明らかに猛者揃いの集団の中で、リーダーとして認められているモブ顔の人 作:べにべにベニヤ板
「あなたは運がよかった」
「熟練者であってもスーツを着ていなければ生存率は低い。ましてや初回のミッションならほぼゼロね」
「いつまで続くか――100点を取るまでよ」
「星人には点数がついてる。星人を倒して、100点をとれば選択肢がでる。ブラックボール……100点メニューを出して」
――1 記憶を消して、解放されるよ
――2 今より強い武器をあげるよ
――3 死んだ戦士を復元させるよ
「早くても3週間に1度の頻度で呼ばれるわ。呼ばれる前に予兆がある」
「それまでは普段通り過ごしなさい」
「武器やスーツを持ち出しての訓練はいいけど、それを話したり、見せびらかすことはよしなさい」
「私たちの頭には爆弾が埋め込まれているの。以前、警察に連絡をした人がいたんだけど頭が弾け飛んだわ」
「訓練のおすすめはランニングよ。スーツのパワーは筋力と集中力の揺れに比例するの」
「あとは――
――それが貴方の生きる意味になる。
そう言い放った彼女の瞳には、強い意志があるようでいて、その奥には何も映っていなかった。
きっと俺と同じようなことを何人にも話したのだろう。
その言葉は、俺へのアドバイスというより、自分自身をこの地獄に繋ぎ止めるためも呪文のようにも聞こえた。
一ヶ月後。
ラジオ体操ダイイチィィーー!〜♩♩♩♩♩
ガッチャン
また、あの部屋に戻ってきた。
この一ヶ月間、大学に行く傍らランニングを続けた。
三日坊主の自分でも、命が関われば話は別だ。
通常のランニングに加えて、スーツを着てのトレーニングも行った。
スーツを着たまま走ると息切れをしなかった。
それどころか速すぎるぐらいだった。
戦いとなればこの速さを活かして逃げることもあるだろう。
夜の公園で着地の際に衝撃が膝を叩くたび、四肢がまだ動くことを確認せずにはいられなかった。
意識は常に、次の転送への恐怖を待ち構えてしまっている。
どれだけトレーニングを積んでも不安がぬぐえなかった。
そして今、転送が行われた。
恐怖はある。
だけど、やるしかない。
黒い球が鎮座する部屋には、女神とおっさん、そして前回の自分と同じように状況を読み込めていない人が10人はいた。
「みんな注目して!これから怪物達との戦いがはじまるわ!私達は戦士で今からコロッセオに向かうことになる!相手はコイツよ!」
――とくさつ星人
――特徴:おおい、仲間想い
「ここは控え室よ。武器と鎧はこのブラックボールに入ってる!スーツはオーダーメイドだから他人のを取らないようにしなさい!」
女神――もといサナさんが前回同様に黒い球体を指さす。
それだけで彼女が何度もこの光景を繰り返してきたのかがわかってしまう。
説明はサナさんに任せよう。
正直、他の人を助けられる余裕なんてない。
新人たちから目を逸らすと、スーツの上に着たパーカーのチャックを限界まで引き上げた。
「けんぞうさん、もぶたさんに補助装備をお願いします。ブラックボール……先に私を転送しなさい!」
そういうと誰よりも早くサナさんが転送された。
転送されていく姿をみて前回同様に部屋が騒がしくなる。
その姿を視界に収めながら別のことを考えていた。
――ブラックボールに指示がだせるのか。
確かに、100点の選択肢を出すときもブラックボールはサナさんのいうことを聞いていた。
ブラックボールはただの装置だと思っていたが、装備のひとつということだろうか。
だとしたら、武器の使い方や一覧を教えてもらうこともできるのかもしれない。
もしかしたら、まずはブラックボールに
いや、サナさんだけの特権ということも。
それとも――
「おい、坊主」
「え、はい?」
思考を巡らせていたとき、おっさんに声をかけられた。
女神のサブウエポン的な何かだと思っていたが自立行動できたのか。
今まで不干渉だったのに何だろうか。
そういえばさっきこのサナさんが何か指示を出してたが……。
己の困惑をよそにおっさんが質問を続けてきた。
「今、いくつだ?」
「21です。大学3年生ですが……」
「そうか」
おっさんの視線は、俺の顔ではなく、四肢の筋肉や目の動きを値踏みするように這い回った。
おっさんはただ頷いてひとつの装備を渡してくる。
それは小さなコントローラーだった。
「サナさんがいっていた補助装備だ。それには敵の位置が赤点で表示される。それに左のボタンを押せば透明化ができる。勝手に使え」
おっさんは簡潔にそういうと俺から離れ、転送されていった。
どういうことだろうか。
年齢に何かヒントがあったのだろうか。
それともチュートリアル用のNPCだったのだろうか。
まぁ、装備がもらえるならいいか。
位置情報と透明化ね……透明化!?
