明らかに猛者揃いの集団の中で、リーダーとして認められているモブ顔の人   作:べにべにベニヤ板

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けいじさん

 

 「はじめまして。刑事さんでいいのかな?ところで――」

 

 

 ――死んだ記憶はありますか?

 

 

 そういって私を迎えたのは黒いスーツを着た青年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 16歳の夏、私は犯された。

 腹部を刺され、溢れ出した地でアスファルトが赤く染まる光景、あの色は今も私の網膜に焼き付いて離れない。

 

 両親は潔白だった。

 非の打ち所がないほどに私を愛し、心配し、そして――奪った。

 

 

 ――心配しなくていい。アイツには必ず、報いを受けさせる。

 ――学校は転校しましょう。引っ越しも考えているの。

 

 

 転校した学校では、必ず両親が送り迎えをした。

 携帯には小学生に使われるような監視機能をつけられた。

 送り迎えの車窓から見る景色は、私にとって檻の柵と変わらない。

 夜の空気は禁じられ、私の自由は安全という名の手枷に繋がれた。

 

 

 ――あなたには必要だわ。

 

 

 私は可哀想なんかじゃない。

 

 強い女性を目指すようになった。

 格闘技を習いたいと両親に話した。

 両親は激しく反対した。

 

 

 ――女性らしく生きなさい。

 ――そんな危険なものはダメだ。

 

 

 護身術やスポーツとして強くなりたいのではない。

 危険なのは、格闘技ではない。

 無知で、無力で、丸腰のままでいることだ。

 そのことを、私の腹部の傷跡が毎日疼きながら教えてくれる。

 

 私の脳裏にあったのは、病院のベッドの傍らに座っていた、一人の女性刑事の背中だ。

 彼女だけは私を憐れまなかった。

 

 

 ――大変なことに巻き込まれたわね。

 

 

 武器を持ち、悪意をねじ伏せる正当な権利が欲しかった。

 両親が私を普通という名の安全圏へ押し戻そうとすればするほど、私の心は反対側へと研ぎ澄まされていった。

 

 二度と、誰にも、私を憐れませない。

 

 そして、私は刑事になった。

 刑事として過ごした日々は、常にあの夏と同じ、鉄錆の匂いに満ちていた。

 いくつもの死体を見下ろし、いくつもの悪意を暴いた。

 私は過去を飼い慣らした。

 

 そして、最期の瞬間は、驚くほど静かに訪れた。

 

 路地裏、湿った空気、そして目の前のナイフ。

 十六歳のあの時と同じ光景だ。

 私が法に基づき、淡々と追い詰め、その人生を暴いた男。

 彼は自分の犯した罪を棚に上げ、私の存在そのものを自分を壊した元凶として逆恨みしていた。

 

 腹部に走る、二度目の、そして致命的な熱。

 ああ、やはりここか、と思った。

 男のナイフが深々と吸い込まれていく。

 

 

 ――お前のせいだ。お前さえいなければ……!

 

 

 耳元で男が呪詛を吐き散らす。

 理不尽極まりない、身勝手な言い分だ。

 けれどその声を聞きながら、私の心は驚くほど冷めていた。

 この男は、私を一人の女としてではなく、自分を追い詰めた刑事として憎んでいる。

 十六歳の時の、理由も分からずただ蹂躙されたあの日の絶望とは、決定的に質が違っていた。

 

 私は最後の一息で、血の混じった皮肉な笑みを浮かべた。

 私は、可哀想な子供としてではなく、一人の刑事として殺される。

 私が勝ち取ったのだ。

 視界がゆっくりと、あの夏の日よりもずっと深い赤に染まり、やがて暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、あの部屋に招かれた。

 

 

 ――あいど♪りん星人

 ――特徴:かわいい、くろい

 

 

 そうしてはじまった悪夢のような夜を超えた。

 

 

 ――けいじさん:20点

 ――合計:111点 えびふりゃーでも くって えらんでよ

 

 ――1 記憶を消して、解放されるよ

 ――2 今より強い武器をあげるよ

 ――3 死んだ戦士を復元させるよ

 

