明らかに猛者揃いの集団の中で、リーダーとして認められているモブ顔の人   作:べにべにベニヤ板

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あぁ……また、ゲームオーバーかよ

 

 何者かによる凶刃。

 腕の支えを失った多田さんの重力銃の砲口が、発射の瞬間に僅かに上へと跳ね上がった。

 同時に 多田さんの背後から、真っ赤な刃がその胸を深々と貫き、突き出た。

 

 上空から、目に見えない断層が落下した。

 しかし、狙いが逸れたそれは、怪物の全身を完全に圧殺する範囲からズレていた。

 地面を円形に何十メートルも陥没させる理不尽な重力波は、怪物の腰から上――半壊した髑髏もろその上半身だけを空間ごと抉り取り、跡形もなく完全に吹き飛ばした。

 

 残された死神のグロテスクな下半身だけが、すり鉢状に抉れたアスファルトの底へと崩れ落ちる。

 

 静寂。

 もう、肉が蠢く音は聞こえない。

 再生が始まる気配もない。

 ただ自分は、瓦礫の陰で息を殺したまま、その場に崩れ落ちた下半身と、腕から血を流す多田さんの姿を見つめていた。

 

 

 

 

 「まずは、二人だな」

 

 

 

 

 事も無げな声が響いた。

 事態を呑み込めず、思考が凍りついた、まさにその直後だった。

 

 「危ねぇッ!!」

 

 隣にいた良守くんの、叫び声が上がった。

 自身の首を刎ね飛ばそうと、全くの無音で振り下ろされたもう一振りの凶刃。

 それを、良守くんの刀が間一髪で受け止めていた。

 

 「……ほう。反応したか」

 

 火花を散らす刃の向こう側。

 黒いスーツを着た男が、氷のような薄笑いを浮かべて良守くんの刀を力で押し込んでいる。

 

 周囲の瓦礫の向こう側から、立て続けに激しい爆発音が轟いた。

 

 「クソッ……!」

 「ちっ!」

 

 爆炎と粉塵に巻かれながら、複数の影が中央のすり鉢状のクレーター付近へと文字通り蹴り出されてきた。

 一度戦線から退避し、陣形を立て直そうと散開していたはずの鬼塚さんとと姫川さんだった。

 鬼塚さんのハードスーツは所々がひしゃげ、姫川さんのスーツからも限界を知らせる黒い体液が漏れ出している。

 

 さらに逆の方向からは、大阪チームの面々までもが、防戦一方の態勢で中央へと追いやられてきた。

 

 「クソがッ……! どこから湧いてきやがった!」

 

 大阪チームのスキンヘッドの男が刀を構え直し、血を吐き捨てるように悪態をつく。

 その声を掻き消すように、今度は先ほど怪物の胴体を撃ち抜いた瓦礫に潜む者たち――東京チームが潜んでいた狙撃ポイントが、激しい閃光と共に吹き飛ばされた。

 

 「くそッ……!」

 「加藤さん!」

 

 崩れ落ちるコンクリートと共にクレーターの底へ転がり落ちてきたのは、長銃を握りしめたを、東京チームの面々だった。

 

 彼らもまた、死角からの狙撃という絶好のポジションを急襲され、抗う間もなくここへ叩き落とされたのだ。

 これで、生き残っていた愛知、大阪、東京の全チームが、一所に集められてしまった。

 

 自分らをここへよ追い立てたのは、闇夜に溶け込むような黒いスーツを翻し、抜身の刀や銃器を構えた――

 

 百人近くの黒スーツの群れだった。

 

 「このときを待っていた」

 

 多田さんを刺した男が前へ躍り出る。

 

 「久しぶりだな。7年ぶりか」

 

 紡ぐ男の言葉にはただ純粋な殺意だけがあった。

 

 「あの日の恨みは忘れねぇ……死んだみんなと同じように――」

 

 

 ――ゴミみてぇに殺してやるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどの刃を受け止めた腕が、微かに痙攣している。

 刀の柄を握る手のひらの感覚が麻痺し、ひどく痺れていた。

 スーツがなければ、刃ごと骨まで両断されていたかもしれない異常な重撃。

 だが、痛みに顔を歪めている余裕すら、今の俺たちには残されていなかった。

 

 瓦礫の山。

 そこに立ち、自分達をすり鉢の底へ追いやるように囲むのは、黒コートの集団だった。

 その集団は一切の油断なくこちらを見据えている。

 刀を持つ者もいるが、よく見ればその手には全員がサブマシンガンを持っていた。

 ただのアウトローの集団ではない。

 間違いなく星人だ。

 だが、コントローラーによる星人反応はなかったはず。

 つまり、こいつらは標的外の敵だということになる。

 それにこの数。

 明らかに、俺たちが極限まで消耗するのを待ち伏せられていたのだ。

 

 「撤退するぞ!包囲を抜ける!」

 