驚きと同時に転送がはじまってしまった。
前回同様に指の先から徐々に消えていく。
この焦り方はよくない。心を落ち着けないと。
この部屋に来る前から決めていた台詞を思い返す。
――あとは
「明日、先輩に学食おごる約束してるから――だから、生き残らないとな」
結論として、今回も生き残れた。
俺は蹲っていた。
――もぶた:3点
――合計:3点
四肢が何事もなかったかのように床を踏み締めている。
その正しすぎる肉体が、さっきまで死にかけていた自分を否定しているようで、無性に腹が立った。
「今回の星人は群体タイプだった」
「一体ずつはたいして強くないけど集団で行動することが基本で、集まると特殊な力をつかったりするタイプ」
今回の星人は特撮ヒーローの姿をしていた。
どこかのホール内に転送後、すぐさまコントローラーをみれば至る所に赤点があった。
即座に戦闘かと思ってみれば周囲には誰もいない。
あるのは5種類の特撮ヒーローのスーツだけだった。
だが、最も近くの赤点はそのスーツを指していた。
とりあえずと思い、銃を向けたが反応がない。
ただ、目の前に立つ正義の味方は、テレビで見たような布の質感ではないように思えた。
表面は濡れた生肉のような嫌な光沢を放ち、ヘルメットの覗き穴からは、何かがこちらを覗いているような気がしていた。
打つか悩んでいた所、五体のヒーローとサナさんが戦いながら走ってきたことで、目の前のそれが星人なのだと気づくことができた。
そこからはまたしても地獄だった。
向けていた短銃で撃った瞬間に剣で反撃にあった。
間一髪で避けて、走って逃げては星人に向かってさらに打ちまくった。
一体が弾け飛んだと思ったら、残りのヒーローが縦に裂けて分裂した。
数が減るたびに分裂によって補充がされて、総数が減ることはなかった。
そうして何度も繰り返したところで、おもちゃのような銃で放たれたレーザー光線により、右足がなくなった。
死にたくないの一心だった。
這いつくばって星人に瓦礫を投げていた。
そうして抵抗していたところ、いきなり星人が五体とも弾け飛んだ。
それから、少しして転送された。
「群体タイプは不意打ちでまとめて倒すのがセオリーになる。そのためには銃の多重ロックオンを覚えておきなさい」
――さなちゃん:28点
――合計:105点 えびふりゃーでも くって えらんでよ
「2番よ。追加の重力銃を出しといて」
――けんぞうさん:55点
――合計:56点
「外からの追い込みと大型の相手をしてくれて助かったわ。お陰でホール内の敵をまとめて倒せた」
「サナさん、よしてください……。今回、新人は生き残れなかった。自分の点を優先してばかりで褒められる所業じゃない」
おっさんの言葉が耳に入ってくる。
大学生くらいの女の子におっさんが敬語を使っている姿は、どこか異様ではあった。
だが、それより別の言葉が引っかかった。
点の優先。
その言葉に俺の中の何かがキレた。
「何で……あの
俺は見た。
おっさんは俺やサナさんとは違うタイプの星人と戦っていた。
ホールの外。
おっさんは巨大なゴジラのような怪獣と戦っていた。
しかも生身じゃない。
巨大なロボットに搭乗していた。
戦闘はロボットによる拳の一撃で終わっていた。
怪獣の攻撃は一切効かず、強力な攻撃性能をもつ、まさしく無敵の兵器のようであった。
倒れた怪獣。停止したロボット。
その中から出てきたのは、これまた見たことない空飛ぶバイクと大型の銃をもつ、重厚な鎧だった。
ヘルメットで顔は見えなかったが、サナさんが中で戦っていた以上は消去法でおっさんなのは間違いない。
あんなロボットがあるならば、最初から新人達はロボットの中に入れて、守ればよかったんだ。
ブラックボールに指示を出して、真っ先に転送してもらいホール内の星人も踏み潰せばよかった。
コントローラーで星人の位置は判別できるのだ。
それができない理由はない。
なのにも関わらず新人を先に転送させている。
自分が確実に倒すためにあえて転送を先送りにしているんだ。
新人達を餌にした星人の分析。
そうでなければ、あれだけ巨大な怪獣と戦っている姿がミッションの
今回のミッションで理解した。
星人に常識は通じない。
だからこそ分析が必要なんだ。
どんな星人なのか。
攻撃方法はどんなものか。
どれだけの
そして、何より確実に生き残るには星人の弱点を知る必要がある。
俺や新人達だけでは星人を倒すことはできなかった。
サナさんとおっさんが死んだら全滅だった。
この二人が確実に生き残らないとまずいのはわかる。
まともに戦えるのが二人な以上は慎重になるのも当然だろう。
先遣隊と後詰めで役割を分けてもおかしくはない。
でも、限度があるはずだ。
ただ、ほんの少しリスクをとるだけで――そうするだけで、新人の
握りしめた拳の爪が手のひらに食い込む。
その痛みだけが、今の俺が生きている人間であることの証明だった。
続く言葉は体の何よりも胸の奥から出たものだった。
「……ふざけんじゃねぇぞ。……クソ野郎が」