 

 数ヶ月後、部屋の3人目の記録者(ホルダー)となったとき、()()が知るミッションの目的を告げられた。

 

 「ドイツ……マイエルバッハね……正直、信じられないわ」

 「だろうな」

 「ですが事実です。僕らは賭け遊戯の戦士であるとともに宇宙戦争のための兵隊でもあります」

 「どうして、私にこんなことを?」

 「姫川さんは残るかもしれないから」

 

 そういって私のもつ刀に目を向けた。

 

 「この先が気になるのでしょう。なのにも関わらず、あなたは『武器』しか眼中にない。『復元』の選択の意味に気づいている」

 「『復元』は蘇生ではないのでしょう」

 

 私の言葉に、多田さんは静かに頷き、黒い球体を見つめた。

 

 「ここに送られてくる僕らは、死ぬ直前の情報を転送されたバックアップに過ぎない。100点取って死んだ仲間を呼び戻したところで、それは彼らの形をした新しいコピーが生成されるだけだ。……本物は、もうどこにもいない」

 

 やっぱり。

 この部屋の真実はあまりに重く、そして救いがない。

 

 「ただ、残留はおすすめしません。所詮、僕らは使い捨ての駒です。目的を知った以上はこの先のリスクもわかりますよね」

 「死ぬことを指してリスクというならば、私にとっては関係ないわね」

 「元の生活に戻りたくないんですか? 仕事や家族は()()()にはあるはずだ」

 

 家族。

 その言葉を聞いた瞬間、私の胃の奥に、あの不快な蜜のような愛の感触が蘇った。

 戦いから逃れ、記憶を消され、五体満足な姿で、何も知らずに普段の生活へと戻る。

 私はそれを望まない。

 

 「私は()()()()()、ここでようやく()()()()()()を手に入れた。本物だろうがコピーだろうが、そんなことはどうでもいい」

 

 刀身に、私の冷めた瞳が映る。

 

 「自分の意志で引き金を引き、自分の足で地獄を歩く。それだけよ」

 

 どこであろうと、私のやることは変わらない。

 私は、私を証明するために、また凄惨な夜へと飛び込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どけだけの敵を倒したのだろうか。

 

 一昨日の昼から戦い続けている。

 スーツが身体への負荷を軽減しているとはいえ、精神の摩耗までは防げない。

 視界の端がチカチカと点滅し、思考は泥のように重かった。

 

 「玲香さん!追加の敵です!骨型の奴が……20体はいます!」

 

 無線から飛んできた佐伯ちゃんの声に、奥歯を噛みしめる。

 

 「わかったわ、すぐ向かう」 

 

 ブラックボールへの作業の手を止め、仮拠点としていた名駅ビルの一室から飛び出し、アスファルトがひび割れた駅前の道路へ向かう。

 空から降りてきた異星の生物兵器が、そこにいた。

 肉がほとんどない人骨のような歪な体形で、巨人族よりやや小ぶりだが、横に広い不気味な頭部がこちらを睨んでいる。

 その周囲では、私と同じ黒衣を纏った三人の戦士が、死に物狂いで防戦を続けていた。

 

 迷わず戦渦へ飛び込む。

 この骨型は厄介だった。

 細い腕を鞭のようにしならせ、触れるものすべてを粉砕する。

 重力銃を含むあらゆる重火器が無効化されるほど外殻は硬い。

 一見すると無敵のような生物だが、首の後部にピンポイントで弱点があり、そこを攻撃するとあっさりと殺すことができた。

 

 スーツのパワーを最大まで引き上げる。

 筋肉が熱を帯び、神経が加速する。

 正面から突っ込み、腕の一撃を紙一重でかわして背後へ。

 

 「まずは一体」

 

 一閃。

 弱点を刀で穿つと、無敵に見えた巨躯があっけなく崩れ落ちた。

 そこからは作業だった。

 疲労で狂いそうな感覚を殺し、高速移動と一撃必殺を繰り返す。

 やがて周囲から動く影が消えた。

 

