明らかに猛者揃いの集団の中で、リーダーとして認められているモブ顔の人   作:べにべにベニヤ板

21 / 26
幕間:もぶた

 

 「私はいつまで繰り返すの」

 

 黒い球体の前で、彼女は虚空を見つめたまま、誰にともなく呟いていた。

 それは祈りのようでもあり、呪いのようでもあった。

 

 「答えはいつなの?」

 

 その声には、一切の感情が乗っていなかった。

 

 「これに意味はあるの?」

 

 限界まで摩耗し尽くして消え失せたような、ひどく空虚な響き。

 

 「もう終わりたい。それでも――」

 

 死人のような瞳をした彼女の口から、無機質な独白がとめどなく零れ落ちる。

 

 「私は今日も生き残――」

 

 その先の言葉を聞いてはいけないと思った。

 だから、その先を遮った。

 だが、俺の制止に重なるように、彼女のひどく澄んだ声が部屋に零れ落ちた。

 

 

 ――すべてが終わったら死ぬために。

 

 

 今でも思う。

 あの時、なんとしても彼女を止めるべきだったと。

 彼女の言葉を聞いてしまえば、それは自分の呪いになる気がしたから。

 

 事実、俺はあの部屋に残った。

 『ちゅーとりある』で電源を落とすことができたかもしれなかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は蹲っていた。

 

 

 ――もぶた:100点

 ――合計:105点 えびふりゃーでも くって えらんでよ

 

 

 今回の相手は100点星人だった。

 単体で100点。

 上限なし。

 星人名称がつくようなものとは一線を画すような化物。

 そんな化物を相手にするにも関わらず、()()()()()()()()()まともに戦える戦士がいなかった。

 

 地獄だった。

 航海士のような風貌の人型の星人。

 木曽川の堤防に転送された直後から、息をつく暇もない殺し合いが始まった。

 二人が持つ、すべての装備と命を削っての死闘。

 100点武器の圧倒的な火力にさえ、その化物は凄まじい適応力で抵抗し、戦況は泥沼と化した。

 結局はリスクを取り、二人で死地へ踏み込んで接近し、どうにか弱点を穿った。

 

 戦いには勝った。

 ミッションはクリアされた。

 だが、この戦いで――

 

 おっさんは帰ってこなかった。

 

 

 ――1 記憶を消して、解放されるよ

 ――2 今より強い武器をあげるよ

 ――3 死んだ戦士を復元させるよ

 

 

 「ははっ……」

 

 無機質なブラックボールの表面に、ふざけたフォントで選択肢が浮かび上がる。

 それを見て、ひび割れたような乾いた笑いが漏れた。

 

 100点を獲得した。

 これで、四度目だ。

 サナさんがいなくなってから何度もミッションを繰り返した。

 

 俺は強くなった。

 サナさんがいた頃よりも遥かに。

 おっさんと同じ場所で戦えるくらい。

 

 

 ――俺達でやるぞ。

 

 

 耳の奥で、おっさんの声がリフレインする。

 もう、誰かの後ろで守られるだけではない。

 今の俺なら、多くの人を救うことができるはずだった。

 

 それでも、届かなかった。

 

 おっさんが死んだ。

 もし、この場にいたのがサナさんであれば、こうはならなかったはずだ。

 俺ではなく、サナさんであれば、おっさんを死なせずにあの化物を殺し切れた。

 

 「クソっ……」

 

 握りこんだ拳で床を叩く。

 俺はサナさんにはなれない。

 きっと、俺の命もいつか終わってしまう。

 それでは、ダメなのだ。

 生き残り続けないと。

 サナさんに誓ったんだ。

 でも、俺一人では、この先の地獄を越えられない……。

 

 「ブラックボール……俺はどうすればいい……」

 

 震える声で、真っ黒な球体にすがりつくように問いかける。

 

 「どうすれば……サナさんとの約束を守れる……」

 

 球体の表面が青白く明滅し、ある一人の人物の画像が浮かび上がった。

 

 

 ――3 死んだ戦士を復元させるよ

 

 

 「……は?」

 

 ディスプレイに映し出されたその顔を、俺はよく知っていた。

 

 「あぁ……なんだ……簡単じゃねぇか……」

 

 何かが決定的に壊れ、同時に冷たく澄み渡っていく。

 

 俺は選んだ。

 『多田哲也』が、この地獄で生き残り()()()ための、最も確実な選択を。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。