 鬼塚さんの切羽詰まった言葉に、隣の瑞原さんが弾かれたように反応する。

 

 「多田さんは!?」

 

 多田さんを、捨てるか。

 最悪の選択肢が、頭をよぎる。

 問われた鬼塚さんの顔には、葛藤が浮かんでいた。

 

 胸を貫かれたまま血の海に倒れ伏している多田さんを連れて、この包囲を抜けられるわけがない。

 だが、置いていけば間違いなく死ぬ。

 助けるか、見捨てるか。

 判断に迷い、鬼塚さんが思わず血まみれの多田さんへと一歩踏み出そうとした、その時だった。

 

 血を吐きながら膝を突いていた多田さんと、鬼塚さんの視線が交差する。

 その彼が、口元を微かに歪め――薄く、笑ったのだ。

 多田さんのその顔を見て、鬼塚さんは血の滲むような、絞り出すような声で叫んだ。

 

 「包囲から抜けるのが先だ!」

 「なんで!?ここで戦っても――」

 「ボスが仕留め切れてない!復活する!」

 

 クレーターの中心へと視線を落とす。

 そこには、多田さんの重力銃で上半身を完全に消し飛ばされ、ただの肉塊になり果てたはずの下半身だけが転がっている。

 

 だが。

 完全に再生が間に合っていなかったはずの肉塊が、また元の形を取り戻そうと蠢き出している。

 

 「嘘、だろ……」

 

 無意識に絶望の声が漏れた。

 頭上からは、数十丁もの銃口と、冷たい殺意。

 そして足元からは、バグじみた再生能力を持つ100点のバケモノが再び立ち上がろうとしている。

 俺たちは完全に、死に挟まれていた。

 

 「撃て」

 

 一人の男が、感情のない声で短く命じた。

 直後、夜の闇を切り裂くように、一斉にけたたましい銃声のスコールが降り注ぐ。

 全員が咄嗟に強引に瓦礫の陰へと飛び込んだ。

 

 直後、俺たちが先ほどまで立っていた空間を、無数の銃弾が嵐のように通り抜けていく。

 コンクリートが砕け散り、耳を劈くような破壊弾幕がすり鉢状の底を容赦なく制圧し始めた。

 動けば一秒で蜂の巣にされる、文字通りの処刑場。

 

 弾雨の中、真っ先に動いたのは大阪の男――岡だった。

 その姿が突如として陽炎のように揺らいだ。

 まるで水に溶ける絵の具のように虚空へ溶け込み、完全に姿を消したのだ。

 

 「全員、透明化して散開しろォッ!!」

 

 岡の鮮やかな離脱を目の当たりにした鬼塚さんが、即座にそれに倣い、銃撃の嵐を縫って決死の怒声を響き渡らせた。

 

 瓦礫に背を預けたまま、痙攣する右指を必死に動かし、左手首のコントローラーのボタンを乱暴に押し込んだ。

 次の瞬間、自身の身体が、先ほどの岡と同じように背景へ透けていった。

 

 「加藤、走れッ!」

 「室谷、こっちや!」

 

 周囲を見渡せば、クレーターの底に集められていた東京や大阪の連中も、次々とコントローラーを叩き、その姿を虚空へと掻き消していくのがわかる。

 姿は見えなくとも、瓦礫を蹴る音と荒い息遣いだけが、あちこちから立ち上っていた。

 

 「バラバラに逃げろ! 的を絞らせるな!」

 

 姿の見えない鬼塚さんの声が、戦場に響く。

 黒スーツ達は突然標的が視界から消え失せたことに舌打ちをしつつも、依然としてデタラメな乱射を続けている。

 透明になったからといって、無数の弾の雨をすり抜けられるわけではない。

 運が悪ければ被弾する。

 

 だが、ここに留まれば、背後で再生を始めたバケモノの餌食になるか、蜂の巣にされるかの二択だ。

 

 「抜けるぞ……ッ!」

 

 姿なき声で応じ合い、俺たちは降り注ぐ銃弾の雨の中、決死の覚悟で包囲網の突破口を探して走り始めた。

 血だまりに倒れる多田さんを背に――だが、どうしてもその場をすぐに離れることに抗えず、一度だけ振り返ってしまった。

 

 星人の側で倒れる多田さんの口元が言葉を紡ぐ。

 

 その瞳がかすかに開かれた。

 重力銃を持つ、多田さんの指に力が入る。

 

 見慣れた重力波が空間を圧し潰す。

 

 

 

 

 

 

 その中心にいたのは、蠢く怪物の下半身と――他ならぬ、多田さん自身だった。

 

 

 

 

 

 

 轟音の直前、最後に聞いた多田さんの紡いだもの。

 その言葉には決して無視してはいけない何かがあるようだった。

 

 

 ――あぁ……()()、ゲームオーバーかよ。

 





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