 「みんな助かったわ。あとは私が――」

 「姫ちゃん、少し休め」

 

 指示を出そうとした私を呼び止めたのは、鬼塚くんの野太い声だった。

 彼の言葉に、足を止める。

 いつの間にか彼は私の目の前に立ち、その厳しい瞳で私の震えを見抜いていた。

 

 「必要ないわ。セーフゾーンの設営も――」

 

 言いかけた言葉が、物理的な衝撃で遮断された。

 人間ではありえない速度で、右腕が低く振り抜かれる。

 避けようと脳が命令を発するよりも早く、私の愛刀を捉えていた。

 手首から肩までを、電流が走ったような痺れが貫通する。

 死に物狂いで握りしめていた柄の感触が、一瞬で消え失せた。

 

 キリキリと回転しながら宙を舞った黒い刀身が、遥か後方の瓦礫の山に突き刺さり、乾いた音を立てた。

 私は、呆然と自分の空っぽの手を見つめる。

 バイザーの奥で、鬼塚くんの目が冷酷に細められたように感じた。

 

 「碌に反応できてねぇじゃねか」

 

 バイザー越しに放たれた声は、ひどく無機質に響いた。

 痺れが残る右手を、私は無意識に左手で押さえていた。

 もし、今の蹴りが刀ではなく、私の喉を捉えていたら。

 私の首は文字通りアスファルトに転がっていたかもしれない。

 それでも、彼の言葉に素直に頷く気にはなれなかった。

 折れそうになる膝に力を込め、巨大な影を睨みつけた。

 

 「……、まだ……動けるわ」

 「動けてねぇから言ってんだ」

 

 鬼塚くんの言葉が、私の喉元に鋭く突き刺さる。

 図星を指された苛立ちと、自分への嫌悪が混ざり合い、胸の奥でどす黒い感情がせり上がってきた。

 遥か空、その先で今も誰かが蹂躙されている。

 

 「うるさい」

 

 地面に突き刺さった刀へ向かって一歩踏み出した。

 

 「おい!」

 「黙って」

 

 振り返りもせず、短く拒絶した。

 言葉を発するだけで、肺の中に溜まった熱い疲労が溢れ出しそうだった。

 震える右手を隠すように強く握りしめ、ただ、瓦礫に佇む刀を手に取る。

 

 「拠点の防衛に避難所の設営、夜間には敵の母船に乗り込んでの襲撃。さすがにやり過ぎだ」

 

 後で、ハードスーツの重厚な足音がアスファルトを軋ませる。

 

 「あんたが超人だってのは認めるが、限界って言葉を知らねぇのか。一昨日から、一分だって寝てねぇだろうが」

 「なら、捕まった人は置いておけとでも」

 

 刀を引き抜き、足を止め、肩越しに彼を睨みつけた。

 脳裏をよぎるのは、昨夜強行した母船襲撃で目にした光景だ。

 巨大な水槽の中で家畜のように積み上げられた人間。

 絶望すら許されず、ただ資源として消費されるのを待つだけの人間たち。

 助けを求める人々の目が、十六歳のあの日、道路を染める血の中で意識を失いかけた私の目と重なる。

 だから、私が行かなければならない。

 

 「死んだら元もこうもないって話だ」

 

 彼の声は、冷徹なまでに現実を突きつけてくる。

 

 「ブラックボールをハッキングされるリスクもある。向こうの方が技術はずっと上だからな」

 「だからこそ、時間がないのよ。転送が使えなくなる前に全員助けないと――」

 「四体目だ」

 

 心臓がドクリと跳ねた。

 鬼塚くんは視線の先にいる良守くんを見た。

 良守くんは何も言わず、ただひどく疲弊した様子で瓦礫に座っている。

 その視線は私と合うのを避けるように、気まずげに彷徨っていた。

 

 「さっきの骨型を相手をしたとき、黒川は自分の足を止めて、あんたの死角に弾幕を張った」

 

 分かっている。本当は、気づいていた。

 視界の端で弾けた火花を。

 

