度は怪物の左膝が理不尽な爆発によって吹き飛んだ。

 さらに背中の骨の棘が数本、根元からへし折れる。

 

 自身の追撃、そして東京チームからの連続狙撃。

 二方向、三方向からの、完全な意識外からの連撃。

 巨体が大きくよろめく。

 半壊した頭部や抉られた右半身から再生しようと蠢くが、その動きはひどく鈍かった。

 

 

 ――……効いてる。再生が、明らかに追いついていない……!

 

 

 スコープ越しに確信した。

 どこから撃たれたのか、誰が狙っているのか。

 認識が完全に追いついていないのだ。

 未知の方向からの連続被弾により、怪物の意識は強制的に外され、散らされ続けている。

 ルールに縛られた再生能力は致命的なバグを起こし、どんどんその速度を落としていた。

 

 「いける……! このまま一気に……!」

 

 黒川が叫んだ、その瞬間だった。

 半分ひしゃげた髑髏の残された眼窩と、背中に蠢く骨の棘の先端から、怪物は狂ったように光線を全方位へ向けて乱射し始めた。

 

 太い閃光がメチャクチャに周囲を薙ぎ払い、道頓堀のビル群が次々とバターのように両断され、真っ赤に溶け落ちていく。

 意識の外からの攻撃を潰すための、完全に予測不能なヤケクソの全方位破壊。

 

 「――ッ!」

 

 直後、自分たちが伏せていた廃ビルを、極太の赤い閃光が横薙ぎに通過した。

 何の抵抗もなく分厚いコンクリートが融解し、足元から巨大な建造物が斜めにズレて滑り落ちていく。

 ビルそのものが切断されて崩壊を始めたのだ。

 

 「う、うわああああッ!?」

 

 足場を失いパニックに陥る良守くんの腕を掴み、躊躇いなく傾く屋上の縁を蹴った。

 冷たい夜風を切って、空中へと身を投じる。

 落下しながらも、眼下の光景に注目する。

 

 トドメを刺そうと間合いを詰めていた岡のハードスーツに、その乱射された光線の一筋が直撃した。

 装甲がドロリと溶け、胸部が両断される。

 

 だが、その中身は空洞だた。

 それどころか、切断されたハードスーツの背部から星人を囲むように煙が爆発的に噴出した。

 大量の煙が凄まじい勢いで戦場全体へ広がり、瓦礫の海へと落下していく視界すらも、一瞬にして真っ白に塗り潰していった。

 

 スーツの機能で落下による衝撃を殺し、瓦礫の海へと着地する。

 顔を上げた時、道頓堀は煙と砂埃が入り混じった完全なホワイトアウト状態にあった。

 

 

 ――見えない……いや、違うわ。

 

 

 即座に悟る。

 あの大阪の男が、自身の装甲の損壊すらも利用して作り出した、巨大な目隠しだと。

 

 白濁した視界の奥で、凄まじい風切り音が鳴る。

 煙を裂いて現れたのは、岡だった。

 岡は怪物の完全に無防備な背後へと回り込む。

 その両手には、黒い刀が握られていた。

 

 極限まで振り被られた渾身の斬撃が、巨大な背中を袈裟懸けに深く切り裂いた。

 肉が割れる。

 だが、怪物の残された眼窩の光球は、背後から致命傷を与えた岡を振り返ろうとはしなかった。

 

 怪物の視線が、ただ一点に固定されている。

 正面。

 見つめているは這い寄る煙の向こう側で、いつの間にか重力銃を構えていた、多田さんだった。

 

 彼は、この一瞬の隙を突き、怪物の全身を一撃で消滅させるつもりだったのだろう。

 

 だが、直感か、あるいは死への本能的恐怖か。

 あの怪物は多田さんを最大の脅威と認識し、決して視線を逸らそうとしなかった。

 

 遠目から戦況を見守るなかで息を呑んだ。

 奴が認識している以上、重力銃を撃ったとしても完全な消滅には至らない。

 

 多田さんの指が引き金にかかったまま、永遠とも思えるコンマ数秒が過ぎた。

 その、重苦しい硬直を破ったのは――。

 

 「……加藤くん! 今よ!」

 

 煙の向こう、見知らぬ女性の叫び声だった。

 直後、怪物の死角である斜め後方の瓦礫の陰から、青白い火線が走る。

 

 東京チームの長身の男が放った短銃の一撃が、死神の半壊した頭部へ正確に着弾したのだ。

 

 小柄な銃とはいえ、完全に意識の外から受けた爆発。

 その衝撃と予期せぬ痛撃に、巨体が大きく揺らぐ。

 そして、決して多田さんから外れなかった赤い眼窩が、弾かれたように加藤の方向へと逸れた。

 

 

 意識が、外れた。

 

 

 彼が、それを見逃すはずがなかった。

 煙と粉塵の舞う絶望の中心で。

 冷徹な愛知のリーダーは、完全な死を宣告すべく、無造作に重力銃の引き金を絞り込んだ。

 そして、重力銃の破壊的な一撃が――

 

 「えっ?」

 

 到達するより早く、多田さんの()()()()()()()

 

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