 「あいつ、自分の背後がガラ空きになるリスクを負ってまで、あんたを庇ってたんだよ」

 「……っ、そんなの――」

 

 乾いた唇を割り、反論がこぼれかけた。

 私は彼らに庇われるためにここに立っているんじゃない。

 ここで叫べば、それはただの、駄々をこねる子供の理屈だ。

 私の我儘のせいで、良守くんは気を揉み、チーム全体の生存率を下げている。

 彼らの足を引っ張っているのは、紛れもない事実だった。

 

 熱くなっていた喉の奥が、急速に冷えていく。

 ここで意地を張って戦い続けることは、戦士としての矜持ではない。

 ただの、自分の弱さから目を逸らすための逃避だ。

 ゆっくりと、引き抜いた刀を下ろした。  

 

 「……わかったわ。少しだけ、休むわ。……あなたがそこまで言うならね」

 「あぁ、そうしろ」

 「玲香さん、これ……」

 「ありがとう、少しだけお願いするわ」

 

 様子をうかがっていた佐伯ちゃんが差し出したペットボトルの水を、一口だけ喉に流し込む。

 重たい足を引きずり、ブラックボールが鎮座する部屋へと向かう。

 到着するや否や、膝の力が抜け、ずるずると壁に背を預けて座り込む。

 座り込んだ瞬間に襲ってきたのは、暴力的なまでの疲労だった。

 視界が急速に狭まり、意識が奈落へと吸い込まれていく。

 意識は瞬時に泥のような眠りへと沈んだ。

 支柱を失い、絶望的な戦場を駆け抜けてきた身体は、一瞬の安らぎを貪るように、深い暗闇を漂った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢をみた。

 トラウマというべき悪夢。

 意識が沈んだ先で待っていたのは、やはりあの場所だった。

 湿ったアスファルトの匂い。夏の夜の、纏わりつくような熱気。

 

 私は犯されいた。

 その光景を、一歩離れた場所から、冷ややかに見つめている()()()()がいた。

 

 私はまだ囚われている。

 外側をどれほど強固な殻で覆っても、中身はあの日のまま、一歩も動けていない。

 

 私はこれからもずっと被害者で――可哀想なのだろう。

 刑事としてどれだけの正義を成しても、戦士として世界の為に戦っていても。

 

 刑事や戦士は別の存在で――私はずっとここにいる。 

 何も変わらないなら――。

 もう、意味なんて――。

 

 

 ――昔、僕は約束した。

 ――命よりも大切な約束だ。

 ――だから、僕は……終わりまで()()()()()

 

 

 そうだ。

 抗うのだ。

 彼を突き動かしていたのは、ブラックボールのシステムでも、生存本能でもない。

 

 誰かと交わした、命よりも重い意志だった。

 命なんてどうだっていい。

 譲れないものがあるんだ。

 私には、まだこの手に残っているものがある。

 

 いつの間にか、手のひらに漆黒の刀があった。

 それを強く握りしめる。

 指先に伝わる、冷徹な金属の感触。

 それは救助を待つ子供の手ではなく、敵を屠り、運命を切り拓くための、戦士の拳だった。

 そして私は、私を犯し続ける悪夢の残影を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「玲香さん……!」

 

 どれくらい眠っていたのだろう。

 

 「アメリカのチームからメッセージが!」

 

 まだ焦点の合わない瞳でブラックボールを見上げると、その黒い表面に、これまでとは違う事務的な英字が激しく点滅していた。

 

 

 ――Global Link established. Incoming message from USA-Tactical.

 

 

 ブラックボールの表面に、ホログラムが浮かび上がる。

 映し出されたのは、漆黒のスーツに身を包んだ、精悍な顔立ちの男だった。

 

 「各国の代表チームよ。聞こえるか。こちらCA(カリフォルニア)チーム。この連絡は翻訳を介し、各国のゲームアベレージ上位3チームに連絡をしている」

 

 

 ――United States of America California team

 ――United States of America Oregon team

 ――United States of America Texas team

 ――United States of America Washington team

 ――India West Bengal team

 ――……

 ――Japan AIchi team

 ――Japan Kumamoto team

 ――……

 

 

 見たこともない遠い異国の地名と、馴染みのある日本の地名が等しく並んでいる。

 それは、この惑星の至る所が等しく戦場と化し、そして、自分たちと同じような者たちがまだ存在していることを示していた。

 

 「単刀直入にいおう。我々は敵作戦基地の座標を手に入れた。敵の母船の中枢。地球への転送装置があるそこへ直接攻撃を開始する」

 

 「敵ホームへの攻撃も同時に行う予定だ。イスラエルのチームが担当する。ゆえに、侵攻の間は敵の攻撃は止むと予想される」

 

 「我々は記録者(ホルダー)を求めている。この先の戦いを生き残り、その結末を記録することになる記録者(ホルダー)だ」

 

 「これより座標を提示する。了承すれば、君たちをこちらの作戦領域へ転送する。……良い返事を期待している」

 

 通信が途切れた後、世界は一瞬、真空になったかのように静まり返った。

 ブラックボールの表面で、転送を承認するための座標データが静かに明滅している。  

 

 「……直行便だってよ」

 

 沈黙を破ったのは、鬼塚くんだった。

 ハードスーツから漏れる声は、いつになく低く、響く。  

 

 「敵のど真ん中にいきなり突っ込むってよ。……どうする?」

 

 ハードスーツの威圧的なシルエットが、ゆっくりとこちらを向く。

 佐伯ちゃんと良守くんも同じように判断を託してくる。

 

 「すべての結末を、私はこの目で見届ける。そのために残っていた」

 

 多田さんが、遺した言葉が、私の背骨を真っ直ぐに支えていた。

 

 「私は行くわ。あなた達は――」

 「おいおい、つまんねぇこというなよ」

 

 遮るように、鬼塚くんが鼻で笑った。

 

 「そうです。僕も行きます。一人になんてさせません」

 「私も姫川さんについていきます」

 

 良守くんと佐伯ちゃんも続いた。

 私はブラックボールの滑らかな表面に手を触れる。

 冷徹な黒い球体に、カリフォルニアチームから送られてきた転送座標のログが、鮮やかな青色で浮かび上がる。

 

 

 [ TARGET COORDINATES LOCKED ]

 

 

 網膜に焼き付く無機質な文字列。

 これを選択すれば、もう後戻りはできない。

 だけど――答えは決まっている。

 

 「愛知チーム、転送をお願いするわ」

 

 直後、ブラックボールから眩い光の粒子が溢れ出し、私たちの身体を包み込んだ。

 意識が再構築される、あの白光の向こう側。

 次に目を開けた時、そこはもうビルの一室ではなかった。

 

 吹き荒れる乾いた風。

 眼前に広がるのは、見渡す限りの黒いスーツを纏った軍勢。

 数百、いや数千の戦士たちが、巨大な航空母艦のような漆黒の建造物の甲板に集結していた。

 加えて、その周囲には、100点武器であるロボットをさらに大型にした兵器が滞留していた。

 各国の死線を潜り抜けてきた怪物たちの集う、鋼鉄の要塞。

 

 これほどの力が、まだ残されていたのか。

 足が竦むような威圧感。

 けれど、不思議と心は凪いでいた。

 どれほど軍勢が巨大になろうと、やるべきことは変わらない。

 あの日、路地裏で蹲っていた少女はもういない。

 

 「Welcome to the frontline, Aichi team.(ようこそ最前線へ、日本チーム)

 

 私は一歩、甲板を踏み締める。

 隣に立つ鬼塚くんのハードスーツが、闘志を証明するように鋭い音を鳴らす。

 世界中の()()()たちの鼓動が、ひとつに重なっていく。

 

 絶望の先にある結末をこの目に焼き付けるまで、私の足が止まることは、もう二度とない。

 人類史上、最も残酷で、最も壮大な反撃の火蓋が、今、切って落とされようとしていた。

 

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